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桜梅英雄伝  作者: 守田
梅花荘編
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第6話 軒猿対決

人里離れた山奥にいる。木漏れ日が眩しい。

マイナスイオンを浴びながら歩いていると、石造りの鳥居が見えてきた。


「ここが祢津の里です。」


望月千代女の案内でさらに歩いていくと、いくつか建物が見えてきた。その中の神社に入っていく。

さすがは巫女の里、女性ばかりが住んでいるようだ。


そんな中、武士の格好をした男が一人、こちらに向かって歩いてくる。


「お主が尾張か、拙者は甲州流透破の統領、高坂甚内でござる。千代女を救える腕があるか、まずは拙者と勝負しろ!」


いきなり何と失礼な奴か。


高坂は望月千代女の制止を振り切り、俺に斬りかかってくる。

あちらが襲ってきたとは言え、何の遺恨もなく斬る訳にはいかない。

俺は人妙剣で受け流す。


「かかって来ぬとは、拙者を愚弄するかっ!」


お互いの刀が重なり合った状態で、高坂はそう言うとパッと手を放す。

そして、そのままひじで当て身を仕掛けてきた。

意外だったこともあり、ガードはするが避けきれない。


「この忍者崩れがっ!」「尾張殿、気を付けられよ、古武術を使うぞ!」


奥山殿が助言する。そっちがその気なら、これ以上の躊躇はこちらが危険だろう。


「両義太極拳!」


古武術が張大侠の技に叶うはずはない、と信じて技を繰り出す。

すると、飛び込んできた高坂は宙を舞うことになった。


「参った!」


宙を舞いながらも、何とか着地した高坂は敗北を認めた。

統領と言うだけあって潔い。


「お主の実力はよく分かった。手を組もう。」

「俺の手下は10名、既に里に潜ませている。」


きっと、こんなやり方でしか分かり合えない男なのだろう。


「よし。こちらは俺と新陰流の剣豪、奥山殿だ。」


望月千代女によると、軒猿を迎え撃つ作戦はこうだ。

特別な祈祷を行うと御触れを出し、望月千代女が囮になる。

軒猿がやってきたところを里の入り口の鳥居で高坂と手下が迎え打つ。

そこを突破された場合は、弓で武装した巫女組が神社前で迎え撃つ。

そこも突破されたら最後の砦、俺と奥山殿という寸法だ。


祈祷までの数日、俺は山中で修行することにした。

何といっても、制剛流抜刀術 飛燕を自分のものにしたかった。

里から離れ山中で修行するのは、高坂に見られないためだ。


いよいよ技の研鑽が深まったという頃、突然辺りが霧に囲まれた。

そして、背後に気配を感じた。


「これは何だ?…まさか、幻術か!」


空也を振るってみると、少しずつ霧が晴れていく。この脇差、やはりただの刀ではない。

誰なのか分からないが、何者かが高速でこちらへ向かってきた。迎撃が間に合わない。


そう思った時、その気配の主が望月千代女だと分かった。

その上、どういう訳か彼女は俺に抱き着いてきた。


「望月殿?」


俺は困惑していた。

すると、彼女はか細い声で語りかける。


「…千代女と呼んで。」

「高坂を負かした尾張殿は勇ましかった。」

「お願い、戦いの前に抱きしめて欲しい。」


衣服がはだけ、肌があらわになっている。

意図的にはだけさせないと、こうはならないだろう。

そして、彼女は嬉しそうに微笑み、俺にキスをした。


「あなたは戦国一美しい。」

「でも、俺には気になっている人がいるのです。」


そう、俺の中には雪梅がいるのだ。

すると、突然辺りに結界が張られていく。


「これは…契約のチャンスだ。」

「すみません、少し離れていてください。」


俺は彼女を放し、身構えた。

そこに現れたのは、なんと九尾の狐だ。


「もののけかっ!」


望月千代女が驚き立ち向かおうとしたため、俺は急ぎ彼女を制する。

それにしても、空想上の生き物でも契約対象になるとは知らなかった。


この状況に気付いたのだろう。奥山殿が走り寄ってくる。


「これは何と。神獣と契約できますぞ!」


九尾の狐は、考える間も与えず火のつぶてを放ってきた。

おいおい、接近戦にしてくれよ、と思いながらも何とかかわす。

しかし、連打されればかわし切れない、一撃で決めよう。


「青蛙!」


俺は発頚を放とうとしたが、なぜだか召喚できない。


「青蛙!」「青蛙!」「青蛙!」


何度叫んでも結果は同じ、召喚できない。


…そうか、大兄が言っていたな。自分の力で倒さないといけない、とはこういうことか。

そうは言っても、近寄ることが出来ない。


そこで俺はひらめいた。

刀を九尾の狐に向けて投げつける。

これは舞い上がりかわされるが、かわされることは予想通りだ。


「これで決める!制剛流抜刀術 飛燕!」


空中でこの技に叶うはずはない…そう思っていた。

