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小国の戦い方

色々と余裕が無い状態ですが、更新ガンバリマス。


『転生したら皇帝でした』コミックス1巻が10月1日発売。三巻が10月8日発売です。




 冒険者組合(ギルド)からの使者にはさっさとお帰りいただいた。というか、ヴォデッド宮中伯が何かを伝えると、慌てて帰っていった。彼が握っていた情報を教えてやったのか、あるいは嘘の情報を吹き込んだのか。

 結局、彼らは何も得られずに帰っていった訳だ。一方で、こっちは少しではあるが北方大陸の情報を得られた。


 ついでに竜という存在をこの時点で見られたのは大きいだろう。

 今の内から何か対抗策を考えないとな。



 さて、今度はベルベー王国からの使者とロザリアとの謁見だ。装飾過多な服から、ちゃんとした服に着替え、謁見の間に戻る。


 ロザリアの隣に並ぶベルベー王国の使者と見られる男は、長めの黒髪を後ろで束ねていた。前髪は白髪が混じっているのか灰色になっている。よく見れば顔自体は若そうなのに、そのせいで老けて見える。偏見かもしれないが、苦労してそうだ。

「よく来てくれた、ロザリア」

 そんなニュンバル伯と同じ雰囲気を感じる使者の隣には、少し見ない間により一層大人びた気がするロザリアがいた。俺は玉座に座る前に、彼女の前に向かう。

 久しぶりの再会だが、元気そうで何よりだ。


「重要な局面でお側に居られなかったこと、誠に残念でなりませんわ」

 そう言って深々とお辞儀するロザリアに、俺は首を振りながら手を差し出す。

「万が一のことがあってはならないからな。むしろ、こうして急ぎ来てくれたのだ。それだけでも嬉しく思う」

 黄金羊商会を味方に引き入れたことで、ようやく海路が確保できるかどうかというこのタイミングで、空路を使ってまで急行してきたロザリアの行動力には正直感心している。


「まぁ、陛下。もったいなきお言葉ですわ」

 差し出した手を取ったロザリアを、俺はそのまま玉座の近くに誘導する。

 ……これはこの場において、「ベルベー王国」の立場ではなく「ブングダルト帝国」の立場で参加するようにという無言のメッセージだ。こういう場では、立ち位置一つが重要になって来る。

 そしてロザリアなら、それくらいは簡単に理解できる。


 ……友好国とは言え、交渉は少しでも有利にしないとな。


「ブングダルト帝国八代皇帝、カーマイン・ドゥ・ラ・ガーデ=ブングダルトである。直答を許す」

 玉座に座った俺の視界に、ヴォデッド宮中伯が映る。もう演技は止め、いつもの表情に戻っている。この使者は先ほどまでの茶番も見せられた訳だが、どんな気持ちなんだろうか。

「ベルベー王国、エーリ王国、ガユヒ大公国より大使として任命されました、セルジュ=レウル・ドゥ・ヴァン=シャロンジェにございます」

 そう名乗った男は、思ったより平然としていそうだった。しかもベルベー王国の使者というより三国同盟の代表として来たらしい。

 これは巡遊に出かけるより前、ロザリアから聞いていた帝国の北側にある小国三ヶ国による「対トミス=アシナクィ同盟」だな。


 というか……。

「ほう、シャロンジェか」

 ロザリア含め、ベルベー王室はシャロンジェ=クリュヴェイエ家だが、これは「クリュヴェイエ(ベルベー王国首都クリュレイアのブングダルト語読み)のシャロンジェ家」という意味。つまりシャロンジェは血統的にはロザリアたちの本家筋に当たる家だ。

 ……あれ、帝国貴族じゃね?


