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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

よくある、新米勇者の導き手

作者: 七転八起

初めて書いてみました。

誤字脱字あるかもですがお知らせいただいたら適宜直していきます。

ご意見やご感想などお聞かせいただけますと幸いです。

はっ。劣種どもよ、今宵ばかりは片時の勝利に酔うがいい。我は滅することはない。また、暫しののち目覚め、次こそは貴様ら劣種をまとめてこの世から滅ぼし尽くしてくれよう。


魔王はそう言い残し、灰となって崩れ落ちた。

すぐさま一陣の旋風が巻き上がり魔王の灰を飛ばしてしまう。


そこには、精魂尽き果てた様子の勇者パーティが呆然と残された。


人族は滅亡の危機から逃れた。



次に魔王が目覚める、その時までは。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「親父い、暖房用の薪はこんなもんでいいかな」

「ああ。それが終わったらお隣の分も手伝ってやれ。」

「あいよー。」

「今年の冬は比較的暖かだが、いつ雪に埋もれるかもわからん。

準備だけはしておいて損はない。」

「そうだな。そう言えば干し肉の貯蓄は大丈夫なのか?」

「少し余分に持っておこうと今日狩猟隊が編成されたはずだが。」


「リ、リーベルトさあああーんっっ!」

「!」

「やっちまった!メガボアを暴れさしちまった。村に向かってる!」

「!…シオン!」

「はあ。はいはい。人使い荒いな。」

「いいから、行け。」

「あいよ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


木に吊るされた大人3人分ほどのメガボアがどんどん捌かれていく。

こうなれば皆慣れたもので、手を出す必要もなく、皮は剥がれ、内臓は

除かれ、幾つもの肉の塊がバケツリレーで薫製小屋に持ち込まれていく。


良かった。これで村のどの家もこの冬に飢えて困ることはないだろう。

穀物の蓄えもそれなりにある。


在るべきものは、在るべき時に、在るべき場所に。

種族に伝わる格言だ。

俺たちは好奇心旺盛で、珍しいお宝にも目が無い種族だが、決して強欲ではない。

興味はあっても必要以上に欲しがりはしない。

手に入れたものも、他に必要な人間がいるなら迷うことなく渡してしまう。

今この村にあるものが、この村に必要十分な量だろう。



ガシャッ

村人の勤勉さを示すように、村を囲うように巡らされた頑強な柵

その一部を開いた門に、珍しい外部からの訪問者が現れる。

輝く金髪に幼い顔。外見に似つかわしくない重厚な白銀の鎧を着込んだ少年。その腰には

同じく不釣り合いな長剣が佩かれている。

見るからに肌触りの良い真っ白なローブに捻くれた老木を用いた杖を持った、

少年よりは少し年上に見える少女。

少年の2倍はありそうな筋骨隆々とした体躯に、全身を覆う鎧と大楯。その首から上には

毛並みの良い狼の頭。獣人族だ。

そして少年より一回り大きいくらいの、真っ白な肌、少し大きめのビロード生地の

艶やかな漆黒のローブを着込みキョロキョロと辺りを伺う少女。精霊人族か。

「はあ、やっと着いた。」

「こんな所に、こんなしっかりした村落が…。」

「本当にこんな辺境に?」

口々に、誰に言うでもない感想を述べながら、こちらに向かってくる。


「いきなりですまない。我々は王都からきた勇者の一行だ。

僕は勇者のヒイロ。彼女は聖女のジェシカ。

こちらは獣騎士のガイウス、そして精魔導士のユーリだ。

驚かずに聞いてほしいのだが、実は魔王顕現の予兆があり、

王都の大神官より神託が告げられた。

それによるとー。」