だが、九尾の狐は初撃も、旋回しての斬撃もかわした。恐ろしい身のこなしだ。


そのまま俺に体当たりし、地面に叩きつけられた。

さらに、そこへ火のつぶてを放ってきた。


これは危ないと感じ取った望月千代女が悲鳴をあげる。


「くそっ!飛燕!」


俺はもう一度、同じ技を放つ。今度は油断しない、と一度目より集中する。

すると、今までとは段違いに速い初撃が放たれ、九尾の狐を仕留めた。

いよいよ修行の成果が表れたのだ。


九尾狐ジウウェイフーと契約する。」


どうにか九尾の狐を倒し、新たな力を得ることが出来た。軒猿の戦いも楽になるだろう。


そして、いよいよ決戦の時が来た。狙い通り、軒猿がやってきたのだ。


物見の巫女の話しでは、敵は50名程度。

こちらは高坂が10名、巫女組が20名、高坂、奥山殿、望月千代女、俺で34名だ。

数では劣るが、勝敗は数の差よりも力量次第だろう。


しかし、戦闘が始まると鳥居は簡単に突破された。

軒猿は真正面から当たっているように見せかけ、精鋭10名を本隊から切り離していたのだ。

そうなると、少なくとも無傷の相手が10名はやってくるということだ。


神社前に来た軒猿を巫女組の弓が迎える。彼女たちの技術は極めて高く、正確に狙い撃つ。

軒猿は精鋭と言えど避けること叶わず、手甲で受けている。


しかし、この手甲がしっかり対策されている。

肘に届こうかというほど長く覆ってあり、素材は鋼だ。

しかも、爪が付いている手甲鉤なのだ。


巫女組の健闘及ばず、矢の雨の中から3人が飛び出してきた。

もしかすると、軒猿側はこれで作戦通りなのかもしれない。


「ここは任せられよ!」


奥山殿が前に出で、軒猿2人と刃を合わせる。


すると、後方から刀を地面に突き立て、加藤段蔵が飛び越えてきた。


「ぬかった!尾張殿、奴は任せる!」


俺が奴と戦うのか。

悲観している余裕もなく、加藤が迫ってくる。

俺は人妙剣で迎え撃つ…が、思ったより弱い?

5手もかからず奴を斬った。


「いけないっ!」


望月千代女が叫ぶと、なんと彼女の腕が6本に増えた。

増えたと思えば、後ろから俺を抱くようにして腕が巻きつく。さらに彼女の下半身は大蛇になっていた。

と、そこへ斬ったはずの加藤が現れ、斬撃を放ってきた。


俺は無事だが、彼女の腕は斬り落とされてしまった。

しかし、そんなことは気にしないとばかりに、彼女は素早く動く。


ズルッという音と共に、下半身の大蛇が素早く加藤を嚙み砕いた。

すると、その加藤の背後に若いくノ一がいた。


「尾張様、あやつが加藤の本体、他は傀儡でございます!」


そんなのアリか?

とにかく、俺は人妙剣で斬りつける。

加藤も刀で迎え撃つ、もう傀儡はないようだ。


数手渡り合ったところで、刀を地面に突き立て加藤が飛び上がる。


「またその技か、逃すかっ!」

「青蛙!飛燕!」


足元に発頚を放ち勢いをつけ、飛び上がると共に斬撃を放つ。

加藤は体を回転させることで致命傷を避ける。与えられたのは、かすり傷といったところか。


奴は、懐から両端に三本ずつ円形の刃が付いた道具を取り出す。

中央に柄がついた、仏教でみたことのある道具だ。


そして、それを一振りすると、急に空模様が変わり雲が立ち込める。


「あれは、三鈷杵さんこしょ!」

「なぜ加藤が法具を持っているの!?」


望月千代女は驚きを隠せないようだ。


「尾張殿、拙者が隙を作る、一気に片を付けよう。」


軒猿2人を片付けた奥山殿が加勢に来た。


「奥義 一之太刀!」


奥山殿の物凄い一撃が加藤を襲う。


「お主、なぜその技を?」


この一撃は、かわすことも受けることも難しい。奥義と呼ぶにふさわしい威力だ。

しかし、加藤は三鈷杵で受ける。さすがは法具といったところか。


互いの武器が重なると放電のように発光し、雷撃が奥山殿を襲う。

この隙を逃さず、俺は既に加藤の懐に入り込んでいた。


「九尾狐!」


至近距離で火のつぶてを放つ、かわすことは叶わない。

加藤は燃え上がった。

若い女とは言え、これだけ強いのだ、本気で戦うしかない。


俺は一時的に身動きがとれなくなった。

どうも火のつぶてには反動があるようだ。これからは使い方を考えねばならない。


「望月殿!体は…」


加藤に斬られたはずだ。心配になった俺は、彼女に視線を送る。


「先ほどの姿は呪術によるもの、何ともございません。」


ボロボロではあるものの、腕は何ともない。良かった。


次に奥山殿へ視線を移す、雷撃をまともに受けている、こちらは重症だ。


「奥山殿は私どもが救います。巫女は治癒の力を持っておりますゆえ。」


俺は加藤の持っていた法具を望月千代女へ渡し、元の時代に戻ることにした。

奥山殿の回復を待ちたかったが、長居すれば再び望月千代女に迫られるかもしれない。


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