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第一話 僕の日常

記念すべき(?)第一作!!

 この世界は数多の選択の結果によって作られたものだ。つなぎ合わされた選択の歯車が一つでも狂ってしまうと結果はまるで別のものへと変貌する。世界とはこうまでに儚く脆いものなのだ。だけどそんな中はっきり言えるのは、選択自体に良い悪いはあれども無駄なものは一つもなく、それぞれがかけがえのない大切な意味を持っているということだ。



 * * *



 僕の名前は丁嵐観月あたらしみつき。ごく普通の高校に通う気弱で平凡な高校生。容姿も特に冴えず、目立つことが嫌いな僕はいつも教室の自分の机で一人寝たふりをしながら学校が終わるのを耐えていた。当然、こんなつまらないオーラをまとった地味な奴に気楽に話しかけてくれる友達と呼べるような存在はいなかったが、僕自身はこの平凡な日常に満足していた。

 ただ、あることがきっかけに僕の日常は180度変わってしまった……。


「もう朝か……」


 いつもながら目覚めの悪い朝だ、と僕は思う。目覚めが悪いというのは、昨夜僕が中々眠れず夜更かししてしまったことと、これから起こるであろう様々な“災難”に耐えなくてはならないことが関係している。心底気だるそうに朝食を取り、だらだらと学校へ通うための支度を済ませて重苦しい雰囲気で外に出る。途端に大きなため息が出た。


(さて、今日はどんな試練が僕を待ち構えているのかな……)


 そんなことをぼんやりと考えながら自転車で慣れた通学路を進んでいると、ふと後ろから来た同じクラスの男に突然蹴飛ばされる。


「うわっ!!」


 その衝撃で僕はバランスを崩して思いっきり転倒する。


「ハハハッ!! おいおい、ゆっくり走ってんじゃねえよ邪魔くせえ」


 男は僕の方をちらっと確認すると、笑いながら先に進んでいった。……実は、僕はクラスのいじめっ子たちから毎日いじめを受けている。事の始まりは、僕の幼馴染である矢井田若菜(やいだわかな)が同じクラスの女子からひどい嫌がらせを受けていたのを庇ってしまったところからである。

 若菜さんは控えめでおっとりとした印象なのだが、傍から見ると少し変わったところがあり――教室で一人で折り紙を折る、などマイペースすぎるところがあった――そのことが原因でクラスの女子数人から嫌がらせを受けていたのを度々見ていた。

 当時、僕は若菜さんと特別仲が良かったわけじゃなかったと思う。少なくとも僕はそう思っていた。ただ、若菜さんが僕以外の人と話してる姿は見たことがなく、そのことについて心配していたのは確かだ。


「……いい加減くだらないことはやめろよ」


 ある時、あまりのひどさに見かねた僕は若菜さんに嫌がらせをしていた女子達に恐る恐る注意をした。いや、注意()()()()()()といった方が正しいだろうか。現にこの行動が原因で僕はいじめられることになったのだから、僕がしたことは間違いだったんだと思う。このことを面白くないと思った女子達を中心に、瞬く間にクラス全体に僕が行った愚行が広まっていった。それに加えて、若菜さんがそれ以来学校を休み続けているということもあってその矛先が僕へと飛んできた。嫌がらせの標的が僕へと変わったのだ。その嫌がらせが徐々にエスカレートしていき今に至るという状況である。


  若菜さんとは幼いころこそ一緒に遊ぶこともあったが、年を取るにつれて交流の機会は減っていった。子供のころは男女の境界線がなく気にせず遊べていたが、成長するにつれて交流が減るのはよくある話だと思う。


(なんであの時余計なことしちゃったんだろうなあ……。若菜さんとは特別仲が良かったわけでもないし。他の奴らがやってたように、見て見ぬふりでもしてりゃよかった)


 あの時の僕はこのことを、取るに足らない人生の一つの“選択”程度にしか思っていなかった。まさかこの行動が自分の人生を左右しうる重要な“選択”になるとは思いもしなかった。



 その後は何事もなく学校についた。校舎に入り廊下を歩いていると、トイレの方から思いっきり水をかけられる。振り向くと、ガラの悪そうな奴らが面白そうにゲラゲラ笑っていた。


(なんで僕だけこんな目に合わないといけないんだ。お前らに対して何も悪いことはしていないじゃないか)


 僕はあいつらに見つからないように拳を思いっきり握りしめる。できることなら仕返しをしてやりたいが、気弱な僕にそんな勇気はなく、ただただ黙って耐えていくしかないのであった。

 教室に入って自分の席につくと、途端に周りにいたやつがこっちを睨んで僕から距離をとる。また、遠くから女子のグループが僕の方を見て何やらヒソヒソ話しているように感じる。


(頼むからこれ以上僕に関わらないでくれ……)


 早くも状況に耐え切れなくなった僕は咄嗟に机にうつ伏せて時間が早く過ぎることを願った。これが僕の得意なポーズである。まもなくチャイムが鳴り、ドアを開く音がして先生が入ってくる。いつも通り朝礼に差し掛かろうとするところで、先生が唐突に口を開いた。


「突然だが、今から転校生を紹介する。さあ、入ってきなさい」


 教室が途端にざわつき始める。転校生? 今は10月だから時期としては珍しいな、と感じた。


(まあ、僕には関係のないことか……。危害を加えるような奴じゃないといいな)


 先生に言われて転校生が教室に入る。転校生は女性だった。長く綺麗なストレートの黒髪で、整った顔立ちと相まって清楚な印象を感じさせる。いかにも教室の隅で一人で本を読んでそうな、そんな感じの印象を受ける。


「初めまして。水島有希奈みずしまゆきなと申します。よろしくお願いします」


 そういうと彼女は深々とお辞儀をし、少し微笑んで見せた。


「みんな、仲良くするように。水島さんの席は……」


 先生が席を教えると、彼女は静かに自分の席まで移動して、そっと席に着いた。

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