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プロローグ


 初めに感じたのは眩しさだった。それは本能的な恐怖を湧き上がらせる、強い光だった。


 次に感じたのは血の匂い。そして赤ん坊の叫ぶような泣き声。


「○△△! ○△△○!!」

 誰かが叫んだ。多くの人間の騒がしさが、一気に流れ込んでくる。



 ……あぁ、そうか。俺が泣いているのか。


 ぼやけた視界に、たくさんの人影が映る。……出産に立ち会ったことは無いが、さすがにこれは多すぎるだろ。



 ……立ち会ったことがない? そうだ、前世の俺は独り身で死んだから、結婚もしていない。



 ……前世? そうか、これは転生か。


 ()()に気がついた途端、前世の記憶が一気に溢れでる。そのあまりの量に、意識が薄れていく。




 そこから先は不思議な感覚だった。産まれたばかりの赤ん坊が、とんでもない速度で成長していく。それをどこか他人事のように感じながら、俺は自分の前世を思い出しては記憶に定着させていく。

 いや、違うな。成長が早いのではなく、思考がとんでもなくゆっくりなのだ。脳の処理能力が限られているから、一つの思考に時間がかかっている。



 そんな早送りに感じる世界の中で、次第に輪郭や色が明瞭になっていき、やがて言語の理解も進む。そしてこの世界での「自己」を把握していく。



――毎日変わる母親……違う。これは乳母というやつか。それにしても日替わりとは贅沢な。つまり現代でない可能性が高い?


――俺が抱き上げられる際、必ず呼びかけられる言葉が俺の名前か? いや、あだ名か? あるいは、社会的地位の名称?


――視界に映る全員が、前世の西欧人に似ている。つまり、俺も?


――数百年前のものに感じる乳母達の衣服。それとは不釣り合いなほど、現代にもありそうな部屋。これも逆か。この部屋がこの時代の、最新の技術を使った高価な部屋?


――空気中に前世には無かった何かを感じる。うっすらとだが感じる自身との繋がり。これは、操る感覚? まさか、魔力?



 つまりここは、前世でいう中世から近世あたりの文明度の、西欧風の、魔法のあるファンタジーの世界。


 そして俺は――



 思考速度と時間の流れが一致した時、俺は玉座に座り、(こうべ)を垂れる男たちを見下ろしていた。


「陛下。諸侯らが新年の挨拶に参りましたぞ」


 俺はつまり、生まれながらの皇帝というやつだ。



 とりあえず全力で泣いた。



***



 本来、赤ん坊が皇帝や王になることは無い。国の頂点が赤ん坊では、国家として不都合が多いからだ。もし継承法の都合上、赤ん坊が王になってしまう場合、大抵は暗殺される。


 こんな話がある。フランス王国カペー朝のジャン1世の話だ。

 父ルイ10世が死去した時、彼には娘ジャンヌしかいなかったが、王妃クレマンスが懐妊中だった(ジャンヌが王位を継ぐのは問題があったらしい)。そこで、ルイ10世の弟フィリップが摂政となり出産を待つこととなった。やがて男子ジャンが生まれ、ジャンは出生と同時に国王に即位した。が、生後1週間も経たずに死亡。王弟フィリップがフィリップ5世として王位を継ぐこととなった。


 同じような話は中国にもある。後漢の第4代皇帝、和帝の死後、劉隆が宮廷に迎えられて皇帝に即位した。彼は生後100日余りでの即位であり、政治は外戚(先代皇帝和帝の皇后と、その一族)により掌握された。そして翌年には、死去している。


 確かに、医療の発達していない世界での乳幼児の死亡率は高い。だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()。それはつまり、暗殺の露見する確率(難易度)が下がるということ。


 つまり俺は、この無防備な状態で、暗殺に怯え続けなくてはいけないわけだ。




 だが現に、俺は生かされている。これはつまり、俺を殺すよりも生かしておく方の利点が優っているということ。

 俺は現状、傀儡としてのみ、生存が許されている。



 それからの俺は必死だった。誰にとっての傀儡か、何故自分が皇帝になっているのか、それを把握しなくてはならない。

 だが賢さを出してもいけない。傀儡は無能で暗愚でなくては、実権を握るものにとって都合が悪いのだから。当然、疑問があっても質問できない。限られた情報を分析し、組み立てていく。


 そうやって俺は、まず自分について把握した。


 俺の名前はカーマイン・ドゥ・ラ・ガーデ=ブングダルト。長い。社会的地位は、皇帝。

 国名はブングダルト帝国。生後間もない子供が皇帝をやっているんだから、絶賛崩壊中とみて間違いない。


 そんなこの国で、今権力を握っているのは二人。宰相と式部卿だ。どうやら二人とも皇族の血が流れる公爵らしい。


 現在の帝国は、この二人の大貴族が権力争いをしている。つまり俺が死ねば、確実にこの国は二つに割れ、内乱が発生するだろう。

 だがそれは、俺が生かされている理由としては弱い。二人にとって、俺が生きている方が都合のいい理由がなければならない。



 それを見極めずに、「都合が悪い」存在になってしまえば……俺は直ぐに殺されるだろう。


 はっきり言って罰ゲームだ。何だこの人生。前世の俺が何をしたっていうんだ。



 今に見てろ……



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[一言] 語りが違和感しかなくて気持ち悪い
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