プレゼント Ⅱ
その後も続いた親友とのおしゃべりはどこまでも弾む。好きな事、楽しかった事が、たくさん耳に入ってくる。気づけば森に夜の帳が降り始めていた。
「暗くなってきちゃったなー。ちょっと早いかもだけど、とと様も心配するからそろそろ帰らなくっちゃ。みんな、今日はありがとう」
「今日は来てくださってありがとう。オルガ、彼女を送ってくださる?」
手のない彼女がこの薄明の森を抜け、市場まで帰るのは危険が伴う。オルガは頷き、彼女の横に付いた。
「ありがとう、オーネ! また会おうね!」
「またね、レイシー、サンディ! ヤーコブとアリエッタも、またお店に来てね!」
オーネは扉の前でぶんぶんと先の無い手を振る。レイシーたちは名残惜しさを感じながらもそれに応え、手を振りかえした。
「それにしても、爺やは何をしているのかしら?お客様がお帰りになるというのに…」
サンディが渋い顔をすると、それを聞きつけかのように爺やが現れた。
その手には何か、大きなものが抱えられている。
「爺や! どこに行っていらしたの!」
「申し訳ございません、少し用事が……っと、レイシー様、そのお召し物は!?何とお美しい……エプロンドレスは少女の嗜み……」
「ああもう、そうじゃなくて! 用事ってなんですの!?」
「失礼しました、私の余興の準備をしていたもので、このように遅くなってしまいました。オーネ様はもうお帰りになられるのですか?」
「そうですわ。何とか間に合いましたし、見送ってあげてくださいな」
そんな爺やが抱えているものが、レイシーには一目でわかった。
この屋敷に来て間もないころからずっと、自分を楽しませてくれた人形劇。その演者たる人形だ。
「人形劇やるの!?」
「ええ、夜の余興とはそれなのですよ」
「やったあ!」
レイシーが飛び跳ねて喜ぶと、オーネが興味ありげに振り返った。
「へぇー。ここの人形劇は、そんなに楽しいのー?」
「うんうん、爺やの劇はすごいよ! 人形の動かし方も、魔法を使った演出も、わたし、いつもわくわくしっぱなしなんだ!だから、一緒に……」
そこまで言いかけて、レイシーは言葉を飲み込んだ。彼女は帰ろうとしているのだ。自分のわがままで引きとめてはいけない。
しかし、このかけがえのない友人と一緒に劇を見ることが出来たらどれだけ楽しいだろうか。レイシーの胸中はもやもやとしていた。
そんなレイシーの様子を、サンディ、ヤーコブ、アリエッタは逃さず見ていた。
「うちの爺やは腕だけは確かですわよ。完成度は保障しますわ」
「確かにそうだね。僕も何度か見せてもらったことがあるけど、王都のそれに引けは取らないよ。やるならぜひ、僕も見ていきたいな」
「ええ、その通りよ。うまく言葉にできないけど、こう、しゅっしゅっ、どかーん、ばーんってなって、凄いのよ。もし遅くなったら、私達と一緒に市場へ帰りましょう」
「遅くにお帰りでも構いませんよ。このオルガ、責任をもってお送りいたします」
「そっかー。それじゃ、ちょっと見てみたいな!」
オーネは踵を返すと、今のソファに座りなおした。
思いもよらず願いが叶い呆気にとられるレイシーに、アリエッタがウインクした。
「……ありがとう」
レイシーは静かにつぶやいた。
いよいよ劇が始まる。六人の観客を前に、爺やは一体の人形を手に取った。市場ではあまり見かけないようなチェック柄のシャツに青いズボンをはいた、珍しい服装の人形だった。
「さあさあ、それでは御立合い。我々の誕生期の際、お二人に送っていただいた歌がありましてね。同じお話を題材にした演目がございます。今宵はそれをご披露いたしましょう」
レイシーははっとした。オルガと爺やの誕生期の際、自分はサンディと協力して異界の勇者の歌を歌った。
ということはあの人形が異界からの勇者なのだろうか。お気に入りの話を劇で見られると思うと、握る手に力がこもった。
ようやく仕事がひと段落つきました。2月からは通常通り更新していく予定です。ご迷惑をおかけし誠に申し訳ございませんでした。今後とも応援よろしくお願いします。