表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/216

戦後処理と改革の準備



 冬になった。この間に、俺は帝都に帰還し、諸侯によって帝国はほとんどが統一された。

 ラウル地方に限らず、ラウル派として敵対していた諸侯は完全に平定されたし、アキカール勢力として挙兵した一部諸侯についても、俺が寛容な処置をすると約束したところ、あっさりと降伏した。


 結局のところ、あのシュラン丘陵での戦いで全てが変わったのだ。

 それまで強いと言われていたラウル公が兵力有利にもかかわらず敗れ、その当主は戦死。一方でなんの実績もなかった皇帝は、自ら戦陣に立って兵数も質も劣勢な状態で勝利した。

 それを見て、敵対していた諸侯は俺に敵わないと判断した。そして俺が許す姿勢を見せたことで、一斉に恭順したのだ。



 降伏しなかったのは、自分が許されないと自覚している連中たちだ。もちろん、俺だって全ての貴族を許すつもりはない。見せしめは必要だ……国を支配するためには、時に恐怖も必要なのだ。

 具体的に言えば、アキカールの三勢力。『アウグスト派アキカール』、『フィリップ派アキカール』に『旧アキカール王国貴族』だ。とはいえ、『アウグスト派アキカール』と『フィリップ派アキカール』に与していた帝国北西部の諸侯は、既に帝国に降伏している。

 さらに、所領を失ったり、未来はないと判断したりした旧アキカール王国貴族も続々と降伏してきている。今彼らは、帝国南西部の狭い範囲で、将来性のない泥沼の争いをしている。正直、今の諸侯の規模なら潰せそうではあるんだが……窮鼠猫を嚙むというからな。時間をかけて、じっくりと潰せばいい。


 あとは、俺が傀儡だった頃に独立を宣言した貴族連合……テアーナベ連合が依然として独立を維持している。だがここについては、黄金羊商会が海上の交易船を攻撃していたり、周辺国と帝国が協力して交易を妨害していたり、相当なダメージは与えられている。

 とはいえ、まだ官僚制度が未発達だから、完全な経済封鎖は難しい。取引するなといっても小規模な商人まで完全に制御はできないのだ。


 他に降伏しなかった貴族で言うと、ブンラ伯爵領・ヴォッディ伯爵領・ディンカ伯爵領・ヴァッドポー伯爵領だな。

 ただ、この四つの伯爵領についても平定が完了したことで、俺はようやく一区切りとして功ある諸侯を集めたのだった。


 ちなみにこの四つの貴族家に関する顛末を言うと……まず、ブンラ伯家。ここの当主、ユベール・ル・アレマンは元々、近衛長だったのだが……即位式の後、拘束したついでに解任している。

 その後、釈放される領地の息子たちや配下の貴族らに帰還を拒否される。

 これは立地が悪かったな。何せ、ここはワルン公爵領の隣だ。現地の貴族はワルン公と戦うために、速やかに彼の息子に権力の引継ぎを完了させていた。まぁ、それが分かったから解放したんだが。

 そして居場所がなくなった彼は、実はシュラン丘陵での戦いに参戦していた……しかも俺らの側で。ただ、戦闘の序盤も序盤で不利と判断したのか逃亡。しかし、不運にも遭遇した盗賊に襲われ死亡した。

 実に不運な出来事だった。その密偵……じゃなかった、盗賊は現在も行方不明である。んで、彼を追い出していた息子たちは爵位の「僭称」と見なされ処刑。当主も不慮の事故で亡くなったため、継承者不在として取り上げになった。

 二重権力、敵前逃亡、手放さなかった近衛への影響力……まぁ、生かすのは無理だね。

 

 次にヴォッディ伯爵領。ヴォッディ伯だったゴーティエ・ド・ヴォッディは元宮内長官だ。もちろん、即位の儀の後、すぐに解任しているけど。ここは降伏勧告も無視して戦い続けたため、戦後に所領取り上げとなった。

 ただその代わりとして、一族自体は貴族として助命した。これは正確に言うと、「領地を返上する代わりに許してください」と彼らが謝ったので、許した形式だな。まぁ、彼らとしても一族郎党皆殺し……なんてことにはなりたくないし、できれば貴族のままでいたい。こっちとしても、領地が回収できる上に穏便に引き継げるからな。いい妥協点だろう。

