3. 面接会場
何が目覚めたときには、真っ黒なスーツを来て2人の面接官の前に座っていた。
「まあ、大丈夫じゃないんですか?これならばいけそうですよ」
「でも新人じゃないですか?経験があったほうがいいと思うけど」
「いや、この業界は経験だけあっても駄目だからね。なんというかスピード感がないと駄目だし」
「まあ、試して貰うことはいいとは思いますが・・・」
2人の面接官は何を前にして2人で話していた。無視していたのかもしれないし、何かを急いでいたのかもしれない。
何は頭に手をやった。兜は無かった。
着ているものは鎧ではなかった。先のドラッカーが着ていたようなスーツと呼ばれるものだった。着心地は悪くない。
どうやら何も持ち出せはしなかった。記憶はそう、記憶はどうなのだろう、孫武と孫臏の兵法の記憶、学習所の記憶はどうだった。私は、どのように敵に立ち向かうことを覚えたのだろうか?
2人の面接官がひとしきり2人だけで喋った後に、何のほうに向き直った。
「では、改めて、ええと宜しくお願いします。ハルナさん」
「・・・」
名前はハルナというらしい。何からハルナか。どこからで聞いたような気もするけど問わないことにしておこう。それよりも、目の前の不可解な連中に対処しないといけない。
「あのう、状況がよくわからないんですけど」
「いやいや、採用ですよ、採用。即採用です。スピード感ってやつですね」
「スピード感というのは?」
「いやいやいや、御冗談を。ITプロジェクトが未経験とは言えないほどの知識振り。それであれば、歴戦のプロジェクトメンバもてなづけられる、目標も達成できるってもんですよ」
また「プロジェクト」だ。ドラッカーの老師も言っていたが、このプロジェクトというのがよくわからない。ひとつ質問してみよう。
「ええと、そのプロジェクトというのは戦場ですか?」
「え?ああ、戦場。そうです。戦場ですよ。会社の戦略従って現場に兵士を送り込み戦場で戦う。現場の火事は会議室で起きているわけではない、そう、現場が火事場になっているってことですよ。兵士が消防士になり替わって、戦場の火事を消してまわらないといけませんね。そうです。現場は戦場で、炎上プロジェクトって奴です」
「戦場、なのですね。炎上プロジェクトというのが良くわかりませんが、戦場は私の得意とするところです」
「そうでしょう。そうでしょう。先ほどのお話からすると、兵士の戦い方についてはお詳しいようで嬉しい限りです。現場では傭兵、つまりはフリーランス、つまりは派遣社員やら契約社員やらを取りまとめて、マネジメントしていかなければなりません。まさしく、カネで雇われた兵士。カネを求める兵士の軍団に例えられるわけです」
「お金ですか」
「そうですね。モチベーションやらプロジェクトの目的やらを持ち出してくる社員もいるんですけど、結局のところはお金ですよね。お金。報酬です。お金のために仕事をしているわけですから、お金の上下で働きも変わってくるわけですよ」
「褒美を与えるという方式ですか」
「いえ、褒美を与えるとうか、なんというか、給与ですね。月額いくらって決まっているわけですから、できるだけ働いて貰って、ぎりぎりまで頑張らせるってのがマネージャの仕事です」
「なるほど、言葉の意味はよくわからないのですが、火計を頻繁に使う戦術ということでしょうか?」
何の知らない言葉、いや今となってはハルナの知らない言葉を目の前の面接官が喋り出している。
しかして、ハルナは一枚の書面に署名する。
ハルナは思う。これは私の活躍できる場ではないだろうか。いままでの孫武と孫臏の兵法の知識が役に立つ。ドラッカー老師の言っていた「知識」とはそういうものかもしれない。
「はい、これでハルナさんは無事、プロジェクトマネージャとして契約が済んだわけです、では、早速なのですが、こちらにお越しいただけますか?」
面接官のひとりが立ち上がり、後のほうにある扉のほうに歩いていく。
ハルナは戸惑いながらも、面接官についてと扉のほうについていくのだった。