論功行賞に向けて
こうして、秘かに皇国遠征の基本方針を固めた帝国は、次は国内に目を向ける。この大きな戦争に向けて、国内を安定させる必要がある。
この冬は周辺国との戦争が一段落し、国内の抵抗勢力も全て排除された状態だ。俺が即位の儀で宰相と式部卿を粛清してから(あるいはテアーナベ連合も含めるならそれ以前から)ずっとどこかしらで反乱や戦争は起きていたからな。
そしてこのタイミングで、再びの論功行賞……帝国が得た領地や反乱した貴族から没収した土地の再分配を行うことにした。そもそも前回の論功行賞で、国内を完全に平定したらもう一度やるって言ったからね。
そんな訳で諸侯を帝都に集めている訳だが、俺は今回の論功行賞について一つの方針を打ち立てた。
それは皇帝権力の強化と誇示である。皇帝権力の強化は皇国への出兵へ向けて、国内貴族に対してある程度の発言権を得る為。皇帝権力の誇示は、周辺諸国や皇国周辺の各国に対し、俺がリーダーシップを発揮できるとアピールするため。
その具体例として俺は今回、領地替えを行うことにした。
帝国ではこれまで、あまり領地替え……領地を召し上げて別の領地を与える行為は行わなかった。伝統的に、召し上げようとすると反乱などが多発したからだ。だから基本的には対象の貴族が応じないとできないし、これは貴族の方から拒否することができる(もちろん、処罰の一環としては拒否されずに下せる)。
この領地替えの拒否は貴族の権利の一つでもあった。これが土地を持つ貴族と、代官として頻繁に赴任地を変えられる土地なし貴族の間にある大きな差とも言えた。
だが、俺は今回領地を召し上げ、別の領地を与えるということを繰り返すつもりだ。これまであまり行われなかったことを繰り返し、内外に皇帝の権威を見せつける。
ただし、本領地……以前から所有していた領地については手を付けない。ここに手を付ければ確実に不満が出るからだ。今回召し上げるのは前回の論功行賞で与えた土地……つまり、まだ支配が本格化していない土地だ。これなら、諸侯の不満も少なくて済む。
つまり実際には大した皇帝権力の強化じゃない。でもこれすらできないくらい先代皇帝の権力というか、発言力は弱かったのだ。あの宰相や式部卿ですら、「皇帝を操って領地を替えさせる」ってことができなかったから、代わりに他国に政敵の領地を割譲させたんだよね。
じゃあ権力誇示にならないのではと思うかもしれないが、これは国内貴族に対してではなく、他国に向けて……それも反皇国諸国に向けてのアピールだ。皇帝カーマインに対皇国連合の盟主になるだけのリーダーシップがあると見せつけるのだ。
こうして、これまでとは異なり皇帝の独断で諸侯に領地替えを行うと決めた俺は……宮廷にその諸侯を呼び寄せ、領地替えについて相談することにした。
……え? それじゃ今までと変わらないって? いやいやこれ、非公式の会談だから。表向きは独断でやったってことにするからね。そんな、裏で根回ししたかどうかなんて、他国には分かりませんよ。
という訳で、まず俺はチャムノ伯を呼び出していた。が、交渉は早速難航していた。
「いい加減首を縦に振ってくれ……」
俺はチャムノ伯にそう頼みこむ。だが彼は、相変わらずこちらの要請を拒否し続ける。
「申し訳ありませんが、それだけはお許しいただきたく」
頑固だなぁ。まぁ、俺の方から強要はできないけどさ。
「どうしてもか」
「はい。それはあまりに性急が過ぎます」
そういって首を横に振るチャムノ伯。もうずっとこの押し問答だ。彼は一歩もこちらの要求に屈する気はないらしい。
「そうは言ってもなぁ。皇帝の親族になった以上、ある程度は力を持ってもらわねば困る。どうか公爵になってくれ」
……領地を召し上げる話だと思った? そんなの二つ返事で承諾されたよ。んでその後、代わりに領地を大幅に増やすから公爵に就任してくれって言ったらこれだ。褒賞に飛びついてくれる人なら楽だったんだけどね。
「なりません陛下。当家は伯爵家にございます。侯爵家ならまだしも、いきなり公爵ともなれば、必ず反発がございましょう」
いるか? 今の帝国にそんなやつ。もうずっと元帥として軍を率いている功を立て続けてるし、娘は皇帝の妃だし。チャムノ伯に意見できる人間なんて、ワルン公くらいしか……あぁそうか、そこへの配慮か。
