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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第一章 少女と森のやしき
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盗賊団がやってきた Ⅰ

 ある晴れた昼下がり。森の中を4つの車輪のついた、黒い屋根の小屋が進んでいる。

 御者に見守られる2頭の馬が蹄の音とともにその小屋を牽いていた。

 もうすでに暑い時期は過ぎていたが、小屋の中には暑苦しい光景が広がっていた。

 6人の風貌の違う男たちが狭い室内に詰め込まれるかのように座っている。

 彼らは盗賊団であり、この箱馬車は彼らのアジトなのだ。

 全員が短剣を持ち、盗品のちぐはぐな鎧をつけていた。


「野郎ども、わかってるな? 今日こそにっくき奴らから身ぐるみ剥いでやるのだ。おい、聞いてるか! ひげ! のっぽ! ちびすけ! ダガー! こわっぱ!」


 中でも最も大柄な、眼帯をつけた男が図太い声で叫ぶ。

 彼は兄貴と呼ばれる、この一団の指導者だった。

 身体を覆う無法者の証たる荒々しい傷と角刈り頭がトレードマークだ。


「ええ……本当にあの屋敷に行くんですかい? 3回はコテンパンにされたのに」


 ひげという呼び名を持った、禿げ上がった隣の男が囁くような声でそれに応えた。

 顎に立派な長い黒髭をたくわえた彼は提案には消極的だった。


「いいや、4回だぞ。そんなことも忘れたのか、このひげは」


 ちびすけと呼ばれる、小柄な男が立ちあがる。

 彫りの深い顔のおかげで子どもには見えないが、体格とはかなりミスマッチな出で立ちだった。


「何を言うちびすけ、俺の記憶では5回だ」


 目つきの悪い、長身の男が対抗するように隣で立ち上がった。

 こののっぽという盗賊は兄貴ほどではないものの身長は高く、この中で最も小さいちびすけと並ぶと頭二つ以上の違いがある。


「5回だなんて。のっぽ、大きいのにまわり見えてないんじゃない?6回……じゃなかったっけ?」


 短剣をいじりながらそう言うのは痩身で色白の、中性的な顔立ちの男。

 彼はダガーと呼ばれていた。


「どいつもこいつも馬鹿ばかりだぁ! 7回だろぅ!」


 こわっぱと呼ばれる彼は小さな体に童顔、短く切られた髪と名の通り少年のような容姿をしていた。

こちらはちびすけとは違い、完全に子どもに見える。どんな話題でも勢いよく話すのが彼の癖だった。


「3回!」


「4回だぞ!」


「5回だ!」


「6回だよ!」


「7回だぞぅ!」


「うるせえ!してやられた数を増やすな! 情けなくなる!」

 

 兄貴が一喝して場を収める。


「けれど兄貴、俺あんまり行きたくないです。それよりあいつらの言ってた通り森の奥でのんびり狩りと採集してた方が安心して暮らせやしませんかね?」


「ひげのように怖がるつもりはねえが、確かにこの森での暮らしは快適だった。モンスターとやらで追い出されたせいで食いっぱぐれちまうまでは」


「そうだよなちびすけ。で、今はもうモンスターもいないみたいだし、盗賊よりそうして暮らしたほうがいいんじゃないかと思うんだが」


 ひげとちびすけは計画には消極的だった。

 彼らが以前屋敷を襲い返り討ちにあった際、相手に森の資源を集めて暮らすことを勧められていた。

 実際、二人はその生活には満足していた。


「僕は屋敷行きたいなあ…あの子、サンディだったっけ……とてもかわいかったし」


「何言ってんだ、オルガさんだろぅ。あの真顔と熟した色気がたまらねえんだよぉ。ヨメにしてえなぁ」


「俺は行くのに賛成だ! たった3人に俺達がやられたままでたまるか、一発食らわせてやらねえと気が済まねえ! そうだろ、兄貴!」


「その通りだ! おい、御者! あの屋敷に行け! 今日こそは奴らに目に物を見せてやるわ!」


 賛成派のダガー、こわっぱ、のっぽに加勢する兄貴が大声を出す。

 馬術を心得ない盗賊たちの代わりに雇われている御者は要求に従った。


「……はぁ」


「やれやれ」


 こうなってしまっては決定は覆らない。

 ひげとちびすけは諦めのため息をついた。




「よし、これで荷造りは終わりですわね」


「そのようですな。お疲れ様です、お嬢様」


 最後の木箱を置き、サンディと爺やは汗を拭く。

 屋敷の裏にはロープや刺繍の織物、樽や箱をたんまりと積んだ巨大な荷車が用意されている。

 これらは定期的に市場に売りさばくことで、屋敷の主な収入源になっている商品だった。

 しかし今期はモンスターが出たせいで商品を売りに行くことができず、屋敷の地下にある倉庫で多くが眠っていた。


「ここ最近はレイシーもたくさん家事をお手伝いしてくれるようになりましたわね。けれどわたくしは教えてあげるのに手一杯で、お仕事の方はあまりお手伝いできなくて……申し訳ありませんわ」


「いえいえ。私たちの手がけたものだけでもやっていけるだけの額は稼げます。それに、お嬢様の貯金もまだまだ残っていますから」


 建前は主人と使用人だが、サンディたちは殆ど家族のような結びつきだった。

 爺やもオルガも給金は取らず、共有の財産で生活している。

 また、サンディも彼らの仕事を手伝うことは多かった。


「サンディ、爺や。ここにいたんだね」


「あら、レイシー。よく来ましたわね!」


 屋敷から出たレイシーは作業を終え立ち話していた二人の姿を見つけた。

 掃除用の頭巾とエプロンに身を包んだまま、速足で彼女たちに近づいていく。


「オルガのほうのお手伝いは終わりましたの?」


「いっぱい掃除した。倉庫、すっごくきれいになったよ!」


 サンディと爺やが商品を荷車に積みこむ一方で、レイシーとオルガは積み荷を保管した後の地下倉庫の掃除を任せられていた。


「倉庫ね、最初は綺麗だと思ったんだけど、布巾で隅っこを拭いたらいっぱい埃がついてね、もうすっごく汚くて。だけど部屋が綺麗になるのが楽しくて、いっぱい掃除しちゃった」


「レイシー様、ありがとうございます。商品の状態には気を遣っているのですが、部屋の細かい所には手が回らないこともありまして……」


「偉いですわ。頑張ってくれたのですわね」


「うん!オルガにもいっぱい褒めてもらった。お疲れ様ですって頭いっぱい撫でてもらった!」


「わたくしも撫でてさしあげますわ。よしよし」


「えへへ」


「サンディお嬢様にレイシー様、なんと尊い……この老いぼれ、逝く前にこんな光景に立ち会えるとは……!」


 レイシーは公用語に慣れ続け、今や人並みに言葉が話せるようになっていた。

 自分の気持ちや考えを誰かに伝えられるのはとても面白いことで、積極的に話しかけていった。

 サンディと従者たちはその会話全てにしっかりと付き合ってくれるのだった。

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