表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第一章 少女と森のやしき
71/176

冒険 Ⅲ

 祝いの会は終わった。名残惜しさを残しつつも、客は帰っていく。

オーネは市場に帰る兄妹が送ってくれることになったため、屋敷の住人達はきびきびと後片付けを始めた。

 レイシーはもらったエプロンドレスを衣装棚にしまった。これを着て、サンディと外に出かける日がとても楽しみだった。

 その夜のことだった。就寝の用意を済ませた二人は寝室にいた。


「今日の催し、レイシーは楽しかった?」


「うん! とっても!」


「よかった。みんなが楽しんでくれたなら、大成功ですわね。みんなで用意した甲斐がありましたわ」


「そうだね。だけど少し話し疲れたなあ……」


「話し疲れたのですわね。ゆっくりお休みなさい」


 すぐにベッドに横たわろうとしたレイシーだったが、すぐにはっと目を見開いた。


「そうだ、今日の事もちゃんと書いておかなきゃ」


 レイシーはナイトテーブルに置かれた一冊の本を手に取る。飾り気のない灰色の表紙の、紐で綴じた手づくりの本だった。「日記」という文字だけが表紙の真ん中に置かれていた。


 サンディの教育の賜物で、レイシーは文字も少し書けるようになっていた。いずれは本を書いてみたいと考えるレイシーは練習も兼ねて、こうして毎日の日記をつけることにしていた。

 レイシーはペンを握り、インクに浸した。今日あった出来事を文字に変えて、ペン先から溢れさせるように日記を綴っていく。

 するとちょうど最後のページを書き終わった時、最後のページが使い切られた。


「あ、日記……終わった!」


「おめでとう。ちゃんとやりきったのね。作家の夢に一つ全身ですわね」


「やった! また、二巻目の日記を作らないとね」


 頭を撫でられて、レイシーは顔をほころばせる。この本を使い切る為に始めた日記ではなかったが、一つの事を成し遂げたという達成感があった。

 色々な思い出がこの日記には詰まっている。楽しかったこと、嬉しかったこと、怖かったこと、悲しかったこと。

 そう思うと、この本が少しだけ重くなったようにも感じた。


「レイシーは、これからどんなことを日記に書いていきたいですの?」


「この世界にはまだわたしの知らないことがいっぱいある。それらを見て思ったことや気持ちを、どんどん書いていきたい。それを、いつか本にしたいんだ」


 今のこの気持ちを言い表すとするなら。レイシーはこう表現した。


「冒険が、したいな」


 サンディは微笑んでくれた。もう何度か見た、話を聞いてくれる時の微笑み。


「知らないことを知る、それが冒険だというのなら。何気ない毎日こそがそうなのかもしれませんわね。わたくしだって、そうですもの。自分がわからなくなることだってありますわ」


 サンディはベッドに腰を下ろす。レイシーもそれに倣った。


「だから、わたくしは帰る場所として、あなたを支えてあげますわ。爺やも、オルガもきっとそうしてくれますわ。いっぱい冒険してらっしゃい」


「ありがとう……! うん、いっぱいする! その時はいっぱい、話を聞いてね! でも、できたら……わたしだけじゃなくて、みんなも一緒がいいな。ダメ?」


「ふふふ、あなたが望むのならどこへだってついて行きますわ」


 二人は共にベッドに横になった。明かりも消え、部屋が心地よい暗闇に包まれる。

 ふと、サンディの声が聞こえた。


「次は、何かしたいことはありますの?」


「ええとね……王都の、魔法の学院に行くってできる? 魔法の話とかさっきの劇を見てると、興味が出てきたんだ。何よりサンディや爺やの魔法を使うところ、かっこいいから」


「よし、そうと決まれば、勉強が必要ですわね。入学試験があるけれど、レイシーならきっと合格できますわ。あなたは賢くて力持ちな、自慢の妹ですもの」


「えへへ。がんばるね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