「いや、ワルン公には卿以上に領地を抱えてもらうつもりだ。特に彼が何か言うとは思えないが」
ワルン公には、独立したら王国名乗れるくらいには領地押し付けるよ。
そんなに与えると離反された時に危ないって言われるかもしれないが、俺としては他の貴族よりはワルン公の方が信用できる。だって、皇帝の妃の実家だし。後継者問題で揉める可能性はあるが、少なくとも俺に対して反乱を起こすメリットはない。そもそも、あの専横を極めた宰相も式部卿も、領邦を事実上の独立国と言われるくらい好き勝手したのに、最後まで独立はしなかったからな。
反乱や独立っていうのは、基本的に現状に不満があるか、あるいは野心があるから起こす訳で。ワルン公にしろチャムノ伯にしろ、今反乱を起こす理由はないのだ。
「それでも、貴族筆頭はワルン公です。ラウル・アキカール時代を再び引き起こしてはなりません」
「それはつまり、ワルン公が認めれば構わないと?」
俺がそう確認すると、チャムノ伯は長い沈黙の後に答えた。
「……構いません」
何その渋々って感じの沈黙は。もうちょっと貪欲に出世欲とか持とうよ。
そんなこともあり、次に俺はワルン公を呼び出した。
「身体の調子はどうだ、ワルン公」
一応、経過観察では健康に問題なしと言われているし、最近他の元帥と一緒に呼び出した時も、至って健康そうだった。彼が受けた毒に関しても、猛毒ではあったが幸いにも有名な毒だったおかげで、対処が上手くいったそうだ。あと、魔法での治療も効いたらしい。魔法って便利だね。
「はっ。問題ありません」
そう答えるワルン公に、俺は事情を説明する。
「なるほど……相当気まずかったのでしょう」
何やら得心がいった様子のワルン公は、特に悩むこともなく答える。
「私としては全く、彼に思うところございません。ぜひ公爵になっていただきましょう」
ものすごくあっさりと話が進んだ……。それにしても、何に対する気まずさだろう。
「それで、彼は何が心配だったのだ?」
「ナディーヌより先に、ヴェラ=シルヴィ様がご懐妊なされたことが……でありましょう」
あー……なるほど。現公爵を差し置いて、自分が先に皇子か皇女の祖父になるからか。それで序列を重視していた訳だな。
「納得がいった。では、構わないな?」
「えぇ。ナディーヌにまだ子ができていないのは彼の責任ではありますまい」
……あ、はい。すいません……俺の責任です、はい。
すげぇ遠回しに責めてくるじゃん。いやでもさ、子供は天からの授かりものだし、欲しがればできるって話でもないし。
「……言っておくが、皇国出兵が終わるまでは無理だぞ。卿に突き付けられた約束は守らねばな」
妃が妊娠中は軍を率いるなって要求されてるからな。これはワルン公が蒔いた種だぞ。
「分かっております。ですから、陛下に詰め寄ったりはしていないではありませんか」
……でもチクチクと小言は言うと。ワルン公も目が笑っている。皇帝に向かって……非公式の場だからって……くそぅ。
「では先に卿と交渉することにしよう。今度の論功行賞の内容だが、ルーフィニ侯領を召し上げる。代わりにポワン伯領とヘアド=ノベ侯領を貰ってくれ」
俺がそう言うと、ワルン公は少しだけ抵抗を示す。
「それは……多すぎるかと。既に前回の論功行賞で過剰なまで領地をいただいております。それも、今後の先払いとの話ではありませんでしたか」
「ポワン伯領に変えてヘアド=トレ侯領でも良いのだぞ」
俺はもっと土地を増やすぞとワルン公に脅しをかける。二人揃って遠慮しすぎなんだよ。
さっきも言ったが、ワルン公もチャムノ伯も妃の実家なんだからな。皇帝の親戚として強大な貴族になってもらわなきゃ困る。
何より、ワルン公家は特に男子が多い。どうせ相続の際に息子たちに分割されるんだから、何世代も強力な貴族であり続ける可能性は低い。有り余った領地の押し付け先として便利なんだよ。
「今回の論功行賞で卿以外にも公爵に任ずる者が出てくるからな……貴族の筆頭格として、卿には他の公爵と差を付けなければ」
ワルン公が受け取らないと、他の貴族が十分に褒賞を貰えないぞと脅すと、ワルン公は観念したかのように、これを受け入れた。
「……謹んでお受けいたします」
