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そうだ、皇国へ征こう

 こうして事前の根回しの済んだ論功行賞は、誰からも異議が唱えられることなく、あっさりと終わった。ちなみに、各国の使節も招待しての儀式だったから、皇帝の命令に異論なく諸侯が従う様は演出できただろう。

 ちなみにこの論功行賞では、国内の諸侯に対する領地称号の下賜以外にも、現状の確認や他国との条約など、色々と細かいところも改めて公表していった。



 まずはアキカール人貴族との講和について。過去の皇帝に約束を反故にされ、反帝国感情の強かったアキカール人貴族だが、彼らの反乱は事実上の降伏ではあるものの、表向きは講和という形式をとることにした。しかもこれは、アプラーダ王国も巻き込んでの講和になった。

 まず、帝国がアプラーダ王国から獲得したプロペ=カル地域をアキカール人貴族に譲渡し、独立国として承認。その上で、帝国及びアプラーダ王国からの独立保障を付与。その上で、国名は暫定的に『カル独立国』と呼称することも決定した。その代わり、アキカール人貴族は帝国国内での一切の武力蜂起、反抗を即座に停止することになった。

 さらに、希望する人間はアキカール人貴族に限らず、平民でも「カル独立国」への移住を帝国は手伝う。その代わり、半年間の移住期間の後も帝国国内に残るアキカール人についての扱いは、正式に「帝国人」とし、アキカール人とは認めない。さらにカル独立国は、帝国国内に残った元アキカール人について、無関係を宣言することなどが決まった。これで、半年後には国内から「アキカール人貴族」が完全に消滅することになる。


 この条約は、アキカール人貴族に限らず、周辺国から大いに歓迎された。だからかなりスムーズに話が進んだ。まぁ、アキカール人貴族にとってはもう抵抗する力なんて無かったし、そんな勝ち目のない状況で念願の独立国が得られるなら飛びつくだろう。

 そして条約に巻き込まれたアプラーダ王国としても、これは相当なメリットがある。なぜならこの『カル独立国』は帝国との間にできる緩衝国家になるからだ。大国である帝国は、国境を接しているだけで警戒しなければならない存在だ。それと直接相対せずに済むようになるというのは、それだけでメリットだ。

 それも帝国の属国ではない……むしろ帝国に対し反乱を起こしていた、反帝国的な国家だ。今後、アプラーダ王国が帝国と対立する場合、この「カル独立国」は自分たちの側につく可能性が高い。


 そしてこれは、リカリヤ王国にとってもメリットのあることである。彼らは今回の侵攻で、アプラーダ王国との関係が決定的に悪くなった。現在は帝国も含めた相互監視によって停戦しているが、今後どこかのタイミングで再び衝突することは決定的だろう。そしてもし、リカリヤ王国がアプラーダ王国に侵攻する場合、帝国とアプラーダ王国の間に独立国が存在することで、帝国からの援軍が大いに遅れる可能性があるからな。

 そして最後に、帝国としてのメリット。これは国内で定期的に反乱を起こしていたアキカール人貴族を、国外に追い払えるということだな。これでアキカール地方もかなり治めやすくなるだろう。あと単純に緩衝国家としての価値がある。まぁ、それくらいかな。


 あとはメリットとは少し違うが……条約で約束した平民の移住者の中に、相当数の密偵を紛れ込ませる予定だ。これで万が一の時は民衆を扇動して、帝国に有利になるよう動かせる。え、ズルくないかって? ……独立させてあげるんだからこれくらいはね。

 あと、表向きは「内政干渉を避ける」という名目で君主の指名も行わなかった。土地と国としての体裁は用意するから、君主は自分たちで決めてくれというスタンスだ。まぁ、君主を帝国で決めちゃうと帝国の傀儡国じゃないかって疑われちゃうからね。

 ……元よりアキカール人の反乱は、誰かがリーダーシップを発揮して扇動してるって訳じゃない。つまり彼らは今後、降ってわいた君主に成れるチャンスを巡って内部で激しく争うって訳だ。これで彼らのヘイトは帝国ではなく、国内の政敵に向けられる……つまりこれから先はアキカール人貴族同士で争うって訳だ。

