第2章 1話
三十分後、星口さんも入れて五人で箱根湯本駅の近くの有名焼き肉屋さんに入った。お店に入ると六人部屋の個室に案内されて、海翔や彩月や星口さんは「高級店は違うな」と楽しく会話していた。
昴は、弥生に星口さんの事をばれないようにどうするかでいっぱいで雰囲気を楽しむ余裕が無かった。彩月やめぐみとの楽しく会話していても、弥生は、昴の様子を横目で見ていた。
岡岡コンビは普段と変わらず会話しているつもりだったが、彩月には岡岡コンビのいつもの漫才風の雰囲気が感じられなかったから、星口さんも居たからなんか嫌な予感がした。何も無ければ良いけれどと思いながら席に着いた。
海翔はいつもと違う空気に何も感じず「みんな何飲む?」と手早くメニューを渡した。彩月はそれを見て、海翔にはこの岡岡コンビから発するピリピリとした空気感が分からないのかと溜め息をついた。
弥生がいつも通りに昴の横に座り「さあ食べよう、食べよう」と言い海翔と弥生で塩タンやロース肉を焼き出した。
めぐみは昴君と弥生の様子を見ながらそろそろ仕掛けてみようと思いとうとうめぐみが口を開いた。
「弥生ちゃん、そう言えばバスのカラオケ大会で岡君とデュエットでミックス92の「嬉しい夢を……」を歌って、着信音にもなっていたからちょっと気になって」と話したら昴が「弥生ちゃんも『嬉しい夢を……』を着信音していたの?」とびっくりした表情で言った。
「そうだよ。もしかして昴君も」と弥生もびっくりして昴は顔を赤くなって海翔が「相変わらずお二人さんお熱いな」と言った。二人は照れながらも否定はしなかった。彩月は追い打ちをかけるようにして「この曲は二人にとっては付き合うきっかけになった曲でしょ」と言ったら昴は余計な事言わないでと思った。
めぐみはすかさず「弥生ちゃん、ミックス92の『嬉しい夢を……』が付き合うきっかけってどういう事? 教えて」と興味本位で聞いているふりをしながら、本音は昴が以前私にミックス92のライブ行った事を自慢してそれがきっかけてになっているのかなと思い聞いた。
弥生は万博公園で昴と彩月でミックス92のライブ見たの思い出しながら「彩月がミックス92のライブに誘ってくれなかったらまだ昴と付き合っていなかったと思う。それに伝えてほしいと思ったから、同窓会で歌ったのにいつになっても昴が告白してくれないし」とじろめで見た。
「おいちょっと待ってよ。高校の時一回弥生に告白したでしょ」と突っ込んで、弥生は笑って「そうだったね」と笑い飛ばした。このツアーでめぐみに初めて見せた岡岡コンビの本当の姿だった。その二人の姿を見てめぐみはポカンとしていた。
海翔が「聞いていると弥生ちゃんから告白したの? 意外、昴は弥生ちゃんに出会った時から一途だったのに」と言ったら、めぐみは一途と言葉に反応して表情が一瞬変化した。すぐに我に返ってふと思った。もしかして、いや絶対に私に出会う以前から弥生の事が……と思いたくは無かったがそう思うしか無かった。
彩月が「付き合い方も二人らしいな。そうそういつから正式に付き合っているの? 同窓会やコーフボール大会の時もいつも二人は時間を見つけて会っていたから」と聞いて、昴は仕方なく「付き合って五年かな。長いようで短い」と言った。
「そうだね。めぐみちゃん、大丈夫?」と弥生がめぐみの表情が暗くなったから心配して言ったら「大丈夫だよ。ちょっと好きな人を考えただけ。あの時付き合った方が良かったのかなって」と笑顔で皆に気付かれないように一瞬目線を昴に向けた。私に告白した時、昴君はどんな気持ちだっただろうと思い始めた。




