表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜梅英雄伝  作者: 守田
梅花荘編
2/50

第2話 恋の予感(前半)

早速、飛来峰へ向かいつつ、張大侠による特訓が始まった。


「これから両義太極拳三百八十四拳」を授ける。完全に会得することは無理でも、俺が教えるんだ。基本が身に着けば何とかなるだろう。」

「それにお前、役人と戦っていた時に太極拳を使っていただろう。」


そうか、喧嘩空手の基本部分、実は太極拳だっておじさん言ってたな。


「陰の中に陽があり、陽の中に陰がある。そしてこれは互いに入れ替わり、円のように動く。この基本的な考え方に基づき、一つずつの技を覚えろ。」


何を言っているか分からない。それに三百八十四拳って多過ぎないか。

太陽拳が良かったが、まぁ気功は無理か。


あっという間に3日間が経ち、強引ではあるが予定より早く覚えることができた。太極拳は基本的に相手の力を制して自分の力に変える技だが、この基本は同じようだ。


「飛来峰に着いたぞ。」


歩いていた張大侠が立ち止まり言った。

霊峰と言うだけあって、周りの山々とは全く違う。岩が沢山あるのだが、恐らく石灰岩だ。

それに石の仏像が沢山並んでいる。


しばらく歩くと、ひと際大きな洞窟に着いた。


「ここは青林洞。ここで虎の化け物を倒し、俺は能力を得たのだ。」


張大侠は虎と契約したのか、霊峰と呼ばれるだけあってすごいなぁ。ひとまず、周りを散策してみることにした。


川に沿って歩いていると、急に辺りが薄暗くなる。

一体何だろう、月食か?


「ゲコッ、ゲコゲコッ!」


とんでもなくデカいカエルが現れた。もしかして、張大侠が言ってたのはこれか?

