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 ふわりと、まるで重力を感じさせない軽やかで滑らかな動き。窓から俺たちが会談していた部屋に飛び込んできた人影は、それはもう気軽な感じで俺に話しかけようとした。

「へい、かぁあ!?」

 同時に、バルタザールの剣が侵入者に突き付けられる。流石は近衛長、いい反応だ。まぁ、それはさておき。

「何してんだ。ヴァレンリール・ド・ネルヴァル」

 マジで何やってんだ、コイツ。


「陛下!? 中で何か!」

 扉の前で警護している近衛も、何事かと聞いてくる。そりゃ、扉を固めてるのに窓から侵入者って、驚くのも無理はない。

「まだいい。必要なら呼ぶ」

「……はっ」

 部屋の外に無事を告げ、再び室内に目を向けるとヴァレンリールが剣を突きつけられたまま無害をアピールするかのように両手を高く上げていた。格好もいつも通りだが、どう見てもサイズが合っていないであろう大きい靴が目に留まる。

「で、何をしに来た」

「いやぁ、陛下に頼みごとがあって来たんですけど、もしかしてお取込み中でした?」


 ヴァレンリール・ド・ネルヴァル……転生者を親に持つ、転生者とオーパーツに関する研究者だ。馬鹿と天才は紙一重というが、コイツの場合は馬鹿で天才だ。

「そうだな。というかそもそも常識的に考えて、この時間に皇帝に会いには来ないだろう」

 というか、俺に対してアポなしで突撃とか舐めてんのか……分かってないんだろうなぁ、そういう常識が。

「いやぁ、さっき廊下歩いてるのが見えたんで。てっきりヤることヤって、大人になったカタルシス感じながらワインでも飲んでいるのかと」

「お前酒入ってるだろ」

 こいつ、マジで一回牢にぶち込んでやろうかな。すっげぇ腹立つ。あと普段より少しテンションが高い気がする。


「あのぅ、剣を下げてはもらえません?」

 バルタザールによって首筋に剣を当てられたこの状態は、さすがにこの女もこたえるらしい。

「お前には今、暗殺未遂の容疑がかかっている」

「えぇ!?」

 心外だと言わんばかりの態度に思わずイラっとくる。

「えぇ!? じゃねぇ! なんで窓から入ってきた」

「え。扉から入ろうとしたらなんか止められたからですけど」

 ドアから入れないなら窓から入ろう……とはならねぇだろ!? 頭おかしいだろこの女。


「そこで止められたなら、窓からだろうが入っていい訳ねぇだろ」

「えぇ、でも窓開いてましたよ?」

 確かに、窓は開いていたようだ。だからと言ってそれは「入っていいですよ」の合図ではねぇ。……というか、ローデリヒ・フィリックスは逃走経路まで確保していたか。用心深いな。

「あとどうやって入ってきた」

 ヴァレンリールにそんな身体能力は無かったはずだが。上の階からロープでも垂らしてきたか? ……いや、それより怪しいのは靴か。


「あぁ、この靴です。便利なオーパーツで、少しの間滞空したりゆっくり降下したりできるんですよ。浮かび上がることはできないんで浮遊魔法とか反重力魔法というより、滞空魔法ですかね。問題は私の足とはサイズが合わないから中に詰め物しないといけないのと、燃費が悪いみたいで一定時間使うとエネルギーを充填する時間が必要な点。あと充填モード中は馬鹿みたいに重いんですよね。……おっと、つい語ってしまいました」

 はぁ……殺意は無さそうだしとりあえずいいや。

「その馬鹿が暗器などを隠し持っていないか調べてくれ。女だからと遠慮はしなくていい」

 俺がバルタザールにそう指示を出すと、ヴァレンリールは「えぇ」と不満げな様子は見せながら、平然とボディチェックを受け入れていた。ちなみに恥じらいとかは特にない……そういう女だからな。

「まるで犯罪者の扱いぃ」

 暗殺の容疑者として即牢屋に叩き込もうとしてないだけ良心的な処置だろうが。



「厄介な女が厄介なところにいたものだ」

 バルタザールが両手を上げたヴァレンリールのボディチェックをしていると、思わずとった様子でフィクマ大公国の使節が呟いた。

 するとそれまで眼中になかったのか見向きもしていなかったヴァレンリールが、ローデリヒ・フィリックスに気が付き声を上げた。

「んんん? もしかして『旧都の忘れ形見』じゃないですか。大きくなりましたね。皇国の第七皇位継承者がこんなところで何を?」

 ……ちょっと待て、皇国の継承者だと?

