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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第一章 少女と森のやしき
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紅葉の森 Ⅱ

 楽しい時間を過ごしていると、ふと、レイシーの脳裏に昔の記憶がよみがえった。

 こうして野山で食材を採取することに、レイシーは既視感を覚えていたのだった。


「……前に山菜を採って、爺やがリゾットを作ってくれた時があったね。なんだか、あの時みたいだね」


「ええ。あの時はマリーも一緒でしたわね」


「そうだね。マリー、わたしから逃げようと必死だったよね。懐かしいなあ」


 記憶をたどるように、レイシーはゆっくり目を閉じた。

 白くてふわふわの生き物が力強く草むらをかき分けて逃げようとする光景が、まぶたの裏に浮かび上がる。


「あの時は寒期から暑期に移る間でしたわ。あの時期もたくさんいい食材が取れますのよ」


「そうだったんだ。あの時はまだ公用語もよくわからなかったから、知らなかった」


「今ではもう、ペラペラですわね」


「そうだね。わたしも、成長したなあ…」


 郷愁に任せて、しみじみとこれまでの出来事を振り返る。

 言葉を教えられ、美味しい料理を振舞われ、人形劇を見せられ、マリーと別れ。

 水浴びをして、モンスターに襲われて、盗賊と戦って。最近は友だちができた。


「ええ。屋敷に来てからのレイシーは、本当によく頑張りましたわよ。ですから、わたくしからもご褒美をあげましょう」


「ほんと!? どんなの!?」


「わたくしお手製の、お昼ごはんですわ」




 川の近くの開けた場所にやって来ると、サンディは落ち葉と木の枝を集めはじめた。


「これに火をつけて、ごはんを作りますのよ」


「焚き火をするんだね。でも、材料はどこにあるの?」


「何を言ってるの、レイシー。そこに、たくさんあるでしょう?」


彼女の目線は自分が手に提げた、旬の味覚で満たされたバスケットに向かっていた。


「もしかして、これを焼くの?」


「そうですわ。ご褒美と言っておいて悪いけれど、レイシーにもお手伝いをしてもらおうかしら。わたくしが火をつける準備をしている間、そこの川で食材の泥を落としてくださる? 食べたいものだけでいいですわ」


「わかった」


「この時期の水は冷えるから、無理しないようにね。温かい火を起こして待っていますわよ」




 落ち葉の浮かぶ。透き通った冷たい川からレイシーが戻ってくるころには、サンディは火をつけていた。

 ぱちぱちと音を立てて燃える焚き火の周りでは枝が何本も組み合わされ、四角い形を作っている。効率よく落ち葉や木片が薪になるようにしているらしい。


「周りに燃え移らないようにするのには、苦労しましたわ。おかえり、手、冷たいでしょう?温まってくださいな」


「うん」


 冷えた手を火に近づける。指先から火の熱が伝わり、手のこわばりが解けていった。


「お疲れ様。さあ、ご飯にしましょう。まずは何を食べたいのかしら? 何でも言ってくださいな」


「じゃあ、これ!」


 レイシーは洗い立ての、最初に採ったきのこを選んだ。

 サンディはそれを受け取ると、どこからか取り出した小さな串に刺して、炙るように焼きはじめた。

 きのこには徐々に焼き色が付き、おいしそうな香りが立ち上り始める。レイシーは涎を飲み込みながらその様子を眺めた。


「中までしっかり火を通して焼くことがコツなのですわ。……はい、できましたわ」


「ありがとう……!じゃあ、いただきます!」


 手渡されたきのこの串に、レイシーはすぐにかぶりついた。

 じゅわ、と香ばしい大地の味が、あつあつのエキスとともに口内に広がった。


「うん、おいしい! サンディも食べないの?」


「そうですわね、いただこうかしら。そうそう、これもつけてみたらどうかしら?」


 サンディは箱に入った、小さな白い塊を差し出してきた。


「これ……バター?」


「ええ。きのこによく合いますわよ」


 言われるままにバターをきのこに付けて食べてみる。

 すると、とろけるバターの風味がきのこのエキスとよく混ざり合い、更に芳醇な味が楽しめた。


「これもおいしい……」


「残りの食材もどんどん焼いていいですわよ。どれも、とっても美味しいものですわ」


 まだまだ食材は沢山ある。尽きない楽しみに、レイシーは嬉しさを感じた。

 そこでレイシーは、浮かんできた疑問を口にした。 


「どうしてこの時期は、こんなにおいしい食べ物がいっぱいあるの?」


「それはね、寒期を超えるために成長するからですわ。この時期のきのこは寒くなる前に子孫を増やすため、大きくなりますのよ」


「成長……」


 レイシーはかじりかけのバター付ききのこをじっと見つめた。

 どうやら成長していたのは自分だけではないらしい。

 食材に不思議な親近感を覚えつつも、レイシーはサンディといっしょに、焚き火料理を食べ終えた。




「ねえサンディ。ここからは、どうするの?」


「そうですわね。夜の森を見せてあげましょう。あの丘まで行きましょうか」


「うん!」


「では一度屋敷へ帰って、残りの食材を置いて行きましょう。日が落ちたら、もう一度出発ですわ」


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