「前ラウル公により宮廷を追放された一族として、奸臣討伐、心よりお祝い申し上げます」

 セルジュ=レウルと名乗った男は、そう言っ深々と頭を下げた。


 なるほど、そうなっていたのか。

 シャロンジェ家といえばブングダルト皇族の血を引く一族。だから同じく皇族の血を引く宰相に危険視され追い出されたという訳だな。

「そういえば、シャロンジェ家は宮中貴族だったか」

「はい。陛下とは謁見することも叶いませんでしたが」


 それで追放された後、親族であるベルベー王国に移ったわけか。苦労したのだろう。それにしても、さっきの俺の愚帝としての演技を見ていたはずだが、特に驚いている雰囲気はないな。

 ……むしろ表情が険しい。怒っているのだろうか。

「何か不満があっただろうか」

「いえ、心労に耐えるので精いっぱいなだけにございます。何せ我が国には自国の外交官相手に、ろくに報告しない人間が二人ほど居ります故」

 そう言ってセルジュ=レウルは、ロザリアに鋭い視線を向ける。

「まぁ、私はもう帝国の人間ですわ」

 睨まれたロザリアは、口に手を当てて笑っていた。そして諸侯の列に並ぶサロモンも肩を竦める。

 どうやら王国を挙げて俺に協力していたというよりかは、帝国に居たベルベー王国組が力を貸してくれていただけらしい。でも報告すらしてないのはどうなんだ?


「婚約者の段階では王国の人間として振舞っていただきたいのですがね」

 ……もしかして俺、遠回しに結婚を催促されてないか。まぁいいや。

「でも引き返せないと諦めたからお父様はあなたを寄こしたのですわ」

 ベルベー王国は小国だ。外交を一つ失敗するだけで滅びかねない。内部が腐りきっても、大国故に瀕死の病人として生き永らえる帝国とは訳が違う。

 だからいくら娘の婚約者とは言え、愚帝と呼ばれていた俺に対し慎重になるのは至極真っ当だ。というか、ロザリアはこう言っているが引き返すことはできると思うぞ? その場合は全力で俺と敵対するか、俺が帝国を平定した後に極めて不利な立場で同盟するかの二択だろうけど。


「それで、卿は同盟を代表して来たと」

()()()。三国の国王より帝国との外交全権をいただいております」

 いいえ? ……あぁ、そういえばその三国同盟、密約って形になってたか。だから「三国同盟の使者」ではなく、名目上は「三ヶ国の使者」なのか。けど実質的には三国同盟の使者で間違いないだろう。

 ……なるほど、よく考えられている。俺は今から一挙に三ヶ国の仲間を得るか、三ヶ国の敵を作るかの話し合いをすることになる訳だ。これは彼らにとって、非常に理にかなった選択だろう。いくら小国でも三ヶ国集まれば脅威となるからな。

 一国のみであれば俺も交渉の際、強気に出ていたかもしれないが、三ヶ国纏めてとなればそうはいかない。対等な交渉をすることになるだろう。

 そしてもう一つ、帝国から謀略を仕掛けられることも防いでいる。もし個々に交渉となった場合、例えば二ヶ国とは友好を結び一国だけ孤立させたりもできてしまう。その後残った二ヶ国もまた対立させ、最後の一国は正面から征服する……そういう選択肢も将来的に取れるからな、帝国は。それを抑止するという意味では効果的ではないだろうか。


 ただこの場合、経済面での話し合いはほぼ不可能である。というのも、当たり前のことだが三国では産出品・生産力・消費量・流通能力から税制度まで、全く異なっている。そんな前提条件が異なる中で、一つの条約を結ぶというのは確実に不平等を生む。

「つまり貿易は後回し、軍事と外交のみか」

「……えぇ。その通りです」

 現在の帝国は内乱や財政破綻など、経済的に弱っている。リスクを冒してでも大きな利益を求めるなら、この弱みに付け込みたいところだろう。それをせず、安全第一(セーフティ)に動いている。小国としての立ち回りなのだろう。決して侮ってはならない。



「それで、各国(・・)の考えは?」

「まず外交面から。三国は()()()()()()()()()、これと軍事同盟を結ぶ前段階としての不可侵条約を結びたいと考えております。その上で、両『大公国』を認めないことを宣言致します」

 不可侵条約か……まぁ、妥当なところだろうな。むしろ大公同盟に対する非難が付いてる辺り、随分と好意的な気もする。この内乱で俺たちが勝つとも限らないのだから、もっと慎重な立場でも可笑しくない。

