20XX年 61式戦車奮戦す!
20XX年5月1日。
この島に敵が上陸してから数時間が経過しようとしていた。
この島に駐屯している陸上自衛隊には、戦車も機動戦闘車も配備されてはいない。
それを知っている敵は歩兵部隊だけをこの島に奇襲上陸させたようだ。
しかし、何を考えているんだあの国の政府は!?
我が国では近年地震予知の精度が上がり、発生する日時を予知できるようになった。
この島での地震の発生が予知されたので、全島民は避難して島を離れた。
私たちこの島に駐屯する自衛隊は、島の警備と地震後の復旧のために地下のシェルターに避難していた。
予知通りに地震は発生し、島には甚大な被害が出たが、シェルターに非難していた我々は無事だった。
シェルターから出て島の被害調査を始めようとしたところ、あの国の歩兵部隊が上陸していることに気づいたのだった。
あの国は民間の船に密かに歩兵部隊を乗船させ、地震のどさくさに紛れて島に奇襲上陸をしたのだ。
もちろん、災害支援に来たのではない。
この島で一番高い山に自国の国旗を立てて、その映像を動画投稿サイトに投稿している。
あの国の国家元首は自国民に向けては「我が国固有の領土を日本から奪還した」と宣伝している。
国際的には一応気を使っているのか「災害支援のため軍を派遣した」と表明している。
もちろん、あの国との関係が悪化している我が国があの国に災害支援を要請なんかはしていない。
あの国の政府は何を考えているんだ!?と、さっきは思ったが何を考えているかは明らかだ。
国内での支持率が低下しているあの国の国家元首が、いつものように「反日」を掲げて支持率の回復を狙ったのだろう。
さて、昔のこんな状況の小説では、政府がまともに対応できず。
現場の自衛隊は反撃ができずに一方的に損害を受けるという展開が多かったが、現実には政府は素早く決断して「防衛出動命令」を出した。
命令に従い、私はこの島を不法占拠する敵の軍隊を排除することにしたのだ。
本来なら、私が隊長を勤める普通科部隊(外国で言う歩兵部隊)しかこの島にはいなかったのだが、61式戦車がこの島にある。
2000年に全車が退役した61式戦車がこの島にあるわけないのだが、地震の影響で現代にタイムスリップしてきたらしい。
61式戦車が配備された当初の1960年代の陸上自衛隊の戦車科隊員3名も一緒にタイムスリップしてきた。
小説ではタイムスリップしてきた人に、ここが未来だと納得してもらうのに手間がかかることが多いのだが、私が持っていた「手紙」を見せたことで簡単に納得してもらった。
「戦車長。あの山に向かって進んでください」
「了解、一尉」
私は戦車に装填手として乗っている。
タイムスリップしてきたのは、戦車長・操縦手・砲手の三人で何故か装填手はいなかったのだ。
この時代のことを知らない61式戦車の乗員を直接指揮するために、私は戦車に乗り込んだ。
私の階級は一等陸尉で、戦車長も一等陸尉なので、戦車長の方が先任なのだが、戦車長は私の指揮に従うことを納得した。
敵の歩兵部隊が立て籠る山に61式戦車は向かっている。
山と言うより小高い丘程度の場所なのだが。
この島に航空支援が可能な位置にある航空自衛隊の基地は地震で被災して使用不能で、戦闘機とヘリコプターを搭載した海上自衛隊の多用途運用護衛艦は離れた位置にいる。
敵国の航空機は元々この島までは距離が離れていてこれない。
数日待てば、多用途運用護衛艦が駆け付けて、こちらだけが航空支援が受けられて圧倒的有利になるのだが、私は数日を待つつもりはない。
時間がかかれば、あの国は何を言い出すか分からない!
今日中に決着をつける!
「戦車長、打ち合わせ通りにしてください」
私は命令した。
「了解、砲手、初めての実戦だが、緊張するな。演習と同じように狙って撃て!」
「了解!」
61式戦車の90ミリライフル砲が火を噴いた。
61式戦車は実戦を経験しないまま全車が退役しているから、今日が最初で最後の実戦での砲撃になるはずだ。
砲弾は山の山頂付近に立て籠る敵に向……かわなかった!
山の麓に砲弾は着弾した。
砲手が下手なわけではない。
打ち合わせ通りの場所に向けて撃っている。
砲弾が尽きるまで山の麓に向けて砲撃した。
山は崩落して、山頂に立て籠っていた敵軍は生き埋めになった。
元々、あの山の地盤が弱いことは分かっており、地震でさらに弱くなっているのは確信していた。
「しかし、わざわざ山を崩落させずとも砲弾で直接始末した方が簡単じゃなかったのか?」
戦車長の疑問に私は答えた。
「そうすると、あの国は何を言い出すかわかりませんから。これなら『地震の影響で山が崩落した』と言えますから」
「なるほど、しかし、未来の自分から手紙を受け取ることになるとは思わなかった」
戦車長が手にしている手紙は、私の祖父が書いた物だ。
祖父が亡くなる前に封筒に入れて私に渡して、20XX年5月1日になったら開封するように遺言していた。
そう、戦車長は、私の祖父、おじいちゃんなのだ。
手紙に今回の事態が詳細に書かれており、タイムスリップしてきたおじいちゃんと私のコミュニケーションはスムーズに行ったのだ。
「手紙に書いてある通りなら、おじいちゃんたちは自然に元の時代に戻れるはずだよ」
「俺はまだ独身で子供もいないのに、おじいちゃんて呼ばれるのは変な気分だが、俺は誰と結婚するんだ?」
「歴史が変わるかもしれないから名前とかは言えないけど、孫の私から見て、おじいちゃんとおばあちゃんは仲が良い夫婦だったよ」
「そうか、しかし、孫のお前の方は大丈夫が?三十歳近くになって独身の女なんて完全に嫁き遅れじゃないのか?」
「おじいちゃん、それは未来じゃセクハラって言うのになるんだよ。未来じゃ、三十歳過ぎての初婚の女なんて珍しくないんだから」
おじいちゃんたちと61式戦車の姿がだんだんと薄くなってきた。
「おじいちゃん、いや、戦車長、元の時代に戻るみたいです」
「そうか、孫よ。いや、一等陸尉、状況終了!」
私は敬礼して、おじいちゃんが答礼してお別れになった。
さて、この後、我が国とあの国との交渉はもめにもめたが、私は関わってはいない。
だが、一つだけ特筆しておきたいことがある。
山が崩落する前に山頂にいた敵が61式戦車が砲撃する動画を撮影して、本国に向けて送信していたのだ。
その動画をあの国の政府は全世界に公開して「日本による卑劣な攻撃」だと宣伝した。
しかし、動画の戦車が全車退役した61式戦車のため「稚拙なフェイク動画」だと国際的に呆れられる結果になっている。
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