表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜梅英雄伝  作者: 守田
梅花荘編
7/50

第7話 再び江湖へ

戦国時代から戻り、忙しくもつまらない毎日を過ごしていた。


2度目のタイムスリップを経験したが、2度とも元の時代に戻ると同じことを感じる。

現代に飽き飽きしているのだ。俺が輝く場所は、ここではないのかもしれない。


そんな感情の中、気晴らしに旅行することにした。

そう言えば、信濃の祢津の里は、現在で言うと上田と軽井沢の間あたりだったな。

しかし、里へ行きたいと言う訳でもない。


そこで、中途半端な場所だが、以前にも何度か旅行した大町市の温泉郷へ行くことにした。

気が向けば里へ行ってみても良いだろう。


大町に着くと、早速露天風呂に入った。

雪が舞うと、その幻想的な景色は、この世のものとは思えないほど素晴らしい。


そんな景色に包まれながら、もう一度江湖へ行きたい、俺の居場所はあそこにあるんじゃないだろうか、そう考えるようになっていた。

雪梅のことが頭から離れないこともある。

しかし、実はそれよりも生きる目的が欲しいのだと思う。


自分の意志でタイムスリップすることもできる、と大兄は言っていた。

だが、どうやれば良いのか。ただ願って戻れるなら簡単だが、少なくとも今の俺では無理だろう。


これまでの経験を整理すると、恐らくタイムスリップのゲートはいくつもある。

何らかの条件が整った時、それは起きる。そして、2回とも普段の生活圏ではない場所で起きた。

それに、奥山殿は九尾狐が神獣と言っていた。この力が有効に働くかもしれない。


普段の生活圏ではない場所か、この近くでは龍神湖が良さそうだ。試してみよう。

そうと決まれば、人目を避けるため夜を待って向かうことにした。


龍神湖に着くと、良いのか悪いのか分からないが、霧が立ち込めていた。

念のため、脇差と三食分の食料、それにお土産でジュースとお菓子を持ってきた。

日本のお菓子は繊細な味わいで、現代でも中国の女子は大喜びすることを知っていたからだ。


「サヨナラ、令和の日本。」

「よし、いくぞっ!九尾狐!」


現代に別れを告げ、九尾の狐の能力である羽衣で空を舞い、湖の中央まで行く。

そこで、以前に霧をはらった空也を振るった。


すると周囲の霧が晴れ、青白く光っている水面を見つけた。

ゲートはこれかもしれない。


「青蛙!」


水中に入り召喚すると、物凄い速さで湖底へ向かう。

段々と辺りが光に包まれ、何も見えなくなった。


そして、目を開けると水面に浮かんでいた。

一瞬、気を失っていたのかもしれない。


「海か!?」


見渡す限りの水面に驚いたが、良く見れば海のような波はない。水深も深くないようだ。


ともかく青蛙を召喚し、岸を目指して水面を走り続けた。


岸に上がると、そこには数名の兵士を連れた男がいた。


他に人もいない、仕方なく兵士に話しかけることにした。


「すみません、ここは何と言う場所ですか?」


「なんだ?おかしな奴だな、西湖十景を知らぬか。」


西湖か、道理で海と勘違いするほど大きいはずだ。

しかも、運が良いのか分からないが、杭州にタイムスリップできた。


それにしてもこの男、ひと目見ただけで分かる。かなりの腕前だ。

俺は続けて話しかける。


「私は張と申します。名のある武人とお見受けしましたが、あなたは?」


「岳飛と申す。」


何と、あの救国の英雄岳飛か!話しを聞いてみたいが、無名の俺では怪しまれるだろう。

丁寧に礼を言い、別れることにした。


ここから臨安府は近い、九尾狐の羽衣で臨安府まで行けば、大兄の屋敷までの道順も分かる。


「ただいま戻りました!」


屋敷の門をくぐり、俺は力の限り叫んだ。

しばらくすると、泣きながら雪梅が走ってきた。


「戻って来てくれたのね、張兄!」


俺は彼女をしっかりと抱きしめ、彼女の涙を拭く。


「父上は仕事で出ています。」

「これから夕食の買い出しなの、一緒に行きましょう!」


俺は頷く。着いたばかりだが、雪梅と一緒にいたい。


「お嬢様、いつも料理などしないのに、どういう風の吹き回しですか?」


使用人のおばさんが冗談めいた口調で言う。

さすがは大兄の屋敷、以前は気が付かなかったが、このおばさんもなかなかの使い手だ。


雪梅は、顔を赤らめながらも、一度屋敷に入っていく。

すぐに戻ってくると、その手には俺の碧蛇剣を持っていた。嬉しい心遣いだ。

剣を受け取り、二人手をつなぎ町へ向かった。


町に入ったところで、急に上空から5人の白衣の男が舞い降りてきた。


「へっへっへっ、お嬢さん、我々とそこの小屋へ。」


「神鷹教の連中よ。」


雪梅が囁いて俺に教える。

江湖を渡るということは危険と隣り合わせ、こういうことなのだ。

しかも、雪梅のように可愛い娘であれば、トラブルも多いだろう。


「やめておけ、お前たちでは相手にならない。」


本当にそう思っていた訳ではなかったが、雪梅の手前格好つけてしまった。

雪梅のうっとりとした視線を感じる。この時点で俺の勝ちだ。


「俺たちに歯向かうとは命知らずな、男の方は殺してしまえ!」

「ちょっと待て!あの大小2本の剣は値打ち物だぞ、いただきだ。」


そう言うと、黒衣の男たちは空へ舞い上がった。俺の碧蛇剣と空也も狙われたようだ。それにしても奴ら、類まれな軽功だ。まるで空を飛んでいるようだ。

そして、降下しながら技を繰り出してきた。


雪梅は刀を抜き、2人と戦い始めた。

俺の方はと言えば、


「九尾狐!」


奴らが降下する前に、羽衣で舞い上がる。この状況に男たちは驚きを隠せない。

隙をつけば造作もない、簡単に3人を倒した。


雪梅の方へ視線を移すと、背丈の2倍以上はある水車の横で戦っていた。

押してはいるが、すんでのところで男たちは舞い上がり、水車の上へ逃げてしまう。


仲間を呼ばれても厄介だ。俺は奴らに向かって飛ぶ。


「青蛙!」


碧蛇剣を2度振るい、青蛙の発頚で男たちを倒した。

しかし、そのついでに水車も破壊してしまった。


水車が倒れ、大きな水しぶきが上がる。


「しまった。雪妹、騒ぎで役人が来る前にこの場を離れよう!」


彼女の腕をとり走り始めると、目の前に役人たちが立ちはだかった。


…あれ、どこかで見たことがあるような。


「あ、兄貴、よく見たらあの時の奴ですよ。」


子分風の役人が言った。よく見ると、やはり確かに見た顔だ。


そうだ、初めてタイムスリップした時にからまれた悪徳役人だ。


「お前ら…」


と、俺が言い終わる前に奴らは道を開けていた。

邪魔はしないと言う訳か。


こっちも急いでいる、構わず路地裏へ逃げた。


「このままじゃまずいな、九尾狐!」


九尾の狐の能力である変幻の術を用いて、俺を別人の顔に変える。

雪梅までは変えられないが、これだけで良しとしよう。


「神鷹教と月蛇教、どちらも摩尼教の流れを汲むんだけど、邪な技を使うことで有名よ。」

「今回の件で、両方敵に回してしまったかもしれない。」


「それにしても張兄、新しい能力を身に付けたのね、お祝いを言うわ。」


やはり可愛い娘だ、離れたくない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