「あくまでアキカール・ラウル両家の反乱という見解を採らせていただきます」

「意外と冒険をするのだな? 不可侵は未だしも、非難は立場を明示しているに等しいぞ」


「そうでしょう。何せこれは三国の考えではなく私の独断、彼らは不可侵と中立の立場を望んでおりましたので」

 ですが、とセルジュ=レウルはさらに続ける。

「それは『大公同盟』が機能していた段階での話です。変化した状況に対応する、その為の外交全権ですので」

 なるほど。本国にいちいち確認をとって機を逃すより、現場の人間が素早く判断する……その為の『全権』か。無線のない時代ならではの存在だろう。だが、合理的だ。


「帝国としては有難い話だ。細かい条文は後で決めるとして、不可侵条約を結ぶことに異論はない。またそちらの宣言、それも明文化してはどうだろうか」

 宣言……つまり大公同盟に対する非難まで文章化する提案だ。

 これはこちらのメリットとして、三国が立場を翻しづらくなる。直前になって有耶無耶にされるのが一番面倒だしな。

 反対に同盟側のメリットとしては、早い段階で皇帝派を支持していたという明確な「貸し」を帝国に作れることである。


 彼らが今やりたいこと、それは俺に対しより多くの『貸し』を作ることだ。『恩』を売りつけると言っても良い。それは俺が内乱を平定した後、帝国に対しより多くの見返りを求めるためである。そしてその時になれば、俺はこの『恩』を無下にはできないだろう。俺は周辺国全てを敵に回すつもりなんて無いからな。


「こちらとしても異存ありません。では次に軍事についてですが……三国は『内乱』に直接は介入せず、ガーフル・トミス=アシナクィ・テアーナベの三ヶ国に対する牽制のみ行います」

 こちらとしてもその方がありがたいな。それはもう、少しでも兵力が欲しい状況だが、直接介入されるとその他の周辺国も対抗して介入してくるだろうし。

 帝国に対し敵対的な動きをする可能性の高い北方の三ヶ国を牽制してもらえるというのは、こちらとしては願ったり叶ったりだ。


 ちなみに、トミス=アシナクィ対策で結ばれた三国同盟だが、まだその勢力を大きく削ることはできていない。つまり、三国同盟に兵力的な余裕は無い。

「ですが、ガーフルについては兵力的に完全に抑えることは難しいかもしれません。ですから牽制はあくまで三国の『方針』とさせていただきたく思います」

 ただでさえ余裕が無いのに、帝国も苦しめられる重騎兵を持つガーフルが本気になれば止めることはまず不可能。そうなった時、責任は取れないということだな。細かい配慮だが、それができるから外交交渉を任されたのだろう。

「無論、これがそちらの『好意』であることは承知している。牽制については明文化は無しだ」



「それと、金銭や武器の援助という話もありましたが……大商会からかなりの支援を受けられるようで」

 これは黄金羊商会の話だろうな。

 ……冒険者組合(ギルド)の使者が知らなかったことを知っているということは、ちゃんとサロモンから報告を受けているじゃないか。


 ……あぁ、そういえば「ろくに」って言ってたか。確かに、「全く無かった」とは言ってないな。

「その通りだ」

「であればこの提案は止めておきましょう。三国ができる支援は微量であり、周辺国に余計な口実を与えかねません」

 その代わりの牽制か。本当は武器の方は欲しいんだが……贅沢は言えないな。


「代わりに、帝国が三国に対し有していた債務、これを無かったことに致しましょう」 

 借金の帳消し!? それは本当にありがたい。

「魅力的だな。しかしこの場で決めて良いのか?」

「えぇ。私の権限の範囲内です」

 ……いや、債務関連は明らかに外交の範囲外だろう。ということは、予め交渉カードにする了承を得ていたな?