「そうか、わかった、シオン。」

「!?」

「いやいや、まだ決まってないし。違う誰かかもしれないし。

何で、皆こっち見てんの?嫌だよ、俺ばっかり。」

「いいから、行ってこい。」

「いや、せめてちゃんと勇者から聞こうよ。それで、誰が?」


「!?…ああ、すまない。しっかりと状況は理解しているようだな。

このような辺境にも、神々の教えは伝わっているようだ。安心した。

いや失礼した。勇者一行への同行を要請するのは…シオン リーベルトという

ものだ。この村に居るだろうか? んっ?何故蹲っている?」


「なあんでだよ!嫌なんだよ、これ下手すりゃ何年か掛かるし、殺伐としてるし!」

「むっ!やはり君か。確かに周りの方々と比べれば随分と体格もいいが。

しかし名誉ある勇者パーティの一員に指名されたにも関わらず、何という

言い草だ!光栄に思い、何を差し置いても、と参加するのが当然ではないか!」

「はーーー。今代の勇者は身体もちっこいが物も知らないみたいだな。

いいか。魔王顕現に合わせ勇者が神託により指名されるのは、もちろん知っている。

勇者に与えられた使命が魔王の討伐であることも。

だがな、他のパーティメンバーは各種族の特性に合わせ、その時点で最も魔王討伐の

適性が高い者が指名されるだけで、参加の義務はない。何より神託は人族にされる

ものであって、他の種族には関係ないとも言える。それは魔王が人族の殲滅を

掲げているが故で、言うなれば人族の自衛手段だ。

そこに他種族の助けを借りようというんだ。きちんと頭下げて頼むのが筋だろ。

そう神託でも告げられているはずだぞ。」

「!?っな、何で貴様がそんなことを。」勇者真っ赤。プルプル。

獣騎士、精魔導士そうなの!?って顔やめ。

「シオン、助けてやれ。」

「そうだそうだ、困ってるんだから可哀想だろうが!」

「それでも人か、人でなしか!」

「あーーーっ!わかったよ!人ごとだと思いやがって。

親父また出かけてくるぞ。」

「ああ。わかった、気をつけてな。」

「そんな、お気軽に…。はあ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


神々は空を作り、海を作り、地を作った。

鳥を作り、魚を作り、獣を作った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それで?今代の勇者は随分小さいんだな。いくつだ?」

「小さくなどない!い、いや13歳です。シオン殿、改めて宜しく

お願いいたします。」

「ああ、一緒にやっていくんだから敬語はいいぞ。それにしても13歳か。

若いな。身体もできていないようだし、余程の共感力なのか?」

「シ、シオン殿、先ほどから小さい、若い、と連呼されておられますが、

シオン殿はおいくつなのでしょう?見たところ、私とさほど変わりない

年齢のように見えますが。」

「んあ?だから敬語いらねって。俺たち妖精族は長寿だからな、人族からしたら

童顔かもしれないがこれでも300年は生きてる。その辺の連中からすればまだまだ

小僧だがな。まあ、俺は人族との混血だから体格は多少良いし、外見も少し人族

よりかもな。」

「さ、300!?」

「なんだよ、やっぱり何も教えられないまま放り出されているみたいだな。

あいつらもしや、俺の名前を見て手え抜きやがったとかな。

あー面倒くさ。いいか、ちっと教えてやるからそこ座れ。

あ、親父すまないが冬支度はここまでだ。俺はこいつらに神官どもが

手え抜きやがった講義から始める。」

「ああ、わかった。」

親父の言葉とともに村人たちは散り散りになっていく。

去りながらニヤニヤ笑うな。サムズアップやめ。魔王討伐やぞ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