「テイワ皇国の皇族? フィクマ大公国の使節だと聞いていたが?」

「あぁ、入婿ですね。フィクマ大公に気に入られて婿養子になって、そのお陰で粛清から逃れたんですよ」

 ボディチェックが終わり、解放されたヴァレンリールが伸びをしながらそう話す。

 

 だから、そういう衝撃的なことを何でもない事のように言うんじゃねぇ。


「よくこの女を飼おうと思いましたね」

 すると、さっきまでの好青年っぽい雰囲気は消え、フィクマの使節からは君主としての風格すら感じるような……少なくとも皇族と聞けば、なるほどと納得できるくらい堂々としたオーラを感じた。

 なるほど、これが本物か。演技で威厳ある皇帝を演じている俺とは大違いだな。

「あぁ、よく失敗したなと後悔しているよ。だがたった今、成功だったかもしれないと思い始めた」

 とりあえず壁際に立たされ、「酷いぃ」とつぶやくヴァレンリール。頭のおかしいトラブルメイカーだが、結果的にこうも的確に刺さるとはな。

「皇国の皇族とは知らずに無礼をした。余の方から詫びさせていただこう。ところで、さっきまでの質問は、全て皇国の人間としてのものかな?」

 フィクマ大公国の王族からだと思っていた質問も、皇国の皇族からだとなれば意味は大きく変わる。「いつ皇国に攻め入るつもりだ」とか、本当に答えなくて良かった。

「さて、ご想像にお任せいたします」


 まぁ、腹の探り合いが上手い相手に、同じ土俵で戦うのも馬鹿らしい。

「ヴァレンリール、知り合いならぜひ紹介してくれ。彼は第七皇位継承者なのだろう?」

 もうどうせ引いたなら、徹底的に使ってやる。

「えっ、私も詳しくは忘れましたけど」

 ……つ、使えねぇ。

「あーでも確か、現皇王より前皇王の方の家系でしたか。本当はもっと継承順位低かったんですけど、親戚みんな粛清されて繰り上がったんですよ」

 そう紹介されたローデリヒ・フィリックスからは、一瞬殺気のような気迫を感じた。まぁ、あまりに不躾というか、神経を逆なでする紹介のされ方ではあったな。

 だがそうか、なるほどな。おおよそこの男が何者かは理解した。



 先代の皇王は、先々代の皇王の実子では無かった。一方で、現皇王は先々代の皇王の実子だ。つまり、実子と養子による後継者争いがあり、一度は養子が勝利し即位するも、一人の男によりクーデターを起こされ、現皇王が即位することになる。それが宮宰、ジークベルト・ヴェンデーリン・フォン・フレンツェン=オレンガウだ。その功績により、彼は皇国の権力者として君臨する。

 だが後に、現皇王とこの宮宰も対立してしまう。その際、現皇王と宮宰が和解する条件として、前皇王の親族を宮宰は粛清した……って感じの話を、俺はまだ傀儡だった頃に聞いていた。目の前の青年は、その時の粛清の生き残りか。


 さて、このローデリヒ・フィリックスという男が何者なのかは大体分かったが、結局のところ問題点は変わらない。この男がどの立場にいるかだ。身も心も完全にフィクマ大公国の者なのか、親戚一同を粛清された恨みで現皇王へ復讐しようとしているのか、あるいは皇位継承者としてこれから起こる次期皇王を決める政争……そこに名乗りを上げようとしているのか。

「余は俄然、貴殿に興味が湧いた」

 目的も謎だ。帝国を利用したいのか、あるいは帝国の情報を皇国に渡して皇国の方に恩を売りたいのか。

「私はフィクマ大公国の使節です。それ以上でもそれ以下でもありません……少なくとも今は」

 また建前か? いや、本心かもしれない。今はということは、今後は変わるかもしれないって意味だろうし。

「だから陛下にお尋ねしたのです。皇国へはいつ頃攻め入るおつもりかと」


 ……なるほど、帝国の敵になるにしろ味方になるにしろ、帝国による皇国への侵攻を利用するつもりなのは確かと。今はそれくらいしか言うつもりは無いらしい。

 本当はもっと探りたいが……肝心のがあまり情報を持っていなそうだからな。

「大変有意義な時間を過ごせました」

 結局、フィクマ大公国の使節、ローデリヒ・フィリックスとの会談はそこでお開きとなった。正確には逃げられたって感じだが、まぁいいだろう。

 これは慈悲ではなく、今後の布石になる。敵に回れば厄介だし、敵に回らないよう完全にコントロールできる相手ではない。だが、話の通じない相手ではない。嫌われないうちに会談を終わりにしておこう。


