表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜梅英雄伝  作者: 守田
梅花荘編
4/50

第4話 繰り返す時間の旅

元の時代に戻っても、宋のことはいつも心のどこかに残っていた。

そんな中、日々の仕事に疲れた俺は旅行へ行くことにした。地元愛知県の海へ出掛けたのだ。


テラスの椅子に座り、寄せては返す波の音を聴く。

心地良さに身を包まれ、気付くと俺は眠っていた。


目を覚ますと、何か景色が違う。

テラスもなく、石の上に座っていた。

どうやら、またタイムスリップしたようだ。今度は中国ではなく日本にいるようだ。

目の前に竹島が見えるため、場所も変わっていない、と思う。


ふと振り返ると、段々に山が切り開かれており、中腹には物見櫓、頂上には城が見える。

戦国時代か、とにかく昔にタイムスリップしている。


ひとまず、近くにいる漁師に話しを聞いてみよう。


「ここはどこですか?」

「ちなみに、今は何年ですか?」


漁師は怪しみながらも答える。


「おまん、おかしなかっこうしとるし、話し方もおかしいなぁ。」

「あんなぁ、どっから来たか知らんが、今は慶長5年、ここは蒲形だがや。」


慶長5年と言えば…関ヶ原の合戦があった年じゃないか。

蒲形と言えば蒲郡市、やはり場所は変わっていない。

しかし、これからどうするか。


この辺りは田舎で何もない。人や物の多い町へ行こう。

ここからなら岡崎市か豊橋市だが、関ヶ原がキーワードなら岡崎方面が良いか。


だが、徒歩の移動は無謀だ。青蛙で川に沿って行くのが良いだろう。

川を目指すのは遠回りになるが、とにかく移動に徹し、何とか矢作川に到着。

そして青蛙で岡崎を目指した。


すると、左手に城が見えてきた。

現代には存在しないが、あれが恐らく安城城だろう。

それならば、もうすぐ到着だ。このあたりで休憩することにしよう。


腹が減った俺は、川へ向け青蛙の発頚を放ち魚を獲った。

しかし、火を起こせず困ることになった。


「どうした、大丈夫か?」


初老の男性が話しかけてきた。漁師ではなく武士のようだ。


「火を起こしたいのですが…」


すると彼は、さっと火打石を取り出し着火してくれた。


「拙者、奥山公重と申す。」

「今の技、見ていたぞ。お主もタイムスリップした者か?」


見られていたか。

気を付けているつもりでも、気付かれないようにするのはなかなか難しい。

しらを切っても良いが、なす術ない状況ではむしろ助かるか。


「はい。私は尾張友和と申します。」

「何をすれば良いか分からず、ひとまず岡崎城を目指しています。」


「そうか。岡崎城は豊臣方の田中吉政様が治められている。」

「気さくで気持ちの良い方なのだが、腹黒い人物であることが残念なのだ。」


奥山殿はしばらく黙り込んだ後、さらに続けた。


「関ヶ原の合戦が終わり、城に戻られたところだ。拙者が田中様に謁見できるようにしよう。」

「それにしても、まさかタイムスリップしたものと出会えるとは、何とも嬉しいことだ。」

「ここで会ったのも何かの縁、どれか技を授けよう。」


関ヶ原の合戦は終わっていたのか、歴史に名高い戦に巻き込まれなくて良かった。


「岡崎城主に謁見できるとは、奥山殿は何者ですか?」


俺の質問に、優しく微笑み応える。


「拙者は亀山城主、奥山の七男でな。武芸を得意とし、徳川家康様にも新陰流を指南しておる。」


新陰流と言うことは、上泉信綱の弟子か?すごい人に巡り合ったものだ。

食事を終えると、早速修業が始まった。


「尾張殿に伝授する技は、人妙剣。」

「腕を使うのではなく、足腰を使う。」

「敵の速度と力に応じて、敵の力を用いて剣をふるいなさい。」


太極拳に近い考え方だ。この技は早く会得できそうだ。


「相手は斬ったと思っているのに、結果的にはいつの間にか斬られている。これが活人剣のひとつ、人妙剣なのである。」


「もう一つ、制剛流抜刀術 飛燕も授けよう。」

「この技は短い刀を用いる。」

「戦いを素早く制する上で効果の大きい部位は拳だ。相手の拳を砕き、そのまま飛び上がる。そして旋回して相手を斬り裂く。」

「この動作を一瞬でやるだけの速さが必要だ。それ故、この技は奥義のひとつである。」