神々は自然との調和を望み精霊人族を創ったが、体が弱かったので、獣人族を創った。

姿が醜かったため自らの体に似せ人族を創ったが、欲を覚え、それを見た悪神は

それら全てを超越しようと魔人族を創った。その結果世界には争いが生まれた。

神々はそれを嘆き妖精族を創った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「じゃ始めるか。」

一同は車座になって、改めて目の前のどう見ても勇者と同年代の少年を見る。

「ヒイロとジェシカは人族だよな?人族は神々が自分たちの姿に似せて創った

種族だ。そのため術も力も飛び抜けたものはない。但し神託により選ばれた

お前たちは共感力といって神々の力を一部分け与えられることで、種族も

無視した圧倒的な術や力を使うことができる、はず。

ガイウスは獣人族だな?しかも狼族か。俊敏性と力を併せ持った優位種だな。

勇者パーティでは獣騎士として前衛を務めることになる。

そしてユーリは精霊人族と。精霊人族は自然との調和により術を扱うことに

長けた種族だ。よって勇者パーティでは精魔導士として後衛となる。

ここまでいいか?そこでお前らの現時点での実力値を把握しておきたい。

ヒイロは戦闘経験はどうなんだ?」

「は、はい。僕は子爵家の次男ですので一通りの訓練は受けておりますが実戦経験は

ありません。勇者に指名された後、騎士団に訓練をしてもらいましたが、急に今までに

ない力が出るようになり、騎士団には複数人相手でも勝てるようにはなりました。」

「んーーー、わかった。ちなみに魔人族は1人で騎士団全員より強いからな。

お前も無手で騎士団全員倒せるくらいにならないとな。」

鼻の穴膨らませてた勇者撃沈。


「ジェシカはー。」

そんなビクッとせんでも。

「ジェシカは治癒術はどうなんだ?」

「は、はい。私は教会の見習い宣教師でしたが、神託後光の治癒術が使えるようになり、

重傷患者も一瞬で治癒出来ます。」

「ふーん。四肢の欠損は元に戻せるか?丸1日続けて治療は?複数人いっぺんには?」

「い、いやそれ無理ですよね?」

「これぐらいはやれるようになってもらうぞ。」

聖女撃沈。


「ガイウスはーー。」

いや、目合わせろし。

「人族以外には共感力はさほど顕著には効かないんだがどうだ?」

「私は狼族の族長の息子でして幼い頃から力を示すことには慣れております。

神託で使命を受け、勇者と合流してからは、確かに僅かながら今まで以上に

動け、力も増している気がします。」

「地竜に押し合いで勝てる?」

「ち?地竜とは1国の軍を持って立ち向かうあの地竜ですか…?。見たこともないです…。」

獣騎士遠い目。


「よし、ユーリ。」

あれ?コラコラ精霊術使って逃げようとすんな。

「まず精霊術は自然の力を用いた魔術な訳だが火水風地の4系統は治めてるか?」

「はい、もちろんです。私は幼い頃から種族始まって以来の神童と持て囃され、

術を学び始めた4つの年には既に4系統の精霊術を治めておりましたので。

神託後はそれぞれ威力があがり、広域精霊術も使えます。」

「よし。派生系統はどうだ?」

「は、派生?」

ああ、2系統を重ねることで使える系統だな。雷や氷、さらに高度になると

溶岩流や真空作れるぞ。魔人族は4系統に特化して耐性を持つやつもいるからな。」

精霊魔導士撃沈。うわっ白目怖っ。


「いやいやいやっ!なんですかそれっ!」

おっ勇者復活。

「そんな無茶苦茶なこと無理に決まっているじゃないですか!

あなた何なんですか!そんな夢みたいなことばかり言って!

僕らには今すぐにでも魔王を討伐しなくてはならない使命があるんですよ!」

「いや、でもこれぐらい身につけないとすぐ死ぬぞ。」

「な、何であなたにそんなことわかるんですか!」

「ん?いや先代勇者パーティも、その前も出来るようになったし。」

「は?」

「ヒイロ、お前どっかで見た顔だと思ってたんだが、お前ランドフォード子爵家か?」

「は、はい。僕の曾祖父も勇者として魔王を討伐しました。」

「おーっ!やっぱり!お前クレイの曾孫か!面影あるもんなあ!」

「えっ?何故曾祖父の名を?」

「クレイは俺が初めて勇者パーティに加わったときの勇者だよ!懐かしいなぁ!

あいつ、どうしてる?」

「ええっ!?いや、流石にもうだいぶ前に他界しましたが…。」

「えっ…。そうかあ。そうだよなあ。皆先に逝っちまうよな…。

よしっ!これも何かの縁だ!絶対にお前ら魔王倒させてやるからな!」

「あ、あなた一体…?」

「こいつは先代と先先代の勇者パーティにも呼ばれているから、今回3回目だな。

ちなみに俺はその前の3代にわたって魔王やっつけたぞ。」

後ろを通り掛かった親父が口を挟む。

勇者、聖女、獣騎士、精魔導士は口をポカンと空けて固まっている。


「シオン殿、本当にあなたは…?」

「あれ?神託で俺のことなんて言ってた?」

「神託?そういえば、勇者、聖女、獣騎士、精魔導士、そして…もう1人…。」

「そう!俺は勇者パーティの導き手。導師だ!厳しく行くからな!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「前の勇者パーティが使っていた聖剣やら魔剣、伝説級の防具や杖もあるからな!」

「ええええっー!!!」

「おう!先代の魔王討伐後、海の底だの、ダンジョンだのに封印されちまったからな。

集めておいたんだよ。家にあるからよ、後で持ってくるよ。」

「そんなところに…。」

「邪魔だから早く持ってけ。」

親父邪魔とか言わない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


勇者パーティと行動を共にして、半年。

まだ、こいつらに装備は身に付けさせない。

実力以上の装備は、俺の目指す戦い方ではない。

切れ味の良すぎる剣では、当たれば倒せる、そんな戦い方では

限界は見えてる。それ以上の存在には通用しない。


よってまずは地力を付けさせるために、粗末な装備でやれるところまでやるのが

俺流だ。倒すべき相手が明確で、届く手段を得ようとするのに近道はない。

但し道は同じでも歩いていくのと走ること。馬車で行くのか、飛竜で行くのかは

別問題。俺は常に全力疾走させた。それこそ休みを与えずに。

その結果、4人の性格が顕著になり始めた。


「あっ、シオンさん見てください!クーカー鳥の群れですよ。晩御飯用に何羽か

取っておきましょう。」聖女ジェシカが、晩飯を想像してか楽しげに言う。

ズガンっ!!