 ヴォッディ家は現在、子爵家になっている。抵抗していた割には寛大な処遇にしたのは、ここがブングダルト人じゃなくてロタール人貴族で、そのロタール系貴族から請願が来たからだ。口出ししてくるあたり、忌々しいなとは思うが……今はまだ無視できない。

 まぁ、男爵家も子爵家も俺としては大差ないし。あぁ、それと当主はシュラン丘陵での戦いに参戦していて、戦死している。石に吹き飛ばされていたが、奇跡的に確認できたのだ。


 そしてディンカ伯爵領。ディンカ伯サリム・ル・ヴァニーユは元侍従財務官……つまり摂政派だった貴族だ。こいつは国庫の横領容疑で取り調べられていたな……まぁ、その犯人はイレール・フェシュネールだったんだけど。ただその間、当主不在の領地で息子が継承。皇帝派と敵対した。

 その後、ヌンメヒト伯女シャルロット・ド・ダリューの軍勢に敗れ、一族は大半が逃亡。残されたサリム・ル・ヴァニーユは、全てを失った。家族も領地もな。だから彼については、ヴォッディ家と同じく、男爵への降格で助命した。


 んで、最後にヴァッドポー伯爵領。ここはまぁ、色々とあったな。

 前ヴァッドポー伯はカルロス・ル・ヴァッドポー。これは侍従武官だった男だ。

 ……そう、この男はヒシャルノベでの事件で、傀儡時代の俺の護衛を自ら買って出ながら、真っ先に逃亡した男である。彼は爵位を長男に譲った上で隠居という寛大な処遇に処された。その長男がゴードン・ル・ヴァッドポーで、彼は即位の儀の後に帝都で拘束されていた。

 その間に、領地で隠居していたカルロスが権力を奪取、ヴァッドポー伯を僭称した。これはまぁ、俺としても迂闊だった。もう俺の中で過去の人間になってたからな……まさか再び這い上がってくるとは。

 だから俺も巻き返しのためにゴードンを解放したんだが、領地に着くや否や実の父親に殺されたらしい。どうやら、自分の権力を奪った人間として息子を恨んでいたらしい。いや、お前の不始末押し付けられて大変そうだったんだけどなぁ。かわいそうに。

 そういう事情もあり、カルロスは最初っから皇帝派に降伏するという選択肢がなかった。そして皇帝派についたアーンダル侯に猛攻を仕掛けていたようだ。彼らはアーンダル侯を戦死させ、領地を占領することに成功するも、肝心のラウル僭称公がシュラン丘陵で敗北。

 その後も長いこと抵抗していたが、最後は夜逃げ同然に逃亡し、おそらくテアーナベ連合に合流したと思われる。ちなみに、シュラン丘陵での戦いを除けば、今回の内乱でもっとも多くの被害が出たのが、このヴァッドポー伯領平定戦である。

 そこまで粘り強く戦えるなら、巡遊の時に逃げなきゃ良かったのにな。

 そういった背景もあり、ヴァッドポー伯爵に関しては諸侯の強い要望で爵位を没収することになった。


 この没収した四伯爵家に、宰相が保有していた下ラウル公爵領・エトゥルシャル侯爵領・ルーフィニ侯爵領、彼が占領していたベリア伯爵領……これが今、一時的に俺が預かっている領地である。


 うん、広すぎ。これだけ一気に直轄領が増えても管理できないし、当然諸侯の不満がたまる。独占は嫉妬を生むからな。だからこれから俺は、戦後処理としてこれらの領地を分配しなければならない。

 普通はこのまま、今回の内乱で功績の大きかった順に領地を分配していくんだが……俺はその前に、いくつかの決定を下した。


 まず一つは、ベリア伯爵についてである。ここは俺が生まれた直後に発生した『三家の乱』で不当に反逆者として処断され、断絶した一族である。だが俺は『三家の乱』について、直々に不当な判決だったという判断を下し、名誉挽回を約束している。そして同じく『三家の乱』で断絶した三つの家のうち、ラミテッド侯爵については傍流ながら生き残りであるファビオを継承者として認め、復活させている。

