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銃と大砲の時代

時間が空いてしまいました……更新再開します。


【これまでのあらすじ】

 宰相(ラウル公)と式部卿(アキカール公)という、二人の大貴族が派閥をつくり政争に明け暮れるブングダルト帝国。彼らの身勝手な政治により崩壊しつつあった帝国の「生まれながらの皇帝」として転生してしまったカーマインは、貴族たちにとって都合の良い「傀儡」として振舞いながら、少しずつ仲間を増やし権力を取り戻す日を虎視眈々と狙っていた。

 そしてついに、国内で起きた反乱の隙をついて宰相・式部卿を自らの手で粛清。宮廷を掌握することに成功する。

 しかし彼らの息子たちがそれを黙って見ているはずもなく、ラウル公爵領とアキカール公爵領でそれぞれ挙兵と独立を宣言。帝国は内乱へと突入した。

 カーマインはこれに対し、帝国統一に向け戦争の準備を整えていくのであった。



 『大公同盟』成立の報せが入ってから数日が経った。

 現在の帝国の状況は、三つ巴から二勢力による対峙へと変化した。つまり、皇帝()が治める帝国と、独立を宣言した『大公同盟』の対立構造である。


 帝都含む帝国中央から南部にかけて支配下に収めつつある我々だが、帝国東部の『ラウル大公国』と、西部の『アキカール大公国』による同盟で、我々は東西から挟撃されかねない状況になった。

 とはいえ、彼らはこれまで『宰相派』と『摂政派』として熾烈な政争を繰り広げてきた連中だ。傀儡の皇帝だった俺を利用しての醜い政争は、多くの血も流したし、互いに憎しみも抱いているだろう。彼らがすぐに協調し帝都に攻め寄せて来るなんてことはまず無いと見ていい。


 また、帝国東部の辺境山岳地帯にはこちらに味方するゴティロワ族がおり、彼らは既にラウル軍に対し攻撃を仕掛けてくれている。我々が動けば、今度はラウル軍が東西で挟撃されることになる。


 それを実行するために、問題となるのはアキカール軍だ。ラウルを叩くときに、背後を突かれる訳にはいかない。

 これに対する策も、無事に実行へと移された。



 前アキカール公(式部卿)の孫であり、処刑したアキカール=ノベ侯フリードの息子、フィリップ・ド・アキカール。我々が投獄していたこの男は、前アキカール公の遺臣に扮した密偵の手引きにより、無事帝都を逃亡した。

 それも、前アキカール公の遺体を抱えて。


 これはヴォデッド宮中伯配下の密偵が誘導したものだ。一先ず上手くいってよかった。

 これでアキカールにて挙兵したアキカール=ドゥデッチ侯アウグストの勢力に、楔を打ち込める。彼らと対立し挙兵してくれれば最上だが、仮に手を取り合ったとしても不和の芽は残る。内部に懸念があればアキカールの動きは鈍くなるし。


 だがまぁ、俺の予想では彼らは対立するだろう。何せ、アキカール=ドゥデッチ侯はアキカール=ノベ領も占領し、領主として振舞っているらしいからな。

 さらに、ラウルとは違いアキカールの方には他に兄弟がいた上、アウグストは式部卿から後継者として指名されていた訳では無かった。そんな彼の『アキカール大公』宣言は、帝国西部にすんなりと受け入れられるものではなかった。彼が旧アキカール領全土を勢力圏にできたのは、ライバルがその場にいなかったからに過ぎない。

 しかもその最初の政策が、長年の政敵である旧宰相派との攻守同盟だ。


 対する、今回脱獄した(させた)フィリップ・ド・アキカールは、式部卿の長男フリードのさらに長男である。長子相続が基本のこの国では、アウグストとフィリップのどちらも継承の正統性を主張できる。

 ……まぁ、帝国としての公式見解は両方とも否定するんだけど。これはアキカールの貴族たちがどう判断するか話になる。


 フィリップは、領地に居て難を逃れた()()のアウグストとは違い、帝都にて実刑判決を受け、そこから脱出したことになっている。

 それも、前アキカール公の亡骸を皇帝から「奪還」しての帰還だ。アウグストに不満がある者は、皆フィリップを担ぐだろう。


 そうすればアキカールは割れ、その隙にラウル軍を挟撃できる。


 ともかく、フィリップ・ド・アキカールが騙されてくれて助かった。何で市中に晒されていたはずの前アキカール公の遺体がわざわざ防腐処理されているのかとか、まだ埋葬されていないのかとか、そういう所に違和感を抱かれなくて本当に良かった。


 ちなみに、この件で近衛数名が責任者として処刑された。

 彼らは積極的に俺たちに協力したわけではなく、流れに逆らえず協力した連中だった。それだけなら問題無かったのだが、こいつらはラウルとアキカールやその影響下の商人たちに、宮廷内部の情報を売っていた。


 あと、どうするかについてはバルタザールに決めさせた。彼らはバルタザールに対しても協力的では無かったようで、処刑が即決された。


 ……やっぱり近衛は一度作り直した方が良いのかなぁ。



***



 そんなことを悩みながら、俺はワルン公とジョエル・ド・ブルゴー=デュクドレーによって宮廷内のある場所に案内されていた。

 宮廷の一画にあるこの建物は、よく見れば他の宮殿と造りが違う。たぶん、宮殿ではなく倉庫として建てられたものなのだろう。


 ここに来たのは現有兵器を確認する為である。新たに市民を徴兵するわけだが、彼らが使う武器はまだ用意できていない。足りない分はこれから調達するつもりだが、今ある物で使えるものは使いたいからな。