 で、強力なリーダーが出てきそうになったら密偵を使ってこれを排除すると。卑怯? いや、反乱起こして帝国に逆らった連中に、俺が手加減する訳ないでしょ。



 次に、元アドカル侯オーギュスト・ド・アドカルにはそのまま所領の安堵。それに加え、三年間の免税とした。

 傭兵として旧領の奪還を目指していた彼は、傭兵として活動していた人物であり、貴族としての資産はほとんどない状況だった。その上、今回のアプラーダ王国との戦争でも帝国側で参戦していた。その実情は借金まみれである。

 当初は、降伏したアキカール人貴族の一部を受け入れて家臣団の補填と彼らの資金を狙っていたようだが、彼らも反乱で資金を使っているし、アキカール人貴族で固まられる方が厄介だと俺は判断した。

 アキカール人に独立国を与え帝国から追い出すことにしたので、その代わりとしての免税処置だ。ただこれをやるとアドカル侯の力が強まり過ぎる可能性もあるが……皇帝が警戒することを分かっていないような人物なら、イレール・フェシュネールが気にかけたりしないはずだ。きっと賢く立ち回ってくれるだろう。


 それと、他にも復帰した元帝国貴族については基本的に冷遇。もちろん反発はあるだろうが、実際に功績を挙げたアドカル侯と比較して、「それに満たない」と言われれば引き下がるしかない。

 ただ、その復帰した貴族の中でも一部については爵位を昇進させ、今回の皇国遠征に参加するように命じ、そこで功績を挙げれば所領を与えると、帝国貴族の前で宣言した。その一つが、ブングディット家。もう一つがカドギオール家だ。



 ブングディット家……この一族の本来の呼び名はブングダルト『氏族』だ。

 ブングダルト帝国の皇帝一族の歴史をざっくり説明し直すと、ブングダルト族の中で家格の低かった一族が、ロタール帝国に取り込まれ、成り上がって大貴族になる。その後、没落したブングダルト族全体を取り込んでさらに拡大。ロタール帝国が滅亡したり再興したり再度滅亡する中、裏切らずに帝国に従い続けていたら、皇帝位の正統後継者が転がり込んできた……って感じだ。

 そしてブングディット家は、ブングダルト族としての本来の王家筋になる。ロタール帝国に取り込まれる以前は傍系の傍系も良いところだったガーデ『支族』と比べると、ブングダルト『氏族』はそれはもう由緒正しき血統という事になる。

 だが、ロタール帝国に取り込まれたガーデ支族が実力で勢力を拡大する中、ガーフル人に圧迫されたブングダルト族は、ガーデ支族の庇護下に入るしかなかった。その過程で、本来の主家筋であるブングダルト氏族は邪魔だった。とはいえ、理由もなく殺してしまうと印象が悪いため、名誉職ばかり与えて冷遇し続けたのだ。それが今も続いている……これがブングディット家だ。


 次にカドギオール家……これは後ギオルス朝に警戒された前ギオルス朝の旧皇族である。

 まず『前ギオルス朝ロタール帝国』は盛大に崩壊し滅亡したのだが、その際ガーデ一族に保護されていた「生き残った皇族」が『後ギオルス朝ロタール帝国』として帝国を再興する。その支配領域は現在の帝国とは比べられない程小さかったが、帝国を名乗れる正統性はあった。ただ、このカドギオール家もまた『前ギオルス朝ロタール帝国』の皇族の生き残りであった。

 こうしてカドギオール家は『後ギオルス朝ロタール帝国』に保護されながらも大いに警戒された。後ギオルス朝の皇族にとって、自分たちと同じくらいの正統性があるからね。

 かといって、保護しない訳にもいかなかった。当時は周辺に『ロタール帝国の後継国』を名乗る国家が複数あり、彼らに利用される可能性があったからだ。その結果、『後ギオルス朝ロタール帝国』時代にカドギオール家は保護とは名ばかりの冷遇を受けることになる。

 その後、『後ギオルス朝』が滅亡し、ガーデの一族に皇位継承権が転がり込んできて『後ギオルス朝』の後継国として『ブングダルト帝国』が建国される。 ……この辺の流れ、昔は初代ブングダルト皇帝が歴史改竄してんじゃないかとか思っていたが、調べてみると意外と疚しいことなど一切なく、ちゃんと『後ギオルス朝』の正統性を受け継いでいる。

 ただそれは、あくまで『後ギオルス朝』の正統性だ。今はそのような論調は存在しないが、『後ギオルス朝』の正統性を認めない場合、ロタール帝国の正統後継者は『後ギオルス朝』以外の皇族……つまりカドギオール家という事になる。

