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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第一章 少女と森のやしき
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雑踏に迷う Ⅰ

 空になった食器も取り下げられ、テーブルはすっかり平らになった。

 レイシーは心地良い満腹感に包まれていたが、そろそろ市場に戻って再び買い物を楽しみたくなった。


「さあサンディ、またお買いものしよう」


「レイシー、ちょっと待ちなさい。わたくし、もう一つ頼みたいものがあるのですわ」


 席を立とうとしたレイシーは、サンディに引きとめられた。

 屋敷ではその兆しはなかったが実は彼女は大食らいなのかな、と思いつつ席に座る。


「なにを頼むの? シチュー? リゾット?」


「欲しいのは食べ物ではありませんわ。あれだけ肉を食べたのですから、おなかにやさしい飲み物を貰おうと思いましたの。オーネ、何かあるかしら?」


「ペパーミントのハーブティーがあるよー! 食後に飲むと、とっても楽になるよ!」


「では、それを頂けるかしら? それが済んだら買い物に戻りましょう」


「はいはーい! これはサービスだから、タダでいーよ! もう少し待っててね!」


「はーい。待つよ」


「お願いしますわ」


 オーネは再び厨房へ駆けて行く。

 その背中を見送ってから、再び席に着いたレイシーはサンディの顔を見た。


「ねえ、この後はどうしよう? またお買い物がしたいな」


「そうですわね……では、お土産を買いに行くのはどうかしら? オルガもお留守番してくれているし、爺やもこの様子だと買い物する時間があるか、わかりませんわ」


「代わりにわたしたちが買い物してあげるんだね。何がいいかなあ」


「一緒に考えてみましょうか」


 二人はどんなものが好きだっただろうか。何を贈れば喜んでくれるだろうか。

 料理の残り香の中で思考を巡らせると、一つの考えに思い至った。


「そうだ、オーネに聞いてみようよ! 爺やもオルガも料理をするから、ここで使っているような器具を贈ってあげるのはどう?」


「それはいい考えですわね。お店を開いているという事はプロですから、きっといい器具を使っているに違いありませんわ」


 ちょうどその噂をした時に、オーネが戻ってきた。

 彼女は透き通った黄緑色の飲み物で満たされたグラスを二つ、トレイに載せて来ていた。


「はい、お待ち―!」


「ありがとう。いただきます」


 目の前に置かれたグラスを取り、レイシーはハーブティーを味わった。

 程よい温かさのそれは喉越しもよく、涼しい風が体の中を撫でてくれるような、すっきりした味がした。


「ねえオーネ、お土産を買いたいんだけど、何かいいと思う物はない? 料理に使う物がいいな」


 爽やかな飲み物に舌鼓を打ちながら、レイシーは質問した。


「そうだね……普通のじゃ少し拍子抜けだし、極東製のナイフとかどうかなー」


「ゴクドウ……って、何? そういえば、ステーキを切ってくれる時にゴクドウのナイフとか言ってた気がするけど」


「レイシー、極道ではなくゴクトウ、極めて東の場所のことですわ。。……と言ってもわたくしも極東についてはよく知りませんわ」


 あのサンディですらも、さっぱりという雰囲気で首を振った。


「知ってるかなー? 最近の事なんだけど、極東の海を越えた先に島があったんだってー。香辛料とかお魚とか一級品で、とってもおいしいんだよ。そこを、極東って呼んでるわけ」


「知らなかった」


「なるほど、そんなところが……」


 以前やったすごろくの地図のおかげで、森や市場から東に王都があるのは知っていた。

 話によればさらにもっとその先の東に、未知の島があったというのである。

 市場は情報が集まるからね、とオーネは胸を張った。


「で、その極東の国は武術や刃物にも長けてるんだってー。その刃物が、これだよ」


 オーネは話題にしていたナイフをかざした。

 それは彼女の手ほどの大きさしかない小さなナイフだったが、その刃は光に当たって、ぎらぎらと見るからに鋭い輝きを放っていた。


「あっ、さっきステーキを切ってくれたやつだ! これこれ、ゴクトウのナイフ!」


「うんうん。うちには三丁あるんだー。調理用に一丁、お客さんの料理を切り分ける用に二丁だよー。とってもよく切れるから、おすすめだよー!」


「これならみんな喜びそうですわね。わたくしたちももっと美味しい料理が食べられると思いますし」


「お土産、これにしようよ!ねえ、どこで買えたの?」


「うーん、そこまではちょっと覚えてないや、ごめんねー。でも、剣とか斧とかの刃物を売ってるお店ならあるかもしれないなー。あとは極東から来た商人も市場にいるから、その露店でも買えると思うよ。私もそこで買ったんだー」


「何か目印はありましたの?」


「そうだね、極東のお店の人はキモノっていう変わった服着てるよ。こう、前が重なってて、袖の大きい服なんだー」


 オーネはキモノを実演するように、手のひらで首の前にばってんを作った。


「ふーん……ありがとう、オーネ。探してみる」


「本当にありがとうね。飲み終わったようですし、行きましょう」


「はいはーい! また来てねー!」


 二人はオーネに見送られながら、食堂を後にした。

 手掛かりは少し得られたが、あとは歩きながら探すしかないらしい。

 しかしあの巨大なステーキを容易く切り分けたナイフが手に入れば、爺やもオルガもきっと喜んでくれるに違いない。

 足を棒にしてでも探す価値は十分にあるように思えた。

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