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2/26

少年と少女と別れた


声が聞こえる。自分の名前を呼ぶ声が、大きな声で……

そこで意識が浮上する。

「黒羽起きなさい。朝よ‼」

母が自分を起しに来たらしい。


重い体を起こし、目をさする。

その後はいつも通りに支度をして学校に向かう。


……正直、あれだけのことがあった後だ。

黒羽は焔に会うことに緊張していた。

流石に襲い掛かってくることはないと思うが、襲い掛かられた際にどのように対処すべきか……

いや、そもそも彼女の力は昼にも使えるのか


色々な考えが頭を過る。


しかし、拍子抜けと言うべきか、焔が黒羽にアクションを起こすことはなかった。

一瞬こちらを見ることはあったが、朝のホームルームの前にちらりと見た後は興味を失ったように目を逸らし、それ以降は一度もこちらの様子をうかがうことすらしていなかった。


そのことに黒羽は一抹の寂しさとそれ以上の喜びを感じていた。

いくら可愛くてももう命を狙われるのは懲り懲りだ。


黒羽は安堵した。

彼女の興味の対象から外れたことに。

黒羽は油断した。

彼女と行動することは愚か話すことすらもうないだろうと。


事件はその夜に起こった。

もう夜中に出歩くのは懲り懲りだと感じていた黒羽は自分の部屋でゲームをしていた。


コン、コン、コン


窓に何かが当たっている。

黒羽は嫌な予感に襲われる。


コン、コン、コン


黒羽は偶然だと考えた。

偶々、小石が連続して窓に当たっているのだと


コン、コン、コン


窓を開けなければもう寝ていると思って貰えないか

希望的観測に縋る


コンコンコンコンコンコンコンコンコン


黒羽は観念し、窓を開ける。


そこには笑顔の紅翔焔がいた。

「何で窓を開けなかったの?」


彼女の本性を知らなければ泣いて喜んだだろうその言葉。

黒羽は慎重に言葉を選ぶ。

「最近窓を叩く幽霊の話を聞いたので……」


その言葉に焔は優しい言葉で返す。

「そっか、でも大丈夫だよ。私は幽霊じゃないからね」

果たして幽霊が来るのと紅翔焔が来るのとどちらがいいのか……

黒羽は考えるのを放棄する。


「それで、今日は何のために家に?」

恐らく、黒羽の様子を監視するためだろうと目星は付いていたが黒羽は焔に問いかける。


それに対し、焔は

「ほら、君、昨日の様子から野良の能力者なんだろう?私が色々教えてあげるよ」

と答える。

その言葉が本心からの言葉かあくまで建前か。

黒羽にはわからない。


ただ、一つわかっていることとして……

恐らく黒羽には拒否権はないのだろう。

「わかりました。お願いします」

黒羽の返答に焔は満足げに頷く。

「じゃあ、昨日の場所に行こうか」



それからおおよそ十分後、いつもの廃墟に着く。

「いや~、私も昨日初めてこの場所知ったけどいい場所だね。道路は人通りが少ないし。中には基本誰もいない」

焔が伸びをしながらそう告げる。


そして、今度は自分の来ているジャケットのポケットに手を伸ばし、昨日の玉座を取り出す。

「『夜が始まり、現が終わる。王威を示せ、玉座の悪夢』」

玉座を床に置きそう呟く。すると昨日のように世界が変わる。


「よし、これで凄腕は気づいてここを目指してくるはず」

焔は満足そうにそう告げる。


焔の言葉の内容が理解できない黒羽は首を傾げる。

それを見ていた焔は黒羽の存在を思い出し、話しかけてくる。

「そう言えば、色々教えるって言ったね。何から知りたい?どこまで知ってる?」


その言葉に黒羽は何も知らないと答える。


それから、黒羽は焔からナイトメアと呼ばれる能力について色々教えて貰った。


ナイトメアという能力が夜にのみ使うことが出来る能力であること。

夜になると身体能力が上がること。


これらは黒羽も自分の能力を通して知っていた。

なんなら黒羽は昼に力を使うために訓練をして周りから痛い子として見られた黒歴史あった。


次に黒羽が全く知らなった情報として

ナイトメアという能力には大きく分けて三つに分けられ、

それぞれ

自然界の力を扱う現象操作能力

特殊な力を持った武具を召喚できる武具召喚能力

何か一つ特殊な能力を持つ悪魔を召喚し使役する悪魔使系能力

と呼ばれていること。


ナイトメア能力者は誰もが黒い物質、夜射や暗黒物質生成などの名前で呼ばれる能力を扱う適性を持っていること。

この夜射や暗黒物質生成と呼ばれる能力で生成された物質は術者の練度により硬度や柔軟性、操作力がかわり、一流の術者は夜射だけで半端なナイトメア能力者を圧倒できること。


