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桜梅英雄伝  作者: 守田
梅花荘編
9/50

第9話 梅家荘の試練

西湖に着くと、目指す狐山が見えた。

それほど大きい島ではない。


「私、船を探してくるね。」


俺はそう言う雪梅を制止し、九尾狐の羽衣を使う。


「すごい!これなら楽ちんね。」


雪梅を抱え、あっという間に湖を越えて行った。


何もない島だな。それに、どういう訳か島民も見かけない。

島に降りると、池の上に張り巡らされた通路を通っていく。


「この島は別名を梅花島と言うの。」

「林家と門下の姉妹数人しかいないのよ。」


雪梅はスキップするように歩きながら、話しを続ける。


「姉妹たちはね、身寄りのない子供を父上が引き取ったんだよ。」

「本当は沢山いるんだけど、皆江湖の情報を探るために各地へ散らばっているの。」


それで人を見かけないのか。

それにしても、雪梅のお父さんは人格者なんだなぁ。


しばらく歩くと、大きな屋敷が見えた。「梅家荘」と書かれている。

荘ということは荘園だろうけど、荘園って皇族に与えられるものじゃなかったかな。

いや、俺の記憶も曖昧だ。


そして、屋敷の門をくぐると、なるほどそこには何とも美しい梅の花が咲き乱れていた。


すると、遠くから声が聞こえた。

恐らく屋敷の外からだろう。


「雪児、何をしておる。久し振りに戻ったかと思えば、一丁前に男を連れてきたか。」


俺は負けじと力の限り叫んだ。


「張と申します!張掌門の遣いで来ました!」


「ダメよ、内功で話してるんだから、それでは聞こえないわ。」

「大丈夫、お父様はすぐに来るから。」


雪梅の言う通り、山の見える方角から現れ、空を舞うようにこちらに降りてきた。


「用件は何だ?」


随分とぶっきら棒な人だ。

しかし雪梅のお父さんなのだ、ここは堪えよう。


「半年後に武侠大会がありますが、今回は邪教の者らが参加すると思われます。」

「江湖の平和を守るため、どうかご助力頂けないでしょうか。」


「いいだろう、承知した。俺も武侠大会へ向かおう。」

「これで良いな、さあお前は帰ってくれ。」


またもぶっきら棒に突き放された。


これに耐えかねたのか、雪梅が口を開く。


「お父様、私は張兄と夫婦になります!」


「何!?」

林逋と俺は同時に叫んだ。


「なぜお前まで言うか。」

「とにかく、屋敷に入って話しを聞こう。」


林逋は不思議そうに俺を見ながらも、やっと案内してくれた。

茶を出すと、雪梅にこれまでの経緯を話させた。


「話しは分かった。雪児がそうしたいのなら反対はしない。」

「しかし、林家の婿となるからには、林家剣法を継承し、掌門になってもらう。」


いきなり夫婦と言われ、面食らってしまった。

雪梅の方を見ると、恥ずかしそうにこちらを見ている。


でも、再び宋の時代に来た時から、そうなれたら良いなという気持ちはあった。

と言うか、そうなりたいと思っていた。


「今からでも修行させて頂きます。」


俺が言うと、林逋は難しい顔をしている。

雪梅も同じだ。


「林家剣法を学ぶには、一度全ての技を捨ててもらう。」

「そうでないと、奥義を会得できないのだ。」


全部…全部か。

あれから修業を重ね、ようやく両義太極拳も会得できたと言うのに。

その内功が邪魔、ということなのだろうか。


「分かりました。一度捨てて、また学び直します。」


俺の言葉に、林逋は首を横に振る。


「それはならん、我が林家剣法に敗北はないのだ。必要ない。」

「どうしてもと言う時は、俺の許しを得よ。」

「但し、その狐の術は許そう。この狐山は狐の神が住む島、相性が良いからな。」


なぜ契約のことが分かるんだろうか。

まぁ相当な達人だろうから、見識も広いのだろう。


