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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第一章 少女と森のやしき
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日暮れのおたのしみ Ⅱ

 就寝まではまだ少し時間がある。

 オルガが厨房で片付けをする一方、爺やの手が空いているのを見たサンディは一つの提案をした。


「休む間を与えないようで悪いのだけれど。爺や、何か余興をお願いできるかしら? できれば、言葉がわからなくても楽しめるものを」


「では人形劇などいかがでしょう? 不肖ながらこの私、魔導劇団に所属していたこともございます。お嬢様がまだご覧になっていない演目もたくさんありますよ」


「それはいいですわね。爺やの人形劇ならきっと、見ているだけでも楽しめますわ。お願いできるかしら?」


「かしこまりました、サンディお嬢様。お客人のお嬢様にも気に入ってもらえるよう、老骨に鞭打たせていただきますぞ」


 爺やは一旦居間を出たかと思うとすぐに戻ってくる。彼は外から人形を3体、まるで3人の子どもを同時に世話するかのように背負ったり、抱えたりして持ってきていた。

 男性のこぶし4個ほどの大きさのあるその人形はそれぞれ白、黒、赤の服を着て、服と同じ色の髪を備えた、中性的な容姿のものだ。

 古びて小さなひびも入っていたが、人間の目をくりぬいて嵌め込んだかのような目に見つめられるとどきりとしてしまう迫力があった。

 それに加え、少女にとっては始めて見るものであった。この動かぬ小人の登場に、思わず身構えてしまう。

 肩をこわばらせたところでサンディがぽんぽん、と優しく肩を叩いてくれた。爺やも剽軽な笑いを浮かべながら、抱えた人形の腕を上げ下げする。

 落ち着いた少女はようやく、あれが人間を模して作った道具であると理解できた。

 テーブルの前に来ると爺やは3体の人形をすべてテーブルに座らせる。

 そして咳払いを一つすると、年に似合わない快活な声で語り始めた。


「これからお話ししますのは、世界ができたそもそものはじめの物語でございます」


人形三体は爺やが触れてもいないのに宙に浮かび、ぺこりとお辞儀をした。

少女は驚いた。やはり、あの小人は生きていたのか?いや、あれは間違いなく道具だった。爺やが何かの仕掛けで動かしているのだろう。


「原初の世界は何もない空間。しかしそこに、3人のきょうだいが現れました。物作りが好きな白、物弄りが好きな黒、そしてどちらも好きでない赤」


爺やの紹介に合わせて順番に人形たちが滑らかな動きで手を上げていく。


「ある時、白は言いました。何もなくてはつまらない。ここに『世界』を作らないか? いろんな命がたくさん暮らす、そんな場所を見てみたくはないか? 黒は答えて言いました。それはいい。でもそれならば、時間が必要。永遠に続く世界では、面白くはないだろう。変わるからこそ面白いんだと」


 白の人形と黒の人形が集まり、立ち話のような動きをする。

 二人の人形は話している間、大げさに手を上げたり広げたりしていた。世界を作るというとても壮大なことを話しているにも関わらず、人形のしぐさはコミカルで、滑稽だった。


「白の創った世界には、たくさんの命が蒔かれました。そうして芽吹いた命に、黒は寿命を与えたのです。白と黒は仲良く、作った世界を眺めて楽しみました。命を終えた生き物は黒の手に渡り、形を直されてから白へと返されるのです。そして、白はまたそれを使って命を作る。この繰り返しでした」


 白と黒が手を取り合い、共同作業のように命に見立てた透明な玉を素早く受け渡ししている。

 少女は言葉の意味が分からなくとも、その踊るような滑らかな動きに目を奪われてしまう。


「しかし、それをよく思わない者がおりました。赤は二人が自分を置いて遊んでいるのを見て、腹を立てたのです。赤は世界を滅ぼそうとしました。世界には毎日、途切れることなく火の玉が降り注ぎました」


 赤い人形は実際に、手から火を出し拳をめちゃくちゃに振り回して二体の人形を攻撃していた。

 ぎらぎらと光る赤い渦巻きが三体の人形たちを包む。その熱風は観客たちの頬をも撫で、自分たちまで攻撃に巻き込まれているように錯覚させる。


「……っ」


「す、すごい……」


 人形の真に迫った演技に気圧され、少女とサンディの額から冷や汗が流れる。

 白と黒は炎の拳を躱しながらなんとかしようと相談しているようだが、頭を抱えつづけている。

 しかし結論が出たようで、白と黒は顔を見合わせて赤の顔をまっすぐ見た。


「白と黒は作った世界を赤に与えることに決めました。赤はそれでようやく怒りを鎮め、この世界を支配する神となったのです。そして白は天界として恵みをもたらし、黒は冥界として命を再利用することで世界に貢献することにしたのでした」


 白と黒は何とか赤に許されたようで、赤も拳を下ろした。最後は全員で手をつないで再びお辞儀をした。


 サンディが拍手をした。緊張から解放されほっとした少女もそれにつられて手を叩き、パチパチという音が部屋に響く。


「おおっ、小さな手のひらの音が老骨に沁みますぞ……やり甲斐があったという物です」


「よかったわ。爺やの多芸っぷりには相変わらず感心させられますわ」


「ええ、昔はいろいろやっておりましたから。そこのちいさなお嬢様にも満足していただけましたかな?」


「きっと、そうよ。この子も熱中していましたもの」


 サンディの言葉通り、物語の余韻に浸る少女はこの劇に満足していた。

 公用語が話せるなら、また見せてくれとねだっていたことだろう。

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