そして、夜の遺産と呼ばれるものついても説明された。

かつて特殊な力を持った道具を作り出すナイトメア能力者がおり、その能力者が作ったものを総称して夜の遺産と呼ぶこと。


これらの夜の遺産は所有者が自分の意思で譲渡するか、所有者をナイトメアの力で打ち破ることで所有権を上書きできること。

その中でも強力な能力を持った物は当時の王の持ち物を模した形をしており悪夢の遺産と呼ばれること。


焔の持ち物である玉座の悪夢や昨日の男が持っていたとされるナイトメアクラウンがそれにあたること。

玉座の悪夢の能力はこの世界を映しとり、疑似的に世界を作ること。

この際に使用者は多少疑似世界を変えることが出来ること。

この世界で死んだ者は現実世界で気を失った状態で放出されること。

そして、この道具は昼にも使え、疑似世界を展開している間は疑似世界内でならナイトメ能力を昼でも使えること。


恐らくは本当に言いたかったのは最後の言葉なのだろう。

例え昼でもお前を殺せる。

調子に乗るなという警告。


そんな気はさらさらないが黒羽はその言葉を強く心に刻む。


一応、ナイトメアクラウンについても説明してもらった。

ただ、その内容は固唾ものだった、

どんな願いも叶えられる悪夢の王冠、全てのナイトメアを統べるものの証。


何故、それが欲しいのか、そこまでは教えてくれなかった。

そう言った説明が終わった後も彼女は家に来た。

黒羽をまだ疑っているのだろう。

戦い方を教えるという建前を持ってやってきた。


建前ではあったのだろうが、焔は本気で黒羽を指導していた。

その成果か身体能力は多少上がった。

焔曰く元々武具召喚系は身体能力が上がりやすいらしい。


しかし、それでも

「う~ん、とんでもなく弱いね。夢喰君」

無情にも焔がそう告げる。


今まで戦いに関する技能を納めていなかったという理由もあるが、何より身体能力が武具召喚系の中ではびっくりするくらい低いそうだ。

実際に現象操作系である焔の動きに黒羽は全くついていけない。


それどころか、動きを捉えることすらできない。


そんな黒羽の様子に焔は笑みを浮かべ優しく告げる。

「別にナイトメア能力者は戦わなくちゃいけない訳じゃないしね。気にすることじゃないよ」

それに対し、黒羽は恨めしそうに彼女を睨む

「紅翔さんが誘ってきたんだけど?」

誘われたなら断ればいい。


そう言われたらおしまいだが、焔はそれに対し、バツが悪そうに顔を背ける。

「初めは本当にどこかの組織じゃないかなって思ってんだもん。ただ、三週間一緒にいてもおかしな様子を見せないし、殆ど白だな~って。そうなってくるとわざわざ見張る意味もないなって」

焔は遂に世話を焼いていた理由を白状した。

薄々気づいていた黒羽は対して動揺していないがこれだけ一緒にいたのに、全く情を感じられない焔の言葉に微妙な気持ちになる。


「もし、良ければ、もう少し続けて貰えないかな?一応、強くはなってきてるし」

黒羽は焔にそう提案する。


焔がどう感じてるかは別として黒羽としては今の関係が少し楽しくなってきていたのだ。

まだ、終わらせたくないと思うほどに

「ほうほう、この私のスペシャルな指導を受けたいと、仕方ない、仕方ないね。私は指導力すら一流だからね‼」

焔は得意げに胸を張りそう告げる。


その様子に黒羽は頬を緩める。

学校でもそうだが彼女は基本的に誰にでもフレンドリーだ。

それこそ、あの日、彼女とこうして話すきっかけになった夜に出会った彼女が嘘であるかのように。


「仕方ない。今日からほむちゃん師匠と呼び給え、私も君を黒羽少年と呼ぼう」

この日、この出来事により二人の関係に変化が起きた。


とはいえ、相変わらず学校で話すことはないし、挨拶もしない。

ただ、こうして夜に会う際の関係が赤の他人から師匠と弟子になっただけ。


二人の関係が更に変わるのはそれから二週間後のこと。

「身体能力はまあ、う~ん、ようやくナイトメア能力者初級的な?夜射に関しては論外だね。まあ、夜射は現象操作系の能力者が一番伸びやすいから比較が難しいのもあるけど。……少なくとも戦闘では使おうとした瞬間に死んじゃうね」

