同窓会
作者は文系です。温かい目で見守ってください。
突如として部屋の中央に現れた男。
執事服に身を包んだ若い男は、恐らく魔法が使える。それも……現れ方から察するに、俺が使えない空間操作系の魔法、あるいは精神・思考操作系の魔法が使えると見ていい。
そしてこの男の目的は皇帝の暗殺。だが依頼主と動機のない暗殺は存在しない。簡単に考えられるパターンは、宰相派あるいは摂政派によるもの。しかしヤツらに演技がバレたとは思えない。それに宰相派であれば宰相派の人間がいないタイミングで、摂政派であれば宰相派の領内で行動を起こすはず。
であれば、帝国が混乱することを狙った他国の犯行? 何のために? 傀儡が死んだところで次の傀儡が立つか、宰相あるいは式部卿が皇帝になるだけ。しかもその決定権は他国には握れない。このまま俺が傀儡である方が間違いなく都合がいい。
となると誰が何の目的で……いや、この男さっき何て言っていた? お嬢様? 将来? 俺が将来的に、この執事服の男の主人『お嬢様』にとって弊害になる……その俺はどの俺だ?
実際の俺はほとんどの人間にバレていない。となると、その弊害になるのは表向きの俺、愚かな傀儡帝か。
なるほど、交渉の余地アリだな。
「なるべく痛みを感じないように致しますので」
だがその為には、この場を圧倒しなければな!
「『防壁魔法』」
飛んできたナイフをひとまず防ぐ。ほとんど予備動作も無かったが、若さのおかげか目で追える。
しかし予想以上の威力だな。防壁に亀裂が入ってる。破棄してもう一枚展開……いや、思い切っていくつか用意しておこう。ついでにトドメ用の魔法も準備。
「んなっ!? 影武者か!!」
魔力反応。やはり魔法も使えるか。
それにしても、俺が魔法を使えると見るやすぐに影武者を疑うとは……俺の予想は当たってそうだな。
「『氷礫』!」
複数の鋭利な氷の礫が飛んでくる。溶ければ水になる氷魔法は暗殺には最適ということか……なるほど、勉強になる。
俺も得意の魔法で相手しよう。魔力を熱エネルギーに変換。圧縮し、火属性を付与した上で撃ち出す。
「『炎の光線』」
俺の指から放たれた、火属性を付与された白い光線が氷の礫を溶かし、さらに男にも向かう……が、まるで瞬間移動したかのようにかわされた。
やはり彼が使っている魔法は空間操作か幻覚、あるいはその両方といったところだな。
「レーザービーム!?」
執事服の男も今の攻撃には流石に焦ったようだ。
……うん? レーザー?
確かそれって英語の頭字語だよな。つまり同郷……転生者か!!
「いいね。テンション上がってきた」
俺がそうであるように、彼も前世の知識や理論を魔法に落とし込んでいるだろう。ならば油断は禁物。全力で戦わねば。
先程と同じ魔法を、指先ではなく身体の周囲に一斉に展開する。
点でダメなら面で制せ。
「『炎の光線』、二十基点、一斉射撃」
***
戦争、あるいは戦闘において重要なこと。それは常に相手に対し、先手を取ることである。
二十の火線による制圧射撃。普通なら、これで勝負は着くだろう。
だが相手は空間に干渉できる。ならば、面での攻撃は意味を為さない。
「『賢者の牢獄』!!」
眼前に拡がるは異空間への扉。光線はそこへ吸い込まれて行った。
さらに、その周囲に展開された氷の礫による反撃まで。
だがその魔法、攻撃ではないな?
眼前に『異空間への扉』を展開した男は、その魔法によって標的である俺を目視できていない。だから氷の礫は、俺を移動させない為の牽制だろう。
この一瞬の隙を利用して、部屋に細工を加えておく。
飛んできた礫を防壁魔法で処理。そして『異空間への扉』が閉じたタイミングを見計らい、もう一度魔法を撃つ。
「『炎の光線』、二十基点、一斉射撃っ!」
ただし、今回は先程展開した防壁に向けて。
防壁に当たった魔法は、当然ながら消滅する。
……それが普通の防壁なら。
「なにっ!?」
『炎の光線』は執事服の男に全方向から降り注いだ。
最初に展開しておいた防壁は4種類。一つは防御用の対物理・対魔法のオーソドックスな防壁魔法だ。
今『炎の光線』を当てたのは、攻撃用の防壁魔法。『鏡状反射防壁』と『屈折する防壁』だ。
『鏡状反射防壁』はその名の通り、鏡の性質を魔法に転用したものだ。これを男の近くに展開し、そこで光線を反射させる。
『屈折する防壁』は俺が生み出した魔法だ。これを俺の前にいくつか展開。光線を曲げることで、軌道を予測しづらくする。
平面がダメなら立体的に。だったのだが……
流石というべきか、彼はとっさにかわせないと判断したようだ。いくつかの光線を食らいながらも、例の瞬間移動のようなもので一気に距離を詰めてきた。
そこまでは見切られていないと思うが、実は防壁で反射させた光線は威力が落ちてしまう。だからその行動は正解だ。
どこからともなく現れた短剣を持ち、執事服の男が剣の間合いまで近づく。
俺はそれを防壁で防ぐ……
と、思っただろう?
