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継承法


 どうも、皇帝です。今日も元気に傀儡やってます。


 あの葬式以来、様々な人間がひっきりなしに、自分の派閥に都合のいいことを吹き込もうとするもんで、色々と理解が進んできた。


 洗脳も自己判断できれば素晴らしい教育になるようです。たくさんの情報ありがとう。



 まず、なぜ俺が皇帝に担ぎあげられて(傀儡になって)いるのか。これは皆あまり話したがらないせいで、情報を集めるのに苦労した。


 俺の前に皇帝だったのは、俺の祖父エドワード4世。この先帝には男子が一人しかいなかった。それが俺の父、前皇太子ジャンだ。この皇太子は前線指揮を取ってる最中、戦死してしまう。その報を聞き、先帝は一人息子を失った哀しみで憤死……ということになっている。


 そんなわけあるか。絶対暗殺だろ。


 こうして戦争中にもかかわらず皇帝空位となり混乱する中、アキカール公(式部卿)ラウル公(宰相)主導で()()()()()。二人の政敵……敵対貴族の領土だけ割譲することになる。



 だが二人は別に盟友でもなんでもない。たまたま一時的に目的が一致しただけのこと。二人は直ぐに互いの都合のいい人間を皇帝にしようと画策する。だが、直ぐに政争が始まらなかったのには訳がある。そう、俺だ。


 正確には前皇太子の正妻のお腹にいる子供……つまり俺が、男か女か分からなかった。この国の継承法について詳しくはまだ知らないが、どうやら直系の男子が最優先となるのは間違いないようだ。


 そして男の子が産まれ、その他の継承者……宰相と式部卿が担ごうとしていた人間たちは殺された。他でも無い、二人の手によって。


 こうしてこの国の権力者は二人だけになった。んで、当然その後始まるのはこの二人による政争だ。


 何してんだマジで。



 さて、問題はなぜこの二人が武力衝突(内戦)をしないのか。



 理由の一つには兵力差があること。ラウル公の派閥は帝国の半分近くを影響下に置き、また軍事面でも帝国で最も進んでいる地域らしい。戦争になればアキカール公に勝ち目はない。だからラウル公がこの帝国で最も権力を握っていることを、どう思ってるかは知らんがアキカール公は許している。



 もう一つの理由は、俺が死んだ場合、次の皇帝はアキカール公になる可能性が高いということ。これは帝国の継承法で決まっており、流石のラウル公でも無視することはできないようだ。何せアキカール公より継承順位が高かった人間は殺してしまったからな。もし戦争になったタイミングで、俺が暗殺されてしまえば、ラウル公はただの反逆者となる。大義がアキカール公の方に立つ以上、ラウル公派閥の中からも離反者が出るかもしれない。だから、アキカール公が帝国のナンバー2であることをラウル公としては見逃すしかない。



 アキカール公が俺を殺さないのは簡単な話だ。皇太后(摂政)が実の娘なせいで、アキカール公は俺を暗殺した場合、孫殺しの汚名を背負うことになる。いくら継承権的に最も皇帝に近いとはいえ、貴族連中がそんな汚名を抱えた人間の即位を支持するとは考えにくい。



 だがしかし、それらは全て俺が中立である限りだ。俺がどちらかに傾いた場合、追い込まれた方はなりふり構わず実力行使に出るだろう。


 まぁ一言でいえば俺は絶妙なバランスで生き長らえているという訳だ。



***



 さて、最近大きく変わったことがある。あの母親(くそババア)が、ようやく表に出るようになったのだ。どうやら俺が葬儀の件で政治利用されたことで、危機感を抱いたらしい。

 ……遅っ。


 まぁ、いい感じに二つの派閥で潰しあってほしい俺としては大歓迎だ。その方が逃げる隙も生まれそうだし。


 だが、俺のところに来るようになって最初に言い出したのは、「侍女が皇帝の許しなく会話するなんて不敬」だ。その結果、侍女は俺から話しかけないと答えない上に、距離を感じるようになった。

 まぁ、俺が侍女たちに懐いて母親の自分が蔑ろにされるのが怖いんだろう。それは理解出来る。


 だけど、俺、お前、嫌い。


 さて、今日も俺の部屋にやってきた母親(こいつ)は開口一番こう言った。

「陛下。ラウル公を信用してはなりません。必ずや良からぬことを企んでいます」

 ほんっとうにめんどくさい。何がめんどくさいって純粋な子供の振りをするのがめんどくさい。


 自然に、無知な子供らしく聞き返す。

「ははうえ、らうるこうとはだれでしたっけ」

 宰相のことでしょ。知ってる。


「宰相と呼ばれている男です。あの男はこの国を乗っ取るつもりなのです」

「そうなのですか?」

 現状、俺に手を出せないんじゃなかったの?

