表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/216

近衛兵バルタザール

お久しぶりです。更新再開します。詳細(言い訳)は活動報告の方に……

はりきってしまい、少し字数多いです。



 翌日、俺は自室で人を待っていた。今はティモナの淹れてくれたハーブティーを飲みながら待機している状態だ。


 昨日俺が「儀礼剣」として持ち帰った剣は現在、紫の布で厳重に包まれ部屋に置かれている。

 鞘がないから、ティモナには鞘を見繕ってくれるよう昨日の内に頼んでおいた。だが布に包まれているのはそれが原因ではなく、どうやらこれも戴冠に向けた儀式の一環らしい。

 この布の、赤みがかった紫は『ロタール色』と呼ばれているらしく、かつてはロタール皇帝のみが使えた色なんだと。いわゆる神聖な色という奴だ。まぁ、現在では色の使用に関する制限は無くなっているから、伝統の名残というものかな。


 さて、この布に包まれた魔道具()。その能力は常に周囲から魔力を取り込み蓄え、使用者の任意のタイミングで放出できるという物だ。それは確かに、魔道具で再現可能な代物らしい。だが俺にとってこの剣は喉から手が出るほど欲しかった。



 魔法使いと言えば「杖」というイメージがあるだろう。実際、この世界で魔法を使えるようになって分かったが、「魔法使いに杖」というのはたぶん、理論的に合っている。


 魔法を使う際、一番「簡単」なのは体内の魔力を介し空気中の魔力に影響を与える方法だ。これは恐らく、この世界の魔法使い達にとって、最も一般的な手法だと思われる。だがこの時、「使いたい魔法のイメージ」と、「魔力を練るイメージ」は同時にやる必要が出てくる。まぁ、「魔力を練るイメージ」は疎かになっても魔法自体は発動するんだが。ある程度の威力を出すためにはしっかりとした「練るイメージ」も必要になってくる。


 二つのイメージを同時に行うというのは、それなりに難しいことだ。しかも戦闘中ともなれば他にも意識を割かねばならないことが多々あるだろう。結果、複数の思考が混ざり、混乱する。


 そこで杖だ。「使いたい魔法のイメージ」はそのままに、「魔力を練る」方は杖を介して行う。一言で言えば思考を()()するのだ。

 一つの起点から二つのイメージを送ろうとすると混ざる可能性がある。だから「杖」という別の起点を用意し、二つのイメージをそれぞれの起点に分けることでイメージの混入を防ぐ。

 その杖に「魔力を伝えやすくする」といった機能が付いていれば一石二鳥という訳だ。


 俺も魔法を使う時、つい手の動きが生まれてしまう。意識すれば一切、手を動かさずに使えるのだが、意識しないと動いてしまうのだ。それは俺が無意識にやっている「イメージの整理」なのだろう。実際、手の動きがあった方が正確で早く魔法が扱える。

 つまり「杖」は、別に杖である必要は無い。手の動きでも代用可能なのだから、剣でも可能だ。


 そしてこの(聖剣未満)、魔力を蓄える機能も付いている。さらにそれが放出可能だという。実際使ってみたところ、かなり勢いよく魔力を放出できた。

 もっとも、ただ魔力を勢いよく出すだけでは水鉄砲と同じである。何の攻撃手段にもなり得ない。


 だが俺にとっては、この「勢い」こそ求めていたものでもある。何せ『封魔の結界』による「魔力の固定化」は、瞬間的に作用するものではないからだ。

 昨日、帰って来てから部屋の中(結界の影響下)で軽く使ってみたが……案の定、魔力は放出された。これは魔力が剣の表面ではなく内部に蓄えられている証拠である。

 そしてこの魔力を使い、魔法を使うこともできた。やはり時間が経てばこの放出された魔力も固定化されてしまうが……勢いよく「固定化されていない魔力」が発生した場合、その「固定化」にはそれなりの時間がかかるようだ。