 こうした事情もあり、カドギオール家はブングダルト帝国になってからも冷遇され続けたのだ。


 その家柄故に警戒され、今まで冷遇され続けたこの二家に対し、皇帝カーマインは子爵の称号を与え、今回の皇国遠征に参加するよう求めた。そこで功績を挙げれば領地を与えると、帝国貴族の前で宣言したのである。

 だってさ……もういいでしょ。何百年前の話だよって感じだ。もう彼らを担ごうとしたって誰も付いてこない。

 そして今回、論功行賞の場で派手に宣言したのには理由がある。それは、これまで帝国が警戒し冷遇してきた他のブングダルト族系貴族やロタール系貴族に対しても、「自分達にも可能性があるのでは」と思わせるためだ。つまり、領地を得られるかもという期待感を持たせ、皇国出兵への参加意欲を掻き立てるのだ。

 ……あぁ、ちなみにこの二家に対しては別に功を立てられなくても領地は与えるつもりだ。だって実際問題、もう帝国としては恐れるような相手じゃないからね。むしろこういった「かつての名家」は手厚く保護した方が貴族からのウケがいい。



 つづいて、元テアーナベ連合貴族の処分について。

 まず、早い段階で帝国に降伏したとリュスット伯とザヴォー伯については、処罰としての領地替えを命じた。ザヴォー伯なんかは最初、所領の安堵を条件に降伏しようとしたが、「じゃあ滅ぼす(要約)」と返事したら、普通に降伏した。流石にあれだけ抵抗して所領の安堵なんかする訳ないんだから、俺の心証悪くしないようにさっさと降っておけば良かったのに。

 こいつらの転封先だが、かつて式部卿が保有していたサゴン侯領を三つの伯領に再編し、その内の二つをそれぞれに伯爵領として与えた。残る一伯領は直轄領だ。

 この領地自体は中々悪くないと思う。海に面していて、港湾収益が望めるかもしれない。まぁ既にその利権は黄金羊商会が握ってるんだけど。

 ちなみに、黄金羊商会はかつてテアーナベ貴族を焚きつけ独立させ、俺の呼びかけに応じてテアーナベ連合を捨てた連中だ。つまり、この二人にとって黄金羊商会は裏切り者なのだ。まぁせいぜい頑張れ。


 次に降伏したカーンノ伯は領地没収の上、男爵家まで降格。最後の方まで抵抗したダリオット侯とノンド伯は処刑となった。

 個人的な感情でいえば、早々に仲間を見限り降伏するような貴族は信用できないし、最後まで抵抗を続ける貴族の方が立派だと思う。心情的には前者を斬って後者を受け入れたい。

 だが、それをやると今後帝国に降伏しづらくなるからダメだ。早めに降伏すると裏切り者と誹られ殺され、最後まで抵抗すれば称えられ勇士として迎え入れられる……そんなことをすれば、敵は降伏しなくなってしまう。そうすると結果的に、戦いが長引き帝国の兵士がより多く死ぬことになる。だいたい、その方針を取った王様の国は一度の敗戦でひっどい崩壊の仕方したしな。

 ちゃんと早く降伏すれば命は助かるし、抵抗を続けると殺される……そう思わせた方が、結果的に余計な戦いは減って、帝国の為になるのだ。



 あとそうそう、アウグストやフィリップといった、皇帝に刃向かったアキカール家の家系は一族全て反逆の罪で処刑となっている。これで式部卿の血が流れているのは、シャルルと俺だけになった。

 その上、彼らに追従した貴族についても、土地を持っていた貴族は没収。土地を持っていなかった貴族については、貴族としての称号が廃止……つまり平民に身分を落とすという、もっとも重い処罰を下した。これは下手すると、当人の処刑よりも重い罪だ。だって当人だけの処刑なら子供は貴族名乗れるが、この処罰は子供は貴族名乗れないからな。


 他にも、アプラーダ王国から奪還したアキカール・トレ侯領は二つの伯爵領にして、今のところ直轄領としている。ここが、ブングディット家とカドギオール家にあげる領地の候補だ。それ以外の直轄領……ヘアド=トレ侯領とかは、皇国との戦争で功績を挙げた者に与えようかなと思っている。

