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第四話 決別の覚悟

遅くなっちゃった><

 水島さんは自身のことと、今の状況についてを話し始めた。


「私のことは現実世界と、このセカンドワールドを繋ぐ管理人のような存在だと思ってね」


「管理人……? てことは、水島さんが僕をこの世界に連れてきたってこと?」


「そう。観月くんのことについては、現実世界でも色々調べさせてもらったからね。もちろん、あなたがなぜクラスの皆からいじめを受けていたかも知ってるし、いじめを理由に自殺をしようとしてたことも知ってるよ」


 ……そうか、じゃあ僕が若菜さんのことを庇ったせいでいじめられていた(第一話参照)ことも知られているのか。そもそも、水島さんは僕のことをどこまで知っているのだろうか?

 そう考えるといい気はしない。勝手に赤の他人に自分のことを調べられて、良い気分をする人はいないだろう。


「……じゃあ何で邪魔をしたの?」


「え?」


「何で勇気を出して死のうとしてたのに邪魔したんだよ!! 僕はあの地獄みたいな日々から抜け出したい一心だったのに!」


 こんなに声を荒げたのは何年ぶりだろうか? 自分でも少しびっくりした。

 それを聞いた水島さんは驚いた表情を見せたが、すぐに改まった表情へ切り替えた。


「ごめんね。でも、決して君のことを邪魔したかったわけじゃないよ。ここにあなたを連れてきた意味はね、あなたに過去ともう一度向き合ってもらいたかったからだよ」


「過去と……向き合う?」


 そう言われた瞬間にあの時のことが頭をよぎった。確かに、心当たりがないわけではない。


「この世界ではね、人生の転機ともいえる場面に一度だけ戻って、人生を修正させることができるの」


 彼女の言葉を聞くうちに、胸の鼓動がどんどん早まっていくのを感じた。


「隣にドアのついた大きな部屋があるでしょ? あの中に入れば、各々の人生で心の底からやり直したいと思っている瞬間に一度だけ戻って、自分の行動を変えることができるんだ。当然自分の行動が変われば、周りの状況にも大きな変化が現れる可能性がある。まさに、第二の人生を送ることができるってわけだね!」


 

 気が付いたら僕は、彼女の話をとても熱心に聞いていた。それは、若菜さんを庇ったあの時の行動にずっと後悔してきたからだ。あの時若菜さんを庇わなければ、僕はいじめられることはなかったんじゃないだろうか? もし水島さんが言っていることが本当なのだとしたら、僕にとってこの話は願ってもないチャンスじゃないだろうか。


(どの道僕は死のうとしていたんだ。今更何を怖がる必要があるんだ……。そうだろ?)


 僕は心の中で僕自身に問いかける。そうして一度、深呼吸をする。覚悟を決めよう。


(……若菜さん、ごめん。僕は弱虫で、情けなくて。それでも、こんな僕が死にたいと思うほどに、あの時の行動を後悔してきたんだ)


 これは、過去の僕自身から逃げるという選択肢なのかもしれない。それでも……。


「戻りたい。どうしてもやり直したい」


 僕は涙ながらに水島さんに訴えるのだった。



*  *  *



「準備はいい?」


 水島さんが僕に語りかけてくる。僕の心の中は既に決まっていた。


「……一つ教えてくれる? この部屋に入ったら、もう僕は出てこれないの?」


 水島さんの眉が一瞬ピクリと動いた気がした。


「どうなるかは観月くん次第だよ。それ以上のことは今の時点では何も言えないかな」


「……大丈夫。やり直す決心はついてるから」


 僕がそう言うと、水島さんは軽く微笑んで、


「分かった」


と静かに答えた。


 ドアの上をよく見るとプレートが貼ってあり、小さな字で「XX 10051230」と書かれてあるのが分かった。水島さんはドアに手を伸ばしかけたところで何かに気付き、白衣についてるポケットから一枚の紙を取り出してそれを見ながら何やら説明しだした。


「この部屋の設定はXX年10月5日12時30分。学校の時間割でいうと、ちょうど昼休憩に入ったところだね。要するに、この部屋に観月くんが入ったらそこは学校で、多分自分の席に座っているところだと思う。観月くんの新しい生活はこの時間から始まるから気を付けて。あ! それと、この部屋に入ってから少し経ったら君自身の人生の転機となる瞬間が再び訪れるはずだから、後悔の無いように自分自身が正しいと思う行動を選択すること! それじゃ、第二の人生をお楽しみに」


 水島さんがドアを開ける。僕は一度大きく深呼吸をした後、ドアの中へと入っていった。


♦  ♦  ♦


 気が付くと僕は、彼女の言った通り自分の席に座っていた。念のため周りをキョロキョロ見渡してみたが、僕のことを怪しく思っているような人は見当たらず、何気ない昼休みの日常が広がっていた。このころの僕はいじめられていたわけではないのでクラスの皆からは友達のいない地味なやつ、といった認識だったはずだ。隣の席では若菜さんが食事をとろうと弁当箱を開けようとしているところだった。僕の記憶が正しければ、もうすぐ若菜さんはクラスの女子数人から嫌がらせを受けるはずだ。そう考え始めると、あの時の記憶が脳裏によぎり、途端に汗が吹き出し鼓動は時を刻む度に加速していく。一秒一秒がとてつもなく長く感じられた。


――そしてようやくその時は訪れた。


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