「『氷盾反撃』」
「……カハッ」
ただ防ぐだけの防壁は、接近戦において不利だからな。
氷盾反撃は目の前に氷の壁を作り、それを形状変化させ敵に刺す、攻守一体の魔法だ。ちゃんと教科書通りの魔法も使えるのだよ。
さらに追撃しようとしたところで、再び間合いが離れる。
とその時、背後に魔力反応がした。
「無駄だよ」
展開した4種類の防壁、その最後の一つ『反撃防壁』。事前に『炎の光線』で反撃するよう設定しておいたこれで迎撃する。
それにしても、何もないところから剣が出てきたようだ。恐らく『異空間への扉』の応用だろう。こんなこともできるんだな。
「クソっ!!」
悪あがきも防がれた男は、どうやらこのまま戦っても不利と判断したようだ。魔力反応……恐らく現れた時のように、空間に干渉して逃げるつもりだろう。
正しい判断ではある……が。
「もう遅い」
自身の周囲に展開した防壁魔法に魔力を追加で送り、防御力を強化してっと。
「『炎の光線』、二十基点、継続乱射!」
四方八方へと乱れ撃たれる光線は、部屋の壁に当たり、そして反射する。
「ぐ、おおおっ」
どこから光線が飛んでくるか分からない。そんな状況になって、男は初めて防壁魔法を使った。そしてこれまで一度も使ってこなかったから、もしやと思ったが……やはり彼は防壁魔法が苦手なようだ。捌き切れずにかなり被弾している。
まぁ、『炎の光線』は極めて貫通力が高いから、ちゃんと角度つけたり魔法で強度上げないとあっさり貫通するんだけどね。そういう意味では防げている方……か?
「な……ぜ……」
「これかい? これは君がこの部屋に施していた魔法、内向きの結界を利用したんだよ」
恐らく、魔法を使って暗殺しても周囲に発覚しないよう施したのだろう。
その結界を覆い尽くすように、複数の『鏡状反射防壁』を適当に角度を変え、貼り付けておいたのだ。
流石に、これだけの『鏡状反射防壁』を同時に展開すると維持ができない。魔力に関しては『封魔結界』が止められているおかげで、いくらでも空気中の魔力を使えるから問題ないのだがな。
魔法を維持するためには、常に一定量の『意識』を傾けなければ消滅してしまう。この必要な『意識』は魔法によって大きな差があるが……特にこの『鏡状反射防壁』は大抵、宙に浮かせて使うから「どの位置にあるのか」を常に『意識』する必要があり、かなりの負担になる。三次元の座標が必要な為、「『意識』の容量」を食うのだ。
だがこうやって結界に貼り付けてしまえば、位置情報は固定できる。あとはその魔法が消えないよう、最低限の意識を割くだけで済む。
おかげで別の魔法に意識を割くことができた。
光線が乱射される中、どこか諦めまじりの笑みを浮かべた男が口を開く。
「いつの……まに」
「『賢者の牢獄』とやらで君の視線が切れた時さ」
一瞬しかなかったので、『鏡状反射防壁』の一枚一枚がかなり大きくなってしまったが。
そのせいで、ある程度光線のパターンが決まってしまっているようだ。この男も話す余裕が出てきた……つまり、このパターンに慣れてきたということだ。
まぁ、時間稼ぎも十分だろう。
ずっと起動し続けていた魔法、トドメ用の魔法を防ぐために、『炎の光線』を停止する。
「……何故止めた?」
「もう慣れただろう? それよりも、この魔法を君が防げたら交渉といこうじゃないか。それだけの価値が君にはあると証明してくれたまえ」
「交渉だと?」
いや、ほとんど味方がいない俺としては交渉してくれないと困るんだけど。これは交渉を有利にする為の威嚇というか威圧というか。
だから……
「全力で防げよ? 軽く死ねるぞ」
テーブルサイズの結界を、男の前に飛ばす。そこで魔法を覆っていた結界を解除した。
ついでに種明かしといこうか。
「ところで……バックドラフトって知ってるか?」
「……なんだとっ!?」
――爆ぜた。
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