 だから俺は、傍流でもベリア伯を復活させたいと思っている。今は血縁関係にあって、継承権のもっとも高い人間を探し回っている。これは時間のかかる作業だろう……何せ、反逆者の汚名を着せられ、族滅といっていいほど殺されたのだ。平民になっている可能性が高いし、そもそも国外にいるかもしれない。

 そういうことで、ベリア伯爵領については皇帝が一時的に保有し、継承者が決定次第引き渡すことになった。これは諸侯の同意も得ている。


 そしてもう一つの決定……それは下ラウル公爵・エトゥルシャル侯爵の『分割』である。

 そもそも、この二つの領地は少し広すぎる。その上、宰相は帝国の金で自分の領地ばかりを開発していたからな。今では経済的にも帝国内有数の先進地域……このまま誰かに与えると、また力が集中しすぎることになりかねない。今代は良くても、将来的に第二の宰相が生まれかねないのだ。

 だから俺は、この称号を細分化することにした。下ラウル公爵位は暫定的に一つの侯爵位と四つの伯爵位に、エトゥルシャル侯爵領は三つの伯爵領に分割することにした。わざわざ暫定としたのは、いずれさらに細分化するつもりだからだ。

 この領地境界については、川などを基準として暫定的なものを引いているが、正確な境界については調査の上で結果を出すということにしている。まぁ時間はかかるだろうが、反対する貴族はいなかった。それくらいの権力は握れたからな、俺。


 そして、論功行賞が始まった。



※※※



 帝都の宮廷にはその日、即位の儀以来はじめて貴族が集まっていた。

「これより、此度の戦役において特に功あった者を呼ぶ。呼ばれたものは、前へ来るように」

 玉座に座り、俺は平伏する大貴族たちを見下ろしていた。部屋に入れない中小貴族は別室で待機しているが、伯爵位までの貴族はほとんどこの部屋にいる。もちろん、一部は代役もいるが、ほとんど貴族本人が来ている。

 これは、今が冬だからできることだ。積雪もあるこの国において、冬の間は軍隊の行動が著しく制限される。冬の間は、ほとんど戦争が起こらないのだ。だから貴族はみな、領地を離れて宮廷に集まっている。ワルン公はもちろん、チャムノ伯だって来ている……彼については、本当に久しぶりに会う気がする。



「勲功、序列一位。リヒター・ドゥ・ヴァン=ワルン」

 隻眼の武人が、玉座の前まで来てゆっくりと跪く。それを見て、俺はワルン公の功績などを読み上げていく。

 まぁ、一番実力のある貴族だし、色々と精力的に働いてもらったからな。この男を除いて誰を第一功にしてもかどが立つだろう。帝国元帥だし、それに見合うだけの働きはしてもらったからな。

 あと、彼が任命した『軍監』エルヴェ・ド・セドラン子爵や、ナディーヌの功績も全部ワルン公の功績ということになる。だからそれはもう、とんでもなく多い。

「……以上の功をもって、卿には新たにルーフィニ侯爵、およびブンラ伯爵の称号を与える。これからも余のため、帝国のために忠義を尽くすがよい」

 俺の言葉を聞き、ざわめきがかすかに広がる。まぁ、この辺は本人には事前に相談したり通達してたりするが、外野は知らないからな。ただまぁ、このざわめきの小ささからするとそれほど予想外のことではなかったかもしれない。


 ちなみにこれは、ワルン公本人との相談の結果決めた褒美だ。公爵の要望は「飛び地だけはやめてほしい」だったので、地続きになるよう領地を与えた。元から公爵だった人間に、侯爵領と伯爵領を一つずつ与えても平気なのか、第二の宰相にならないのかという不安もあるが……まぁ、大丈夫だと思う。

 これはもちろん、ワルン公という人間を信用しているというのもあるが、それほど「美味しい」領地ではないからな。ラウル公爵家の長年の内政により産業が発展し経済的に豊かになった下ラウル公領と比べ、ブンラ伯領もルーフィニ侯爵領も、ほとんどが穀倉地帯……言ってしまえば田舎なのだ。ワルン公的には兵を食わせるために嬉しいかもしれないが、それほど稼げる名産品はない。ルーフィニ侯領の北部は少し製紙業が強いが、それでも競争相手が多く、独占とはならない。


