ものいわぬ先生 Ⅱ
「さあレイシー、次はどれを読みましょうか?」
「これだけいっぱいあると迷うなあ……」
「遠慮なく、好きなのを言ってくださいな。文字はきちんと教えてあげますから」
「そうだ、サンディのおすすめの本はある?」
「そうですわね……これなんかどうかしら?モンスターの図鑑ですわ」
「モンスターってあの川にいた、目玉お化けのことだよね。ああいうのが他にもいっぱいいるの?」
「ええ。この国で暮らしていくなら、わたくしたちを脅かすモンスターの事はよく知っておかないといけませんわ。これは今まで目撃されたモンスターの図録ですのよ」
「絵がいっぱい……あっ、あの川にいた目玉お化けだ。これ見たことあるよ」
「それはショギ型、と呼んでいる種類ですわね」
「ショギガタ?」
「わかりやすくするようにそういった分類の名前で呼んでいますわ。名前は、はじめて情報をもたらした人のものを取っていますから、ショギさんという方が頑張ってくださったみたいですわね。そうやって生き残った人たちからもらった情報を頼りに絵を描いて、特徴を記していますのよ」
「ええと、ショギ型の特徴は……何て読むの?」
「爪が鋭い、集団で襲ってくる、力が強い、攻撃的で死を恐れない、ですわ。それだけわかっていれば、近づいてはいけない、とか囲まれてはいけない、とか対処法がわかるでしょう?そうやって注意してもらえるように、こういうことを書いていますのよ」
「だけど、わかっていてもこわいなあ。モンスターのいない場所っていうのは無いの?」
「少し前なら出没場所が少ないところはあったのですけれど、残念ながら今はそうでもないのですわ。前の戦乱あたりから、奴らは少しずつ増えてきましたの。どうやって増えたかなどは、まだまだ謎だらけなのですけれど」
「増えてきたってことは、まだまだいっぱいモンスターはいるんだね」
「発見されていないモンスターも、おそらくたくさんいますわ。そういう事を調査するのも、ハンターのお仕事ですのよ」
「ハンターってこの前森に来てた、強そうな人たちだね。そういえば、新型のモンスターが森にいるって話もあったよね。あれは大丈夫だった?」
「ハンターは調べたみたいですけど何もなかったそうですし、噂だったとは思いますけど…奴らの共通点はわたくしたち人間を襲ってくることですわ。気を付けなくてはいけませんわね」
「そうだね。もし新種なんて出会ったら、真っ先に逃げなくちゃ」
「ええ、あなたは全力で逃げてくださいな。絶対に、レイシーはわたくしが守ってあげますから」
「本ってすごい。わたしが知らないこと、いっぱい教えてくれるんだね」
「文字は覚えられそうかしら?」
「うん、どの音がどの文字なのか、わかってきた気がする。歴史の本がわかりやすかった」
「ふふっ、早く文字をおぼえて、一緒に本を読みましょうね。わたくし、本は好きなのですわ。たくさん勉強をしたり教養を身に着けた作者の方が一生懸命、わたくしに話をしてくれているような気がして……」
「それならね、書き言葉がちゃんと出来るようになったら、もっといろんな人とお話しできるかもしれないね。わたし、いつか本を書いてみたいなあ」
「いい夢ですわね。作家という職業も王都では重宝されますわ」
「それで、本が出来たら、サンディに最初に読ませてあげるんだ。わたしの本をはじめて読んでくれる人はサンディがいいな」
「あら、嬉しいですわ。本を作るというのなら、人でも本でも、一つ一つの出会いを大切にするのですわよ。どんなものでもそれらは間違いなく、糧となるのですから」
急に書き方が会話文のみに変わってびっくりされた方もおられるかもしれませんが、次回から元に戻しますのでご安心ください。