まぁ脅しというより、事実だしなこれは。上がちゃんと貰うもん貰ってくれないと、相対的な兼ね合いで下の方が割を食うのだ。
これでワルン公の保有称号はワルン公・ブンラ伯・ポワン伯領とヘアド=ノベ侯領だ。面積だけだったら宰相の最大版図に匹敵する。まぁ、経済力と人口で見れば全く敵わないんだけど。
「それでなんだが……公を越える公として、大公の称号はどうだろうか」
「断固として拒否させていただきます」
俺の打診を、ワルン公は強い言葉で断る。えぇ……後続が苦労するよって言ったのに。
「なぜだ」
「過去、大公を送られたガユヒは帝国に反旗を翻し、自称した二人は帝国にて専横を極めました。その称号を名乗れば、野心ある者と勘繰られるかと」
えー。別に大公名乗ったから何かしたって訳じゃないだろうに。まぁでも、貴族である以上、外聞を気にするのは当然のことか。
「だがそれだけでは、卿の功には見合うまい。卿が十分な褒賞を貰ってくれねばチャムノ伯ら他の貴族も貰ってくれぬだろう」
実際、ワルン公はそれだけの功を立てている。ちゃんと十分な褒賞を与えないと、俺の方が何言われるか分からない。
そんな俺の考えを理解したのか、ワルン公が自ら希望を伝えてくる。
「では一つ、お願いしたいことが」
「何だ。何でも言ってくれ」
まぁ、実現するかは分からないけど。
「では皇国への出兵の際、当家が供出する兵力、陣容等について、一切を当家の采配にお任せいただきたい」
それは皇国出兵を見据えた、特権の要求だった。俺はこの要求に、思わず笑ってしまった。
「流石だな……良いだろう。ただし、把握はしておきたいから申告はしてくれ。それから元帥として、一軍を率いてはもらうぞ」
これでワルン公は極論、一人も兵を出さなくてもいいことになる。まぁ元帥としての仕事はあるから、実際はそんなことにならないんだけど。
「分かった。……ところで、それはチャムノ伯に伝えても良いのか?」
それがどのような意味を持つのか、チャムノ伯に言わないと「褒美」と認識されないかもしれないからな。
「えぇ、構いません」
それを踏まえて、チャムノ伯との交渉、二回目。
「……とのことだ。公爵になるように」
「ワルン公がそうおっしゃるのであれば」
よし、これでようやく話を勧められる。
「ではまず、前回も言ったが飛び地であるメディウス伯爵領を召し上げることにする。その代わりとこれまでの功への褒賞として、アキカール=ノベ侯領とアキカール=セイ伯領を治めてもらいたい」
この二つは式部卿のお膝元だった地域だ。経済的に発展している地域だが、それはつまり現地の貴族も裕福で力を持っているという事になる。彼らは式部卿やアキカール公家を徹底的に潰した皇帝に対し、反感を抱いている可能性も高い。実際、式部卿は自分の利益になれば不正とか見逃してたようだからな。それが許されなくなったら、抵抗するかもしれない。
だからこの地は力のない貴族には任せられない。その点、元帥としての名声があればある程度は抑えられるだろうとの考えだ。
「特にアキカール=ノベ侯領の港は経済的利益も見込めるが、他国の影響力が延びている可能性がある。この影響力を排除したい。卿にしかできない頼みだ」
貿易が行われる港っていうのは、どうしても外国の影響力が生まれてしまうからな。それを常に監視してほしい。
……黄金羊商会? あれはもうどうしようもない。異大陸からこの大陸では生産されない嗜好品とかを独占して輸入してくるんだ。しかも連中、確かに高価だが手間を考えれば法外というほどの値段では捌いていない。価格設定が絶妙なんだ。
その上、組織で販売価格が徹底されている。連中の凄いところは商人の集まりのクセに一枚岩なところだ。それだけイレール・フェシュネールのカリスマが凄いんだろう。
「承知いたしました」
「それからチャムノ伯領とアキカール=ノベ侯領。この二つを統合しチャムノ公爵領を設置する。以後チャムノ公と名乗るように」
これで「チャムノ公」の保有称号はチャムノ公・コパードウォール伯・アキカール=セイ伯になった。その面積はあの式部卿が保有していた土地に並ぶくらいだ。
もっとも式部卿の場合、生前から息子らが別の貴族家として独立していた。これらを合わせたらもっと広大な土地をアキカール家全体では保有していたことになる。それに、式部卿は領地以上に周辺貴族に対して影響力を保持していたが、チャムノ公はそういう訳でもない。