焔は黒羽の夜射の技術と身体能力を見てそう判断する。


「そう言えばほむちゃん師匠の使ってた必殺技みたいなやつは使えるようになる?」

黒羽は焔にそう問いかける。

因みにこの呼び方をしなかった場合、焔は黒羽の質問に答えない。

場合によってはそのまま帰ろうとしたこともあった。


「あ~、……あれか、あれは練習で使えるようになるものじゃないよ」

二人が言っているのは焔が一度使った『根源回帰』と呼ばれる技術である。

「まあ、あんな技術なくても悪魔使役系の奴らなら倒せると思うし、気にしなくていいよ。あいつら、自分たちの悪魔が倒されるなんて微塵も思ってないからね。その癖、倒されたら、術者本人も気絶するなんて笑っちゃうぜ。」

フハハハハと笑う焔に黒羽は苦笑いを浮かべる。


「……誰か来た」

焔は小さな声でそう呟く。


現在この空間は玉座の悪夢によって疑似世界に作り替えられている。

中に入れるのは焔が意図的に入れるようにしているナイトメアの能力を持つものだけ。

「ついに釣れたのか?」

その言葉に焔は頷く。

「黒羽少年はどっかに隠れてて」

黒羽は焔に告げる。

「一緒に戦うよ。」


しかし、焔は首を左右に振るう。

「これは私の戦いだから君が関わることはないよ」

「でも‼」

黒羽が抗議の声を上げる。

しかし、それに対し、焔は冷たく告げる。

「人に鎌一つ振るえない奴がいても邪魔だって言ってるの」

その声に黒羽は黙り込む。

黒羽は焔に稽古をつけてもらっていた。


しかし、一度として大鎌を使ったことはない。

人に向けるのが怖くて、誰かを傷つけるのが怖くて、もしかしたら死んでしまうんじゃないかと思うと、怖くて使えなかったのだ。


黒羽は悔しさのあまり拳を強く、強く握りしめる。

頼られなかったことが悔しいのではない。

自分は例え焔が窮地に陥っていても大鎌を人に向けられる自信がない。

その事実が心底悔しいのだ。


あの日、彼女に教えを乞うきっかけになったあの日、自分の命が脅かされたことで、自分の無力を知ることで、命の重さを知ったのだ。

もう、昔のように自分の持つ凶器を振るえない。


黒羽は焔の言葉に従い別の部屋に隠れた。

きっと焔は今頃敵を迎え撃ちに行ったのだろう。

大丈夫、彼女は強い。

黒羽は自分にそう言い聞かせる。


そんな時ある言葉が頭に浮かぶ

〈生かしておく意味もない、殺れ〉

その言葉は黒羽が怪物を連れていた男に言われた言葉だ。

彼女は玉座の悪夢の能力で一度は生き残るだろう。


だが、二度目は?

もし負ければ意識を失い現実世界に戻される。

抵抗すらできないだろう。


銃剣の男は黒羽にとっては強かった。

しかし、焔の炎で呆気ないほど簡単に倒された。


怪物を連れていた男は紛れもない強者だった。

それでも、喧嘩すらまともにしたことがない自分に油断を突かれて倒された。


本当に彼女は大丈夫なのだろうか?