真後ろからいく筋かの雷矢が発出され、クーカー鳥を射抜いていく。

クーカー鳥は飛行能力に長けておらず、その分索敵能力に優れており、気配を察知すると

走り去ってしまう。攻撃気配すら感じさせず、獲物を撃ち抜けるのは相当の腕利きの

証拠だ。だが…。

「ユーリ…。せめて一声掛けてくれ。今、耳のすぐ側を通っていったぞ。当たれば

もげるぞ。」

「大丈夫。当てないし、当たっててもジェシカが治す。」

「治る、治らないじゃなくて、耳もげたらめちゃめちゃ痛いだろが。」

いや、ツーンってすんなし。

聖女ジェシカ、精魔導士ユーリは馴染んだ。びっくりするくらい。

野営を続ける毎日に早々に根を上げると思っていた女性陣が生き生きしている。


それに比べて…。

「か、体が…。自分のものではないようだ…。今まで感じたことのない部位が痙攣

している」

「あー。今まで使ってない筋肉も一から鍛えてるからな。慣れれば動き方が何段も

変わって感じるぞ。楽しみだろ。」

ガイウス、耳が垂れてるぞ。狼族だろ。情けない顔すんな、モフるぞ。


それでも更に一回り体が大きくなった獣騎士ガイウスの少し後ろをついてくる抜け殻の

ような少年に目をやる。

「おーいっ、ヒイロ!大丈夫かあ?」

「…。」

「ヒイロー?」

「…。」

おーい、勇者ー。

あれ?あいつ白目むいてね?すげーな、気絶しながら歩けるってどんなスキル?


「仕方ない、今日はもう少し行ったところにある湖まで進んで野営にしよう」

「「はーい」」

うん、女性陣元気ね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


野営の準備ももう慣れたものだ。天幕を張り、火を起こす。

クーカー鳥でスープと炙り焼きを作る。分担して作業はしつつも、交代で湖で体まで

清める。チームとしてまとまってきている証拠だな。俺に対しても変に構えなくなったし。


時折風で周りの木々がざわめく以外には何の音もない世界。ここは本来人が足を

踏み入れることのない世界なんだろう。ひどく落ち着かない気分にさせられる。


腹もくちくなったころ、勇者ヒイロ復活。

「シオンさん!いつまでこのような日々を続けるつもりなのですか!?

こうしている間にも魔王は復活を遂げ、虎視眈々と攻め入る勢力を作り上げているかも

しれないというのに!」

「だから言ってるだろう?。お前たちは確かにこの半年で驚くべき成長を遂げている。

個々が身につけないといけない知識や技術はあらかた身につけられたと言っていいだろう。

神託を受けたと言うことは、その才能は保証されていると言うことだからな。だからこそ、

実戦で足元を掬われないように、次は実戦をこなして連携練度を高めると同時に突発的な

事態に対応できるよう柔軟な経験値を溜めているんだ。後は体力な。2、3日戦いっぱなし

ってことだってあるんだからな。」

「僕たちは既に十分な経験を積んでいるのでは!?きっと魔王にだって立ち向かえます!」

「どの口が言ってるんだか。今囲まれてるって分かってる?」

「!?」


皆が周りに警戒の目をやると同時に、俺はそばに落ちていた拳大の石を木々の間の暗闇に

投げつける。

「ギャッ!」ドサッ。

獣の悲鳴があがり、倒れる音がする、と暗がりから一斉に人型の獣が数体襲いかかって

きた。シャドウモンキーだな。群れで静かに接近し、一斉に襲いかかってくる。

「クッ!皆対撃だ!」

「おうっ!」

ヒイロの一声に皆一瞬で戦闘モードに移行する。いいねえ。大分仕上がってきたな。

ガイウスが正面に一歩前に出、盾を構えた姿で前衛の面を維持する。ヒイロはその周囲を

基本としつつ遊撃的に敵を駆逐していく。

暗がりの中での乱戦であることと、相手の数は多いものの一体、一体はさほどの脅威でも

なく、負傷する者もいないため、精魔導士のユーリと聖女のジェシカはお休みだ。但し、

いつでも動けるような態勢は取れている。


大した時間をかけることなく、シャドウモンキーの群れは撃退することができた。

「はあはあ、ど、どうですか!僕たちはこうして奇襲にもたいお…。」

「シャドウモンキーくらいでそんな息があがっててどうする。戦闘になってしまえば、

今のお前らの敵ではない。だが、気持ちの準備ができていない、いわゆる先手を取られて

いる時点で、既に幾らかは相手のペースに持ち込まれているんだ。相手が実力者なら

奇襲をかけられた時点で終わっていることもある。」

「そ、そんな。」

「ちなみにここに来るまでの道中からあいつら付いてきてるからね」

勇者、獣騎士、ガーンっ

聖女、精魔導士、ふんすっ

男子チームと女子チームにここんとこ気持ちの差が出始めたなあ。

成長は同じようにしているのだが、男子チームには焦りが見られ、女子チームには

素直な向上心が見られる。まあ獣人族がこんな綺麗に奇襲掛けられたら反省しかないけど。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


