魔力回収術
どうも、屋内でも魔法が使えるようになった3歳児です。
突然ですが、目が覚めると医者に囲まれてました。
そりゃそうだ、気絶してたんだから。医者からは命に別状はないがしばらく安静にするように言われた。
ちなみに寝ずの番だった侍女は顔真っ青でした。それは君が悪い。
体内の魔力は完全には戻っていないが、ある程度は戻ってきている。もしかすると、この世界の人間の体内には魔力を生成する器官があるのかもしれない。
それにしても……体内の魔力が抜けたら、あんな脱力感を感じるとは。……魂とかそういう大事なもの抜けてないよな? 不安になってきたぞ。
何より、屋内で魔法を使えるようになったとはいえ、一回魔法を使うだけで気絶してしまうようでは実用的ではないだろう。
どうにか体内の魔力を増やせないものか……
***
できました。
……いや、ほんと偶然に。
あれから数日経って、久しぶりに庭へ出ていいと言われた俺は、いつも通りこっそりと魔法の練習をしていた。
暗いところでも(正確には居眠りしている寝ずの番を起こさないよう)使える灯りの魔法を習得しようと思って、飴玉サイズくらいの光の玉を作り、その明るさを色々と調整していた。そこに突然、侍女が走り寄ってきた訳だ。
慌てて魔法を消そうと思ったんだが、何故かとっさに「勿体ない」と思ってしまった。たぶん、光の玉の明るさを落とすために、かなりの魔力を使っていたからだと思う。
魔法において「調整」には等しく魔力を消費する。明るくするにも暗くするにも、大きさを変えるにもだ。
ともかく、俺は「勿体ない」と考え、そしてさらに、たまたま魔法を解く際に流動体ではなく粒子状をイメージした。
すると、手のひらの上で解かれた魔素が少しだけ、ほんの少しだけ体内に入ってきた。
つまり、空気中の魔力を体内に取り込めたという訳だ。
その一回、しかも僅かな量で上手く感覚を掴めたあたり、俺は魔法の才能があると思う。
しかし魔力を体内に取り込んで見ると、初めは大した量は取り込めなかった。満腹感というか、息苦しさというか、そういった感覚がした。おそらく、体内の魔力量が飽和状態になったのだろう。
魔法換算で、屋内で2~3回使えば切れるくらいの量だと思う。
そんなところで、俺は体内の魔力の方が密度が濃いことを思い出した。
試しに元から体内にあった魔力に、新たに取り込んだ魔力をゆっくりと同じ濃度になるように馴染ませていくと、徐々に満腹感が無くなっていった。
そこから先は魔力を取り込んで、馴染ませての繰り返しだ。
おかげでかなりの量が取り込めた。なんとなくだが、身体の調子もいい気がする。
問題点としては、体内の魔力に取り込んだ魔力を馴染ませる際に、かなり集中する必要があることだろう。時間もそれなりにかかる。
とはいえ、屋内で魔法が使えるメリットと比べれば気にならない程度のものだ。
……俺が見たことないだけでこの魔力取り込み法、みんな知っているのかもしれないが。だとしたらアドバンテージでも何でもないな。
まぁ、その時はそれでも良しとしよう。傀儡にされる以上、ろくな教育は受けられなそうだしな。自分だけ取り残されずに済んで良かったと思うさ。
侍女が走ってきた理由? ……「物を拾ってはいけません」って言われたよ。石か何かを拾ったと勘違いされたらしい。
***
薄々勘づいてはいたが、侍女たちは俺を傀儡ではなく、一人の子供として見てくれている。
中身は大人だから複雑な気持ちではあるが、有難くもある。
……宰相派は宰相が来た時だけ、摂政派は式部卿や摂政が来た時だけ、従順に対応している姿は憐れだが。宮仕えも大変ですな。
まぁ、そんな訳だから疑問に思ったことを聞けば、大抵の事は答えてくれる。
もうこの歳になれば簡単な会話なら平均的だろうしね。勝手なイメージだが、幼児はみんな気になったことを「あれなに」「これなに」って聞くだろう。 ……たぶん。
そして俺にとって、2つの派閥の人間が日替わりで世話しに来るというのは非常に都合がいい。派閥が敵対してくれているおかげで、おそらく派閥間での情報のやり取りがない。
俺は転生したせいで、既に知っている知識がある。本来であれば不自然な部分も多々あるだろう。