 実際、俺としては皇国の現状を知ることができた。それは極めて大きい……まさか皇王が幽閉されるかもしれないとはな。その場合は間違いなく、この先の皇国は後継者争いで大きく荒れる。そして内側で争い、弱体化したところを……そのシナリオを描くなら、こっちの戦争は早めに切り上げた方が良いか。

 とはいえ、敵か味方かも分からない相手の情報を鵜呑みにする訳にもいかない。まずは宮中伯に言って情報の裏付けを頼まないとな。

「こちらこそ……貴殿とは長い付き合いになりそうだ」

 どんな道を選ぶかは知らないが、どれを選んだって成功しそうだ、この男は。

「願わくば、良き隣人でありたいものです」

 良き隣人ねぇ……それは何を以て「良い」とするかによるだろうか。

「あぁ、それと。その女には気を付けた方が良いでしょう……少なくとも皇国は制御できなかったのですから」

 そう言い残して、ローデリヒ・フィリックスは立ち去った。


***


「そろそろ良いですかー陛下」

 ……ところで、彼も転生者だったのだろうか。あの若さであの気迫、転生者であっても可笑しくない。

 だが転生者が全員優秀って訳でもないんだよな。記憶に欠落があるせいで、俺たちは二度目の人生というより、前世の記憶があるってくらいの存在だ。下手にこの世界や非転生者を見下してると、簡単に足元をすくわれる。

「あのぅ、陛下? もーしもーし」

「ヴァレンリール、あの使節殿はお前の研究対象か」

 俺の質問に、ヴァレンリールは首をかしげる。

「え? いやぁ違うんじゃないですか。優秀でしたけど、転生者ほど早熟ではありませんでしたよ……って、それよりそろそろ話を聞いてもらっていいですか」


 はぁ、めんどくさい。そして厄介ごとの臭いしかしない。

「なんだ、不法侵入者」

「いい加減もう結婚式飽きたんで、ちょっと別のダンジョン行ってきていいですか」

 お前、主君の結婚式を飽きたって。しかもそれ主君に直接言っちゃうの、マジで頭大丈夫か。人として最低限のマナー……言っても無駄か、コイツの場合は。


 ヴァレンリールには、帝都の地下にあるダンジョンを解析するという仕事がある。だがその地下のダンジョンは『建国の丘』の聖一教西方派の教会地下に存在する。だがその教会は、ブングダルト帝国としては重要な場所であり、今回のような皇帝の結婚の際は、その『建国の丘』の教会が使われる。

 そして俺はこのヴァレンリールを、ある意味では全く信用していない。真上で結婚式やってる最中に地下で作業を進めさせた結果、大爆発を引き起こして大惨事……とか平然とやりそうである。そもそも、あの地下施設の存在を帝国は秘密にしているしな。

 つまり、この期間中ヴァレンリールは暇なのである。少しくらい、大人しくしていてほしいが……ん?


「ちょっと待て」

 残る結婚式はヴェラ=シルヴィとのものだけだ。帝都自体、あと三日もすれば祝祭の全行程が終了する。その後は平常どおりに戻るし、きっとそのころにロコート王国からは宣戦布告が……って、それは今は良い。

 これから帝国が周辺諸国全てと戦争するって時に、別のダンジョンを訪れる? それってつまり……そのダンジョン、国内にあるってことだよな?