 というか、可能な限り直轄領は減らしたい。だって管理しきれないし、直轄領で代官として赴任してる貴族の不正とか、ほとんど見逃してるからな。

 だが信用できないヤツに与えてもな……ということで、直轄領としている。ただまぁ、この辺の代官の不正は、ニュンバル侯の協力で少しだけ改善すると思う。


 こうして現状は信用できる有力貴族に領土を集中させて、彼らに力を与えている訳だが、同時並行で皇帝の力も強化している。

 というのも、キープしている直轄領ではなく、本格的に統治している皇帝直轄領の方は、狭い土地ながら産出される資源などが重要な土地……つまり、管理に必要な手間(人員)は少なく、それでいて利益の大きい、「美味しい土地」ばかりだからな。

 例えばテアーナベ連合に参加していたザヴォー伯の「所領の安堵」を認めなかった理由もそれだ。ここはテアーナベ連合の最も東にある小さな伯爵領だが、ここには銀鉱山があり、さらにガラス産業も盛んという、あまりにも金になる土地だったのだ。

 そういう土地ばかり直轄領にしている。今は少しずつだか、十年もすれば帝国の国庫は潤うだろう。



 ……こんな感じで、今回の論功行賞では皇帝は良い領地を直轄領に、そして大部分の領地はこれまで皇帝カーマインのために戦ってきた群臣に与え、彼らを厚く遇するって形を取った。

 だが、今回の論功行賞で最も重要なのは実はそこではなかったりする。それは、ロタール帝国時代から続く伝統的な「公領、侯領、伯領」の区分を再整理した点である。


 たとえばヌンメヒト女伯家。前回の論功行賞でシャルロット・ド・ダリューはヌンメヒト伯領とヴァッドポー伯領、二つの領地の領主になった。これはヴァッドポー伯領にいる子爵以下の現地(下級)貴族からすれば、領主の首が挿げ替えられただけであり、以前と何ら変わってはいなかった。ヌンメヒト伯領にはヌンメヒト伯領の法律、ヴァッドポー伯領にはヴァッドポー伯領の法律というように、行政上は別の領地として扱われていたのだ(もっとも、それほど大きな法の差は無い)。

 だが今回、統合されてヌンメヒト侯領が新設された。これによって、ヴァッドポーの法が廃され、ヌンメヒトの法に統合されるかもしれない。いや、法だけならまだいい。もしかすると、ヴァッドポー伯領の貴族は廃されてヌンメヒト伯領の貴族に土地を奪われるかもしれない……という危機感をヴァッドポー伯領の貴族に抱かせたことだろう。


 もちろん、実際にそうするかどうかはヌンメヒト女侯爵の自由だ。実際、彼女なら現地貴族にもある程度配慮すると思う。だがここで重要なのは彼らに危機感を抱かせるということ。自分たちの権益を守るため、あるいは奪われてもいいように新たな権益を得る為、今回の「皇国出兵」で功を立てる必要に迫られている。

 新設する侯爵領の名前について、別に家名から取って「ダリュー侯爵領」にしても良かったのに、あえて「ヌンメヒト侯爵領」にしたのはこういう狙いがあってのことだ。意図的に「差」を設けることで、危機感を持たせ、皇国出兵への意欲とする。そういう狙いもあったのだ。


***


 こうして論功行賞を終えた後、皇帝カーマインはいくつかの政策を実行した。

 その一つ目は、税収などを不正に着服して私財を肥やしていた皇帝直轄領の代官貴族の処罰である。ニュンバル侯の協力の元、明らかに「やってる」証拠のある貴族をいくつか、見せしめとして処刑した。それもただ処刑するだけでなく、貴族称号を剝奪した上での処刑だ。重い罰則だが、これはベイラー侯シャルルからも「合法」のお墨付きを得ている。もちろん、ただの不正なら処刑とその職務の取り上げ止まりだろう。だがそれでは、帝都の無職貴族が増えるだけだ。

 そこで今回の処刑理由は、「皇帝の私財を盗んだ」ことによる大逆罪である。もちろん、理論的にこれは正しい。皇帝直轄領の収入は、国庫か皇帝の私財、どちらかに入る。そして今回は、「運悪く」皇帝の私財に入る収入だった。その収入の一部を着服してしまったため、この貴族は大逆罪に処されたのである。


