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桜梅英雄伝  作者: 守田
梅花荘編
3/50

第3話 恋の予感(後半)

目を覚ますと、両手両足を縛られ洞窟のようなところにいた。

なぜ屋敷ではなく、こんなところにいるのか不思議だ。


「目を覚まされましたかな。拙僧、諦めの悪い性格でしてな。」


どうやら鳩摩流にさらわれたようだ、何たる不覚。

周りを見渡すが、水源はなく青蛙で逃げることもできない。戦うしかないか。


「正面から戦って勝ち目がないから、人質と言う訳か。どこまで卑怯な坊主だ。」


俺の嫌味で鳩摩流の眉が動く。しかし、怒りに堪えた様子で上の階へ去ろうとする。


「ちょっと待て、ここはどこなんだ?」


俺が聞くと、霊峰塔、とだけ言って去って行った。聞いたことがない場所だ。

塔なのに洞窟ということは、地下にいるのか。

ともかく、実のところは戦っても俺が勝てる見込みは低い。そうなると、張大侠の助けを待つ他にない。

仰向けに寝転び、天井を見上げる。見上げたところで何もないのだが。


しばらくボーッとしていると、黒衣の可愛らしい少女が階段を下りてきた。


「あんたが張ね、私は月蛇教の小青。教主の命令で来たのよ。」

「張三宝は鳩摩流に任せるとして、あんた不思議な力を持ってるそうじゃない、もらっていくから見せてくれる?」


月蛇教だと!いよいよお出ましか。

教主は来てないようだし、相手は15、6歳の小娘だ。上手くあしらって脱出するか。


「今、チョロいと思ったでしょ。言っとくけど私は千年生きてるのよ。召使いだからって甘く見ないでね!」


召使いなのか。千年生きている訳はないだろうが、召使いレベルなら楽勝だ。


「分かった分かった、力を見せるから縄をほどいてくれ。」


小青が両手の人差し指を合わせると、小さな光が生まれた。


次の瞬間、俺の脇腹から鮮血が流れていた。


「ぐっ、うぅ…」


まるで拳銃で撃たれたかのようだ。(撃たれたことはないが)

本気で痛い時と言うのは、言葉にならないうめき声が出るのか。


「なによ、その言い方は。私をバカにするからケガするんだよ。」

「何なら今すぐ殺してやろうか。」


何だ、このいかれた奴は。このまま好きにやられてたまるか。


「青蛙!」


俺は隠し持っていた短刀で縄を切り、そのまま短刀を向け発頚を放った。反撃が来るとは夢にも思わなかった小青は、正面から受け思い切り吹き飛ばされた。


両義太極拳により、それなりの内功を会得していたようだ。その力が青蛙にも反映されたことで、威力は増したことを感じる。

小青の体はバラバラになっていた。


「えっ!?そんなに威力上がってた?」


まさかそんなになるとは、俺は驚きを隠せない。しかし、出血もなく玩具のようにバラバラになっているから不思議だ。


「くそう…私がやられるなんて、核に当たったか。油断し過ぎた。」

「言っておくけど、私はこの程度では死なない。何年かしたら復活するから。」


そう言い残すと、小青は剣に変わった。青色の柄に、剣はくすんだような色をしている。

そして、「碧蛇剣」と刻字されている。


ひとまず剣を手に外へ出た。


見渡すと、鳩摩流が言っていた通り、塔の前だった。

そこには張大侠がいた。

そして、鳩摩流ともう一人、黒衣の少女と張大侠が戦っている。互角と言ったところだ。


「陽炎刀!!」


鳩摩流が叫ぶと、手から発した炎を飛ばす。そして、その炎は高速で揺れ動き襲いかかる。


「それは、少林秘伝の技。なぜお前が!?」


張大侠は尋常ではない驚きようだ。しかし、驚いている場合ではない、このままではやられてしまう。

張大侠は太陽拳で立ち向かう。

しかし、2人が相手、数手受けてしまった。



「青蛙!!」


俺の発頚が鳩摩流を襲う。


大鷲ダイヂウ


鳩摩流が叫ぶと、発頚が爪痕のような衝撃波でかき消された。

こいつ、鷲と契約しているのか!


張大侠も驚いているようだ。


そして、戦いは二手に分かれる。

張大侠は傷を負ったまま少女と戦う。

鳩摩流が凄い軽功でこちらに向かってきた。俺は奴に勝る技を持っていない。

なす術なく、碧蛇剣を振りかざした。

すると、剣がゆらゆらと蛇のように曲がりくねる。これに驚いた鳩摩流が左に避けた。


「今だ!青蛙!!」


この機会を逃す手はない。鳩摩流へ向かって飛ぶと共に叫んだ。

水源はないが、鳩摩流に追いつくには十分な脚力を得られた。そのまま横にきりもみ回転しつつ、剣を両手で前に突き出す。

またも鳩摩流はかわすが、再び剣が蛇のように曲がる。


そして、ついに鳩摩流の胸を一突きにした。


「チッ、役立たずが。教主にご報告せねば。」


黒衣の少女は見事な軽功で立ち去った。

小青と違って妖術のような技は使っていなかったが、かなり腕が立つ。


「少し見ない間に強くなったな。」


張大侠が俺の肩に手を置いて言った。

俺の剣を見て、さらに言葉を続ける。


「小青を倒したか。あれは精霊でな、月蛇教教主の小間使いだ。」

「類い稀な剣を手に入れた、おめでとう。」


小青が油断してなければ勝てるはずのない戦いだった。

それにしても、精霊なのに小間使いとは、教主の腕前は如何ほどのものか。


「今晩は屋敷に泊まり、一杯やろう。元の時代に戻るのは明日で良いだろう。」


張大侠の申し出を受け屋敷に戻ると、笑顔の雪梅が迎えてくれた。

夕食の準備をしていてくれたようだ。有り合わせの料理だけど、と言いながら、鶏が1羽、それに羊肉、野菜の炒め物が用意されていた。


酒を飲み、穏やかな時間が過ぎていく。


「ところで、今回の一件ではお前と生死を共にした。それに、碧蛇剣は伝説の名剣と言って良い、お前は名を馳せるだろう。」

「この時代に戻ってくるつもりか分からないが、良ければ俺と義兄弟にならないか?」


天下の張三宝と義兄弟になれるとは、夢でも見ているようだ。

もちろん快諾し、俺たちは盃を交わし誓いを立て、義兄弟となった。


「ニ弟!」「大兄!」


俺たちは抱きしめ合い、夜更けまで飲み明かした。


大兄は眠ってしまったが、俺は月を眺めながらもう少しだけ、と飲んでいた。

何と言っても、これが最後の月見になるのだ。


と、そこへ雪梅が近づいてきた。

そのクリクリとした瞳には涙が溜まっている。


「張兄、もう行かれるんですね。」

「それは仕方ないことだけど、私のこと忘れないで。」


雪梅の言葉に心が苦しくなる。

そうか、俺はもう本気で好きになっていたんだ。

自分の手を雪梅の手に重ねる。雪梅は涙がこぼれ落ちていた。

そして、それ以上は言葉を交わさないまま、朝を迎えた。


俺は二人に別れを告げ、元の時代に戻ることにした。

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