すると、林逋は俺を連れ屋敷の裏から地下へ降りる道へ行く。


さらに進み、洞窟へ案内された。

修練はここで行うようだ。


林逋がやることは武術を忘れさせること、あとはこの洞窟の中で学ぶことができると言う。


「お前の短い刀は俺が預かる。悪しき妖気を発しておるからな。」

「この島に封印しておこう。」


「それから、掌門の証である指輪も渡しておこう。」


続いて林逋は俺の頭に手をあてる。

それから内功が消えるのは一瞬だった。


それにしても、洞窟の中は割と広いわりに何もない。壁画があるくらいだ。

ここで何を修練すれば良いのか分からず、何もできないまま数日が過ぎた。


壁画を眺めていると、どうやって描いたのか気になり、表面を撫でてみた。

すると、妙な出っ張りや引っ込みがあることに気が付いた。


出っ張りを押してみると、何と壁画が押し出され通路が現れた。

奥へ行けということか。


進んでみると、下へ続く階段になっていたから人工的なものと分かる。


さらに進んでいくと、そこには二階建ての屋敷があった。

宋の時代の地下にこんなものがあろうとは、思いもしなかった。


他に行くところもないし、屋敷に入ってみる。


「何者だ?答えよ。」


奥の部屋から声が聞こえる。


「掌門となるために来た張と申す者です。」


俺は、林逋から渡されていた指輪を掲げて見せる。

この指輪には透き通るような石が付いており、その中には梅の花が咲いている。


「おぉ、その指輪は掌門の証。」


奥から出てきた老人は、嬉しそうに「林家剣法」と書かれた奥義書を俺に渡した。


「林家の内功を今から授ける。」

「内功の修練は必要ないが、剣法は奥義書を見て修練しなさい。」


そして、老人は俺の頭に手を置く。

すると、忘れた時とは訳が違う苦しみが待っていた。


「ううっ!」「体中が痛い!」


それ以上は言葉にならず、何かがずっと俺の中に入り込んでくる。

老人が手を放すまで、ただ呻き続けていた。


気が付くと、寝台に横たわっていた。

しばらく気を失っていたようだ。


辺りを見渡すと、老人はいないが代わりに子供が一人いた。


「ここはどこ?君は何て名前なの?」


しかし、子供は口を指さして、うー、うーと唸るばかりだ。

もしかすると、話せないのか。


その後も、子供はやはり、うー、うーと言っているが、部屋の奥を指さした。


子供の指し示す方へ行ってみると、屋敷裏の出口だった。

目の前には池が広がっている。


すると、突然後ろから殺気を感じ、俺はとっさに池の方に飛び出す。

追ってくる気配を感じたため、九尾狐の羽衣を使った。


空中から振り返ると、子供は剣を抜いていた。

それにしても、すごい殺気だ。


子供は水面を蹴るように走り、消えたと思えば上へ飛んでいた。

軽功も達人の域だ。

そして、続け様に剣を振りかざしてくる。


「おい、何者だ!やる気か!?」


俺は剣で受けるも、その勢いで池へ落ちていく。

これはいけないと、水面を蹴って反撃に出る。


…と待て、今、水面を蹴ったな。

そうか、これが林家の内功か。


飛び上がると、俺は内力を込めて剣を振るう。

子供は吹き飛び、屋敷裏に着地した。


すると一礼し、屋敷の中へ消えた。


後から考えてみれば、俺に内功の遣い方を教えたかったのかもしれない。

とにもかくにも、このまま1カ月ほど修練することにした。


洞窟から出るころには、思うように内功を使えるようになっていた。


「お疲れ様、お帰りなさい!」


梅家荘に戻ると、雪梅が無邪気な笑顔で迎えてくれた。


「さあ、武侠大会の会場へ向かいましょう。」

「お父様は先に出て向かっているわ。」


梅家荘編 完


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