 倉庫の中に入り、まず目に飛び込んで来たものは大砲だった。まるで公園の土管みたいなやつが、何台か鎮座している。それ以外の武器防具は箱にしっかりと収められているようだ。


 そのうちの一つを開けたワルン公が中身を取り出す。

「武装解除した兵から確保した兵装や、帝都に放棄された兵器など、すべてこちらに集めております。しかし……」

 ワルン公が言葉を切ると、今度はジョエルが引き継ぐ。

「銃が多いとのことです。これは素人には使わせられませぬ」

「そういうものなのか」

 銃と言えば引き金を引くだけのイメージがあるが……とそこまで考えて、それが現代の銃の話であることに気がつく。


「えぇ。弾込めから射撃までやることは多いですし、撃った後も正しく処理しないと暴発の原因となります。実際、籠城の際に市民に持たせたのですが、皆二発目を撃てずに散々でした」

 そう言いながらジョエルも箱から銃と縄を取り出す。

 ……火縄銃だ。前世の、博物館などで見た銃に形状がよく似ていた。

「これは広く普及しているもので、スードゥム銃と言います。実演致しましょうか?」

「銃口から火薬と弾を込め、棒で押し込み、その皿のようなところにも火薬をのせ、火のついた縄で着火する。合っているか?」

「おぉ、流石は陛下。どこかでご覧になられたことが?」


 知識としては知っているが、俺も実際に撃ったことはない。なるほど、これだけ手順が多い事を、戦場という極限状態でやらせるのは難しいか。


「事故も多いのか」

「それは無論のことでございます。特に素人に持たせると不発や暴発が多発し、それを見た者は我先にと逃げ出すでしょう」

 まぁ、そうだよな……特に今回は「要塞建築」の名目で人を集めて兵力にしようとしている訳だし。


「訓練をすればある程度使えるようにはなりますが……予想される民兵全員に訓練を施すのは不可能かと」

「分かっている、ワルン公。そもそも彼らへの訓練も『万が一に備えて』の名目だ。あくまで要塞建築のために集めているのだから」

 まぁ最悪、彼らには石を投げてもらえばいい。

 ……いや、自棄になっている訳ではないですよ? 投石は事前知識なくできて、当たり所によっては即死も期待できる立派な攻撃手段です。


「それより、害獣対策として槍衾でも覚えさせた方が効果的かと」

 そう言ってワルン公が目を向けた一画には、どうやら長槍が保管されているらしい。

 一方でジョエルはというと、頭を掻きながら悩まし気に唸っていた。

「クロスボウなどがあれば良いのですがなぁ。各都市が防衛用に持っているくらいしか残って無さそうで。徴収という訳にもいかんでしょうし」


 なるほど、クロスボウなら市民でも簡単に使える……だから各都市が保有しているのだろう。その今一番欲しいものがここにはないと。

「徴収した中に多少はあったのですが、チャムノ伯のところに持っていかれましたな」

「あぁ、傭兵か」

 そうか、この時代では傭兵も使うくらいに戦力として有用な武器なんだな、クロスボウは。


「帝都の工房に作らせるにしても、戦いまでに数を確保できるかどうか……」

 当然だがこの時代、武器は職人の手で一個ずつ作られる。数を確保するには時間が足りないか。

「槍とクロスボウ、そして一部の希望者に銃を持たせる……おそらく、決戦までには最低限の数は揃うかと」

「しかし最低限では不安が残るだろう。どこからか調達できないか考えておく」


 俺はそこで、先ほどから目につく大砲の方に目を向ける。

「ところで気になっておったのだが……その砲は?」

「フランジ砲ですか……これはまぁ、使い物にはならないかと」

 金属製の車輪がついた、土管のように砲身が太い大砲だ。見た目のインパクトだけは強そうなのだが、使えないのか。


「我が軍で使用している大砲は、攻城用のカーヴォ砲になります。そしてラウル軍では、野戦用に馬車で持ち運べる『ポト砲』なるものが量産されているとか」

 ワルン公は『フランジ砲』なる大砲に手を当て、さらに説明を続ける。

「一方この巨大なフランジ砲は、カーヴォ砲以上の威力を持った大砲になります」

 まぁ、見た目からしてとんでもない破壊力を持ってそうだ。それが使い物にならないとは?


「しかしそのあまりの爆発力に砲自体が耐えられず、数発撃っただけで壊れてしまいます。さらに冷却にはかなりの時間を要し、そもそも戦場に持ち込むのも……この重さですからなぁ」

 ワルン公に代わりそう説明したジョエルは、顎を擦りながら続けた。

「まぁこの見た目ですから威嚇に使えないこともありませぬが。しかしそれもカーヴォ砲で十分ですからなぁ」

 ……それはつまり、数発なら耐えられるということか。あとは冷却問題……これもやりようはあるな。


「そのフランジ砲も含め整備しておいてくれ」

「はぁ、使うのですか」

「無論、カーヴォ砲も調達できるよう動く。念のためだ」


 ただまぁ、使えるものは何でも使わないとね。



 フランジ砲はフランキ砲に名前が似ていますが、全く関係ありません。どちらかというとモンス・メグやウルバン砲をイメージしています。

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[一言] 楽しみに待ってました。 再開ありがとうございますm(_ _)m
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