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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第一章 少女と森のやしき
32/176

撃退!盗賊団 Ⅰ


「……奴らは行ったみたいだな」


「だなぁ」


 屋敷の角に隠れたちびすけとこわっぱは一息ついた。

 爺やの炎の魔法に対抗する術が見つからず、何とか目を盗んで逃げてきたのであった。


「うわああああああ!」


「な、なんだぁ!?」


「見つかったか!?」


 突然どすん、と大きな物体が、二人の目の前に落ちてきた。

 見ると、兄貴の巨体が草むらに横たわっていた。


「あ、兄貴!? 何で空から……」


「そうかぁ!空飛ぶ魔法を習得したんだなぁ!」


「バカか! 俺は窓から出て来ていたのを見たぞ。華麗にお宝を盗んで戻って来たんだ!」


「雷を喰らって動けない所を投げ落とされたんだよ、トンチンカン共! ……くそぅ、全身が痺れる上に腰が痛くてたまらん……」


 そこへ気絶したのっぽを回収し終えたひげが通りかかった。

 首魁が敗北した姿を見て、気の弱い彼は狼狽する。


「あ、兄貴! 大丈夫ですかい!?」


「すまん、肩を貸してくれ。今日は退散だ!」


 兄貴が一声かけると、残っていた盗賊たちは素早く押し合いながら箱馬車に乗り込んでいった。

 一連の騒動に関わらなかった雇われ御者は席で呑気に居眠りをしていたが、男たちが乗り込む振動で目を覚ます。


「覚えていやがれ!」


「また会おうね、サンディ!」


「あばよぉ、おでのヨメ!」


 寝ぼけ眼の御者に操られる馬に牽かれ、馬車は慌てたように森の奥へと去っていった。


「まったく、逃げ足だけは早い連中ですわ」


 窓の外を見やりながらため息をつくように、サンディが呟いた。





「お嬢様方、御無事ですか!?」


 オルガと爺やが戻ってきた。

 二人とも使用人服のところどころに泥をつけている。動き回っていたようだ。


「ええ、わたくし達は無事ですわ」


「御無事で何よりです。あやつら、なかなか頭が回るようになっていたようですので」


 ちびすけ相手に不覚を取りそうになったオルガが告げる。

 表情こそ真顔だが、声に少しばかりの悔しさがにじんでいるように思えた。


「まあ、そんなことが…怪我は、ありませんでしたの?」


「はい」


「私もなんとか無事ですな。やれやれ、老体には堪えますわい。レイシー様は無事ですかな?」


「……ええ。なんとかね」


 その時唐突にレイシーは、サンディの表情に陰を感じた。

 まるで彼女は何かを悔やんでいるように見えた。


「サンディ、どうしたの?」


「あら? わたくしはなんでもないですわよ? ほら、こうして無事ですし」


 一瞬見えた暗い表情はいずこ、サンディは笑いながら答える。


「疲れましたわ……積み込みに盗賊、魔法までつかってしまいましたし……まずはゆっくりお風呂に入りたいですわね」


「すぐに用意してまいります。少しお待ちください」


 言うとすぐ、オルガは居間を出て行った。




 風呂の支度ができるまで、サンディ、レイシー、爺やの3人は椅子や箪笥の片付けをしていた。

 片付けの最中、頭のいいサンディ、経験豊富な爺やによって楽しい話題が多くなされる。作業しながらではあるが、それはよき談笑であった。

 しかしその空気に流され、結局彼女の陰のある表情についてレイシーは聞けずじまいであった。

 やがて、風呂の支度が済んだとオルガが伝えにやってきた。


「わたしも、つかれた。ゆっくりしたいなあ」


 とりあえずレイシーは疲れを落としたかった。


「さて、わたくしも行きますわ」


 サンディもレイシーに続いてソファを立とうとする。


「……しばし、お待ちいただけませんか」


 爺やがレイシーに聞こえないよう、小声でサンディを引きとめた。

 その真剣な声色から、真面目な質問をしようとしているのだとサンディは読み取る。


「ごめんなさい、レイシー。先に行って、待っていて下さる?」


「うん、わかった」


 レイシーは素直に従った。

 レイシーが去り、オルガも別の場所の後片付けに向かったためいない。居間にはサンディと爺やを残すのみとなった。

 そこで爺やはサンディの顔をまっすぐ見据えて尋ねた。


「御引止めして申し訳ございません。しかしお嬢様、いったいどうなさいました?お気になさっている事でもあるのでしょうか」


「……気づいてましたの」


 レイシーには隠せたサンディの胸のもやもやも、長く共にいた爺やには御見通しだったようだ。


「はい。少し気になっておりました。盗賊の一件で、何かあったのですか?」


「……そこまで見抜かれていては、仕方がないですわね」


 サンディは観念し、もう一度ソファに腰かけた。


「……聞いて下さる? わたくし、自分に自信がなくなってきましたわ。レイシーを家族にしたかったのはわたくしなのに、奴ら相手に何も言い返せなくて……」


 サンディは拳を握りしめる。

 あまりに強く握ったので指が食い込み、掌の皮が痛んだ。


「おまけに守らないといけないレイシーに助けてもらってしまいましたわ。それが悔しくてたまりませんの」


「何があったのか、お聞かせ願えませんか」


「……いいですわ。笑わないでくださいな」


 兄貴との対面、絆の否定。レイシーの叫び。

 サンディは事の顛末をすっかり話し切った。

 恥ずかしい出来事を語る罰のような気がして、話している間のサンディは今にも泣き出しそうな気分だった。


「お嬢様はレイシー様の意思を無視して勝手に連れてきた、ですか」


「わたくし、自分が情けない。レイシーを守らないといけないなら、レイシーとの日々を侮辱する輩を真っ先に否定してやらないといけないのに」


「お嬢様もレイシー様を勝手に連れてきたと、心のどこかで思っておられたのですか」


「……少しだけ。最初はそうではなかったのですけれど、楽しい日々が続く間にだんだん……レイシーには勿論、そんな気持ちは隠すようにしていたのですけれど」


 サンディは大きなため息をつく。


「名前をあげた時もこれは彼女を縛り付けないかと少し心配になっていましたわ。だけどレイシーはすてきな名前と言ってくれて……嬉しかった」


 だが、今の自分にその嬉しさを享受する権利はないと思った。

 言い出しっぺの自分がそんな思いにとらわれて反論できなかったなど許せなかった。

 心のわずかな引っ掛かりがそれを邪魔し、こうして彼女に影を残すことになったのだ。


 水曜日更新ですが、多忙な日が続いており満足にできておりません。申し訳ございません。

 不定期に投稿できる時を見つけてやっていこうと思います。

 土曜日更新は逃さず行う予定ですので、お楽しみに。

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