「まさかお前、まだ国内に申告してないダンジョンがあるのか」



 長い沈黙の後、ヴァレンリールは少しも可愛くない仕草でこう言った。

「……てへぺろ?」

「おい、バリー。こいつを拘束しろ」

 俺の命令に素早く反応したバルタザールが、ヴァレンリールを床に組み伏せる。

「うへー」

 呻き声すら腹立つなコイツ。


 ダンジョン……というより、そこから出てくるオーパーツは危険だ。この時代の、低い魔法レベルの文明である我々には過ぎたる兵器。中でも脳に作用する類のものは、俺は無条件に解体するべきだと思っている。それ以外の物も、危険なものは極力解体してしまいたい。

 現状って、核兵器の整備方法も知らない連中が、核兵器を保有してるようなもんだしな。


 そんな危険なダンジョンの秘匿とか、普通に重罪だろ……まぁ、表向きには知られてないダンジョンやオーパーツに関する方は存在しないから裁けないんだけど。それでもこの女は危険だ。

「俺は今、お前を殺そうか悩んでいる」

「あぁ、ちょっと待って全部言いますからぁ」



 まず、なんでこのタイミングで他のダンジョンへ行こうとしたのか。それは帝都の地下ダンジョンについて、少しだけ進展があったかららしい。

 そもそも、大抵のダンジョンは常にセキュリティが作動している。あるダンジョンは中身を持ち出そうとすると攻撃され、最悪の場合殺される。またあるダンジョンは、中身を持ち出そうとするとそもそも出入り口が開かなかったりする。そういうセキュリティが作動しているダンジョンがほとんど……というより、ヴァレンリールの推測では「そのセキュリティが無いダンジョンはとっくの昔に中身を盗掘されつくした」のではないかとのことだ。


 どういうことかというと、まずダンジョンは古代文明の遺産であり、当時は現代と比べものにならないレベルで魔法が発展していた。これは間違いない事実。しかし現代では、そのほとんどが失われた。これも疑いようのない事実。問題はこの間、魔法の衰退期において「どう衰退していったか」だ。

 ヴァレンリールの推測では、まず高度な魔法文明を維持していた「作る技術」から失われた。しかし衰退期初期において、「使う技術」はまだ残っていたはずだと。だから施設の内部から物を持ち出せないセキュリティ……それが最初から無かった施設は、オーパーツに限らずあらゆる部品が持ち出され「リサイクル」されており、我々の世代に至るまでには土に還っているのではないかと。

 実際、技術というより資源という意味でも、リサイクルが行われていた可能性は十分にある。


 この時代の人間にとって、オーパーツは魅力的に見える。それはある程度使い方が分かるから。魔道具自体は今も存在し、オーパーツというのは言ってしまえば、高度な技術が使われた魔道具だからだ。

 一方で、施設内で生きている魔法について、この時代の人間たちは魅力を感じない。それはこの魔法について、一部の天才を除けば効果も使い方も全く分からないからだ。だからオーパーツ以外の、施設の中身に興味はない。理解できる奴を除けばな。

 だが昔の人たちは、施設内の魔法どころか、部品に至るまで再利用の方法を知っていた。だからとっくの昔に、シロアリに木造家屋が食われつくすかのように消失していると。



 閑話休題、何が言いたいかというと、持ち出し防止のセキュリティが起動してないダンジョンは、最近になって停止したものを除いて存在しないという結論らしい。

 そんで、ここからが本題。問題は帝都の地下にある施設について。あそこの剣は、事実として持ち出すことができている。ブングダルト帝国で儀礼剣として使われていた『人造聖剣ワスタット』。これを言い伝えに反して常に所持していたせいで、六代皇帝はあれだけの暴政を敷きながら殺されることは無かった。

 この矛盾について、ヴァレンリールの見解は一つ。つまり『建国の丘』地下のダンジョンは「兵器の製造所」だから。兵器というのは、基本的に使うために作られている。だから製品については持ち出されるのは当たり前だと。その代わり、武器以外……施設の中身や部品については、やはり持ち出し防止のセキュリティが作動しているらしい。


 あぁ、ちなみに俺が今使っている『聖剣未満』だが、もしかするとこれは、正確にはオーパーツではないかもしれないとのことだ。可能性として一番高いのは衰退期の人間が、ダンジョンの設備を利用して作った魔道具だとのこと。だから今と比較すれば優れた技術では作られているが、古代文明ほどの技術ではないらしい。古代文明の物としては「レベルが低すぎる」だとさ。

 ……つまり分かったこととしては、帝都地下にあるダンジョンに残っていたオーパーツは、古代の人間ですら「手に余る」か、「使い物にならない」と判断した欠陥品のみ残っていたということだ。そんな欠陥品に喜んじゃった初代皇帝のせいで、俺はここまで苦労することになった。「無知は罪」とは、正にこのことを言うんじゃなかろうか


