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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第一章 少女と森のやしき
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オーネとレイシー Ⅱ

 大きな岩はゆっくりと傾き、向こう側に倒れていく。

 岩が地に倒れ伏したと瞬間、どぉんという轟音とともに激しい風圧が吹き飛んだ落ち葉と共に頬を叩いた。


「わわっ!?」


「ぎゃーーーっ!?」


 地響きとともに地面が揺れ、レイシーもオーネも膝をついた。幸い、岩による揺れはすぐに収まったが、驚いた二人はしばらく立ち上がれなかった。

 一体なぜ、この巨大な岩は倒れたのだろう?

 あまりの出来事に、二人はオーネの腕が岩から解放されたことにも気づいていなかった。


「あ、オーネ……腕が……」


 ようやく気付いたレイシーが震える手で指差すと、彼女は仰天した様子で自分の身体を見つめた。


「ぬ、抜けちゃった……」


「や……」


「やったああああ……!」


 オーネは自由になった腕を高く掲げたのち、こちらにハイタッチしてきた。

 慌てて手を出すと、ぱん、と手のひらが良い音を立てた。


「よくわからないけど、よかったー!助かったよー、ありがとねー!」


「うん!よし、じゃあ帰ろ……」


「レイシー!オーネ!」


 息を切らせたサンディがこちらに向かって走ってきた。

 そのまま二人と倒れた岩を交互に見やり、焦った表情を浮かべる。


「すごい音がしましたわ……だ、だいじょうぶ……ですの……? 怪我は……」


 今日二回も走ったためだろう、彼女は今にも倒れそうなくらい息を荒くしていた。


「うん……オーネの腕を挟んでた岩がいきなり倒れたんだけど、向こう側に倒れていったから大丈夫だったよ」


 言いながら自分もちら、と倒れた岩を見てみた。

 大きく重さもあるその岩は、まるで灰色をした猛獣の死骸のようにも思えた。

 もしあれがこちらに倒れて来ていたらと思うと、背筋が寒くなった。


「私の腕も無事だったし、何にも問題ないよー!」


「ぶ、無事ならよかったですわ……さぁ、帰りましょう……」


「サンディこそ、大丈夫……? とっても疲れてるけど……」


「気、気にしないでくださいな!」


 すぅ、はぁ、とサンディは呼吸を整えた。


「あっ、トリュフは? 持って帰らないの?」


「そうだー! 忘れるとこだった―!」


「持って来たら見せてね!」


 しかし岩の所まで向かったオーネは、落胆した顔をして戻ってきた。


「い、石ころー……トリュフじゃあ、なかったー……」


 彼女の手にあったのは石に似たきのこではなく、本当にただの石だった。


「あらら……ざんねん」


「私、もう石も岩も憎いよー!こいつだって、こうしてこうしてやっつけてやりたいよー!」


 彼女は手にした石ころをぽかぽか殴り始めた。


「悔しい! 悔しいよー!」


「オーネ……そんなに悔しいなら、熱した石で肉焼きとかやってみるのはどうかな?石もやっつけられるし料理もできるし、きっといいと思うよ」


「採用ー!」


 料理の話をすると、横腹がしくり、と痛んだ。そういえば朝食を食べていなかったことをレイシーは思い出す。


「ねえオーネ。戻ったら、一緒にごはんにしよう。サンディもいいよね?」


「勿論、構いませんわ。爺やは食材の買出しに出ていますし、きっと食材も多めにあるでしょう。それを使いましょう」


「おお、助けてくれた上にご馳走までしてくれるなんてー……感激だよー!」




 三人は森を抜けて、屋敷へと帰ってきた。

 朝日はますます高く、明るくなっていた。


「ここに住んでたんだねー!お屋敷があるのは知ってたけど、まさか人がいるなんて、びっくりだよ!」


「ふふ、あなたのお父様もそう仰ってましたわよ」


 玄関を通り居間へ向かうと、ちょうどオルガとオーネの父が紅茶を飲みながら何やら話をしていた。


「とと様ーーーーーっ!!!」


「そ、その声は……お、オーネーーーーーっ!!!!!!」


 彼女は父の胸に飛び込んだ。


「心配したんだぞ……! もう、お前と言うやつは、昔から、おっちょこちょいで、間が抜けていて、向こう見ずで、それなのに優しいんだ……」


「とと様、ごめんなさい……次からは、絶対に気を付けます……もう、迷子にはなりません……」


 二人は強く抱きしめあい、再会を喜んでいた。

 オーネは涙を流していた。申し訳なさを感じているのか、父に抱かれて真の意味で安堵したのかわからなかったが、良い涙であることに間違いはないように思えた。


「さあ、レハンドさんがた。わたくしたちは朝食にいたしますわ。いっしょにいかが?」


 再開の余韻を壊さないように、サンディが呼びかけた。


「ああ、それなのですが、オルガさんもそれを勧めてくださいました。しかしこれ以上ご迷惑をおかけするのも気が引けておりまして……」


「気にしなくていいですよ! オーネはわたしの友だちですから、レハンドさんもわたしの友だちです! それに、わたしも皆さんとごはん、食べたいですから!」


 レイシーはにっこり男性に笑いかけると、オーネの手を優しく握った。

 オーネは一瞬戸惑ったようにびくり、と動いたが、すぐに手を握り返してきた。


「あっ、レイシー……そうだね、とと様。ご馳走になろうよ」


「そうか、わかった。では、宜しくお願いします」


「わかりましたわ。では、もうしばらく待ってくださるかしら」

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