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孫子の何か  作者: 稀Jr.
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5. まずは全体把握

 転生?輪廻してしまったのか?は背中の痛みを思い出そうとする。戦場で刺されて西洋人の老師に導かれて再びここに生を宿している。せっかく生き返った命なのだから大切にしよう。それが性別が違っているとしても、私の目的は変わらない。敵に勝つことだ。


 故知勝有五 知可以戰 與不可以戰者勝


 まずは現状を把握しよう。転生しても目の前にいるのは人だ。人であって生きているのであれば、なんらかの法則に従って動いているはずだ。それは私が生きていた場所もここの場所も変わらない。

 ともかく、ここは何処なのだ?何をする場所なのだ?


「増田殿は」

「いや、増田氏」

「・・・、増田氏はここで何をやっているのですか?そもそもここは何処なんですか?」

「ああ、やっぱり××さんは何も説明してないんだな。毎度のことだけど、プロジェクトで人が足りないといったって、誰でもいいってわけじゃないんだよ。人って言ってもプログラマかもしれないし、デザイナかもしれない。単純に量産型の人のほうがいい場合もあれば、ちょっと特殊な人・・・というか難関をクリアしてくれるスーパーハッカーが欲しいときもある。さまざまなんだ。さまざまなんですよ。だけども、会社って何かって言うと新人にOJTをするだとか、派遣だと仕事を分割して振るのが大変だからと言って、準委託開発にしてしまうとか。そもそもハンドリングする能力がないのに、委託先に全部やってもらえばいいのに何かと進捗表を出させようとしたり、進捗の進み具合にケチを付けたりする。それが仕事だと思っている。いや、まぁ、それはいいんだけどね。マネージャって誰でもできないようでいて、誰でもできる。そもそも、人生のマネジメントは自分でやっているわけで、子供じゃあるまいし、自分のやりたいことは自分でやるってばさ。仕事だから納期は守りたいよ。でもねうまいかない場合だって多いんですよ。うまくいかないってのは現場が何らかの要因でうまくまわらないことが多くって、別にサボっていて納期を押してしまうわけじゃないんだがな。どうもそこがよくわかってないんだよ、特に××さんは」

「・・・」

「で?ええと、何の話だっけ?ええと、俺が何をやっているか、ですね。何をやっているかというとプログラマ。そうコード書き。ソフトウェアはコードを書かないと動かない。いや、最近はブロックを組み合わせて動くプログラムもあるけれど、あれはプログラムじゃあない。ブロックの組み合わせさ。プログラミングの醍醐味ややっぱりコードを書くことだし、そのコードで動くこと。論理的にぱしっと書けばぱしっと動くわけ。でも複雑怪奇だからコードっていうものは。だから、いろいろと集中する時間を取りたいわけ。時間が他人と少しずれてしまうかもだけど、それはそれで許して欲しいわけですよ」

「増田氏はプロ・・・プログラマなんですね」

「そう、プログラマ」

「プログラマという配置がよくわからないのですが、例えば先兵、いや歩兵のようなものですか?」

「歩兵?ああ、歩兵ね。いや、そういう十把一絡げの言い方も嫌いじゃあないんだが、それ、んーと、馬鹿している?」

「とんでもない。歩兵も騎兵も役割分担です。盾を持って守りに徹するか、長槍を集中させて戦端を保持するか。統率の中で動くに足るべき能力を持つというところでしょうか」

「長槍ってのがよくわからないけど、長刀とかその弓道部とかそっち側の人?」

「そっち側というのは?」

「まあ、例えば、文系と理系、体育会系と文化系という具合。運動部で毎日ランニングしていたクチ?」

「ランニングってのがよくわからないのですが、弓は得意ですよ。ひと通り武術は習得しました。剣も槍も扱えます」

「すごいな、すごい。女性なの剣も扱えるのか。レイビアとか?え、それってロープレの話じゃないでよね?」

「ロープレ?」

「いや、いいんだ。運動系の人がここに来るのは珍しいなと思って。いや、IT系でも運動部に入っている人の営業職は多いのだけど、大抵は文化系のクラブというか、理系でステイホームな人が多いから」

「ステイホーム?」

「いわゆる、引き籠り」

「引き籠り?」

「なんというか、将棋で言えば穴熊みたいなものかな。じっと固い殻をまとって勝機を待つ、という感じ」

「将棋。将棋は得意ですよ。駒の扱いは戦場と同じですからね。私の場合、碁のほうが得意ですが」

「え?将棋も碁もやるんだ。それは凄い。俺の場合は将棋はちょっとやるんだけど、碁のほうはからっきしでね。コンピュータ界隈でも一時期アルファ碁が流行ったときに、碁の初心者本が売れたとか売れなかったとかいうのがあるけど、ひょっとするとチェスとかも強い?」