 今まで俺は体内から魔力を放出して魔法を使っていたが……これからはこの剣も使える。つまり純粋に戦闘力2倍。

 さらにこの剣、聖剣の『(もと)』なだけあってかなりの業物らしい。


 つまりこの剣を使えば、即位式でのクーデターは成功する可能性が高い。何せ「即位の儀」の仕来(しきた)りは、「皇帝のみ帯剣可能」というものであり、警備の観点から間違いなく当日は『封魔の結界』が展開されるだろうしな。

 剣を持つのは俺だけで、そして結界内で魔法が使えるのも恐らく俺だけ。

 これだけ一方的なアドバンテージを取れていれば、その場は制圧できるだろう。そこで参加した全貴族を拘束できれば、帝都の掌握もやりやすくなる。



 問題はそれ以外……つまり近衛(内部の兵)と編成中のワルン公討伐軍(外部の兵)の掌握。これに関しては宮中伯やティモナの報告待ちなのだが……


「陛下、例の条件に見合う近衛をお連れしました」

「来たか」

 さて、待ち人はどんな人物だろうか……



***



 帝都の宮廷を守る兵士……それは俺が掌握しなければならない武力(暴力)である。

 6代皇帝エドワード3世の悪政『売官政策』の結果、貴族や商人の「箔付け」の道具と化してしまった近衛という役職。かつての精強さや誇りは消え去った。

 大貴族の嫡男とか大商人とかが「近衛」を名乗っているのが現状だ。


 だが「宮廷の警備」という職務は無くならなかった。そして6代皇帝エドワード3世はどうしようもない馬鹿だったが、それ以上に『生存』に執着していた。近衛に守ってもらわなければ、いくら人造聖剣を持っていようが、身の安全を守れないことを理解していたのである。彼は商人らに「近衛」という官職を高額で売り捌いた際、それまで同時に与えられていた近衛騎士(クウォリエ・アクエス)の称号までは与えなかった。つまり差別化を図ったのである。


 後にこの皇帝は「騎士」の称号すら販売するも、やはり「近衛騎士(クウォリエ・アクエス)」までは売らなかった。


 当時の近衛から文句は出なかったのかって? それはもう、金で黙らせたんだよ。つまり昇給だ。実際に彼らがどんな心境でその場にいたかは分からないが、給料が上がった当時の近衛兵は皇帝に対し、反抗することは無かった。

 ちなみにこのせいで近衛は未だ高給取りらしい。あと近衛騎士(クウォリエ・アクエス)に対してのみ行われた昇給を「近衛全員」へと変えたのは今の宰相や式部卿が政治を握ってからだ。


 正直、近衛の給料に関しては悩みの種だ。財政的には下げるべきなんだろうが、下げたら間違いなく俺は彼らの支持を得られない。するとどうなるかって? ローマ帝国の皇帝と近衛の例を見ればわかる。

 流石に近衛騎士(クウォリエ・アクエス)全員に囲まれたら俺も殺されるだろ。そうなる前にどうにかしなければいけない。


 つまり最良の選択肢(ベスト)は彼らの力を借りずに即位を完了し、その後「宰相・式部卿側であった」として責任を追及し、給料と規模を削減する、あるいは解散させることだ。


 だがそれだと即位式のタイミングで反抗される可能性がある。そこで俺が、彼らを抑えきれなければ殺されるだろうし、何よりそうなった場合、戦闘の混乱で貴族共に逃げられる可能性が高い。

 俺は貴族と近衛を天秤にかけ、貴族を徹底的に潰すことに決めた。


 衛士隊? あったねそんなのも。けどあれは貴族の子弟にばら撒く為だけに作られた称号だよ。仕事してるところなどろくに見た事がない。つまり、潰す対象だ。


 そういう訳で俺は、近衛の一人と秘密裏に面会することを選んだのである。それが叶うくらいには、貴族たちの俺に対する警戒は薄くなっている。日に日に余裕が無くなってるんだろう。



