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絶やすべきか、活かすべきか(上)

GWに更新再開と言っておきながら、翌週の更新となってしまいました。申し訳ございません。


 

 シャルル・ド・アキカール……粛清した式部卿の三男である彼は、実のところ即位式には参加していなかった。

 即位式の日、彼は帝都にあるアキカール公爵家が所有する館(現在は接収済みだが)の一つに居たようだ。そしてこの男は、即位式で起きたことを比較的早い段階で察知していたのではないかとみられている。


 彼には潜伏や逃亡という選択肢もあったはずだ。しかし彼はそれらを選ばず、自ら宮廷に現れ拘束を受け入れた。

 ……近衛がまだ宮廷の制圧を完了していないタイミングで、である。


 拘束自体も大人しく受け入れ、特に動くことも無かったため放っておいたのだが……ここに来て古法を持ち出してコパードウォール伯に助言? 人助けにしたって中途半端だし、何か考えがあって動いたと見るべきだろう。



 正直、自首されたせいで彼の扱いについては持て余していた部分もあった。

 アキカール公爵家の血筋は徹底的に絶やしてしまった方が俺としては()だ。他の貴族に対する見せしめにもなる。だがシャルル・ド・アキカールに対し問うべき罪が無ければ、彼を裁くことはできない。特に抵抗も無く、式部卿が行った不正にも彼は関わっていなかったしな。


 このまま裁けない場合、排除するには暗殺という手段も考えられる。

 その時は密偵に頼むことになるのだろうが……それはつまり密偵に、そしてその頭であるヴォデッド宮中伯に新たな弱みを見せることに他ならない。すでにかなり頼っている部分があるんだが、必要以上に頼るのはなぁ……危険な気がするんだよな。あまりヴォデッド宮中伯が影響力を持ちすぎると、今度は彼に言いなりの皇帝が出来上がるかもしれないし。

 ……その皇帝が俺である保証も無いし。


 つまり、俺としてはできるだけ密偵に影響力を持たせたくはないのだ。持たせてしまえば、その影響力を削ぐのは不可能だろう。


 俺は、絶大な影響力を抱え帝国を牛耳っていた宰相と式部卿を粛清し、排除することに成功した。だがそれは、二人が油断していてくれたから成功したに過ぎない。

 既に俺は、貴族たちにとって『無能な幼帝』ではなく、『貴族を粛清した皇帝』になった。今後は常に警戒されるだろう。事前に親書を送ったワルン公も、俺と謁見する際は警戒して貴族を連れて来ていたし。


 警戒されている皇帝が、ましてや密偵相手に同じような強硬手段を取って成功するはずがない。かと言って、宰相や式部卿に対し中立を保ち続けた男相手に謀略で(かな)うとも思えない。


 そういった理由で、暗殺という手段は国内の貴族相手に取りたくない。どれほど利益があろうが、リスクが大きすぎる。



 そうなると、シャルル・ド・アキカールについては何らかの理由で拘束し続けるというのが現実的だろうか。

 その場合も、やはり何かしらの理由は必要だ。現在は挙兵したアウグスト・ド・アキカールと「繋がっている可能性がある」という理由はあるが、アキカール軍を倒してしまえばそれも無くなる。


 今後の彼の処遇を決める為にも、今回の彼の動きはきっかけになる。そう考えた俺は、拘束しているシャルルと会うことに決めたのだった。



***



 ティモナ、そしてバルタザールを引き連れた俺は、シャルル・ド・アキカールの入る牢獄までやって来た。

 この牢はいわゆる「貴族用」の牢だ。苦痛を与える目的の地下牢とは異なり、普通の部屋のように内装まで施されている。鉄格子さえなければ、少し小さめの部屋と言われて違和感はないほどだ。

 即位式で拘束した貴族の大半は、こっちの牢に入れられている。ここ数年は誰も入っていなかった牢獄が、現在はすべて埋まっている。


 それでも男爵家などの小貴族の分までは足りなかった為、彼らに関しては自宅や宮廷内の空き部屋に軟禁という形を取った。

 当然、そちらの監視は緩い。中には逃亡する者も出てきているが……こればかりは仕方ない。ただでさえ近衛も密偵も数がぎりぎりなのだ。



 ちなみに、この世界では罪が確定していない者でも牢に入れられることがある……というか、それが当たり前のようだ。それも、どうやら帝国に限った事ではないらしい。

 これは魔法の存在が関係していると思う。普通の部屋に軟禁する場合、魔法で逃亡される可能性が高いのだろう。実際、逃げられた男爵家の大半は魔法が使える者たちだ。いくら『封魔の結界』を張る魔道具があるとはいえ、数には限りがある。


 だからわざわざ、まるで部屋のような牢獄が作られているのだろう。普通に考えれば、他の目的にも使える部屋に軟禁する方が効率は良い。貴族だろうが、疑惑一つで牢に入れられるのは当たり前……それがこの世界の常識のようだ。

 まぁ、この数年ほど使われていなかったことから分かるように、そういった「疑惑」も全て揉み消されていたのだが。


 とはいえ、実力ある魔法使い相手には鉄格子など意味を為さない。そんな相手には例の魔道具を併用するようだ。あとは対象を逃したくない場合も併用される……ヴェラ=シルヴィも鉄格子と結界の中で幽閉されていたな。


 残念ながら、現在この宮廷には『封魔の魔道具』の数が圧倒的に足りていない。確かにシャルルは式部卿の三男だが、()()()()()()()()()()男に回す余裕は無かった。