さらに半年。

少し前から皆には俺が自分の家に蓄えていた神創の武具を身につけてもらっている。

もう全員立っているだけでオーラ全開だ。その眩さに目にしたものは頭を垂れざるを

得ないだろう。しかし…。


「さ、さむい…。」

「さむーいさむーい。」

「ああああああああああっ」


今俺たちは人っ子ひとりいない、雪山の中にいる。

「ほらっブレス来るぞ!回避!」

「さーむーいー!!」

おおっ。言動の弱々しさとは段違いに見事な回避だ。最小の動きで相手の攻撃を避け、

そのままこちらが攻撃可能な位置どりまで。


数日前、装備に多少慣れてきたのか、

「これならドラゴンだって狩れますね!」なんて宣ってくれたので、

「行く?」

「いやいや流石にー。伝説の生き物ですよ」

「大丈夫!居るとこ知ってるし!よしっ行くぞ!」

「!?」

ってことになった。そりゃ神創の武具だろうと暑さ、寒さは関係ない。

アイスドラゴンは雪山に居るってのはどうしようもないしな。

その中で1人。

「ガイウス!何であんただけ、そんな暖かそうなのよ!女子に貸しなさいよ!」

「そう言われても私のは地毛ですし」

モフモフなだけで言われなき中傷を浴びるメンバー。


満身創痍なアイスドラゴンの最後の力を振り絞った尻尾の叩きつけをガイウスが

ガッチリと絶対不滅の盾で受け止める。同時にユーリからの対個体殲滅火の

精霊魔術が顔面に炸裂。たまらずたたらを踏んだところに、ヒイロが上に掲げた

神創剣から空に立ち登る光の剣が振り下ろされ、ドラゴンの首を一刀両断。

んーいい連携だ。思わず解説をしてしまった。


しかし、お前ら討伐を喜ぶより寒い、帰るしか言わないのってどうよ。

素材いらないの?そう?これ良いもの作れるんだけどね。

俺はそう言うの大好きだから集めるよ。ま必要ではないから誰か欲しい人にあげるけど。

ああっ!先行くな!道知ってるの俺だけだろうが。遭難するぞ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ヒイロ、流石に悪かったからいつまでも睨むな。確かに帰りは腰までの雪を掻き分け

ながらでなかなかにきつかったし、凍傷で指があれで、ジェシカに復活させてもらったり

だけど、こうして麓まで帰って来れて、温泉に浸かればもう嫌なことも吹っ飛ぶだろう?」

「何を寝ぼけたこと言ってんですか?沸いてんの?ねえ、頭沸いてんの?」

「口悪っ!、お前13歳だろ。勇者にも選ばれる純真無垢なハートどこ行った?」

「知るか!指があんなんになるような目に遭わされて純真無垢?もう切るか?」

「やめれって、あっガイウス、ブルブルすんじゃねえよ、タオル使えって。」


風呂あがりのエールに喉を鳴らしながら、リラックスムードの4人を眺める。

いいなあ。ヒイロはジェシカに頭をタオルでゴシゴシされ、ガイウスはユーリに

ブラッシングされている。世話の焼ける弟の面倒をみるお姉ちゃんか。


……そろそろかな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌朝、俺は鏡の前で、久しぶりの装備を見直していた。

「いやー100年近くぶりだもんなー」

前回の魔王討伐後、身につけることさえしなかった俺の正式装備。

金属が使われておらず、急所のみを保護しつつも機動性と見た目以上の防御力を誇る

常闇の皮鎧。そして長い間鞘に収めたまま放置されていた相棒。2振りの短刀睡蓮と蛍火。



「な、何ですかシオンさん、その格好」

「えっ、とんでもない圧なんですけど、その防具」

「いや、剣、禍々しい。気持ち悪い」

「……評判悪くないか?あのな、俺も一応神託受けたパーティの一員だっつの!!」

「非戦闘員なのかと…」

「まじか!俺出来ない子って思われてた!あのな、これでも何回か魔王討伐してるっ

ちゅーねん!この剣なんかなあ!ああっ!もういいわ!!」




「そんじゃ、ということで、そろそろ魔王やっつけに行くか!」

「「「「おええええええっ!!」」」」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「よしっ!そうか!ついに!」

