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そして現実世界

 ——向かい合わせた机の相手側。


 1限から4限まで。ずっと眠っていた友人を京介は飽きれたように見やった。

 現在は昼休み。

 広げた弁当の玉子焼きを口に含んだことで彼の口からため息がこぼれることはなかったが……。


「世の中って理不尽だよな」

「……あ?」

「あ? じゃねぇよコノヤロウ」


 すっかり目の冴えた翔は購買のパンで頰を膨らませながら胡乱気な視線を京介に投げ掛ける。

 睡魔に襲われていてもいなくても態度の悪さは変わらない。


 ……そう、変わらないのだ。

 起きていたって真面目に授業を受けるようなタイプでもなければ、勤勉さとは無縁で、けれど机に設定されたソフトの使用制限を一時的に書き換え、無効化するくらいのことはサラッとやってのける。

 プレドマの扱いに関して翔は群を抜いている。


 そんな友人の才覚を少しくらい妬ましく思っても許されるだろう。


 担当教師の諸事情で自習となった4限目、開始時のことを思い出す——。


 教壇に立った女性。

 花笠(はながさ)小依(こより)はプリントを配りながら自習を告げた。

 日本史の授業に数学教員の彼女が現れた時点で予想は出来ていたが、原因が本来授業を受け持つべき教員の体調不良だと説明するその声を聞いていた者は何名いたか。


 (にわ)かに騒ぎ出した生徒たちを注意しつつ花笠はぐるりと全体を見回した。


「んじゃ、そのプリント解いたら私のとこに持ってきなさい。提出したら読書でも居眠りでも好きにして良いわよー。静かにしてれば何でも可!」


 カラリと笑った彼女のゆるい発言に、しかし反応を示す者は少なかった。

 それもそのはずである。

 配られたプリントの量があからさまに多いのだ。


 B4用紙十枚分。

 3択問題とは言えビッシリと綴られたそれを誰が時間内に終わらせられると言うのだろう。


「もちろん問題は真面目に解くこと。答えを預かってきてるからあまりに間違いが多いようならやり直させるわよ」


 クギまで刺されては喜ぶよりもげんなりと嫌な顔をする生徒が大半だった。


 翔はプリントに目を通しながら少し考える。

 ……3限目までずっと寝てたからな。

 睡眠欲がまだ残っているのかと聞かれると、まあ、朝ほどではない。

 寝るためだけに急いで解こうとは思わなかった。

 寝るためだけなら。


 読書でも居眠りでも好きにしてていい。

 そう言った花笠が続けた言葉は「静かにしてれば何でも可!」だ。

 だったら——。


 教材データ許可証の束から日本史を選び出し机の挿入口に差し込む。

 本体をプラグに繋ぐと翔はコントローラーを起動した。


 テストという訳でもない。

 教材と見比べながら解いてはならないとも言われてない。

 何よりすでに行動を起こしている翔を注意しないあたりから考えて問題はないということだろう。


 そのままプリントの全文に目を通し直す。

 データ化後、すぐに検索処理に掛けてヒットした答えの通り丸を付けていく。


 ——その間5分あまり。

 席を立った翔にクラスメイトの視線が集まった。


「……早いわね。ちゃんと真面目に解いた?」

「解きました」


 花笠は翔を訝しみながらも提出されたプリントを受け取った。

 赤ペンでチェックし終わるとその表情は晴れて快活な笑みが向けられる。

 この数学教員のいいところだ。


「パーフェクト! やるわね。かなり時間残ってるけど、まあ、他にやることもないし好きなことしてて良いわよ」

「睡眠モードでプレドマを使っても良いですか?」

「授業が終わる頃に起きるならね」

「分かりました」


 返却されたプリントを適当に畳んだ翔は席に戻ると本体をプラグから外した。

 許可証を抜き取り定位置であるズボンのポケットへ。

 広げた筆記用具をしまう。

 プレドマのモードを切り替えてタイマーをセットする。


 ————授業終了まで残り40分。


 教室のざわめきを遮るように意識を隔離した。

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