不安がどんどんと大きくなる。

それと同時に下で大きな音がする。


戦いが始まったのだろう。

黒羽はいてもたってもいられずに走り出す。

あくまでも階段付近で少し様子を見るだけだと自分に言い聞かせながら。


そして黒羽は辿り着く。戦闘をしているその場所に。

黒羽は安堵した。

焔に目立った傷がなかったからだ。


次いで敵を観察する。

敵は五十過ぎの男と男が使役しているのだろう黒い翼を背中から生やし、控えめだが仕立てのいい服を着ている悪魔。顔は布で隠されていてわからない。

能力は転移。

その事実に気づいた黒羽は男の方をよく観察する。

すると人差し指に何かを嵌めているのが分かる。

指輪のようであるが形は王冠だった。


☆☆☆

焔は焦っていた。

黒羽から見れば拮抗しているように見えていたが焔には分かっていたのだ。

このままでは自分は負けると。

敵は悪魔を使ってこない。

術者本人が肉弾戦を仕掛けてくる。


とはいえ、普通なら焔の方が有利だ。

身体能力は悪魔使役系の能力者が最も低い。


しかし、相手はその欠点を夜射を身に纏い操作することで補って、いや強化していると言ってもいいだろう。

それくらいに破格の身体能力を発揮してくる。


炎を使おうにも距離を取ろうとすると転移で詰めてきて埒が明かない。

近接で炎を使えればいいのだが、近接で炎を使う行為は焔すら傷つけかねない。


こちらも夜射をまとえればもしかすれば相手にダメージを与えられる火力を出せるかもしれない。しかし、焔の練度では夜射を使いながら炎を使えない。

状況は最悪、敵は格上だった。

それ故に焔には一か八かにかけるしかない。

「『根源回帰 鮮血迅狼』」

焔は狙う。

男ではなくずっとこちらの戦いを俯瞰している悪魔を。


しかし、

「あれ?」

焔は混乱する自分が何をしようとしていたかわからない。

だが、焔には今まで一人で戦いぬいてきた経験がある。

だから混乱は一瞬、直ぐに悪魔に狼たちをけしかけようとする


ドンッ


しかし、強い衝撃に阻まれる。

焔はなんとかそれをガードする。

それでも焔は動揺を隠せないでいた。


自分は敵を迎え撃ちに行ったのに何故これ程の接敵を許しているのか

ガードできたのも偶然だ。

悪魔がいるのに使役者がいない。

その事実に違和感を覚えたのだ。

だから防げた。

ただその奇跡も次はない。

鮮血迅狼は先ほどの妨害で既に消えている。


身体がどっと疲れる。

まともな戦闘は厳しいだろう。

焔は唇を噛む。

ここまでかと


☆☆☆


隠れてみていた黒羽にはわかった。

焔が『鮮血迅狼』を使おうとした瞬間に男の指に嵌めた王冠が光ったのだ。

恐らく力を使ったのだろう。


そしてその瞬間に焔が動揺した。

それも一瞬だったが、


では一体あの王冠の能力はどういうものなのだろうか。

相手の動きを止めるものか、それとも相手を混乱させるものか、それとも精神支配か。

恐らくどれも違う。


動きを止めるだけなら自分の隣に敵がいたことにあれほど驚いていないだろう。

混乱させる能力ならば、あれ程早く立て直すのは難しいだろう。


なぜならあの王冠は悪夢の遺産なのだから。

そして、操られている様子は見えなかった。

あの様子はまるで状況を理解できないという様子。


なら能力は……記憶消去。

ただし疑問として何故全ての記憶を消さなかったのか。

もしくは消せないのか。


黒羽が戦況を読み解いていると拮抗していた二人の戦いが男有利のものになっていく。

黒羽はそのことに驚く。


実際には鮮血迅狼が不発に終わった際に戦いは決しているが黒羽にはそれが分からない。

あれだけ、消耗していては自分が考察した情報も無駄だろう。


なら、助けに行くべきではないのか。

黒羽の中で芽生えた彼女を慕う気持ちがそう告げる。


無駄だ逃げよう。今回は敵にばれていない。自分だけなら逃げられる。

それを拒否するように臆病な気持ちがそう告げる


助けたいという気持ち。

逃げ出したいという気持ち。

その二つがせめぎ合う。


しかし、そうしている間も戦況は動く。

「一撃で終わらせてやる」

焔は地面を転がり、男は悠然と立ち焔の額のある場所を指さしている。

指の先には黒い黒球が生成されていく。

脳天を撃ち抜く気なのだろう。

焔は悔しそうに男を睨みつける。


黒羽は動いた。

逃げるためではない。

戦うために。


しかし、何もできない。転移で接近してきた相手に殴り飛ばされた。

相手にもされていない。

黒羽絶望する。


きっと次は自分の番だという絶望。

そして、何よりも焔を彼女を守れなかった無力な自分に絶望する。