……あと、チャムノ公と帝都の間には、あのエタエク伯を置くつもりだ。万が一チャムノ公が野心を抱いたとしても、エタエク伯で対応はできると思う……まぁそんなことにはならないだろうけど。
ちなみに、ワルン公と帝都の間にはファビオがいる。
「これからも頼む」
二人のことは信用しているし、二人には他の貴族に影響力を持つ大貴族になってもらいたい。だがそれはそれとして、万が一に備えた警戒もする。「警戒」の対義語は「油断」や「楽観」であって、「信用」ではないからね。この二つは両立するのだ。
二人の元帥との交渉を終え、次は三人目。序列としてはゴティロワ族長のゲーナディエッフェなんだろうけど、彼に領地を与えちゃうと帝国貴族として内部に取り込んでしまうことになるからな。自分たちの文化を守りたい彼らにとっては却って迷惑だ。だから金や特権を褒賞として与えることにしている。とは言っても限りがあるからな……ここは悩ましいところだ。これはアトゥールル族長ペテル・パールも同じだな。
まぁそれはさておき、三人目の交渉相手は……ファビオ。ラミテッド侯だ。
「公爵っ!?」
俺に呼び出されたファビオは、提案を受けて驚きの声を上げる。
「そうだ。卿にはチャムノ伯と一緒に公爵になってもらう」
具体的には今回ワルン公から召し上げたルーフィニ侯領と彼が元々保有するラミテッド侯領。これを統合しラミテッド公爵領を新設する。ちなみに、前回の論功行賞で与えたヴォッディ伯領は統合させてない。今後また功を立てたら、ヴォッディ伯爵領は召し上げて別の侯爵領を与えることになるだろう。
あ、ちなみにチャムノ「伯」って呼んでるのはまだ正式には公爵になっていないからだね。でも俺と本人が承諾した時点で公爵就任は決定事項だ。
「待ってください……まだ年齢も功績も、公爵に見合うようなものではありません!」
なんでみんな昇進嫌がるんだろうね。出世なんだから飛びつけばいいのに。
……まぁ、褒賞として領地を与えられた大貴族になった結果、その力を警戒した君主に理由つけて罰せられる……ってのは古今東西後を絶たないんだけどね。
しかしファビオの場合、彼の言う事は正しい。
「そうだな」
ファビオは若すぎる。俺よりは年上だけど、俺が若すぎるだけだし。あと功績も、元帥らと比べると見劣りする部分はある。もっとも、ドズラン侯の宮廷襲撃の際の対応は殊勲と言ってもいいんだけどね。あれだけを評価して公爵に「抜擢」となっても、批判はされないとは思う。それだけ、皇帝の命と帝都を守ったという功績は大きい。
「公爵など、あまりに分不相応……」
「いや、もう一つの評価項目で公爵になってもらうことにした」
だが今回の場合は抜擢というよりちゃんとした順当な評価だ。
「歴の長さだ。余の配下になってからのな」
前世ではよく企業の年功序列のシステムが批判されたけど、貴族と君主の間の関係においては、これは最重要項目の一つになる。
だって反乱や裏切りが多発する社会だぜ? そこにおいては「裏切らなかった」というだけで十分に評価される。そしてファビオの場合、俺が政治の実権を握ったあの即位式より前から俺に忠誠を誓っていた。しかもそれを既に公表している。
「今後、即位の儀以降に余に忠誠を誓った貴族らに褒賞を与えていく上で、即位の儀以前より配下だった卿を蔑ろにする方が道理に合わない」
建前上はワルン公やチャムノ公も即位式以前から皇帝に忠誠を誓ってたってことにしたけど、実際は二人よりも先に俺に忠誠を誓っていたのがファビオだ。
「諸侯からも異論は出ないだろう。傀儡の皇帝の真意を見抜いたその先見の明、称えられこそすれど、反論は出まい」
俺の芝居がかったセリフに、ファビオは冷ややかな視線を向けてくる。
「……選択肢が無かっただけなのですが?」
それはそう。忠誠を誓わせた場面、完全に脅迫だったしね。
「ならば今回もいつも通りだな」
つまり拒否は許さないってことだ。俺は、舅でもあるワルン公やチャムノ公には下手に出るけど、ファビオはファビオだしな。
「では、ニュンバル侯は? 彼も正確には即位式以前から陛下に従っていたはずです」
直接のやり取りはなかったけど、宮中伯を通してならそうだったな、確かに。