「勲功、序列二位。チャムノ伯マテュー・ル・シャプリエ」

 俺が読み上げると、少しだけ外野がざわめく。まぁ、チャムノ伯にはほとんど領地を防衛してもらってたからな。ただ、ヴェラ=シルヴィの父でもあるので、彼女の功績も合わせて彼に下賜される。そこから、彼がまた分配して陪臣に褒美を渡すのである。

 だからさっきの例でいえば、俺からエルヴェ・ド・セドラン子爵に直接褒美を与えてはいけない。それは引き抜きと見なされるからだ。……まぁ、もちろん時と場合によるんだけど。

 さて、チャムノ伯についてだが、彼には即位の儀以前の功績も含めて読み上げている。まぁ、これくらいしてワルン公の対抗馬になってもらわないと、俺にとってもワルン公にとっても不幸なことになりかねないからな。

「……以上の功をもって、卿には新たにコパードウォール伯爵、メディウス伯爵の称号を与える。付随して、前コパードウォール伯爵、ロジェ・ル・ユーグにはエトゥルシャル・セイ伯爵の称号を与える」

 俺の宣言を聞き、今度は大きめのざわめきが生まれる。まぁ、これは仕方ないな。自分でも、ちょっと特殊な処理を行った自覚はある。

 この国では、日本の安土桃山時代とか江戸時代の『国替え』のような、領地の転封はほとんどない。だが今回は、それも絡んでいるからな。


 まず、摂政の愛人だったコパードウォール伯爵ジャン・ル・ユーグについてはいいだろう。謎に同じ塔に幽閉されることを志願し、謎にそこで死んだ。そして俺たちは、どさくさに紛れてコパードウォール伯爵領を占領した。その中で、コパードウォール伯爵家には二つの派閥が生まれた。一つは俺と敵対する道を選ぶ勢力、もう一つは皇帝に全面的に従う勢力。ジャン・ル・ユーグの長男と次男は進駐していたチャムノ伯に敵対し、三男のロジェ・ル・ユーグはチャムノ伯に協力した。結果、ロジェ・ル・ユーグが爵位の継承を認められた。

 ただまぁ、なんのお咎めもなしとはいかなかった。本人は協力したとはいえ、家としては分裂した上、その平定に帝国も力を貸したし、本人は功績をさほどあげられなかった。だから別の土地に領地替えすることになったのだ。


 チャムノ伯には地続きでコパードウォール伯領を、飛び地として旧下ラウル公爵の中央、メディウス伯爵領を与えることになった。ちなみに伯爵領としているが、メディウス伯爵領は余裕で侯爵領クラス、下手すると公爵領レベルに近い発展をしている。

 一方で、ロジェ・ル・ユーグに与えた旧エトゥルシャル侯領南部、エトゥルシャル・セイ伯領もそれほど悪い領地ではない……復興すればコパードウォール伯領よりいい収入になるはずだ。まぁちょっと逸った馬鹿たちが略奪をしてしまった都市が集中しているので、復興は必要だが。

「またこれからも余のため、帝国のために忠義を尽くすがよい」

 ワルン公が暴走しないように、チャムノ伯にはちょっと多めに領地を与えることになった。その代わり、与えたのは全て伯爵領……実力では並べそうでも、貴族の序列としては低い……そういう調整で落ち着いた。



「勲功、序列三位。ゴティロワ族長ゲーナディエッフェ・ラ・ゴティロワ」

 俺は二人の元帥に並ぶ勲功者として、ゴティロワ族長をあげた。ただ、今日は彼は来ていない。代理の者だ……ただブングダルト人と変わらぬ身長的に、族長の一族の誰かだろうな。

 ちなみに、この序列は十位までつけるのが伝統らしい。大きい戦争とかの後は、こうやって論功行賞を行うのが、ブングダルト人の文化なんだとさ。そして序列十位から先は、順序をつけずに褒美を与えていく……のだが、まぁ呼ばれた順番で評価されていると受け手は感じるらしいから、この順番というのがとてつもなく気を遣う。

 俺は一月近く悩んだぞ……だって、金銭だけの褒美でもまとめて読み上げるからな。

「……以上の功をもって、ゴティロワ族長を将軍に任じる。以上だ」

 またしても場内が騒めく……しかし今回は、驚きというよりほっとした様子が多いようだ。序列三位とは思えない褒賞のなさだからな。まぁ、俺は事前にゲーナディエッフェと意思の疎通ができてるんだけど。

