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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第一章 少女と森のやしき
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冒険 Ⅰ

 いよいよ劇が始まる。六人の観客を前に、爺やは一体の人形を手に取った。

 チェック柄のシャツに青いズボンをはいた。見かけない服装をした黒髪の男性の人形だった。少し変な格好をしているなとレイシーは思った。


「さあさあ、それでは御立合い。我々の誕生期の際、お二人に送っていただいた歌がありましてね。同じお話を題材にした演目がございます。今宵はそれをご披露いたしましょう」


 そういえばオルガと爺やの誕生期の際、自分はサンディと協力して、異界の勇者の歌を歌った。

 ということはあの奇妙な男が異界からの勇者なのだろうか。本で読んだお気に入りの話を今度は劇で見られると思うと、握る手に力がこもった。


「むかしむかしの話ではなく、ついこの間、渡り鳥が戻るよりも前。王の治める偉大な都に、一人の男がやってきました」


 森の背景が立ち上がり、その中でにょっきりと地面から生えるようにその男が舞台に登場した。彼はきょろきょろと辺りを見回すと、おぼつかない足取りで歩き始めた。


「右も左もわからぬままに、彷徨い続けるかの男。しかし彼は出会いました。最高の朋友となる者に」


 見えない所で用意されていたのか、もう一体人形が現れた。それは金髪の男性で、茶色のチュニックを身に纏っている。男のような奇妙な外見ではなく、市場などでよく見かける服装だった。

 二人は出会った瞬間に驚き、飛びあがるようなジェスチャーをした。しかしすぐに打ち解けた様で、仲良く手をつないで歩き始めた。


「彼はよく男を理解し、男もよく彼を理解しました。盟友となった二人は、たくさんの冒険を重ねました」


 野原、森、山、砂漠、海。背景が目まぐるしく移り変わっていく。

二人は支え合いながらまるで本当に生きているかのようにその中を歩き、時に立ち止って一休みした。

前の王子の旅を髣髴とさせるがそれよりもバラエティ豊かな背景が二人の旅路を物語っているようだった


「一方そのころ王都では、恐ろしいことが起きていました。悪名高い盗賊団が、突如現れ大混乱!」

 旅を続ける二人が舞台から捌けると街の背景が広がった。歩いたり、買い物をしたり、立ち話したりと住民たちの影が生活している。

 そこに突然禿げ頭の、大男の人形が現れた。顔には三本のひっかき傷があり、不精髭を生やしている、見事なまでに悪役面をした人形だ。

 かたかたと笑うように震えた後、彼は大きな剣を振り回し始めた。

 途端、街の様相は一変した。

 逃げ惑う住民たちの影は次々に串刺しや真っ二つになり、山のように積み重なっていく。


「盗賊団は強かった、刃に炎に大暴れ!」


 更に爺やの得意な炎の魔法も演出に用いられ、観客たちの頬を熱風で撫でていく。

 前の王子の物語の時も、街が炎に包まれる場面はあった。しかし今のこれは戦いなどではなく、虐殺だった。影とはいえ、次々と先ほどまで生き生きとしていた人が殺されていくその凄惨さは前回の比ではなかった。


「あ……」


 お気に入りの話も人形劇になると、ここまで恐ろしいのか。

 ただの影であるのにまるで本当に屍が地を満たしていくかのような演出に、レイシーは少しめまいがした。

 以前この屋敷にも盗賊団が来たことがあったが、この悪行を目にした後だとあの一団はまだ可愛げが残っていたように思えてしまう。

 そんなレイシーの手を、誰かが握った。凝り固まった何かが解きほぐされるように楽になる。サンディが、震える自分の手を握ってくれたのだった。


「そこへ二人が戻ってきました! 旅で鍛えた連携で、悪人共を蹴散らし蹴散らし、棟梁を遂に追い詰めました!」


 炎を身に宿した黒髪の男と剣を携えた金髪の男が、大男の前に躍り出る。

 よかった。この悪者は占者と同じで、二人にやっつけられて終わるんだ。めでたしめでたしなんだ。

 そう信じたかったが、自らの知るこの物語の結末が、それを許さなかった。


「しかし男はただでは倒れぬ、巨悪の奮う悪の刃は、かの友の胸を貫きました!」



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