 男は入口の所でティモナによってしっかりとボディチェックをされ、ようやく俺の部屋へと入って来た。録音系の魔道具とかは警戒しなければならないからな。

「こちらへどうぞ、シュヴィヤール殿」

 ティモナに案内され部屋に入って来た男、バルタザールは極力俺と目が合わないよう伏せながら、そのまま跪いた。

「ほう……」


「お初にお目に掛かります。バルタザール・シュヴィヤールと申します。本日は……」

「久しいな」

 それでも顔は一瞬見えた。そしてすぐに気がついた。あの時、俺が民衆の歓声に困惑している時、答えをくれた男。馬車の窓越しに見たあの男だ。あの時よりは老けた……か? 前はここまで髭面じゃなかった気がする。


「シュヴァロフ・ル・グース……例のパレード以来か。この国に名を改める文化があるとは、余は知らなかったぞ」

 ピクリ、と彼の肩が震えた。ちょっと面白い。内容が内容だし、ちょっと脅すか。


 ヴォデッド宮中伯には、比較的早い段階で「シュヴァロフ・ル・グース」なる人物を探させていた。二・三言話しただけだが、近衛の中ではまともそうな人間だったからな。だから「そんな人物はいない」と報告され、偽名を名乗られたことは分かっていたのだが……まさかティモナが連れてきたのがその『彼』とはね。

 必要だったのは「実戦で部隊指揮を経験している人間」で「皇帝に忠誠を誓えそうな者」だ。特に指揮能力は重要だ。近衛に潜伏している密偵では、無力化はできても運用はできない。その点、バルタザールは小規模ながら部隊指揮の経験者らしい。


「それとも余の勘違いで他人の空似か? どちらだ」

 なんか微妙に身体が震えているように見える。まぁ、皇帝に嘘ついたわけだしねぇ。その不敬を咎められるって思ってるのかも。俺は別に怒ってないんだけどね。むしろ咄嗟に偽名を名乗って面倒避けようとする辺り、勘が良さそうだ。危機察知能力ってのは何においても重要だろう。

 これが下級貴族とかだと名前どころか聞いてもないのに官職とか家の歴史とか語りだしたりするんだよなぁ。



 相変わらずバルタザールは跪いたまま声を上げない……流石にこれ以上は可哀そうか?

「偽名を名乗ったのだな?」

「その節は……大変、大変申し訳御座いませんっ。何卒っ! 何卒お許しを!」

「許すかどうかはお主の返答次第だな。まずは顔を上げよ」

 まぁ断られた場合、情報漏洩を防ぐためにも殺すか監禁するかしなくちゃいけないんだけど。



***



 彼にはざっと話したよ。この国の現状、先帝や前皇太子の(暗殺)について、そして即位式でクーデターを起こすつもりである事。

「つまり俺……ワタクシにその挙兵に協力しろと」

 暗殺については驚かれなかった。もしかして、市井にも噂かなんかで広まっているのか?


「ふむ。卿は余の近衛なのだから命令であるべきだが……余にはまだその力が無いからな。そう表現しても構わんだろう」

「……はっ。それも道理で」

 そう言って頭を下げたバルタザールは、しばらく悩んだ後、ゆっくりと口を開いた。


「何故、私に声を掛けたのです」

「この計画に卿が必要だと判断したからだ」

 実際はティモナが連れてきたから、そう判断したのは俺じゃない。だが俺はティモナを信用し、任せた。ならその判断は俺の判断だ。そして失敗した場合は俺が責任を取る。君主に限らず、上に立つ者ってそういうものなんじゃないかな……前世では経験ないから、その辺は手探りなんだけど。