ヒキガエルのような見た目で、後ろ足が1本しかない生き物だ。


「それは青蛙だ!何とかして倒せ!!」


張大侠の声が聞こえる。しかし、姿が見えない。周りに結界が張られているような感じだ。

戦うと言っても、相手の力を利用する太極拳ではカエルには不向き、どうしたものか。

しかし、そんなことを考えている余裕はなかった。


カエルは水上を走りながら攻撃を仕掛けてくる。カエルの力を利用して左右へ受け流すが、見た目よりすばしこく、なかなか攻撃に転じることができない。


「お前の体術では倒せない、武器を使え!」


また張大侠の声が聞こえた。どうやら、あちらからは見えているようだ。護身用にもらった短刀を使えということか。


カエルの動きが止まった。なぜか分からないがじっとしている。


「まずい、力をためている。蝦蟇功のような突進が来るぞ!」


蝦蟇功ってなんだ?とにかく時間がない。大分疲れてきたし、次の一撃で決めるしかない。


「ゲコー!!」


カエルが突進…ではなく飛んできた。


「なんだそりゃー!」


だめだ、対応が間に合わない。何もできず固まってしまった。

しかし、カエルは仰向けに倒れた。


信じがたいが、どうやら突き出した短刀に勝手に刺さって自爆したようだ。


すると、周りの結界が薄くなり、張大侠の姿を確認できた。


「早く契約しろ、青蛙チンワと契約する、と言え!!」


言われた通り契約の言葉を口にすると、カエルは消滅した。

そして、俺の一部になったことが分かる。


「ふぅ。それにしても、俺の初めての契約がカエルとは、あまりにも弱そうなんですけど。」


「まぁ、そう拗ねるな。さっき見た感じだと、水上を渡れるし、あの突進力は強力だろう。」


張大侠がそう言うなら、悪くはないか。

とにかく、これで準備は整ったということだろう。

いよいよ、月蛇教なのか破戒僧なのか、雪梅さんを連れ去った連中と対面だ。


張大侠の案内に従い、次に向かった先は「霊隠寺」と書かれた門構えの寺だった。


中に入っていくと、そこには西域の僧侶がいた。恐らく、彼が鳩摩流だろう。


「張大侠、ようこそいらっしゃいました。拙僧は鳩摩流と申します。」

「月蛇教には縁が深く、ご助力している次第です。」


黄色の法衣をまとった僧侶が挨拶する。

人さらいしておいて、僧侶と言えるのか?まったく、なんて時代だ。


「武当派の掌門、張三宝と申す。鳩摩流殿、娘の雪梅を返して頂けないか。」


「もちろんでございます。いかに月蛇教の頼みとは言え、命までは取りまぬ。」

「拙僧は各派の奥義を集めてましてな、武当派の奥義書を頂けませんか?難しいと言うなら、ここで戦って見せて頂きたいですな。」


なんて身勝手な、奴は僧侶の皮をかぶった悪魔だ。


「どうしても戦うしか選択肢がないようですな。」

「お前は雪児を探してくれ。」


張大侠は俺に頼むと、鳩摩流と戦うべく構えた。


俺は中央突破を避け、池沿いに走り寺の中へ向かう。すると、西域の僧侶たちが俺を囲む。


「こんなにいたのか?すっかり囲まれたな。」


池を背に呟くと、青蛙を召喚し池の上を一気に飛び越えていく。


「何!?若造のわりに、奇妙な軽功を使う。その技、是非伝授頂きたい。」


なんと、鳩摩流が興味を示しこちらへ向かってきた。


「俺が相手だと言っただろう!」

「いくぞ、太陽拳!」


でたっ、張大侠の十八番、太陽拳だ。鳩摩流も技を繰り出し応戦する。


「むっ?それは少林派の鉄砂掌に鷲爪功か、しかも達人の域だ。」

「だが、俺は少林の流れをくむのだぞ、勝てはせぬ!」


よし、張大侠が押している。俺も寺の中に入ろう。


「両義太極拳!」


入り口にいた西域の僧侶数名を倒す。形だけ会得しているとは言え相手は雑魚だ、俺の敵ではない。

寺の中に入ると、柱に縛り付けられている雪梅をすぐに見つけることが出来た。

かすり傷は負ったが、中にいた2人の僧侶も倒し、縛り付けている縄を切る。


「張小侠、ご迷惑をお掛けしてごめんなさい。有り難うございます。」


顔を少し赤らめてお礼を言う姿も可愛い。


外から張大侠の叫び声が聞こえた。何事かと雪梅を連れて外へ出る。

そこには大きな法杖を持つ鳩摩流がいた。どうやら、張大侠はこの杖で不意を突かれたようだ。


「卑怯な坊主め!林家刀法を受けなさい!!」


雪梅は刀を抜いて飛び掛かる。まずは鳩摩流と3手を交わす。雪梅、想像以上だ、俺より全然強い。

だが、少しずつ鳩摩流に押されていく。

俺も助けに入ろうとしたその時、


「太陽剣!」


張大侠が剣を抜き、鳩摩流へ飛び掛かる。

これはたまらないと鳩摩流が杖で受けようとしたその時、鳩摩流の体が吹き飛び、大きな香炉に打ち付けられた。

鳩摩流は吐血し、戦意を消失したのか屋根に飛び乗り去っていった。

その速さと言ったら、軽功も達人の域だ。


しかし、それよりも張大侠の技だ。杖に触れる瞬間、物凄い剣気を放っていた。

これで虎も召喚できるのだから、恐ろしい強さだ。


雪梅が張大侠に飛びつく。


「雪児、無事で良かった。」


俺たちは張大侠の屋敷に戻り、疲れを癒すことにした。


翌朝、特にやることもない俺は、両義太極拳を修練していた。

それにしても、元の時代に戻れないと言うことは、雪梅の救出が目的ではなかったということだな。


「お前、短刀では何かと困るだろう。剣をやるから、使い方は雪児から習うと良い。」


そういうと、張大侠は仕事があるのか去って行った。


言われた通り、雪梅と二人で修練を始めた。


型の基本を一通り覚えられた頃、俺は両義太極拳の理解も深まり、明らかに強くなっていることを実感していた。


「一体何の目的でこの時代のこの場所に来たのか、帰れるのか、不安ばかりが募るよ。」


雪梅が横にいたが、ついつぶやいてしまった。


夜も更け、俺は一人、月を観ながら酒を飲んでいた。

酒も旨いが、何といっても月が美しい。

現代と違って、黄砂や公害がないからだろう。

すると、雪梅が声をかけてきた。


「もう遅いですから、張兄はお休みになって下さい。」


まだ出会って間がないのだが、俺たちは兄、妹と呼び合っていた。

これは兄弟と言う意味ではなく、親しみを込めた呼び方だ。


「いや、もう少しだけ飲みたいから、雪妹は先に休んで。」


雪梅が膳を下げようとした時に、俺も膳を引き寄せようとしたため、お互いの力で膳の上の酒瓶が倒れてしまった。

それを支えようとした二人の手が合わさってしまう。

雪梅はまだ20歳そこそこの娘だ、顔を真っ赤にして立ち去ろうとする。


しかし、俺は彼女の腕をつかんだ。

月に照らされた彼女は、何とも可愛く感じた。


「雪妹…」


好きだと言いかけて、俺は言葉を飲み込んだ。

もうすぐ元の時代に戻るのだから、言ってはいけない言葉なのだ。

雪梅はそれを察したのか、目に涙を溜めながら走り去って行った。


やりきれない気持ちで月を眺めたまま、俺は眠った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