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シャプリエの耳飾り

感想・高評価・ブックマーク登録感謝です。


 

 領主代理の子爵に『千米』の改良を命じた後、俺たちは隊列に戻った。



 結局この寄り道が響き、マルドルサ侯領の泊まる予定だった館に着いたのは夜遅くであった。

 挨拶もそこそこに夕食となり、そしてすぐに部屋へと押し込められた。



 この館はマルドルサ侯が所有している訳ではなく、その配下の子爵の居館だ。

 いわゆる下級貴族の館となると『封魔の結界』は無いらしく、わざわざ帝都から持ってきたようだ。この魔道具は宮廷などで使われているものよりも小型な代わり、持ち運びが可能。これで魔法を使った暗殺などは防げる訳だが……ヴェラ=シルヴィから預かった魔道具を使いたい今は邪魔だな。

 もしかすると『封魔結界』内でも使えるのかもしれないが、正常に作動するか分からない。出来れば外で使いたいが……


「ティモナ、護衛の数は?」

 来賓用の客間は俺の私室と比べるまでもなく狭い。個人的にはこっちの方が落ち着くけどな。その部屋の中にいるのは、俺とティモナ・ルナンの二人だけだ。基本的には毎回こうなる予定。


「扉の前に近衛が二人、外の庭に密偵が数名おります」

 ふむ。それなら窓の外出て使っても問題ないかな。

「密偵への指示はティモナが?」

「いいえ。アンリ・ドゥ・マローという()()密偵がまとめ役かと。代々ヴォデッド宮中伯家に仕える一族の人間です」

 ……その歳で「若い」って言われると、そいつは少年なのかと勘違いしそうになるが……たぶん「密偵として」成りたてって意味だろう。


「そうか。なら……いや、やはり指示はいい。そのままで」

 一瞬、彼らに下がってもらおうかと思ったが、俺がヴェラ=シルヴィと関わりがあることを密偵らは知っているだろうし、何より防音の結界を張れば聞かれることもないと思い直す。


「少し外に出る。全員待機」

「はっ。承知致しました」



 外に出て、結界を張る。あくまで防音のみ、魔法や魔力は通過する設定で展開。

 そしてヴェラの耳飾りに魔力を籠める。


「お、光った」

 しばらく籠めていると、エメラルドが光り出した。

『き……こえ、る?』

 すると宝石からヴェラの声が聞こえてきた。


「おぉ、聞こえる聞こえる」

『よ、かった。ちゃんと、動く、ね』

 ううむ。それにしてもこれ、どういう法則で動いてんだ? 何らかの電波を発信しているのだろうか……そもそも、ただの宝石にしか見えないのにどこから声出てるんだ?


 マズい。どんな仕組みなのか知りたい。分解してみたい ……いや、やらないけどね。

「……なぁ、これってどういう仕組みで動いてるのか分かるか?」

 でも仕組みは気になるので聞いてみる。


『わかん、ない、けど。元は同じ、石って。お父様が』

 元は同じ石? そこにこの耳飾りが魔道具たる所以があるんだろうけど……さっぱりわからん。俺の知らない魔法理論がまだあるようだ。ちょっと楽しみ。


「つまり伯爵なら詳しく知っているってことか?」

『ううん。たぶん、わからない、と思う、よ? 古い、家宝、だから』

 カホウ……? 火砲でも果報でも無い……えっ。これ、家宝なの!?

 この国で家宝って、「敵に奪われでもしたら、恥辱のあまり憤死する」とか言われる代物だよな?


「おぉい、そんなの渡して大丈夫なのかよ」

『……うん。渡し、たかった、から』

 いや、そんな可愛く言われても。ちゃんと返さなきゃな……分解なんてとんでもない。誰だしたいとか言った奴は。


「……そうか。ちゃんと持ち帰るよ」

 それにしても……家宝の片方持ってるの、チャムノ伯にバレたら殺されないかな、俺。

 

「あー。それで、どうだ? そっちの調子は。とは言っても前回会ってから数日しか経ってないけどな」

『えっと、ね。今日、ご飯の量、いっぱいだった、の』

 とても嬉しい出来事だったようで、声が興奮を帯びていた。

「おお、そうか。それは嬉しいな」

『うん。明日もいっぱい、だといい、な』

「明日もそうなんじゃないか?」


 食事量が()()()()()()()()……ね。

 元々、ヴェラが魔法を覚え、身体の成長が再開した時に、ヴォデッド宮中伯に彼女の食事量を増やすよう命じていた。この時点で「栄養不足から無意識に成長を止める魔法を使っており、魔法がコントロールできるようになったことで止められていた成長が再開した」という推測が立っており、当然、成長再開による「栄養不足」は予想されていたからである。

 しかし幽閉されている彼女の食事量を一気に増やせば怪しまれる。塔の監視役全員を密偵にすり替えられる程の余力は無いからな。そこでバレない程度にこっそりと増やしてはいたのだが……


 あからさまに量が増えた。つまり、帝都にいる宮中伯は「それでも問題ない」と判断したということだ。すなわち、幽閉中のヴェラに対する監視が一気に弱まっている。


 だがそもそも、彼女の幽閉に式部卿(アキカール公)は乗り気ではなかった。本来、この幽閉が無ければチャムノ伯は摂政派だったのだから。彼にとって、ヴェラ=シルヴィを幽閉しておくメリットは無い。

 おそらく、現在彼女の監視をしているのはむしろ宰相派だろう。しかし、「彼女は摂政派によって(不当に)幽閉されている」という体裁でチャムノ伯を自派に引き入れた宰相が、露骨な監視……塔内部にまで入り込むとも考えられない。