奥義まで教えてくれるとは、何か裏がありそうだ。

ともかく教えを受け、修業しながら向かうことにした。


岡崎の城下町に着くと、体を休めるため早速宿屋に入る。

奥山殿がいて良かった、お金がないのだ。


しかし、入ってみると、宿と言っても布団もない。部屋と食事が与えられるだけだった。

歴史の勉強不足だった。悪天候や寒い時期を除けば、利用価値は低いな。


仮眠をとると、既にこの時代に来てから一日近くが経過していた。

そろそろトラブルがあるはずだ。


「ガタッ!カンカン!ドン!!」


隣の部屋から大きな音がする。

驚き覗いてみると、そこには3人の忍者と、扇を片手に戦う女性がいた。

女性はかなり強いが、多勢に無勢。互角といった様子だった。


可哀想だ、何とか助けてあげよう。


「制剛流抜刀術 飛燕!」


早速、奥山殿に伝授された技を使ってみる。

着け刃なのだ、一刀目はかわされてしまう。

しかし、宙を旋回して斬りつける技はさすがだった。1人は仕留めることが出来た。


女性は残り2人を片付けこちらに駆け寄る。

40歳くらいか。俺よりかなり年上だが、とびきり美しい人だ。


「助太刀かたじけない。望月千代女と申します。」


望月千代女って、あの有名な?名前は知っているが、どんな活躍をした人か分からない。

すると、じっとしていた奥山殿が口を開く。


「武田家が敗れてより未亡人となり、巫女村におられると聞いていたが。」


「はい。巫女として国を周ることを生業としております。」


この美しさで未亡人とは。

そう言えば、この時代に再婚という考え方はないのだろうか。

などと考えながらも、たまらず俺も口を挟む。


「ここは小さな町ですが、望月殿はここで何を?」


彼女は言い難そうに答える。


「軒猿の残党にしつこく追われておりまして、お役目を果たすため遠回りで織田家へ向かっているところです。」

「奴らはしつこい。せん滅するまで追ってくるでしょう。」


俺と奥山殿はしばらく考え込む。


「ここにいる尾張殿を田中様へ謁見させたら、拙者は奥山郷へ戻ろうと思っていた。」

「しかしこれも何かの縁、助太刀しよう。」


ちょっと奥山殿、何勝手なことを言ってるんですか。

忍者集団のせん滅なんて無理に決まってるでしょ。


しかし、今は目的を探すことが優先。

ひとまず否定はせず、田中吉政にも会って何が目的か確認しよう。


俺たちは望月千代女を宿に残し、登城することにした。

登城と言っても、本丸は小さな城だし緊張することはない。


「おぉ、奥山殿、ようきたなぁ。」


これが田中吉政か、確かに親しみやすい。

細身で弱そう、偏見だがずる賢そうな顔に見える。


「久方ぶりですな。この度は、この者を家臣に推挙したく参上しました。」

「尾張殿と申し、武芸に秀でております。」


奥山殿の紹介に続き、俺は畳みに手をつき挨拶する。


「尾張友和と申します。」


田中は俺を観察している。

さすがは城主と言ったところか、鋭い視線を感じる。


「奥山殿の推挙ならば、断る道理はなかろう。」

「早速困っていることがあってな。是非、明日から登城せよ。」

「位は皆の手前もある、足軽大将にしておくが、1000石で召し抱えよう。」


俺のこと、何も知らないのに1000石も出すのか?奥山殿はすごい有名人なんだな。

さて、タイムスリップの目的は、望月千代女か田中吉政のどちらか。


城を出て宿へ向かっていると、後ろから恰幅の良い男が走り寄ってくる。


「おい、お主が尾張殿だな。拙者は鳥居源一郎と申す。弓大将だ。」

「お前の屋敷に案内しよう。」

「それから、せっかくの縁だ。ちいと飲もう。」


嬉しそうに話す鳥居は、大きな徳利を持っていた。


屋敷に着くと、六畳間が2つ、十畳間が2つ、もちろん風呂場もある。

家政婦のような使用人もいる。

屋敷と呼ぶには言い過ぎかもしれないが、ここまで厚遇される分の働きができるのか不安だ。


ちなみに、この時代には居酒屋がない。だから屋敷で飲むのだ。

居酒屋は酒屋で居ながらにして飲む、これが延長してできたそうだが、その歴史は江戸時代から始まるのである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