霧島 恵里
第一話は金曜、今回は土曜の話です
(あ、傘先輩の家に忘れた…でももういいか…。)
川田町バス停前。そこで豪雨にもかかわらず傘をささず一人の女子高校生が泣いていた。
(木島先輩…何で…なんで…。)
彼女は生気が感じられないような顔をしながらそう考えていた。
彼女は中学の頃からずっと憧れていた先輩と付き合っていた。だが付き合って3ヶ月、彼が三股していた事を知った。それだけなら彼女は多分その人と付き合っていた。元から軽いと悪評はたってたから覚悟はできていたし、それだけ憧れていたからだ。問題は、彼女がその中で三番目だということ。誰か1人選べとなったとき、彼は彼女を選択肢にいれなかった。ずっと好きだと言っていた彼が実はそうでなかった。それが彼女に大きく傷を与えたのだ。
(こんな雨の日は家でゴロゴロしたいな…)
涼太はぱんぱんに入った買い物袋を持ちながらそう考えていた。彼は母に頼まれおつかいに行っていたのだ。
(あーそういえばこの辺バス通ってんだよな。僕ん家の近く通ってないかな。)
傘をさしてても大変なぐらいの豪雨。彼はバスに入りたいと考えた。
(えーと…そこに…ん?)
涼太は目的のバス停を見つけた。だがその前に不思議な光景が目に入った。
(あれは…僕の学校と同じ制服…?)
それは傘をささず、バス停の前で静かにたっている制服女子である。
(ん?あれってもしかして…霧島 恵里!?)
涼太はその女子の正体に気づいた。
霧島 恵里、涼太と同じクラスの高校一年生。アイドル顔負けの可愛さで男子に人気が高い。今はこんな感じだが、普段は明るく、気軽に話しやすい相手である(涼太以外の感想)。
(どうしたんだろ?今日朝から降ってたから傘忘たわけじゃ無いだろうし…。それに何か落ち込んでる?)
いつもの彼女を知っているだけに彼女のその静けさに少し不気味さを感じていた。
(にしても風邪引きかねない…ん?)
そこで彼は反対側の道路に老婆が1人雨宿りしていることに気づく。
(まずい!)
彼は焦った。
(このまま霧島さんを放置していたら、僕は女子をびしょ濡れにさせといて1人傘をさす最低男子としてこの街に知られる!?)
彼は今の状況をそう読んだ。隣にいる女子は霧島 恵里。川田第一高校のアイドルである。そんな彼女をほっといたとバレたら、良くてハブられるのが露骨になるだけ、だが殆どの確率でイジメられる。涼太は出来ればそれは避けたい自体である。まあ目の前の老婆はボーとしていて目の前の光景を気にしていないし、周りに誰もいないから彼の考えは素っ頓狂なものではあるのだが。
(こ、こうなったら…!)
涼太はスッと自分が持っている傘を恵里に傾けた。
(…え?)
恵里はずっと隣に誰かが立っていた事に気づいていなかったのだが、突然雨が当たらなくなり流石に気づいた。
「あんた…ゴースト!?」
傘の主を見て、恵里はそれがゴースト(涼太のあだ名)だということに気づいた。
「えと…まあありがと。」
恵里は素直に感謝した。
(こいつ喋らないからよく分からないんだけど、まあ良いやつなのかな?)
恵里は涼太の評価を少し改め直した。
(んー?やっぱり傘持ってないようだな。)
涼太は改めて恵里が手ぶらな事を確認した。
(えっと確かあったよな。)
涼太は買い物袋からタオルを取り出した。先程買ったものである。
「えっと…使って…。」
ボソボソ声で恵里に渡した。
「えっと…ああ!サンキュー!」
恵里は聞こえなかったが、タオルを渡しているという事は察した。
(何よこいつ…私に気があるのかしら…。)
髪を拭きながらそう考えていた。
(なんだろ…かっこいいじゃんこいつ…。)
傷心状態の時に優しくされ、涼太の事が気になり始めていた。
「うわびしょ濡れ…ブラとか透けてんじゃん…。」
恵里はそう言いながら体を拭いた。
(え?あ!?)
その言葉で涼太は意識してしまった。
(え、あ、いや、あの…。)
涼太は赤面しながらテンパった。初めて同級生のブラを見てしまって過剰反応してしまったのだ。
(ご、ごめんなさぁぁぁぁい!)
心の中でそう叫びながら傘を置いてって走り出した。
「え、ちょっと待って!」
恵里は呼び止めたが、涼太はそのままどっかへ行ってしまった。
「えっと…傘とタオルは…今度学校で返せばいいのかな?」
彼女は少しポカンとした様子で独り言を言った。
(にしても、何かふられたことどうでも良くなったな…。)
彼女は傘を持ち、体を吹きながら少し笑った。
(むしろ、あんなのより良いやつに出会えたのかな?)
彼女は満面の笑みを浮かべた。