「そこまでは分かった。だが、なんでそれが他のダンジョンを見に行くことに繋がる?」

「陛下が分かるように言うとですねぇ、つまり『兵器の製造』とか『セキュリティ』に関するソースコードがどの部分なのかが分かったんですよ。これは一歩前進な訳です。あとは『それ以外のソースコード』の中から『エレベーター』に関するものがどのあたりか特定できればよく、ちょうど『それ以外のソースコード』の中に、過去行ったことがあるダンジョンで見かけたものと同じものがあるなー、そういえばあそこもエレベーターあったなーってなったので、行ってきていいですか?」

 ソースコードって、プログラミング用語だったよな? いや、俺別にそっち系はよく分からないんだが。

 ……要するに、過去見てきたダンジョンと比較したいのか。それで、詳しく調査できていないダンジョンの調査をしたいと。わざわざ兵器の製造が云々と嬉しそうに語るってことは……。


「つまり、過去に見てきた『ソースコード』と比べて見慣れない部分があり、その内一部が『兵器の製造』だと分かったから、残りの部分が『エレベーター』で合ってるか確かめたいと?」

「そーですそーです。帝都の地下のダンジョンって、『主電源』と『エレベーター』を停止させずに、それ以外の全てを停止させれば陛下からの命令はクリアじゃないですか。『主電源』は流石に分かりやすいので特定済みで、あとは『エレベーター』の部分の確証が欲しいんですよ」


 そこまでは分かる。それはいい。

「で、言い訳は? なんで帝国国内のダンジョンを隠していた」

「それを報告しろとは言われなかったじゃないですか。アイツらとなるべく話したくないですし」

 ……つまり、『アインの語り部』がどれくらい見つけているか、それを聞くために会話するのも嫌だったから放置していたと。

 まぁコイツのことだ、絶対それだけじゃない。

「どうせ停止した後の中身の研究、一人でやりたかったとかそんなところだろう」

「……ノーコメント」

 よし、今後はコイツの監視、もっと増やそう。



 それはさておき、何でそのダンジョン知られてないんだ。

「ラウル公領に残った資料には他のダンジョンに関する資料は無かったが、お前まさか隠蔽までやったのか」

「いえ、行ったのは幼いころですよ。場所が場所でしてー、ラウル公の所にいた頃は行けなそうだったんで、言わなくていいかなと。けど今ならこっそり行けば誤魔化せそうかなって」

 ラウル公の庇護下では入れない場所? アキカール公領だろうか。

「……ちなみにどこだ?」

「ゴティロワ族自治領の山中です。天届山脈近辺は未開発でけっこーダンジョンが残ってたりする穴場です」

「良い訳ねぇだろ!?」

 よりによって、一番アポなしじゃいけないとこじゃねぇか。


「えぇ? だってゴティロワ族、陛下に従ってるじゃないですか」

「絶妙な関係なんだよ! こっちは彼らの主権を尊重しているから彼らは協力的なだけだ。土足で踏み入ったら怒られるだろうが!」

 帝国と彼らの関係は支配ではなく協力だ。そもそも、ただでさえ長年の聖一教からの迫害で彼らはよそ者に厳しい。こんなトラブルメーカー一人で送り込めるか!


 俺は深呼吸し、心を落ち着かせる。たぶん、コイツ相手にかっとなったら負けだ。

「余が彼らに常々配慮してることは、流石のお前も知っているだろう。余がゴティロワ族贔屓だという陰口、宮中で働いてれば聞いたことあるはずだ」

「あぁ、それゴティロワ族だったんですか。アキカール族かと思ってました。私、民族は研究対象外なんで覚えられないんですよねぇ」

 一日の最後にコイツの相手とか、本当に疲れるんだが。というか、アキカール族ってなんだ。


「……もしかしてアトゥールル族って言いたいのか」

「あぁ、それ。それです」

 こいつマジで終わってる。ほんっとうに研究以外ダメだな!?


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― 新着の感想 ―
転生者…ねぇ 基本的には平凡に生きている現代人が過去の偉人や傑物には及ばないって思ってるから転生者をめちゃくちゃ特別視しなくてもいいと思うけど… ただ、知識は別 発展した科学とか色々知ってるのは使…
[一言] オーパーツ遣いがちょいちょい出て来るから オーパーツを破壊する為のオーパーツの使用を考えなきゃいけなくなるかもねぇ 戦争で出てきた集団洗脳系といい、パーティで出てきた印象操作?感情を操る…
[一言] バリーに拘束させながらこんな会話してんの? バリーの胃大丈夫?
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