ヒイロが興奮している。よほど使命に燃えていたんだな。

「じゃあ、早速魔王の居城について情報収集し、ほか相手の戦力等もー」

「大丈夫大丈夫。大体知ってるし。」

「はいっ!?」

「ままっ!とりあえず行くか!」

「「「「そういうの、もう嫌だーーーー!!!」」」」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



鬱蒼と茂る森の奥深く、常人には目にも留まらない速度で縦横無尽に動く続ける

漆黒の影。同じく、ともすれば音しか聞こえない速度で影に襲いかかるまた影。

音のみ通り過ぎた後には幾つもの一太刀で斬り伏せられた屍のみ。

「いやーっ思ったより多いな。まだ雑魚ばっかりだから何とでもなるけど」

「シオンさん…戦えるんですね。雑魚とか言ってますけど魔族ですよね」

「何となく、そんな感じもしてましたが凄まじい。」


周囲には魔族の尖兵がバッタバッタと倒れている。

「何故に私たちはあれほどの苦行を。ご先祖さまを川の向こうに見た数も数知れず

…。」ガイウス遠い目やめ。

「いやだって、お前らの力をつけるための旅だったろうが。

俺が戦ってどうするんだよ。」

「でも、こうして戦ってくれてるじゃないですか!」

「だーかーらー!お前らの力を上げる相手じゃなければ、これ以上戦っても

仕方ないんだよ!。だとしたらその時のためにお前らは力を温存していたほうが

良いだろうが!!」

「それにしても、この数を…」

「ああ、幾つかは当てられてるし、装備が整ってなければ若干苦戦したかもな。

そもそも俺の戦い方は本来見つかった時点で50点だ」

「??」

「俺は妖精族、ま、混血だが。獣人族のように力はないし、精霊人族のように

術への適性もない。勇者や聖女のように共感力もない。だが、索敵、空間把握、

そして気配の遮断には自信がある。だから俺の戦い方は本来気付かせずに殺る

ってのが本来の戦い方だ。」

「それって暗殺?」

「平たく言うと。」

引くな引くな。ちょっと悲しいぞ。

「だが、お前ら見えてたよな?」

「「「「はい!」」」」

「よし!なら大丈夫だ。進むぞ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ここまで来れたことは誉めてやる!!だがこの先へは進ません!散れい!!」

地面を割って溶岩流が龍の如くうねりながら迫り来る。周囲は既に灼熱の世界だ。

「範囲殲滅精霊術 氷」

瞬間、龍は完全に凍りつき、それどころか周囲も灼熱から一転、氷の世界へと変わる。

「な!そ、そんな!!」

ツカツカとヒイロが近づき、エクスカリバーを一閃。

「これまでの修行の方が、よほど辛かったよ」

な、何か格好いいけど、俺のことディスってる?つか恨んでるの!?

「やるなあ!もうちょっと苦戦するかと思ったけど。」

「何言ってんですか。先制されそうだったとこを小石投げて邪魔してたでしょ」

「おーっ!バレてたかあ。むしろ気づいてたことに成長を感じるね」


「この魔族でどの程度の実力なのでしょう?」

いーい質問だ、ジェシカ

「こいつで、おそらくは中堅程度だろうな。こいつ1人で騎士団壊滅くらいかな。」

「じゃあ、僕も騎士団壊滅くらいは出来ますね」

「怖っ。お前勇者だよ?。人類の希望だよ?。そゆこと言っちゃダメだろうが!」

「さーむーいー」

ユーリお前本当に寒いの苦手ね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



荒野の中に聳え立つ魔王の居城。

「懐かしいなあ。何年ぶりだ?」

「魔王の居城、地元の学校みたいに言わないでください。何ですか、懐かしいって」

「いやあ、俺3回目だしなあ。ここまでの道もしっかり覚えてるもんだなあ」

「だから、久しぶりに地元に帰ってきたみたいに…」

皆、口調は軽いがいい顔してるなあ。気力が満ちてる証拠だな。

とはいえ、流石に連戦、連戦だからか、そこかしこに生傷はあるし、気持ちが折れると

一気に崩れる危うさを感じる。

「よし!ここで少しだけ休憩取るぞ」

「えっ!大丈夫です!行けます!」

うーるせ、ふんふん言うなヒイロ

何も答えず俺は全員に範囲治癒魔術をかける。

「………。何ですかシオンさん、今治癒魔術をかけられた気が。」

「おーっ。母ちゃんに教わって少しだけ使えるんだよ。」

「共感力のない妖精族が?」

「俺混血だからな。ああ、うちの母ちゃん人族で親父と一緒に旅した元聖女だからな」

「………………!!」

「ここに来て新たな事実、恐るべし!」

ユーリ、その目、若年女子の目じゃないぞ。

「あれ?私いらない子?」

「大丈夫だ!!ジェシカ、俺はこれが最大使える限界だから!気休めレベルだから!」

ジェシカがうるうるなっているのを必死に宥める。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ガッシャーーーン!!!

