表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第一章 少女と森のやしき
43/176

紅葉の森 Ⅰ

「わあっ、きれい!」


 レイシーがベッドから起きてすぐ窓を開けると、真っ赤に染まった森が目に入った。

 緑色だった木々の葉っぱが今は朝日を浴びて、燃えるような赤色を発しているのだ。

 しかしその炎のような色とは対照的に、外気はひんやりしてむしろ肌寒いくらいだった。



「おはよう、レイシー。どうしましたの?」


「おはよう、サンディ! みてみて、森がまっかっか!」


「まあ、紅葉ですわ……きれいに色づきましたわね」


 隣で眠っていたサンディもレイシーの歓声で目覚め、外の紅葉を眺めた。


「赤い色だから、木も火に当たりたいって言ってるのかな。どうしてこんな風に色が変わるの? そういえば、真っ赤になる前から、ちょっとずつ緑じゃなくなってたよね」


「葉っぱの緑色は、光を集める部分なのですわ。けれど、最近は時期が変わって、早く日が落ちるようになってきたでしょう? 光が集めにくくなったら葉っぱはいらなくなりますから、徐々に色が変わってこういう色になりますの。最後は落ち葉になって無くなりますのよ」


「え、葉っぱ、無くなっちゃうの!?」


 青々とした緑の森が、レイシーは好きだった。眼前の赤い森も美しい。

 葉っぱが無くなってしまえば、このような光景はもう見られないのだろうか?レイシーは少し不安になる。


「大丈夫ですわ。寒い時期……難しく言うと寒期と言うのですけれど、その間だけですわよ。また温かくなって日も長くなれば、元のように緑色の葉っぱがつきますわ」


「ほんと?」


「ええ。暑い時期は暑期と呼んでいるのですけれど、それまでにはきっと、見慣れた緑に戻っていますわよ」


「よかった……」


 心配事が消え、レイシーはほっと胸をなでおろした。


「だけど、変わって行くものを楽しむのもまた面白いものですわよ。レイシーも、いつも同じ夕食だと飽きてしまうでしょう?」


「うん」


 彼女の言う事には納得できる。

 確かに好きな食べ物は多いが、ずっとそればかり続いてしまうとどこかでうんざりするだろう。


「緑の森も、赤い森も、葉っぱのない森も、それぞれ楽しんでいきましょう。森はどの時期でも、見どころがたくさんありますのよ」


「じゃあ、今日はお散歩だね! 楽しみ!」


「ええ。一緒に行きましょうね」


 様相を変えた森に繰り出すということで、レイシーはわくわくした。

 寝間着のままぐいぐいサンディを引っ張って、寝室を出て行くのだった。




 朝食を済ませると外行き用の服に二人は着替えた。

 冷え込んでいたので、オルガが手編みした赤いセーターも着せてもらった。

 サンディも同じセーターに身を包む。お揃いの服を着た二人は、屋敷の玄関に立った。


「さぁ、行きましょう。バスケットはちゃんと持ったかしら?」


「持ったけど……どうして二つ要るの?」


 サンディは既にバスケットを手から提げている。

 自分まで持っていったら、余分ではないだろうか?


「それはね、お楽しみですわ」


 彼女は意味有りげに笑みを浮かべた。

 こう言うからには、何か楽しいことが用意されているのだろう。

 彼女の思惑に乗ってやろうと思うと同時に、期待に胸を膨らませた。




 外に出て間近で見ると、更に森の彩りが豊かになったように思えた。

 二人の少女は手をつなぐと、赤と橙のトンネルとなった森へと歩き出した。

 葉の隙間から差し込んでくる光は、もう既に夕暮れになったかのような色だった。

 落ち葉の敷き詰められた柔らかい地面に足を踏み入れると、しゃか、しゃかと心地いい音がする。

 時々小さなリスが走ってきて、落ちているドングリを口に詰め込んでいった。


「この暑期と寒期の間では、森でおいしい食材がたくさん採れますのよ。ほら、ご覧なさい」


 ある程度森を進んだところでサンディは立ち止まり、地面を指さした。

 彼女が示した場所を見ると、木の根元の、落ち葉の隙間から小さな茶色い傘が顔を出していた。


「きのこだ……! とってきてあげる!」


 屈んできのこを掴むと、手触りは堅く、地面にどっしりと根を張っていた。

 レイシーは力を入れ、それを一気に引き抜く。見るからに食べごたえがありそうだ。


「サンディ。あげるね」


 彼女は笑顔を浮かべながら差し出されたきのこを受け取り。手に提げたバスケットに入れた。


「ありがとう、レイシー。まだまだいっぱいありますから、二人で一緒に探しましょう。あなたのバスケットにも、どんどん入れていっていいのですわよ」


「うん、わかった!」


 レイシーとサンディは地面に目を凝らし、夢中になって探索を始めた。

 その小さな手が汚れるのも気にせずに、落ち葉や茂みをかき分けて、何かないかと見て回る。


「あっ、見つけましたわ!とっても大きいですわよ!」


「こっちも見つけた!」


 空だった籠はみるみるうちに、きのこや栗、木の実で満たされていく。

 バスケットを二つも持ってきたのは、心ゆくまで森のめぐみを採集するためだったようだ。


「わたくしとレイシー、どちらがたくさん見つけられるか競争しましょうか!」


「うん!」


 二人は時間を忘れたかのように、宝さがしに熱中した。

 それはまるでサンディと一緒に、紅色の洞窟で探検をしているような、とてもうきうきする出来事で。

 様変わりしてくれてありがとうと、レイシーは森に感謝した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