前編
明けたばかりの空が、朝の冷気とともに新鮮に輝いている中、美容院で働く星口めぐみは(はぁ、イブも仕事か)と白い溜め息をつきながらも開店準備をしていた。開店の時間に合わせるようにある人影が美容院に向かって走ってきた。その人物はこの美容院の常連でもあり、社会人になって一番の友人の吉岡弥生だった。
「めぐみちゃん、おはよう。急で予約してないけど髪を切ってくれる」と息を切らしながらめぐみに頼んだ。めぐみは笑顔で「まだ開店したばかりだからまだお客さんが居ないからいいよ。弥生ちゃんは私が新人の時からの大事なお客様で友人だから」と言い弥生を店の奥に案内をした。
弥生は用意された椅子に座り、めぐみは美容器具を準備しながら「今日もいつもの髪型でいい?」と聞いて、弥生はいつもより嬉しそうな表情で「嫌、今日は思い切ってショートにして」と愉快すぎて大きな声でめぐみに頼んだ。
「今までロングだったの急にショートにするの? しかも弥生ちゃん、私にショートを頼むの初めてじゃない?」と言ってめぐみは弥生の髪を切り出した。弥生は嬉しそうな表情をしているから、めぐみは気になって「弥生ちゃん、いつも以上に笑顔だからなんか良い事でもあった? もしかしてなかなか会えない言っていた彼氏とデート。確か名前が昴君だったって」と聞いた。
「そうだよ。昴だよ。今日、イブでしょ。この後昴に会えるから嬉しくて。出会って二十年近く経つけど、付き合い始めて五年経っての初めてのクリスマスデートだから嬉しくて、ちゃんとここでセットして行こうと思ったから、めぐみちゃん無理言ってごめんね」と笑顔で手を合わせて謝った。めぐみはそれを聞いて、心の中で羨ましいなと思いながら「いいよ。それより良かったじゃん。それを聞いたらプロとしていつも以上に気合いを入れて切るね」とプロとしてのプライドだけで弥生の髪を今年の流行のショートカットにして行った。
「めぐみちゃん、今日仕事が終わったら、イブだからめぐみちゃんもデートするの?」と何気なく聞いたら、一瞬髪を切るのやめて一呼吸して「私、彼氏なんか居ないよ。五年前、告白されてかっこよく「誠実で優しい人なのを知っているからこそ軽い気持ちでは付き合えない」と言って振った事に、ちょっと後悔している」と淡々と言っているが昴の事を思い出して目は泣いていた。
それに気付いた弥生はめぐみの気持ちも知らずに「その人の事忘れられないだね。その人と連絡とか取っているの?」と聞いた。
「その人は京丹後に居て会えないし、メールも私一回携帯が壊れた事あったでしょ。その人のメルアドが消えてメールも送れない状態。その人のメールすごくややこしいし覚えてない」と言いながら、弥生に昴君の事話したら気まずくなると思い気持ちを押し殺しながら、弥生の髪を仕上げに入っていながら、弥生の彼氏は多分、絶対にあの昴君だと思った瞬間を思い出してしまった。