 閑話休題、シャルル・ド・アキカールの牢の前にやって来た俺は、見張りの近衛に労いの言葉をかけ、下がるよう伝えた後、鉄格子の向こうで跪く男に声を掛けた。


「卿がシャルル・ド・アキカールか……この場に限り直答を許す。答えよ」

「畏れ多くもお答え致します陛下。某がシャルル・ド・アキカールに間違いございません」

「ならば面を上げよ」

 そう告げると同時に、俺はティモナに合図を送った。

 それを見たティモナは、魔力を操作し魔法を使う()()をする。それに合わせて、俺は防音の結界を展開した。

 ティモナは魔法が使えない訳では無いが、あまり得意ではないらしい。俺としても、他人の魔法より自分の魔法の方が信用できる。だが俺が魔法を使えること、そしてどのような魔法を使えるかについては、あまり見せたくない。その結果がこの一手間だ。

 切らなくていい手札は切らないべきだろう……必要であれば躊躇いなく使うけど。



 シャルル・ド・アキカールと目が合う。その顔は俺が殺めた式部卿と似ていた。正直、あまり気分は良くない。

「なぜコパードウォール伯に古法を教えた。いや、そもそもあれが通ると思っているのか」


 ブングダルト族の法とロタール帝国の法を引っ張り出してきたことは称賛しよう。だがその場合、コパードウォール伯は幽閉される必要が無い。

 明らかな欠陥のある提案だ。それこそ、それだけの頭脳があるならばその欠陥を補う法を見つけていたっておかしくはない。

「いいえ。しかし彼を助ける理由も有りませんので」

「なら何故動いた。これまで沈黙を貫いてきた卿が何故」


「単純な話にございます、陛下。彼の領地は陛下にとって是が非でも押さえておきたい要衝かと愚考した次第」

 ……やはり、この話は俺に対する()()()だったか。


「幸いにも、彼には子が居りません。そして帝国法では爵位継承者が確定しておらず、当主が貴族としての義務を果たせない場合、継承者が定まるまで君主がその爵位を『預かる』ことができます。そこで爵位を据え置いたまま宮刑とし、幽閉の後『コパードウォール伯は貴族の義務を果たせない』として爵位を一時的に陛下が預かればよろしいかと」


 空白地帯を作らない為の法……それは俺も知っている。

 もしコパードウォール伯が死んだ場合、その爵位はコパードウォール伯家の縁者や家臣によって誰が継承するか決められる。だが今回の場合、コパードウォール伯は未だ存命である。したがって本来、爵位は彼の手元にあるべきだ。

 しかし貴族としての義務が果たせない場合、その領地は実質領主不在となってしまう。こういった空白地は、他国や野盗に狙われやすい。これはそれを防ぐ為の法である。

 その為、その貴族が亡くなった場合は継承者が選ばれた上で継承され、その貴族が帰還した場合は返還される。あくまで一時的な措置だからな。


 そして今回の場合、コパードウォール伯領を確保しておきたいのはこの内戦が終わるまでだ。つまり、一時的な確保で問題ない。


 本来は、領主貴族が他国の捕虜になった場合などに適用される法だが……


「だが自国の君主……皇帝によって幽閉された場合は適用されないはずだが?」

 そう、そんなことが許されてしまうのであれば、俺は今拘束している全ての貴族の領地に兵を送り込める。 

 それができないから、裁判だの交渉だのと頭を使っているのだ。


 俺の言葉に対し、シャルル・ド・アキカールは笑みは浮かべた。

「陛下、これは幽閉ではございません。宮刑となった以上、他に刑罰など与えられないのですから。彼はその後、『自らの意思』で『二度と出られない塔』に入るのです。そこに陛下の意思は介在致しません……」


 ……なるほど。塔から二度と出さないのではなく、二度と出られない塔にコパードウォール伯が勝手に入る……ね。

 随分と都合の良い解釈じゃないか。


「それでも法の悪用と見られてもおかしくはない。印象は良くないと思うが?」

「誓約させれば宜しいでしょう。書に残させれば、領主らも彼の意思によるものと認めざるを得ません。それに、かの要衝にはそれだけの価値がございます……違いますか?」

 ……一理ある。だが余計な敵を作りかねない危険な策だ。

 ……考えが慎重すぎるか? まぁ、状況によっては一案になり得る。これについては後で時間をかけて考えるとしよう。この男の言葉を鵜呑みにする必要も無いし。



 さて。シャルル・ド・アキカールがこのタイミングで動いた理由……それは恐らくこの状況を作り出す為だったのだろう。

 不要な古法の存在を明らかにし、危機感を抱かせると同時に古法に精通している事をアピール。さらに皇帝にとって利益になり得る策の提案。ここまではこの男の予定通りに話が進んでいると見ていい。


 俺としては別にここで話を切り上げても良いのだが……この男に興味を抱いたのも事実。

「何が目的だ。卿は何を求めている」


 まずはこの返答次第だ。



今月は週一更新が限界だと思われます。また、頂いたコメントや感想などにはこの一か月を掛けてゆっくりと目を通していきたいと思います。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 率直に言って いろいろ疑ってかかる主人公の小説は 話全体が陰湿に感じられるので変えた方が良いと思います
[良い点] 戦争にしろ内政にしろ 帝国を運営するには人材が不可欠ですからね 使えそうなやつは使わないと 楽しみです [気になる点] 九話 青き瞳の婚約者 でヒロインの生国ベルベー王国が話に登場したので…
[良い点] 一気読みしてしまいました。 面白かったです!
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