第三話 セカンドワールド
驚きのあまりすぐさま体が固まる。それは女性の声だった。
(どういうことだ?)
恐る恐る後ろを振り返ってみる。そこには、にっこりと笑った水島さんの姿があった。
「何で水島さんがここに……?」
そう彼女に問いかけるのだが、彼女は表情を崩さずにただこちらの方を見て微笑むだけだった。何とかこの状況を理解しようとする僕だったが、どれだけ頭を回しても一向に答えが見えない。呆然と立ち尽くす僕であったが、とうとう水島さんが僕と彼女との間にあった静寂を破った。
「――ねえ」
「本当にこんなところで終わるつもり?」
……彼女は一体何を言っているんだ? 気が動転して上手く耳に入ってこない。
「君にチャンスを上げよう」
そう彼女が発言したその時だった。周りの音という音全てが消え、辺り一帯が静寂に包まれたのだ。僕は驚いて辺りを見渡してみたところ、僕と水島さん以外の全ての時間が止まってしまったようだった。生徒たちはまるで人形のように運動場に立ち尽くしたままピクリとも動かず、風一つ吹かない今の状況が何だかとても気持ち悪く思えた。
「ふふ。びっくりした? 今この世界世界にいるのはあなたと私だけなの。何が起きたか分からないでしょうけど、君自身のためにも素直に従ってほしい。一つお願いしていい? 私がいいよって言うまで絶対に目を開けないでね。いくよ、3、2……」
彼女は突然カウントダウンを始めた。さっきから彼女の様子は僕と正反対で、周りがおかしくなってしまってからも至って冷静なのが不気味に思えた。
(もしかしたら彼女と、この一連の不可解な現象は関係しているのかもしれない)
そう判断した僕は、今は彼女に素直に従ったほうがいいと直感し、慌てて目をつぶった。
すると彼女はこう呟いたのだ。
「ふふ。さて、君は一体どんな花を咲かすのだろうね」
* * *
「もういいよ。ゆっくりと目を開けてみて」
十秒程経っただろうか。その間何か変わったことはあったかというと特に何もなく、ただただ目をつぶっていただけだった。僕は言われるがままにゆっくり目を開けると、まず視界の目の前に飛び込んできたのは、白衣を着た水島さんの姿だった。先程まで制服を着ていたはずの水島さんが、なぜか白衣に身を包んでいる。
軽く辺りに目を向けてみる。僕はあまりの景色の変わりように開いた口が塞がらなかった。学校の屋上だったはずの場所に変わって荒れた大地が途方もなく広がっており、僕の隣にドアのついた部屋のようなもの――ちょうど一般的な学校の教室一つ分くらいの大きさだろうか――が置かれているだけでその他には何もない殺風景極まりない空間であった。この部屋のようなものは周りが真っ白な壁で囲まれており、その一か所にドアがついてあるのみでそれ以外は窓一つ見当たらないシンプルすぎるデザインだった。それ故にこの謎めいたものが心底不気味に思えた。遥か遠くは真っ黒な煙のようなもので囲まれており、何があるのかは把握できないがこの世界がとてつもなく広いということは実感することができた。空が薄暗いせいか辺りもどことなく薄暗く感じる。
水島さんが僕の目の前まで歩いて来ると、穏やかな様子で僕に話しかけてきた。
「ふふ、この姿、似合ってる? こっちの世界ではこれを着るように決められているの。観月くんはそのままで大丈夫だけどね」
清楚な見た目によく合う品のある落ち着いた口調だった。僕は彼女に色々聞きたいことが多すぎて頭が破裂しそうになるが、とりあえず、彼女自身のことについて聞いてみることにした。
「えーっと……水島さん、だよね? 君は一体……」
彼女が僕の前に現れてから、不可解な出来事の連続だった。これには間違いなく彼女が関係していると思った。
「私の説明をする前に、まずはこの世界が何なのかについて説明しないとね。ここは“セカンドワールド”といって、対象者の心と深く結びついた世界のようなものだと思ってくれればいいわ」
セカンドワールド……僕の心の世界……。
「……言われてみれば、この荒れ果てた空虚な空間は僕の心と似ている部分がある気がする」
「ふふ、そんな暗いことを言わないで。大丈夫、私はあなたの味方だから。私は元の現実世界とセカンドワールドを繋ぐ管理人のような存在だと思ってね」
そう彼女は自身のことについて、温かい口調で話し始めた。