空間全体が震えるほどの衝撃音が響き、それでも攻撃を受け止め切ったガイウスが

膝をつく。すかさずジェシカの治癒魔術が放たれ、ガイウスを完全治癒する。

流石に大幹部は厳しいな。全身鉱石で構築された巨大な鎧武者。

基本4系統のユーリの精霊術は完全に防がれ、派生系統の術により少しずつ削っている状況。ガイウスは敵の攻撃を一手に受け、疲労困憊。ヒイロは隙を見て大ダメージを狙うが、

一歩及ばず、で膠着し始めている。

この辺が限界か、と一歩前に出る。と。

「必要ないです!」

「まだ、やれます!」

「余裕!」

ヒイロ、ガイウス、ユーリから同時に叫ばれた。断固たる拒否、だ。

「私たちを信じてください。それも導き手の役割でしょう?」ジェシカが言う。

俺は感動しつつ、「もう少しだけだぞ。」



「ヴィやああ!やってやったぞグラぁぁぁ!!!」

いや、分かるけど、興奮してんだよね、嬉しいんだよね。でもユーリさん、

それはちょっと乙女的にと、ヴィジュアル的に。

股を広げ、腰を落とし、両手でガッツポーズを繰り返すユーリに俺ドン引き。



そして、魔族の大幹部が守り抜こうとしていたその奥を見やる。

天井まで届きそうな重厚な大扉。細工の凝らされた模様が一面に彫られている。

扉からだけでも気を抜くと意識を持っていかれるプレッシャーを感じる。


全員回復を施した後、皆の顔を見渡す。いい顔だ。気が充実している。

揃って頷くのを見て、俺は扉に手を掛ける。皆がそれに続く。

俺たちは一つの力で最後の扉を開く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふんっ、よもやここまでのたどり着くとはな。もう少しで蹂躙の準備が整うところで

あったものを、忌々しい。だが計画に狂いはない。ここでお前たちを滅し、その後…

………。」

遠く遠く拝謁の間、その先にある玉座にふんぞりかえる魔王と目があった。


「………、っ!おっ!?」

「おっ?」

「お前えええ!またああっ!来やがったのかあああああああ!!!!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ういーーっすぅ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ヒイロの斬撃。剣筋に沿って雷光が走る。時間差で剣戟の音が響く。