もし、体が動いたのなら黒羽は何度でも挑んだだろう。

例え殺されることになろうと自分の中の恐怖を押し殺して。


しかし、体は動かない。

絶望に支配される。

感情の海に沈む。

深い、深い絶望という名の海の底に。


ドクン、大鎌が鼓動する。


ドクン、大鎌が共鳴する。


ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、大鎌が共感する。


黒羽の絶望に。


大鎌から力が流れ込んでくる。


大鎌に黒羽の感情が流れ込んでいく。


ズシリと大鎌が重くなる。


否、それは既に大鎌ではなかった。

刃の部分が膨らみ、上下に裂けて口となる。

何かに飢える怪物の口に。


黒羽は悟るこの力の正体を

『根源回帰』

(ナイトメア)の持つ感情を、絶望を、力の源を叩き起こす能力。

そのためには能力者本人が絶望を経験しなくてはいけない。

(そこ)に宿る感情を理解しなくてはいけない


だが、そんなことはどうでもいい。

この力で彼女を救えるなら

『根源回帰 虚構悪食』

怪物が襲い掛かる。


黒い翼の悪魔に。

男は咄嗟に王冠を向ける。

記憶が飛ぶ。


だが、奴が敵であることはわかる。

何故、自分の鎌が怪物になっているのかはわからないが、この力が彼女を救う力になる。

ならそれでいい、構わず黒い翼の悪魔に怪物をけしかける。


男が転移し、こちらを殴りつけてくる。

構わない。


例え首が飛ぼうとも大鎌を、この怪物の手綱は離さない。

そして、怪物が黒い翼の悪魔を食らう。食らう。食らう。

「っ‼」

男が何かを言おうとしていたがその前に意識を失っていた。


身体中が痛い。どっと疲れが襲う。

彼女が縋りついてくる。

何か言っているように感じる。泣いているような、怒っているような、わからない。

ただ、自分は彼女を守れた。そのことが黒羽には誇らしかった。


……ああ、そうか、忘れてた。

「……もち、ろん、ナイ、トメアクラ、ウンは君のものだよ。」

何故か上手く発音できないが言いたいことは言えた。

……黒羽がゆっくりと瞳を閉じた。

……その際に彼女が

「甘すぎだよ、君、ナイトメア能力者としては、失格だ」

鼻声でそんなことを言っていたように気がした。


☆☆☆

夢喰黒羽は今日も学校に通う。

しかし、その表情は少し退屈そうである。そう夢喰黒羽は暇を持て余していたのである。

何時もみたいに夜に鎌でも振り回そうか。学校に登校しながらそう考えてふと最近自分が夜に何をしていたか思い出せないことに気づく。


まさか、異世界召喚‼

そんな妄想に浸っていると背中を思いっきり叩かれる。

「おはよう、黒羽君。あんま夜に出歩いちゃだめだよ。」

叩かれたため振り向くと同じクラスの紅翔焔が笑顔でそう告げる。


その笑顔は例え同性であろう顔を赤らめてしまうほど可愛く。

当然黒羽もその笑顔に思考が止まる。

しかし、当の本人は

「じゃ、また学校でね。」

と告げて走り去っていく。


黒羽はその場から動かない。

いや動けない。


頭では分かっている筈なのに、彼女が誰にでもフレンドリーで偶々自分が今日その幸運にありつけただけだというのに。


何故涙が、涙が止まらない。


黒羽泣き止むのにそれから暫くの時間がかかった。


どうでもいい補足②


①実際のナイトメアクラウンの能力はどんな願いも叶えるというものではなく、ナイトメア能力の収集です。ただし、その副次的な能力として収集した能力を使えるようになります。そのため、どんな願いも叶えるというのも嘘ではない、かもしれません。また、ナイトメアクラウンを持っているからといって生きているナイトメア能力者から奪ったり、同意の上でもナイトメア能力の譲渡は出来ません。


② ①でナイトメアクラウンの力は収集であり、副次的な能力として収集した能力を使えると書いていますが、大体、収集してから100年単位で収集した能力は使えなくなります。理由としては100年で所持しているナイトメアクラウンから能力が無くなる(ナイトメアクラウンの中身が空っぽになる)からです。


③今回、ナイトメアクラウンで使われた能力はナイトメアクラウンの所持者が直接見たか、直接見た場合と同じくらいの情報を持っている事柄に関して記憶を消せるというものです。

そのため、敵は焔ちゃんの記憶を戦闘中のものしか消せなかったのです。


④主人公の能力が根源回帰を発現するために必要な能力は作中でも書いている通り、絶望です。銃剣の男の銃撃を防げたのもこの力が半覚醒したためです。


誤字脱字報告、感想等お待ちしております。

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