例えばトイレの使い方。初めて使った時から、俺は何気なく使えた。その際言われたのは、「もう使い方を覚えるとは流石でございます」だ。
つまり、この侍女は前日入っていたもう一方の派閥の人間が既に教えたと考えた訳だ。
おかげで、俺は物怖じせずに色んな情報を聞くことが出来ている。とはいえ、政治的な物はあまり聞くことが出来ない。大抵は身の回りの物への質問だ。
例えば照明。俺の部屋に使われている物は前世のように、天井についている。これは魔道具らしい。だが、これを使えるのはこの国でもひと握りだそう。
この国についてもある程度聞けた。何でも、昔ロタール帝国という国があり、それが滅んだ。その際、この辺りはいくつもの国が分裂し、混乱していたそう。
いわゆる「大動乱時代」である。
そんな中、滅んだロタール帝国皇帝の遠縁であり、その遺産を引き継いだカーディナル帝が建国したのがこの国、ブングダルト帝国。俺はその八代目の皇帝らしい。
あとは俺が住んでいるこの建物について。これは平屋建て……つまり二階が無い建物だ。前世の感覚で言えば、豪邸以上大豪邸未満といったところか。この建物は皇宮の中にある、一建築物に過ぎないらしい。どうやら俺がある程度の年齢になるまでの仮住まいとのこと。
なんでも、帝国の「皇宮(宮廷)」はいくつもある「宮殿」の集合体らしい。
これは歴代皇帝が代替わりする度、新しく宮殿を建てたり、改築したりするからだ。具体的には、あまりに広すぎて馬や馬車で移動しなければいけないほど。
……「帝国」と名乗るだけあるな。
この建物は六代皇帝が建てた宮殿の一部で、元々は当時の皇太子の住まいだったそう。あ、この皇太子ってのは先帝……つまり俺の祖父だ。
顔も知らないが、祖父が少年時代を過ごした場所に住むってのは悪くないと思う。
前世では、物心ついた時には祖父はいなかったからな。 ……まぁ、それは今世もか。
ちなみに使われてない宮殿は宰相や式部卿など、上位貴族が帝都に滞在する際の仮住居として使われているらしい。
それと直接聞いたわけではないが、この建物のような一階しかない宮殿のことを、「皇子宮殿」というようだ。二階が無い理由は「皇子(俺の場合皇帝だが)が一階に住むのに、二階(皇帝の頭上)に誰かいるのは不敬」だから。まぁ、その考え方は何となくだが理解できる。前世でも似たような考え方はあったしね。
ではなぜ、皇子の部屋は一階になくてはならないのか。
これは恐らく、水回りの制約と子供であることが関係していると思われる。
トイレも風呂もこの建物にはある。どちらも水が出るし、排水機能がしっかりとしていた。しかし水圧はかなり弱い。シャワーは当然無いし、トイレも水洗式ではあるが、これは穴の中を常に水が流れているだけだ。
おそらくだが、この世界ではまだポンプなどが発明されておらず、水回りが二階以上にあると効率が悪いのだろう。
そしてそれらを利用する皇子は子供である。つまり二階に皇子の部屋があると階段を一々降りて使わなくてはならない。これは危ないと考えたのだろう。
実際、動き回れるようになってからは好き勝手歩いているしね。侍女たちには、基本的に止められなかった。厨房とか、危ないところは止められるけど。
この推測の後、俺が思ったことは「ポンプの仕組みがわかっていればなぁ」だ。いや、簡単だろうって思う人いるかもしれないけどね、日常生活で使わない知識ってのは知らなかったり忘れてたりするもんだよ。
思いっきり文系だったしね。ネットとかで気軽に調べられる前世の環境が、どれほど恵まれていたことか、今さら噛みしめております。
閑話休題。
あとそうそう。それともう一つ、面白い話が聞けた。
本来、皇帝は「立太子の儀」を経て「即位式」を行い、皇帝に即位するらしい。だが俺は生まれながら皇帝だった為、この二つを行っていない。今、宰相派と摂政派が争っている最大の焦点は、この即位式を「いつ」やるかと、「誰が」帝冠を皇帝の頭に載せるからしい。
たぶん、帝冠を載せた人間が皇帝に次ぐ権威を持てるとかそういうのだろう。
まぁともかく、逃げるなら即位式の前だな。