大公同盟(2)
ようやく余裕ができたので更新……
書いて力尽きました。宣伝……しなきゃ……
謁見の間がある宮殿内に存在する大部屋、その一つに外務卿や内務卿などの、いわゆる大臣クラスが会議するための部屋がある。俺が傀儡の頃はほとんど使用されていなかったその部屋は、使用人たちに机や椅子を整えてもらった。
宰相派や摂政派と決別したことで、侍女の大半は使えなくなった。だがもともとこういった仕事は侍女よりも使用人たちが主にやっていたらしく、貴族を迎えるに違和感のない部屋にはなっている。まぁ、平民階級である使用人も信用できないので密偵を紛れ込ませることになったのだが。
部屋の中央に置かれた長机、その短い辺に座る俺の斜め後ろには、側仕人であるティモナが立ったまま控えている。俺から見て左側には、手前からニュンバル伯、ヴォデッド宮中伯、そして西方派からダニエル・ド・ピエルス。右側には同じく手前からワルン公爵、ラミテッド侯爵ファビオ、そして……ヴェラ=シルヴィ・ル・シャプリエ。
なぜ彼女がこの場にいるかと言うと、既に傭兵を引き連れ帝都から出立したチャムノ伯の代理……というか、その連絡係としてきて貰っている。久しぶりに人前に出たからか、表情を隠すように俯きっぱなしの彼女の手には、『シャプリエの耳飾り』がのっている。この遠隔通話が可能な魔道具のお陰で、チャムノ伯とのリアルタイムでの意思疎通が叶う訳だ。
……量産できないらしいが、そこをどうにかできないものか。実現すれば戦争に革命が起きるのに。
「諸卿らに来てもらったのは他でも無い」
俺は左右に並んで座る彼らをゆっくりと見渡し、話を続ける。
「ついに反乱軍に動きがあったのだ。ヴォデッド宮中伯、説明を」
「はっ」
あ、今回は起立して発言しなくていいと前もって伝えている。会議の短縮の意味もあるが、同じ高さに座る皇帝を見下ろさせないようにっていう規則にしようかと。今は即位式のインパクトがあるからいいけど、今後なめられないとも限らないからね。
「ジグムント・ドゥ・ヴァン=ラウル、およびアウグスト・ド・アキカールは新たに『第二代ラウル大公』、『第二代アキカール大公』をそれぞれ名乗り、『ラウル大公国』・『アキカール大公国』として独立を宣言。さらに『大公同盟』なる攻守同盟の締結を宣言しました」
もともと、帝国国内には「大公」という称号は存在しなかった。式部卿なんかは大公と呼ばれていたが、あれは王国規模の所領を持つ彼に対する「あだ名」であり、そういう称号があった訳では無い。
だが国外で言えば、「大公」の称号は存在する。
悪名高き六代皇帝エドワード三世の時代、戦争に負けまくっていた彼は、勝てる戦争をしようと小国であるガユヒ王国に目を付けた。これに攻め込むも周辺諸国に包囲網を組まれ、結局敗戦。しかし帝国が地方貴族レベルの国土しかない小国に負けたという外聞は帝国にとって到底認められず、ガユヒ王国に『ガユヒ大公国』と名乗らせ、表向きは従属下に置く代わりに多額の賠償金を支払ったという過去がある。
まぁ従属とはいえ、帝国はガユヒ大公国の政治に一切介入できないんだけど。帝国ですら独立国として認識しちゃってるし。
しかし表向きとはいえ『大公国』を名乗る効果はあったらしく、極めて小国ながら以後、大きな戦争に巻き込まれたことは無い。場合によっては帝国が介入してくると判断されたのだろう。
んで、今回ラウルもアキカールもこの「大公」を名乗った訳なのだが。
「中途半端だな。皇帝位を僭称するくらいは覚悟していたが」
「陛下、それは彼らが同盟を結ぶ限り不可能です。アキカールもラウルも同じ皇族の出、どちらかが皇帝を僭称した時点で、手を結ぶ道は消えます」
まぁ、もともと皇帝を巡って争っていた連中が、皇帝の座を譲り合うとか有り得ないか。つまり、同盟ありきの独立……足並み揃えての独立宣言になった訳だ。
そこでファビオが疑問の声をあげた。
「そもそもなぜ独立を? 反乱軍のままでも可笑しくはなかったはずです」