「えぇ、そうですよ。あの男は自分の息子とあなたの叔母上を勝手に結婚させたのです。これは許されない専横よ」


 ……うん? ちょっと待て、父親(前皇太子)に妹がいてしかも存命? そんな話聞いたことないぞ。その話もっと詳しく。


「ぼくにおばさまがいるのですね! しりませんでした……」

「えぇ、あなたのお父様には妹が二人います。一人は他国の王妃となっていますが、もう一人はラウル公の手で無理やり結婚させられたのです。きっとあなたを廃する魂胆よ」


 意味が分からないフリして首を傾げる。子供への説明下手か。余計な演技させんな。

「あの男は、あなたの叔母様を次の皇帝に担ごうとしてるのよ」

「ぼくのつぎにこーてーになるのは、そのおばうえなのですね」

 初耳だわ。シーソー傾いてんじゃん……


「いいえ、そうはならないわ。それはあくまで帝国法の話。氏族法ではあなたのお爺様が継ぐことになるわ」

 おっと、また初耳の情報。

「しぞくほう? とはなんですか?」

 キリキリ吐けや!!




 その後、頑張って聞き出した情報によると……この帝国の継承法には二種類あるらしい。なぜこんな事になったかといえば、それはこの国の成り立ちにある。


 前にも言ったが、この辺りに元々あった国は「ロタール帝国」だ。そこにブングダルト族と呼ばれる異民族が流れ込み、貴族化。

 その後ロタール帝国が崩壊するも、ロタール帝国の残党に従い続けたブングダルト族に皇帝位が流れてきたらしい。そしてなんやかんやあって、今のブングダルト帝国になったようだ。

 つまり、この国は「ブングダルト氏族に支配された旧ロタール帝国」であり、「ブングダルト族の継承法(氏族法)」と、「ロタール帝国の継承法(帝国法)」の二つが同時に存在しているとのことだ。


 このうち「帝国法」の方は、男性「優先」継承法……つまり女性でも皇帝になれる法。これに対し「氏族法」の方は、男性「限定」継承法……女性は皇帝になれない法になっている。


 ちなみに、ブングダルト帝国に国号が変わってから、女性が皇帝になったことは無いそうだ。


 いや、一つにまとめろよ!!



 そんな情報を吐いてくれた母親(ババア)はそろそろ退場の時間。

「大丈夫。私が必ずあなたを守ります。ですから、くれぐれもあの男を信じてはなりませんよ」

「はい。ははうえ……もういかれるのですね」

 別に寂しくはないが、もっと情報は落としていけよな。


「えぇ。あまり長く会っていてはあの男に警戒されてしまいます」

 いや、愛人との逢瀬楽しみたいだけだろ。侍女たちの話題で全部筒抜けだぞ。

「はい、ははうえ。またあいにきてくださいね」

 まぁ、知らなかったら詰みかねない情報だったし、感謝してやる。


 仕方ねぇからサービスにハグしてや……臭っ!! 香水くさ!! 付けすぎだババア!!



***



「陛下、ヘルクに御座います」

 摂政が帰った直後、家令のヘルク・ル・ディッフェが俺の部屋にやってきた。

 この男は侍女が俺から距離をとるようになった後、摂政からも宰相からも、そして極小数の中立派の貴族からも信任を得て、俺の身の回りの世話をしている。


 ……そう聞くと信用して良いように感じるが、あくまで「貴族の都合」が良いから信任を得てるってだけだ。



 例えば俺の好み。

 今は俺がまだ幼いから、大抵の貴族連中は俺と謁見していない。だが、ある程度大きくなれば、連中は俺に御機嫌伺いするだろう。その時の為に、俺の好きな物・嫌いな物を知る必要がある。


 それはいったい誰に聞けば正確なものを得られるのか? 簡単だ。常に俺に付きっきりの奴に賄賂を払って聞けばいい。



 つまりこの家令は、俺の情報を売りさばいて賄賂でがっぽり稼いでる。


 こいつのせいで俺は常に無能な幼帝(良い傀儡)を演じなければいけない。だが、今の俺にはどうすることもできん。



 ……今は、な。



 ちなみに侍女の数も減った。母親(ババア)がケチつけたせいだ。しかも宰相派の人間だけでなく自派の人間すら平気で追い出すという。もしかして、政治を理解できないんじゃ……


 まぁともかく、俺は未だに味方がいない。誰かに気を許したらバッドエンド(即暗殺)の可能性大。

 できれば中立派の貴族には助けてほしいんだが……人間ってのは自分や自分の家族とかに利があるか無いかで判断するからな。まだ成人してない幼帝(ガキ)なんて判断しようがない。


