宮野 麗華
「なー人狼やるんだけど数が合わねーんだわ。一緒にやんね?」
茶髪の男子が前髪で目が隠れている男子に話しかけていた。
「…。」
だが目が隠れている男子は黙ったままだった。
「…あー悪かった。他当たるわ。」
茶髪の男子は何かを察して、他のとこに行った。
目が隠れている男子の名は『滋賀 涼太』。川田第一高校の一年生である。
彼は茶髪の男子の誘いを断ったが、それは無視したわけじゃなかった。
(人狼…ネットでよくやるから得意なんだけどなぁ…。)
むしろやりたかった。だが
(でも…上手く答えられなかった。)
極度のコミュ障なだけである。
彼は絶望的なまでにコミュ力が無い。この高校選んだ理由は面接が無いからだし、友達はネット上だけ。
クラスで話したことある人は一人もいない。先生ですら話したことあるかどうかというレベルである。
(テレパシー持ってる人いたらなぁ…。)
彼は普通に話せるようになることを諦めていた。
とある夕方。彼が下校していると、男が女子を囲んでたむろしているのが見えた。涼太は思わず電柱に隠れた。
「俺らさこれから飲みに行くんだけど一緒に飲まない?」
「俺らが買うからさ、別に制服でも心配ないよ。」
女子は彼と同じ学校の制服を着ていた。
(ナンパって本当にあるんだ…。)
彼がそんな事を考えていたら
「あの…困ります…。」
と女子は断っていた。
「えー?何で?」
「何が嫌なの?」
男達は負けじと聞く。
「何って…」
「大丈夫だって。別に怖いことはしないから。」
「さ!行こう!」
女子が何か言おうとすると食い気味に男が入る。何も言わせず連れて行く気である。
(怖いな…。うん?あれって…?)
涼太は気づいた。その子は『宮野 麗華』。涼太の学校でトップクラスに可愛い子で、男子のアイドル的存在である。
涼太には眩しすぎる人物。そういう認識である。
(あの子ならナンパされても当然っちゃ当然だな…。)
涼太が納得していると
「いいから来いよ!」
「キャッ!?」
男が麗華の腕を引っ張る。強行手段にでていたのだ。
「だ、誰か助けて!!」
麗華はそう叫んだ。
(!?…)
涼太も勿論聞こえた。
「あ?誰だてめえ?」
そしてその時には涼太は行動していた。男の引っ張る腕をグイッと引き離したのだ。
「し、滋賀君?」
麗華は意外な人が来たから驚いた。
(な、何やってんだ僕は!?)
涼太は自分の行動に困惑していた。
「てめえ調子乗ってんじゃねーぞあぁ!?」
「けい君やっちまおうぜこいつ。」
男達はガチギレしていた。
(…やばい。ちゃんと見えなかったけど五人もいる…。)
涼太より10センチ以上デカイ男が五人彼を囲んでいた。
(終わった…。ちゃんと謝れば許してくれるかな…?)
涼太は既に気持ちで負けていた。
「あ、あのごめんなさい。ちょ、調子に乗っていました。」
彼はそう小声で言った。
「てめえまじで調子に乗ってんじゃねーぞ!?」
ちなみに彼らには、『あ、 ごめん 調子に乗っ た』という部分しか聞こえていなかった。
(や、やっぱりだめかー…。)
「オラッ!」
そして男は涼太の顔面を殴った。ゴスッと鈍い音がなった。しかも男はシルバーアクセサリーの指輪を付けていて、涼太に余計ダメージが入った。
「滋賀君!?」
麗華はおもわず叫んだ。
一方滋賀は、固まっていた。
( )
実は滋賀は恐怖で殴られる前に気絶していたのだ。
滋賀の完敗である。
「あ?なんだこいつ?」
だが殴った方からしたら不気味だった。
殴った相手がビクともしない。その上何も喋らないのだから当然である。
そして男が拳を退けると、前髪に隠れた目が見えた。
「なっ!?」
男達は驚愕した。
彼の目には傷が入っていた。まるで漫画みたいに引っかき傷の様なやつである。その上、彼はとても目つきが悪かった。
(…は!?僕は何してたんだ。)
丁度そのタイミングで彼は意識が戻り、ゆらっと歩いた。
「…チッ。分かったよ。その女は諦めるよ。」
男達は引いた。というより逃げた。
殴ってもダメージが入らず(その様に見えた)その上顔がヤクザみたいな奴が、拳を退けた瞬間ゆらっとこっちに近づいたので反撃されると思ったのだ。
結果彼は無事勝利したのである。
(えーと…気持ちは伝わったのかな?頭すごく痛いけど。)
彼は安堵した。
「滋賀くん!」
麗華は涼太に駆け寄った。
(!?)
麗華はハンカチで涼太の頭から流れた血を拭き取っていた。
「ありがとう。私のためにごめんね。」
麗華は申し訳なさそうな顔して涼太に謝った。
「私、本当に怖くて、滋賀くんがこんな事になっても、何も出来なかった…。」
麗華は目をうるうるし始めた。
(え!?)
涼太はオロオロした。
「ごめんね…ごめんね。」
そして麗華は本当に泣き出してしまった。
「き、気にしないで。ぼ、僕が勝手にやったことなんだから。」
涼太は小声だが何とか喋った。
「でも…でも…。」
麗華は泣き止まなかった。そして持っていたハンカチで涙を拭こうとした。
(ぼ、僕の血ついてるよそれ!?)
涼太はその事に気づき、思わず麗華の涙を自分の指で拭き取った。
「…え?」
麗華は一瞬何されたか分からなかった。
(僕は何やってんだ…。)
涼太は素に戻ると恥ずかしくなって急いで黙って帰った。
麗華は何されたか分かると顔が熱くなった。
「今までよく分かんない人だったけど、滋賀くん…か。」
麗華はボソッとそうつぶやき帰った。