 では、その緩んだ監視は誰が放っていたものだったのか。そもそも彼女を幽閉したのは誰か。

 答えは一人しかいない。あのクソババア(摂政)だ。


 なるほど。俺がいなくなり()()()()()()摂政の帝都における影響力は低下したらしい。


 宰相は今現在、帝都に居ない。ならば宰相派が起こした行動とは考えづらい。となると……行動を起こしたのは式部卿か。


 つまり、かばう人間()がいなくなった今のうちに、分裂しつつあった自派を一つにまとめ直したと。あのアキカール公にしては簡単に、巡遊の行き先を宰相派に譲ったのは、この為だったのか……


 だがまぁ、今回は放置だな。宰相と違い、彼には息子が複数いるが……この兄弟仲がとてつもなく悪い。だから謀略はいつでも仕掛けられる。あのジジイ(式部卿)がいる限り、成功確率は低めだが。

 むしろ摂政の暴走を危惧するべきだな……あの人何やらかすか分かんないから苦手だわ。今回の巡遊はあの人が暴発する前に切り上げた方が良さそうだな……



 それからヴェラとは五分ほど、この耳飾り(魔道具)で会話した。

 何というか、前世のケータイを思い出してしまいちょっとだけ感傷に浸っていた。懐かしいなぁ。



***



 その後、一週間ほどかけてマルドルサ侯領を縦断した。この間、特に問題もなく、そして面白みもなく過ぎていった。マルドルサ侯とは宮廷で何度もあっているし、新鮮さはない。



 次のベイラー=トレ伯領は一日で抜けた。本当に「通過するだけ」だったようだ。だがベイラー=トレ伯は少しでも税を取りたいようで、領地をわずかしか通らないこの街道に、三か所も関所を設置し、通過するたびに商人から通行料を取っていた。


 汚いっていうか、みっともないと思う。けどそのせいで帝都行きの商人減ってない? 止めてもらいたいんだけど。



 そして今日、俺たちは無事にクシャッド伯領へとたどり着いた。というか、ちょうど今ベイラー=トレ伯領との境界近くにあるクシャッド伯の別邸に入った所だ。


 いや、良かった良かった。今日は危うく野宿させられるところだったよ。

 というのも、ベイラー=トレ伯領からクシャッド伯領へと入る所……つまりこの隊列の先導を宰相派から摂政派に引き継ぐ時に、大いに揉めたからだ。主に二人の伯爵が。


 やれ時刻が予定より遅いだの、やれ事前申告通りの人数じゃないだの、そっちの人間が不必要な出費をしたくせに金を払わないだの何だのと。ベイラー=トレ伯がケチで、そしてクシャッド伯が神経質そうなのが原因だと思う。二人とも細かいところにグチグチうるさい。


 てか一時間足らずの遅れが、その(いさか)いのせいでどんどん悪化していったんだけどね。

 アホらしくなって、馬車の中で昼寝してたから途中から見ていないが、起きてもまだ続いていたので相当無駄な時間が過ぎていたと思う。ティモナ含め、全員が目に見えて疲弊していた。


 俺? 俺は爆睡してたから超元気。女の子の膝枕って凄いね。



 さて、とりあえず部屋に入った訳だが。今日は意外と広めだな。


「ティモナー」

 ちょうど区切りが良いし、ヴェラに連絡でも入れようかと思いティモナに声をかける……が、返事がない。


 扉の外にいるのかと思い、熱探知でもしようかと思ったところで、はたと気づく。


 いつものあの感覚……『封魔結界』による魔力の固定化を()()()()



 ふむ。これは……


 試しに、扉の外に意識を集中して魔力を練ろうと試みる……が、できなかった。つまり扉の外は封魔結界の影響下にある。ということは、この部屋だけオフになっている……? アレはそんな風に微調整できるものじゃなかったと思うが。


 次に、壁に魔力を走らせる。これは……()()()()張られた防壁魔法(クステル)……? それも、物理・魔法双方に有効なタイプ。


 明らかに念入りな準備がうかがえる。そして当然、犯人の目的は……



 するとそこで、音もなく突如として部屋の中央に現れた、()()()の男が口を開いた。


「お初にお目にかかります陛下。早速ですが……お嬢様の将来の為に、陛下にはここで死んでいただく」



 まぁ、暗殺だろうね。知ってた。



帝国西部には『二人で家宝を分かつ』という古い風習があります。これは『最愛の人』(アキカール地方も含むので、同性の場合も存在する)に片方を渡し、それを持っている限り『愛の証明』とするものです。指輪を交換する感覚に近いですね。

しかし実際には、代を重ねるごとに家宝の片割れが行方不明となる事が多々発生し、そもそも揃ってなければ意味の無さない家宝が大半だったので、自然と廃れた風習となっています。


ですがこの話自体は残っている為、帝国西部の子女たちにとって『家宝を分かつ』ことは未だに「理想のプロポーズ」となっています。


ちなみにアキカールの人間である摂政は当然この話を知っており、もし耳飾りの件を知れば最悪ヴェラ=シルヴィを殺しにかかります。

それを理解しているので、ヴェラ=シルヴィはカーマイン以外にこの耳飾りを見せたことはありません。


次回はバトル回です

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― 新着の感想 ―
[一言] 皇帝の愚帝ムーブいつ迄続けるんだよ49迄読んだけど 万が一だよ?アニメ化とかされても49迄の長々と愚帝ムーブ見せられても誰も評価つけねぇよ、大人に成ってからが本番なのかもしれないけど成長まで…
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