 というか、借金自体はしているだろうがその額は商人らにしている額より少なかった気がする。もしかして三国同盟にとって、それほど痛くないのか。

 あぁ、これ「三国」に対する借金であって、「三国の商人」に対する借金では無い所がポイント化か。

 この時代、国家間での金の貸し借りはそれほど多くない。そもそも、「国家」の財布(国庫)と「君主」の財布が分けられてない所の方が多いし。実際、国家間での借金なのか、君主同士の個人レベルでの借金なのか、あやふやなことも多い。

 まぁ帝国はその二つ、名目上は分けられているんだが。しかし三国がどうしているか分からないからなぁ。君主個人から借りた金までゼロになるかは向こうの気持ち次第という訳か。


 ……言葉の響きほどの実利無ぇ。



「その代わり、ベルベー王国、エーリ王国、ガユヒ大公国が互いに結ぶ条約、これに対し一切干渉しないことを明文化し約束していただきたい」

 なんか上手く転がされてる気がするなぁ。まぁ、こちらから要求できるものは最初からほぼ無いから仕方ないか。ぶっちゃけ、不可侵条約の所だけでこちらとしては及第点だからな。何せ、「軍事同盟を結ぶ前段階としての不可侵条約」だ。内乱に勝てばこれがそのまま軍事同盟になって、テアーナベ連合を包囲する形になる。そうすれば、帝国から独立した地域も簡単に回収できる。


「それはそのままでは頷けぬな」

 けど、言えるところは言っておかないとな。外交干渉を警戒しているんだろうが、警戒という意味ではこちらも同じだ。

「それはその条約が帝国に対するものでない場合に限るな。こちらとしても友好国の外交に干渉するつもりなど無いが……悪用されても困る。互いの為に必要な条件だと思わないか?」

「……分かりました。その条件で構いません」


 そして最後に、とセルジュ=レウルは続けた。

「三ヶ国は自国の兵が希望した場合、傭兵として帝都にて雇われることを許可します」

 ……正規兵を帝国で雇えるというのは、実質的な義勇兵に他ならないのではないだろうか。そんなものを出す余裕が彼らにあるとは思えないが。

「それは戦力と期待して良いものだろうか?」

「いいえ。恐らくエーリ王国、ガユヒ大公国は派遣できないでしょう。我が国からも千人ほど送れるかどうかと言ったところです」


 そんな微妙なものを何でわざわざ……あぁ、そうか。ベルベー王国から既に来ている魔法使い部隊、この立場を明確にする為か。

 というかこれ、既に魔法使いを送っているベルベー王国だけは帝国に対する手厚い支援をしたことになり、後の二国は支援する余力がないから実質不可能になっている。これで帝国に対する貢献度は、三国同盟の中でベルベー王国が明確に一歩抜きんでる。


 なるほど、これが三国同盟ではなくベルベー王国の外交官としての仕事か。しかも後の二国からの支援自体を締め出している訳ではない点がまた、よく考えられている。名目上はこの任意の支援、三国に平等に与えられた機会だ。

「その支援もありがたく受け取らせてもらおう。詳細は詰める必要があるだろうが」

「えぇ。そちらの官僚とすぐにでも草案に取りかからせていただきます」

 トントン拍子に話がまとまった。さっきの青いのと雲泥の差じゃないか?


 ちなみに、ヴォデッド宮中伯ら諸侯もこの謁見の間には控えているが、一切口を出してこなかった。何か問題や懸念があれば口を挟んだろうから、俺が騙されているってこともなさそうだ。

 まぁそもそも、彼らは外交を得意としていないんだが。俺が外交を担っている理由、それだし。


 セルジュ=レウル……本当に優秀な外交官だな。普通に欲しい。そのうち帝国で雇えないかなぁ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 更新頻度低過ぎ問題。 そして更新しても大して話が進んでない問題。 せっかく話自体は面白いのに、 更新され無さ過ぎて毎回内容忘れる。
[一言] 更新感謝 エタッているとの噂が出ていたので諦めておりましたが更新されて嬉しい限りです
[一言] 更新待ってました~\(^o^)/ それから、3巻発売おめでとうございます! これからも更新楽しみにしています(*´ー`*)
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