 それにしても未だに身体が香水臭い。何気にこの世界にも香水があるって事を初めて知った。

 前世では香水っていつからあったんだろうか。知識さえあれば、その辺から文明レベル測れたかもしれないのにな……それはさておき。



「なんじゃヘルク。はいれ」

 俺が答えると、薄い扉を開け、ヘルクが入ってくる。


 あ、ちなみにこの部屋の扉は二重です。

 防音バッチリな分厚い外扉と、声が通るくらい薄い内扉の間の、押し入れくらいのスペース。家令は特権で、ここまでは皇帝の許しなく入って来られるらしい。他の貴族連中が外扉より中に入るには、家令の取り次ぎが必要って訳だな。



 そこ厳格なルール作るならもっと俺を敬えよ。


 ババア? アレは「母だから」っていう自分ルールで規則無視して来たよ。たぶん明日には政治的に叩かれるんじゃないかな。


「お会いして頂きたい者がおります。よろしいでしょうか」

 名前言えよ。

「よかろう。とおせ」

 まぁ、言わないってことは恐らく……


「陛下。カールに御座います」

 宰相(ラウル公)だろうなぁ。



***



 さぁ、深く深く息を吸ってー……

「ヘルク! そやつは、余をあやめようとしておるのじゃぞ!!」

 怒鳴るのって疲れるんだよなぁ。

 

 あ、一人称? 実母(ババア)の前では「ぼく」それ以外では「余」だよ。


 幼いながら教えられた「皇帝の理想(良い傀儡)像」を一生懸命に守るも、母親の前では心を許し、つい本来の一人称が出てしまう幼児……っていう設定。


 だって本来の一人称、俺だし。



「陛下、何卒お話を」

「いやじゃ!! なぜとおした!!」

 俺が通せって言ったからだけどね。


「陛下、それは誤解に御座います」

 お? 俺から話しかけた訳でも許しもないのに口開いたね?


「しんじぬ! ははうえがいったのじゃ!! おまえはよをころすつもりじゃと」

「陛下、全ては誤解に御座います。私の愚息とマリア様はあくまで婚約に御座います。マリア様が他国に嫁がれでもしてしまわれれば、その他国に帝国が乗っ取られかねませぬ故、宰相としてこの国の為を思い起こした行動に御座います。無論、陛下がご結婚なさるまで式は挙げませぬ」


 ……いや、俺の代わりに叔母さんを即位させるんじゃないかって話だよな? 結婚だろうが婚約だろうが、お前が後見になるんだから実権握って独り勝ちできるじゃん。しかも俺を殺した場合は「帝国の為」とか言って直ぐに式挙げるだろうが。

 騙される訳ねぇだろ。騙されてやるけど。幼児だからな!


 つーか、俺が()()()()()()()()



 ……ヘルク(銭ゲバ)くーん。あのババアがこの部屋に来た時、盗み聞きしてたね? んでもって君、中立派装いながら裏では宰相派になったね?


 あーそっかそっか。あの摂政が君通さずに何度もここ来ちゃうと、賄賂減って美味しい思いできなくなるもんね。アキカール公含め摂政派は皇太后通せば俺に会えるようになっちゃうから。優先的に宰相に情報流す代わりに摂政と俺の接触を暫く阻止するよう要求したって感じかな?


 ってことは、この後に来るのは皇太后批判ですか?



「陛下の母君は陛下を利用しようとしておるのですぞ! 騙されてはなりませぬ。陛下と会うことなく、愛人と子をもうけたことをお忘れか!」

 なんでお前が怒鳴るんだよ。……あぁそうか。子供は怒鳴られれば萎縮するもんな。じゃあビビったフリをしてと。

「でも、でもははうえは、余をあいしているといったのじゃ……」

「今、陛下の母君は愛人との逢瀬をお楽しみですぞ。見に行かれますか」

 何が悲しくてそんなことしなきゃならん。

「……よい。わかった。そなたをしんじよう」

「ははっ。有り難き幸せ」


 じゃあ、ダメ押しに弱ってるアピールしとくか。

「そなたは、余のみかたか?」

「おぉ……陛下、なんとお労しい。無論でございます。このカール、常に陛下のお味方でございますとも」


 ……嘘つけ。どの口が言ってんだ。



 それからしばらく、摂政は俺の部屋に来なかった。まぁ、批判されたんだろうな。

 そのかわり、摂政派の侍女が二人増えた。

 ……政治だねぇ。



C〇2とかE〇4が好き。

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― 新着の感想 ―
[一言] 外と中の差が酷すぎて笑った
[一言] 憤死て 中国かな?
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