 このロジックで、俺は毎週一人ずつ、明確に有罪な証拠のある直轄領の代官貴族を殺していっている。その額がどれほど少額であっても、証拠があれば大逆罪にできるからね。

 今、直轄領の代官貴族らは震え上がっているらしい。自業自得だな。

 こいつらは俺が傀儡だった頃に許され、その後反乱や戦争が相次ぐ中で俺が「今潰して反乱とかに合流されると面倒くさい」という理由で見逃していたことを良いことに、それがさも貴族の特権かのように着服してたんだ。同情の余地はない。


 その上で、皇帝は「皇帝直轄領での納税額が想定より少なかったこと」を理由に、今後大規模な調査をすると宣言した。これが本当なら、直轄領の代官貴族は半分以上が絞首台に消えるだろう。

 だが、これは俺の本当の目的ではない。このタイミングでもう二つほど、政策……というか、宣言を行った。

 一つは皇国へ出兵するのであれば、過去の罪を一部帳消しにする……という宣言である。

 これ自体は、過去の内乱や直近の反乱などで皇帝に刃向かったことのある者に対する救済措置としての政策である。首謀者などは処刑済みだから、その下で追従した者たちに関しては、皇国に出兵するなら許してやると宣言したのだ。


 これを聞いた直轄領の不正代官貴族はこう思った。自分たちも皇国に出兵すれば、不正の罪は許されるんではないかと。それも対象にするとは一言も言ってないのにね。

 だがここで、追加で皇帝からもう一つの通達があった。それは「今回の遠征では、領民を持たない貴族も、各々傭兵などを雇って参加してもいい。その功績によっては、領地を得られる」とはっきりと宣言したのだ。

 過去の罪が許されるかもしれない上、領地も得られるかもしれない。そう思った代官貴族は、今帝国周辺で活動していた傭兵やゴロツキに一斉に連絡を取っているらしい。


 これで金のある所から金を出させ、しかも帝国周辺の治安も良くなる。長らく帝国周辺では戦争があり、傭兵は帝国周辺に集まってきていた。平時の傭兵は面倒で、野盗とさほど変わらない存在ばかりだ。なのでこの機に、こいつらを天届山脈の向こう側へ置いてこようという作戦だ。これぞ一石二鳥の政策と言えよう。

 そしてこれは、代官貴族以外にも夢を与えた。もちろん、金だけある貴族が傭兵を雇って立身出世を夢見て参戦するだろう。だがそれ以外の、金すらない貴族……立身出世を夢見るプライドだけ高い職無し貴族も、持っている財産を担保にして、一発逆転を夢見て傭兵を雇い始めたのだ。


 こうして帝国の動員可能兵力は膨れ上がった。塵も積もれば山となるのだ。だが、俺は今回の遠征に動員する帝国軍の数は、『二十万』から増やさないことに決めた。つまりその分、大貴族が供出する兵力が減るという事になる。

 彼らには「新しく与えた領地の治安安定化が最優先」と伝え、「皇国出兵の功績は、これまで活躍できなかった貴族に譲るように」と伝えた。



 さて、こういった基本方針さえ決めてしまえば、あとの細かい計画は臣下の勝手にやってくれる。補給計画、進軍計画、徴兵計画などは、責任者さえ決めてしまえば後はその責任者がやってくれるのだ。

 皇帝に求められることは、必要な権限を与え、必要な予算を与え、そして報告を聞くことだけだ。あとは失敗した時に責任を取るくらいだろうか。

 むしろ俺のメインの仕事は、そういった類とは全く別の異なる部分にある。


 つまり、宣伝だ。皇帝がこの遠征にやる気であることを国内外に示す。そのために、正直かったるくて好きじゃない社交にも積極的に出た。

 言ってしまえば、「皇国出兵キャンペーン」あるいはロビー活動だろうか。とにかく、方々でこの活動を続ける。この遠征が、空前絶後のビッグウェーブかのように見せ続ける。

 ちなみに、この活動に乗せられてヘルムート二世もノリノリになってた。もしかしてこの馬鹿は、一周回って癒し系のマスコットなのかもしれない。



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― 新着の感想 ―
かわいい、ヘルムート2世
大変面白く読んでいます。ストーリー自体がとても素晴らしいのですが、 「天届山脈の向こう側へ置いてこよう」 には思わず吹き出しました。
マスコットキャラクター、ヘルムート二世w
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