「打診したら財務卿から降りていいならって言われたからダメだ」
最強のカードを切られたからもう撤退済みです。勝てない戦いはしないのが無敗の秘訣だよファビオ君。
「……くっ」
でもファビオには俺を脅せる材料がないからね。はい、俺の勝ち。これから仕事量跳ね上がって大変だろうけど頑張って。
「……本当に、理由はそれだけなのですか」
そう言って悔しさを滲ませるファビオ。いやぁ、愉快愉快。
「……あと、公爵になってくれるとヘルムート二世係として身分も十分になるし」
「それが本当の狙いではないですか!」
声を荒げるファビオの肩を、俺は黙って宥めるように叩く。頑張れ。
……いや、功に報いようって気もあるよ、ちゃんとね。という訳で出世おめでとう。
その後も有力諸侯を呼び出しては、次々と論功行賞の内容を決めていく。
まず、ニュンバル侯にはチャムノ公から召し上げたメディウス伯領を与えた。一領地だけの所領増加だが、この地は経済的に相当豊かだから、ニュンバル侯としての経済力は相当強化されるはずだ。ニュンバル侯家には将来的に、もっと力を持ってもらいたいからな。
彼本人の内政能力も帝国に不可欠だが、彼の息子アルヌール・ド・ニュンバルも指揮官としてかなり優秀だ。独自の『魔弓部隊』は精鋭兵だし、それを侯爵自身は率いずに息子に一任している為、その若さに見合わない経験を積んでいる。彼は将来の元帥候補だな。
次にヌンメヒト女伯。前回与えていたヴァッドポー伯領とヌンメヒト伯領を統合し、ヌンメヒト侯爵領を新設。彼女にはヌンメヒト女侯爵になってもらう。それに加え、一時的に直轄領として預かっていたベリア伯領も彼女に与えた。
ちなみにこのベリア伯領について、元々の計画としては、ラミテッド家などが宰相らの陰謀で粛清された「三家の乱」の被害者だった為、傍流でも生き残ってたら貴族に取り立てようと思っていたんだが……なんとテアーナベ連合に居ました。
いや、理屈は分かる。宰相に領地を奪われたから、宰相らが実権を握っている帝国ではなく、そこから独立宣言したテアーナベ連合に合流するっていうのは。ただ、あまりに時勢と運が悪過ぎた。
しかもよりによって、このベリア伯の傍系の生き残りこそ、テアーナベ連合と帝国内で反乱を起こした三つの伯爵(ベイラー=ノベ伯・ベイラー=トレ伯・クシャッド伯)領との橋渡し役だったのだ。
彼らがテアーナベ連合と内通していたのは宰相らが実権を握っていた頃。つまりこのベリアの生き残りとしては、宰相への復讐でやっていたのであって、皇帝カーマインが憎かった訳じゃないかもしれない。
ただその後、俺が粛清で宰相らを排除し親政を開始し、内乱を制しテアーナベ地方平定に乗り出し、内通していたことがバレると思い伯爵らが反乱を起こし……という怒涛の展開にそのまま流されてしまった。本当に運がない。
というわけで、この生き残りは助命こそするものの、一族は貴族の身分を取り上げられて平民となった。こうして継承者がいなくなったベリア伯は正式に皇帝の保有称号となり、それを今回ヌンメヒト女伯に与えることになった。
何せやったことだけ見れば反乱幇助だからな。流石に許すわけにはいかない。当人にとっては家の再興のために必死だっただけなんだろうけど、時勢を見誤ったというか、何というか……こうやって見るとファビオってかなり運がいいよな。
次にエタエク伯。彼女には前回の論功行賞で与えていたノイブル伯領(旧ニュンバル伯領)を召し上げ、代わりにヴェーニュ伯領を与えエタエク伯領と合わせてエタエク侯領を設置。彼女はこれで侯爵になった。さらにこれまでの格別の戦功への褒賞として、アキカール・ドゥデッチ侯領を与えることにした。ガーフル相手の戦争とか、彼女の働き無しに勝利は無かったからな。
与えた領地はアキカール家の反乱やアキカール人貴族の反乱のあった反抗的な地域だが、彼女の戦働きは国内外問わず有名だ。その武勇は現地の抵抗勢力に対する抑止力になるだろう。
彼女に与えたこれらの領地を合わせれば十分に公爵相当ではあるが、公爵には任じなかった。彼女は若いし、まだ早いだろう。あとちょっと暴走が怖い。この辺が微妙な落とし所だろう。
ちなみに、この召し上げたノイブル伯領は今回の論功行賞でマルドルサ侯に与えることにした。