それだけの速さの攻撃を縦横無尽に動き回りつつ繰り出し続けているので、

目で追うのもやっとだ。

ユーリは4系統の精霊術を四方に展開しつつ、魔王に向かって雨霰と降り注いでいる。

放たれた後に融合しているので最早何系統かよくわからない。

ガイウスも魔王の身丈ほどの大斧の攻撃は先回りして受け、魔術は受け切れないと

見るや斜めにうけて威力を後方に流している。

ジェシカは全体を見ながら体力回復を遠距離からピンポイントに放つ。

もう既に戦いが始まってからかなりの時間が立っている。


当たっている。攻撃は間違いなく効いている。が、魔王は依然些かの弱体化もなく、

立ち続け猛威を奮っている。これこそが魔王のまずは恐ろしいところで、

膨大な体力と僅かな傷では自動で回復してしまうため、必然的に長期戦となり、

こちらは体力をすり減らされていく。その上で1撃1撃をしっかりと打ち込まなくては

ならずそれだけで大きなハンデキャップを背負い戦い続けなくてはならない。


俺もこの最後の戦いまで参戦を遅らせたりはしない。

ヒイロやユーリの攻撃に魔王が対応しているうちに気配を消していく。

斬撃と魔術の嵐の中、後ろへ回り込み、一瞬の隙をついて首をー。


止められた。大斧の柄の部分でしっかりと、後ろから首を落とそうとした双剣を

防いでいる。


「何度も何度も、同じ手を喰らうかあああ!!、お前のことを意識からは

外すことなどあろうか!!ガーゴイル!」

魔王の声に、部屋の4隅に置かれていた有翼の獅子に人の顔がついた像が動き始める。

「その妖精族をやれっ!!」

おおっ!?学んでやがる。ガーゴイルが4匹集中して俺を狙ってくるため、気配を

消せず、対応しなくてはならない。あの像前はなかったよなあ、なんて気楽に

見てるんじゃなかった。

だが、所詮は魔王ほどの実力も持たないガーディアンだ。襲いかかってくる像を

見極め、1匹の片翼を切り裂く。と、空中でバランスを崩し、後ろから襲いかかって

きていた1匹と激突し、共に地面に転がり落ちてくる。そこを狙い首を落としていく。

ガイウスがサポートに来ようとしているところを目線で制し、あえて動きに緩急をつけ、

下に潜り込み3匹目の腹を切り裂く。

連携攻撃が出来なくなれば、最早雑魚同然。向こうもそう思ったのか、特攻のように

一直線に襲いかかってきた。すれ違いざまに刃を滑らすように首に這わすと勝手に

切り裂いていく。


よしっ、これで再度体制を整えてー、と振り返ったときに思った。

「あっ、やっちまった」

目の前には既に大斧を振り下ろす魔王が居た。これは無理。油断したー。

何で、こいつ一瞬でここまで、と目の端で見るとガイウスが燃えていた。あーっ、

こっち気にした瞬間に目の前で魔術撃ち込まれたな。



衝撃だけが無音の中、体に叩きつけられ、意識が暗転する……………………。

瞬間、澄んだ声が無音を破る。

「リザレクション(蘇生魔術)」



ジェシカのこれ以上ないタイミングでの究極魔術で、ほぼタイムラグなしで戦線復帰。

というか、こんなの聞いてないけどいつから出来たの?いやドヤ顔やめて。

はいはい、助かりました。

ガイウスは…。毛先焦げたくらいで、そんな不貞腐んなや。実は自慢だったのね。


「なっ!!!!。ふっ、ふざけるな!、ようやく忌々しい妖精族を殺ってやったと

思ったのに!」と魔王大咆哮。


そこに真上から極大の雷が魔王に直撃。

「がっっ!があああああ!!!!」これは流石に効いただろう。

苦し紛れに大斧を振り回すが、体が当たるまで接近したガイウスに勢いが乗る前に

潰される。正面に立つ俺は体勢を低くし、下から突き上げるように双剣を束ね、

魔王の腹を穿つ。

最後はー。

ヒイロは準備万端。神創剣はこれ以上無いくらい神々しい光を放っている。


その光ごと一閃。

魔王の喉が横一文字に裂け、噴水のように血を噴き上げる。


「はあはあ、ふんっ!修行の方が、はあ、何倍も、はあはあ…」

いや、ヒイロ流石にそれは嘘。はあはあ言ってるやん。



「ふっ、いいだろう。勝負は次まで持ち越しだ。束の間のー。」

「勝利に酔うがいい、とか聞き飽きたわ!もういい加減出て来んな!」

「なっ!?我の最後の決めシーンををを!!!き、貴様あああ!もう絶対許さん!

貴様、次も絶対来い!!お前だけはこの手でええええ!」


……魔王は灰となり散っていった。

その前には精魂尽き果てた勇者パーティ…とニコニコした少年のように見える

おっさんがいた。

「よーっし!よしよし!!やったなあ!お前ら!」




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その後。

俺たちは人族、獣人族、精霊人族それぞれの国でパレードに引っ張り出され、

それぞれの王族含め賞賛を浴びまくった。妖精族は分散して暮らしており、

国ってほどでも無いし、何より絶対皆がニヨニヨ俺を見るのが分かっているので

厳然と辞退した。

一緒に旅した元勇者パーティの子孫とも会えたし、久しぶりの都会はまあまあ楽しかった。



ま、でも潮時かな。

日々士官やら教官やら誘ってもらえるのは有難い。ただ、それはやはり俺には

不要なもので。



国が用意してくれた高級宿を日が昇ると同時に立つことにする。

あいつらもこの偉業を糧に自分たちの生き方を模索するだろう。

城門を抜け、自分の村に向かう。


強い風が後ろから背中を押し、ふと振り返ると城門に4人が並んで手を振っていた。

何か叫んでいるがここまでは聞こえない。

「お前らーっ。がんばったなあーっ。また、いつかなあー!。」

聞こえないとは思いつつ、俺も別れの言葉を叫ぶ。


種族の寿命の違いは大きい。あいつらはまだ若いとは言いつつも、次会えるか

どうかはわからない。

でもいい。誰かが何かを必要としていて、それを俺が持っているなら、

分け与えることが出来たのなら、今回の旅は充分満足だ。




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ようやく村に着いた。

遠くからでも慌ただしく働く村人たちの様子が窺える。

まさに冬支度の最中なのだろう。俺も早速手伝わないと。


村の門をくぐると、俺に気づき近づいてくる人影。

「ただいま。」

「おう。早かったな。」

「ああ。優秀な子たちだったよ」

「そうか。」

「ああ。」


と、向こうからパタパタと走り寄ってくる女性。

「ああ。紹介する。お前の新しい母さんだ」

「!?」

「もうすぐお前の弟が生まれる。」

「!?」

「………。」

「え?ええええええええ!!」


「リ、リーベルトさあああーんん!!、メガボアがあああ!!」

「シオンっ!」

「なああんんでだよおおおう!」

と言いつつ、走り出す。



よし!次回は俺の弟の番だ!

そのために俺は、俺の持つ全てを弟に教えよう。

俺はー導き手だからな!









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