周辺国より少しだけ君主の権限が大きかった帝国では珍しい事例だが、周辺国ではこの「反乱」というのはそう珍しい事ではない。君主に対し何か不満があるとき、貴族は割とよく反乱を起こす。正確には君主に対し貴族が要求を出し、これを君主側が認められない場合に戦闘行為が発生するのだが。
現代の感覚で言うと……労働者争議のストライキが近いだろうか。あくまで感覚の話だし、今回の場合はこちらの要求が認められずに反乱となった訳だから、逆か? まぁいいや。
反乱側が勝てば要求が認められ、反乱が鎮圧されれば反逆者として裁かれる。また、この戦闘でどちらかが圧勝すると、要求や処罰が上乗せされたりする。
つまり、これまでの「反乱」状態でも問題は無かったと。
「おそらく、領地を確保する為でしょう」
そう言ってニュンバル伯が考えを述べていく。
「正式な爵位の譲渡を終えていない以上、仮に我らが敗れ、ラウル公爵・アキカール公爵の継承を認めた場合でも、先代が所有していた侯爵・伯爵号については継承権を持つ他の親族に継承させるという手段があります」
これはアキカールの方で考えると分かりやすい。あのシャルル・ド・アキカールやフィリップ・ド・アキカールなどが生存している以上、彼らに継承させることで「アキカール公爵」の領地を今以上に小さくすることができる。シャルル・ド・アキカールの言葉通りならアキカールは兄弟間で対立していたらしいし。
なるほど、つまり今回の独立は言ってしまえばこれまで持っていた領地(公爵領・伯爵領)などをすべて一つにした「大公爵領」の成立を認めさせる戦い……にするつもりなのか。
だとしても、王国として独立するくらいやっても良いと思うのだが。しかもこの場合、周辺国の手を借りられる可能性が高い。その介入が予想されるから、それを防ぐ為に以前からこっちは皇帝直々に外交を担当すると宣言し、動いていたんだ。
ただその場合はこちらも周辺国の手を借りることになって、代理戦争のようになる可能性もあった。そうなるとこの戦いは泥沼化するだろうが、連中の目的は……そうか、違うのか。
彼らの目的は「どんな形であれ先代の所領を引き継ぐこと」ではない。帝国の大貴族という「元の鞘に収まる」ことが目的……
「『落しどころ』ありきの独立、同盟……つまり最終的には独立するつもりなどないのだな」
大公国として独立を宣言したところで、帝国からすれば変わらず反乱軍だ。だが重要なのはそこではなく、彼らの『理由』が「領地の継承」から「独立」に変化することである。
もちろん、彼らの本来の目的は「領地の継承」のままだ。だがその一段上に「独立」という目的が加わったことで、講和の際「独立を撤回する代わりに領地の継承を認めさせる」という譲歩が成り立つことになる。
皇帝勢力には「独立を阻止した」という名目が立ち、「大公」側としては名目として再臣従するだけで事実上の独立状態まで持ち込める。
これが王国としての独立だった場合、周辺国が介入する可能性も高く、そして権威を傷つけられたと考えた皇帝が強硬化し、「落しどころ」を認めないかもしれない。それらは再び帝国内部に寄生する場合、却って不都合になる。
だが「大公国」ならば周辺国の感覚としては「帝国からの分離独立」というより「自治権獲得」に近いものと判断され、介入は控えられるだろうし、帝国としても受け入れやすいだろう。
……くらいには考えているのかもしれない。
「なめられたものだな」
この考え、アイツらが勝つ前提になっている。「これを諦めてあげる代わりにここまでは認めてね」の論法は、自分が有利か五分の状況で講和する際に使える論法だ。
連中、自分たちが負けるとは夢にも思っていないらしい。
俺の呟きに反応したのか、ワルン公が力強く語り始めた。
「陛下、これは僥倖かと。戦う前から終わらせ方を決めているようでは、戦には勝てません」
……いや、俺の場合は戦後を見据えているだけで決めている訳ではない……うん。シャルル・ド・アキカールをアキカールに置こうとか、あくまで案の一つだし。
「てっきり死に物狂いで向かってくると思っていたのだが」
まぁ、なめられるのは今に始まった事ではないし慣れてるんだけど。