 ほんと、ゴティロワ族のこと嫌いだよね、君たち。俺はろくに働かない中小貴族より、蛮族といわれようがゴティロワ族の方が信用できるけどね。

 あと、多くの貴族は気付いていないようだが、俺がゴティロワ族長を将軍に任じたのはかなり大きい意義がある。まぁ、それは今はいいか。


「次だ。勲功、序列四位……」

 そこから先も、どんどん褒美をあげていく。序列四位はアーンダル侯だ。とはいっても、本人は戦死している……だからこその序列四位なのだが。

 別に生前、俺と交流があったとかではないが、俺が勝つと見越して命がけで戦った……そんな彼の働きを俺は大きく評価する。彼が脱出させた二人の息子のうち、兄の方にはアーンダル侯爵を継がせたうえで、旧エトゥルシャル侯領北部においたエトゥルシャル・ドゥデッチ伯領を与えた。地続きだし、面積的にはエトゥルシャル・ドゥデッチ伯領の方が大きいかもしれないから大出世と言えよう。まぁ、領地が広いかどうかより、人口とか生産品とか、そういうのも総合的に見て爵位のランクは決めているからな。

 そして弟の方には、宮中子爵として領地はないものの、独立した家の当主となることを認めた。二人ともまだ若いという不安はあるが、若い貴族や帰参したての貴族に「命がけで戦えば出世できるぞ」という実例を見せるためにも、必要なことだと割り切ることにした。


 序列五位は財務卿……ニュンバル伯ジェフロワ・ド・ニュンバルだ。彼についてはまぁ、今回の内乱だけでなく、過去十年以上にわたる感謝も込めて、序列評価以上の褒美を与えることにした。

 まず、領地を変更。旧エトゥルシャル侯領中部のエトゥルシャル・セント伯領と、旧下ラウル公領北部インデクス伯爵領を与えた。ちなみに、インデクス伯領は鉄が大量に産出するので、面積以上に稼げる土地だ。そしてこの二つの伯爵領を合わせて、ニュンバル侯爵領を新設。彼を初代ニュンバル侯とした。これはかなり異例のことだ……新設した爵位の名前に関してもね。

 あと宮内長にも任じた。ついでに式部卿を廃止して、あの男がやっていた仕事……宮中儀礼・行事系の采配も全部、宮内長の職務として統括した。


 決して文官が足りないから押し付けたわけではない。うん、きっとそうだ。

 ちなみに、今回の諸侯に対する接待や、夜に行われる晩餐会についての采配も、既にニュンバル伯……じゃなかった、ニュンバル侯に丸投げしている。



 次に序列六位、マルドルサ侯にはディンカ伯領を与え、序列七位エタエク伯には旧ニュンバル伯領改め、ノイブル伯領を与えた。こっちは俺がつけた名前とかではなく、ニュンバルの別言語での読み方だ。ちなみにエタエク伯も代理出席である。


 そして序列八位に、ヌンメヒト女伯……シャルロット・ド・ダリューだ。元々、ヌンメヒト伯はジョゼフ・ド・ダリューだったのだが、彼は一度終身刑の判決を受けていた。しかし娘に爵位を譲り、さらに継承権を放棄するという条件で恩赦を与えた。これは当初の密約通り、シャルロット嬢が望んだことだった。

 また、彼女への褒美は、かなり異例の厚遇だったため場内は騒然となっていた。まず、女性が伯爵になるというのはそう多いことではない上に、ヴァッドポー伯領も与えた。そして過去、一度も女性がなったことのない宮中官職へと任命した。それが内務次官だ。

 元々、ヌンメヒト伯ジョゼフ・ド・ダリューは内務卿だった。だが彼に終身刑の判決を下した際、その宮中官職を取り上げていた。だから戻しただけといえるかもしれないが、さすがに女性をいきなり内務卿に任命するのは、猛反発されることが簡単に予想できた。まぁ、俺としては別に任命しても良いんだが、それで苦労するのは彼女の方だからな。だからまずは次官に任命して、実績を積み上げてもらったうえで内務卿に任じようと思う。

 彼女が頑張れば、他国で燻っている優秀な女性が仕官してくれるかもしれないしな……期待も込めての大抜擢だ。男尊女卑気味な価値観の世界だから、そういう人もまだまだいると思うんだよね。……まぁ、イレール・フェシュネールとか、ヴァレンリールとかクラスのヤバい人はそうそういないと思うけど。