「……ありがたきお言葉。何卒ご命令を、陛下。俺は近衛として、本来の主である陛下に忠誠を誓います」

「ありがとう。卿とは頻繁に連絡を取る必要があるな……即位式まで連絡係として密偵を付けよう。後で紹介する」

 これは監視も兼ねている。悪いんだけど、ここでヘマをする訳にはいかないのでな。

「まぁ座ってくれ。楽にするといい……何、余は偽名を名乗られた程度で不快になったりせんよ」



 ソファに座ったバルタザールは、ティモナの淹れた紅茶を飲み、少し落ち着いたようだ。それなりに胆力もありそうかな。

「さて、これからよろしく頼む。シュヴァロフ・ル・グース?」

「……勘弁してくだせぇ。その名前になっちまった奴が知り合いにいるんです」

 本気で嫌な顔された。なら何でその名前名乗ったし。


「冗談だ……ではバルタザール。早速だが最初の仕事の相談をしたい。卿の手で以て、近衛を確実に掌握することは可能だろうか?」

「……帝都にいる近衛は50名ほど。その内幹部が10名、残りは俺のような平民上がり……です」

 売官によりばらまかれた近衛は、貴族や近衛の子弟の箔付けの道具と化している。彼らは近衛の職務をまっとうする気など全く無いので、帝都にはいない。いるのは平民出身者ばかりだ。だからこそ、数日であれば掌握できる可能性がある。その間に帝都を掌握すればいい。


「貴族嫌いは多いので、応じる奴はそれなりにいるんじゃないでしょうか。ですが俺は近衛騎士(クウォリエ・アクエス)の一人でしかなくてですね……」

 本来統制するはずの立場が全員貴族……つまり敵になる訳だしな。

「では帝都にいる近衛全員の情報……思想、貴族との繋がり、性格。そういった情報が全て揃っているならどうだ?」

「あーまぁ、そうですね。それなら……」

 この辺は全て宮中伯が揃えている。尚且つ、今はその情報も数時間おきに更新されているらしい。

 これはワルン公が挙兵し、両派閥の行動がある程度確定したお陰で、今まで監視に割いていた人員を回せているのが大きい。


「……いえ。それでも掌握は難しいかもしれません。すみません」

 まぁ()()()となると厳しいか?

「いや。失敗が許されない場面だ。できないことをできると言われるよりもいい。では掌握するのは一部とし、彼らにのみ即位式の護衛を任せるというのはどうだろうか」

「それもどうでしょう。陛下の即位式に参加したがる者も多いですから。特に幹部連中は間違いなく」

 うーん。確かに参加したがりそうだな。そしてそこに介入するのは流石にリスクが高い。


 バルタザールは少し悩んだ後、頭を掻きながら口を開いた。

「あー……いっそ掌握した近衛のみを即位式の会場内の護衛から()()ってのはどうでしょうか」

「外す?」

「えぇ。即位式当日は、会場内の護衛と外の警備に分かれてまして。外は普段通りなんですが、中の護衛は武装できないんです」

 なるほど? それは初耳だ。確かに即位式は皇帝以外、帯剣不可と言っていたが……そうか、護衛の近衛もか。

「陛下が行動を起こすと同時に、我々が武装したまま会場内に急行します。そうすりゃ貴族と近衛、両方の身柄を拘束できるんじゃないかと。問題は距離があるんで、どうしても数十秒ほど遅れてしまいそうですが……」

 良いな。その作戦でいけば……うん、いける。

「問題ない。そのくらいの時間であれば抑えられる。ではその方針で詳細を詰めようか」


 即位式まであと四日。油断せずに準備を重ねていけば……きっと、成し遂げられる。



 読んで下さりありがとうございます。少し見れなかった間にたくさんの感想・高評価・ブックマーク登録、本当にありがとうございます。誤字報告にも助けられております。誤字が多くてすみません……

 これからも『転生したら皇帝でした』をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ドサグサに紛れて看板娘が飲み仲間に取られてんじゃねぇか!しかも入れ婿じゃねぇか!
[一言] とても面白いです。
[一言] 面白い! 更新楽しみにしてます!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