「いかがなさいますか、陛下」
ヴォデッド宮中伯の言葉に、少しだけ身を乗り出し答える。
「基本方針はそのまま。先にラウルを潰す……だがその前に。チャムノ伯、聞こえるか?」
机の上に置かれたヴェラ=シルヴィ・ル・シャプリエの手にのった耳飾り、そこに向けて俺は声を掛ける。
『聞こえます、陛下』
ヴェラ=シルヴィは油断していたのか、一斉に視線を向けられ恥ずかしそうに俯いた。小動物みたいだなぁ。
「チャムノ伯、コパードウォール伯領はどうなっている」
チャムノ伯には、既に傭兵とチャムノ伯領軍を率い、自領へと向かってもらっている。傭兵に払う金銭に関しては、貴族の身代金などで払えそうだったからな。まぁ、足りなかった場合はワルン公に金を借りることもできる……大きな借りを作ることになるが。
『予想以上の混乱です、陛下。既に領内は統制が取れず、在地貴族の間では小競り合いも発生しております』
「ほう、もうそこまで」
『それどころか即位式から逃げ出した下級貴族が山賊と化し、廃城を拠点に略奪を行う始末でした』
それはまた、コパードウォール伯領をチャムノ伯領との連絡線にしたい我々にとっては好機だが……上手すぎるようにも思える。これほど短い期間で、領主不在とはいえそんなに混乱するだろうか。
「将軍、それはつまり廃城は既に制圧済みだということで良いのだろうか」
『はい、閣下。さらに残党が近くの都市に逃げ込んだため、引き渡しの要求と共に都市に接近しております』
つまり既にコパードウォール伯領内に拠点が確保できていると。
「流石だな、チャムノ伯。引き続き、慎重に頼む」
『はっ』
「陛下」
今度はどうやらヴォデッド宮中伯から追加の報告らしい。
「既に各地では混乱が広がっております。これは今回の同盟でさらに広がるでしょう」
大公同盟……これは二つの敵が、団結して強大になったようにも見える。だが実際は、宰相派貴族・摂政派貴族を束ねていた二大巨頭が、その派閥を解散させたに等しい行為だ。
「宰相派と摂政派、この対立はここ数年の問題では御座いません。間違いなく、今回の同盟で旧宰相派、摂政派貴族の動揺は広がります。陛下の元に馳せ参じる者も少なくはないはずです」
それほど根深い問題を棚上げし、自領を確保する為にアキカールとラウルが手を結んだ……なるほど、確かにこの現状は宰相派、摂政派だった貴族をこちら側に寝返らせるチャンスかもしれない。
だが……少なくはない、ね。おそらく、連中もその点については把握済みで、既に囲い込みに奔っているのだろう。しかしまぁ、効果は薄くても声はかけておくべきか。敵に付かず、中立として様子を見られるだけでもありがたいしな。
「分かった。では今一度、貴族らに帝都へ馳せ参じるよう招集令を出せ。また、拘束中の貴族に対しても、罪状が軽いものに対しては減刑を視野に入れ交渉を行いたい」
……あ、これ誰に任せよう。ダニエル・ド・ピエルス個人で動ける内容ならまだしも、西方派は今動かせない。となると、爵位の高い者の方がいいか。
「ワルン公、頼めるか」
「承知いたしました」
ワルン公が素早く返答したところで、そこに待ったをかける存在がいた。
「お待ちください陛下。もはやいつ素早い軍事行動が必要となるか分からない現状、ワルン公には軍事行動に専念して頂きたい」
ファビオの言葉に一理あると思った俺は、それを聞き入れ考え直そうとした……のだが、そこで他でもないワルン公がこれを否定した。
「いや、その必要はない。陛下、実は一人紹介したい人物がいるのです。その者は指揮経験も豊富で、政治にも理解ある男です。そしてかつて、将軍の一人でもありました」
仕官の仲介か? 人材不足なのは事実だし、そういう人間は確かに欲しいが……できればこの会議の後にして欲しい。まぁ、いいか。
「よかろう、外に控えているのならここに通せ」
すみません、醜い文章で。修正いたしました。
原因は全く分かりません。文章内容から、恐らく執筆の後半に行われた貼り付けだと思われるのですが、どのタイミングで、どの操作で行われたのか全く分かりません。