 序列九位はアトゥールル族長ペテル・パール。彼については、序列九位でもほとんど騒がれなかった。アトゥールル族も異民族なんだが、かなり活躍したので順当な評価だと思われているようだ。

 アトゥールル族に対しては、皇帝直轄領内で遊牧をする許可を出した。その他、色々な特権も与えた。まぁ、特権といっても都市に住んでいる市民と同じ権限なのだが。それでも、これまで根なし草の平民同然の扱いだった彼らが、市民と同等の身分が約束されるようになったのは大きいはずだ。これについても、反発はなかった。

 というか、異教徒で異民族でも意外とアトゥールル族はそこまで嫌われていないっぽい。なんというか、恐怖心はあるが嫌悪感は少ないといったところだろうか。まぁ、ゴティロワ族が嫌われてるのは、聖一教の余計な記述のせいだしな。


 そして序列十位にラミテッド侯。彼については丘陵の工事でやらかしているから低めの序列だ。褒美はヴォッディ伯領と、宮中官職の中でも名誉職に近い騎兵長官だ。ヴォッディ伯領はかなり小さい領地だが、名産品なども含めるとそれほど悪くない土地である。何より、ラミテッド侯領の隣だしな。



 それから先は序列十一位以下なので、序列を読み上げることなく呼んでは褒美を与えていく。ブルゴー=デュクドレー、サロモン・ド・バルベトルテ、バルタザール・シュヴィヤールらは、領地こそないものの宮中貴族として叙していく。特にバルタザールは新しい男爵家の始祖となり、以後バルタザール・ド・シュヴィヤールとなった。

 あと、バルタザールは近衛大隊長から正式に近衛長となった。まぁ、シュラン丘陵で俺の隣に立って突撃し、その武勇は噂になっているからな。それくらいの抜擢は問題ない。


 ちなみに、サロモンへの叙任はちゃんとベルベー王国から許可を得ている。これは引き抜きではなく、彼の立場はベルベー貴族兼名誉ブングダルト貴族となる。

 そして、ティモナ・ル・ナン。ただの側仕人としてはかなり早く呼ばれた方だが、ティモナにはシュラン丘陵で劣勢だった部隊を指揮し、立て直して敵を撃退したという功績がある。その割には褒美は控えめの、金銭のみとした。まぁ、嫉妬や批判を受けないように最初の褒賞は控えめの方がいい。

 それと、ドズラン侯。こいつも金銭のみの褒美だ。まぁ、流石に額は多めにしたけど。ここから下は、あまり働きの多くない人間や遅くに帰順した貴族が並んでいく。


 ちなみに、ヴォデッド宮中伯は今回の論功行賞の対象に入れていない。本人がそれでいいといったからな……俺としても、けじめの意味を込めて今回はスルーだ。

「以上。そして本来であれば、これをもって論功行賞を終わる……と言うところだが、余は今回に限り、そうは言わん。なぜなら、まだアキカール及びテアーナベの平定が終わっておらぬからだ。全ての論功行賞は帝国を真に再統一した時に。それまで諸侯、より一層気を引き締め帝国に忠義を尽くせ」

 いくつか、暫定的に直轄領としている領地も残っている。旧下ラウル公領北東部にある南北二つのポレクス伯領(合わせて便宜上、ポレクス侯爵領と呼ぶ)なんかは金の一大産出地だから絶対に直轄領として押さえるが、それ以外の領地についてはいつでも褒美として与えるつもりだ。なんなら、元からの皇帝直轄領を削ったっていい。それに見合うだけの功をあげればな。

 ……どうせ間に入ってる現地の下級貴族に横領されるんだ。まともな貴族に任せた方が帝国のためになる。

「はっ」

 諸侯が一斉に頭を垂れたところで、俺にとって初めての正式な論功行賞は終わったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白いけど、とにかく名前が覚えられない…73の地図を見ながら何となく楽しんでるけど、難しい…
[良い点] ドズランって、あの最後日和見してた人でしょ? 金貨1枚でよくないかな
[気になる点] ワルン公。むしろ飛び地以外渡しちゃダメな立場だと思うんだがなあ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