「チェス・・・のほうはよくわかりませんね。将棋や碁をやるといっても、戦略の説明に使うことが多いので、棋力自体があるわけではないんですが」

「なるほどねー」


 増田氏は腕組みをして、椅子に背をあずけた。ぎしぎしと増田氏の体重で椅子がきしむ。木の椅子、でもなく布貼りの椅子でもなく、不思議としなる椅子だった。しかし、装飾はされていない簡素な椅子だ。どうやら増田氏は将軍職ではなさそうだ。歩兵、にしては歳を取り過ぎている気がする。歩兵のまとめ役と云ったところだろう。


「それと、もうひとつの質問、ここが何処か?といった話だよね」


 この男、話があちこちに飛んで読み取りにくいのだが、質問の聞き取りはうまくできるらしい。敢えて幻惑させているのか、それとも何か意図があるのか。いや、それよりも話をもう少し聞いていこう。聴き手に徹するのが良策だろう。


「見ての通り、ここは地獄だ」

「地獄?」

「そう、炎上プロジェクト一歩手前、いや、既に炎上しているかもしれないけど、そういうギリギリのデスマーチ状態のプロジェクト」

「火計の術?」

「カケイ?いや、ごめん、喩えが悪かった。お客の社内システムのリプレース案件なんだ。旧式のサーバーで20年間ほど動いていたんだけど、社内SEの人が退職になってね。旧システムを何かと使えるように改造するのもいいんだけど、新システムに移行することを提案したんだ。データベースの構造はそのままにして、GUIだけは新しいフレームワークを使って構築する。そのほうが今後のメンテナンスが楽になるからね。まあ、うちの会社が保守を受け取るから継続的に改修もできるしという理由もあるけどね。そういう訳で、提案した手前きちんと納期は守らないといけないのだけど、実は旧システムってのが曲者で開いてみたらデータ構造が想定より5倍位複雑なんですよ。そこは、きちっとxxさんが調べてくれれば、といっても無理な話なんだけど、いわゆる見積ミス。最初に出した締め切りだけが生きててさ、これに間に合わせくちゃいけないから、さてどうしたものか、といった具合なんだ」

「・・・」

「ああ、システム構成とかはおいおいと説明しますよ。まあ、ハルナさんはマネジメントなので、システムの詳細はわからなくても大丈夫。ハルナさんにはプロジェクトの進捗状態をお客に報告して欲しいのと、要望のほうをさばいて欲しいんですよ」

「さばくというのは?」

「調節役というか安全弁役という感じですかね」

「全体の動きを揃える?統率する感じですか?」

「いや、統率はしなくていいよ。プログラマの私もカトーさんもデザイナさんもそれなりにプロでやってきてるから、仕事の質に対しては問題ないと思うんだ。まあ、ひとり新人がいるので、これが問題かもしれないだけど、そのあたりのOJTは俺が請け負うことにあっている。ハルナさんには、メンバのアウトプットがうまくお客に繋がるようにして欲しい」

「ええ、すみません、云い方が悪かったようですね。兵の能力を最大限に出せるような配置をして敵に向かえばよいんですね」

「敵?ああ、敵か?そのあたりはよくわからないんだけど、俺たちが兵ってのはあっていると思う。やることはやるし、納期に間に合わせようとは努力はしてみるんだけど、どうも外野からの雑音が多くなりそうでね」

「外野?」

「外部からの雑音ってことかな。だいたいのプロジェクトでは雑音ぐらい大したことないんだけど、まあ、それでも煩いのは煩いんだけど、今回はそれに対応する時間的な余裕がなくてね。それでマネジメントって形でxxさんに人探しを頼んだわけ」

「内通者?ですか」

「いや、内通って物騒なものではないけど、邪魔というか利害関係というか、そういう匂いがこのプロジェクトにはあるんだよね」

「利害関係ですか」


 いや、今はハルナは背中を少しさすってみた。傷もないし痛みもないし、まして鎧でもない。黒い服は喪服ではないらしい。不思議な服だ。


 知彼知己 百戰不殆


 少なくとも増田氏は私の敵ではないらしい。敵が何なのかいまいち解らないが、まずは味方陣営を把握する必要があるだろう。


「それで増田氏、現在の陣営をもう少し詳しく・・・え?」

「ああ、増田さんならコンビニにおやつを買いに行くって云ってましたよ」

「ええええ?」


 大きな箱のほうから声が聞こえた。

 たしか、カトーと呼ばれているシステムエンジニアの人だった。システムエンジニアって何なのだろう?ハルナはカトーにほうに向き直った。


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