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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第二章 少女とたたかいの鬼
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旅の困難にぶつかる Ⅰ

 次の太陽が昇るころには、すっかり地面は乾いていた。その事を確認した御者が乗客たちを呼ぶと、思い思いに祭りを楽しんでいた客たちが続々と集まっていく。

 祭りを楽しんでいたレイシーはいつの間にか眠ってしまっていたらしい。気が付くと、村の宿屋のベッドに横たわっていた。

 起きるとすぐに、うーん、と差し込む朝日に向かって背伸びをした。不思議と頭はすっきりしていた。昨夜は散々食べ歩きをした後、先に宿屋に帰って眠ったのだ。

 部屋には空のベッドが一つあるものの、その上には誰も横たわってはいない。他の皆はどこに行ったのだろう。

 そこにドアの開く音がして、捜していたアリエッタが入ってきた。


「起きたのね。さあレイシー、出発の時間よ。行きましょう」


「ずいぶん寝ちゃったなあ……。すぐ準備するよ」


 服を着直すと、レイシーはアリエッタとともに馬車に乗り込んだ。ヤーコブ、カール、酔っぱらいや商人風の男もすでに中で待っている。昨夜相当飲んだのだろう、不精髭の酔っぱらい男はかなり酒臭かった。レイシーとアリエッタは身を寄せ合って距離を置いた。

 御者が出発の声を上げると、鞭で馬をぱちんと打った。

扉が閉まり、馬が歩き出すと、先ほどまでいた村や兎のオブジェがどんどん離れて小さくなっていく。名残惜しさを残しながらも、レイシーは心の中で村人たちに手を振った。


「お祭りのごはん、美味しかった。村の人たちも親切だったし、また行きたいなあ」


「ええ、行きましょう。その時は私もついていくわ」


「それはいい。僕もご一緒できればいいな」


「なかなか良い酒でしたし、祭りでなくても飲めるのなら私も同行しましょう」


「ほんと!? 嬉しい!」


 こうして皆で知らない景色を見て、未知のものに出会って、思い出を作っていく。旅とはこういうものなのだな、とレイシーはその身で感じ始めていた。




 レイシーは馬車の窓から遠くを見つめていた。

馬車にも差し込む暖かい日差しに、一面に広がる絨毯のような草原。遠くにそびえる青い山々。青いキャンパスのような空に浮かぶ、綿のような白い雲が流れていく。

 頬を撫でる風が心地いい。次はこの世界のどこで、どのような出会いが待っているのだろう。好奇心のままにぼんやりと思いを巡らせるのは、移動中のささやかな楽しみになっていた。


「もうすぐ馬車を乗り継ぐよ。準備をしておいてくれるかい?」


「かしこまりました。では、私は荷物をまとめておきます」


「頼む。僕はもう一度、ルートの確認をしておくよ」


「……ん? ねぇ、あれはなんだろう?」


 景色を眺めていたレイシーは怪しいものを見つけた。

 向こうの空から、黒い影が飛翔してやって来ている。最初は豆粒ほどだった影は、こちらに近づくにつれて徐々に大きくなっていく。

 馬車よりも大きな体躯は、先ほど村で見た白い兎オブジェとは対照的にどす黒い。風を切り裂くのは、刃物のような四つの翼。鋭く尖った、血のように赤黒い嘴。黄色い眼が三つ、ぎょろぎょろと何かを探している。嫌な予感がレイシーの脳裏をよぎる。


「ま、まさか……モ、モンスター!?」


「何だって!? 本当かい、レイシー!?」


「お、おい、何つったお前!?」


 ヤーコブやカール、酔っ払いも飛び起きて、一様に窓の外を見る。そして漆黒の来訪者を目にした瞬間、馬車の中の空気が凍てついた。


「キィヤアアアアアァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」


 モンスターは三つの目で小さな馬車を捉えると、脳がきりきりする程甲高い雄たけびを上げる。そしてそれは、来訪者が襲撃者へと変貌したことを告げていた。


「うわあああああああああああああああ!!!!早く、早く行け!」


 負けないくらいの大声で酔っぱらいが絶叫した。

 御者の行動は早く、すぐに馬を鞭打ち急がせる。馬もまたモンスターに恐怖を抱いているのだろうか、馬車は猛スピードで走り始めた。


「この道にどうして!? 整備されていたんじゃなかったのかよ!?」


「落ち着いて! 不測の事態はいつだってあるわ。とにかくどうするか考えましょう」


「鳥のモンスターという事はおそらくクギャモ型か、その亜種だ。おそらく、追い付いて来るだろう。ここは僕が何とかしてみせる」


 ヤーコブが立ち上がった。アリエッタが荷物から弓矢を渡すと、素早くつがえて窓の外へ向けた。

しかし、そこには大怪鳥の姿はなかった。


「……いない!?」


 ヤーコブは驚き、目を見開く。

 そこで、突然馬車に差し込む光が途切れた。


「まさか……危ない、伏せてください!」


 カールが叫んだ。レイシーは考える間もなく、地面にしゃがみ込んだ。

 

 次の瞬間、轟音を立てて馬車の屋根が消え去った。ばりばりという音とともに、さっきまで天井だったものの欠片が降り注ぐ。

 馬車の真上を飛んでいた怪鳥がその巨大な脚で屋根を剥がしてしまったのだ。もし伏せていなければ、上半身ごともぎ取られているところだった。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!! 死ぬ!!!死ぬぅ!!!」


「落ち着くのですな!」


「そうだ、落ち着け! 屋根の無い方が狙いやすくていいぞ!」


 酔っぱらいを見かねた商人が彼をたしなめる一方で、ヤーコブは再び弓矢を怪物に向け、矢を放った。 彼の攻撃はひゅん、と風を切り、見事に怪物の目の一つに突き刺さった。


「キィヨォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」


 目を潰されたクギャモ型は悲鳴を上げると、その嘴を馬車の中に突き入れる。狙いは今しがた自らに危害を加えた、目障りなヤーコブの頭だ。


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