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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第一章 少女と森のやしき
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あなたは、レイシー Ⅱ



「れいしー?」


「そう。レイシー。あなたのお名前ですわ。……この名前は、嫌、ですの?」


 レイシー。レイシー。

 名前という一回きりの贈り物を確かめるように、何度も口の中で繰り返す。


「嫌じゃ、ない。わたしはレイシー。なまえ、うれしい。これから、よろしく」


「……こちらこそ、ですわ」


「改めてよろしくお願いします、レイシーお嬢様」


「名前がお変わりになっても、可憐さにお変わりはありませんな。誠心誠意、お仕えいたしますぞ」


改めて全員は盤に向き直った。


「さぁて、すごろくを続けましょう。レイシーの番からですわ!」


 レイシーはサイコロを受け取って投げた。

 コロコロという音の後、上を向いたのは5の出目だった。


「なかなかですわね。さあ、駒を進めてくださいな」


 5マス進んだ自分の駒は大きくサンディを引き離した。

 このままうまくいけば、勝者になることも夢ではない。


「やったあ!」


 上機嫌のレイシーは次の手番に動くオルガにサイコロを渡した。


「見事でございます。では、次は私が……6ですね。前を失礼します」


「……」


 嬉しさはすぐに掻き消えた。

 オルガが無表情のまま進める緑色の駒が、灰色の駒を追い越していく。


「……いじわる」


「申し訳ありませんレイシーお嬢様。全てはサイコロの気分次第でございますゆえ」


「こらこらオルガ、いじめてはいかんでしょう。私が仇を……」


 爺やの振ったサイコロの出目は3。良くもなく、悪くもない。


「微妙ですな」


「ちょっと爺や、それは全く進めなかったわたくしに対する嫌味ですの!? そもそもどうやって仇を取るというのです!?」


「それはもう、オルガより先にゴールをして……」


「それだと今度はあなたがレイシーを追い越しますわよ! 全然仇を取れてませんしむしろ仇になってますわ!」


「……盲点でした。ぼけてきましたかな」




 サイコロの音は鳴りやまない。

 あれから街道を進み続けた駒達は、分かれ道に差し掛かかろうとしていた。

 最初に分かれ道にたどり着いたのは、無事オルガを追い抜くことのできたレイシーだった。


「この分かれ道では3つの選択肢がありますわ。北上して海を通る道、森を迂回してこのまま平野の街道を使う道、王都前の森を突っ切る道の三つですの。海を通る道は一番遠回りですけど、船…海を渡る乗り物を使いますから、海に出てしまえば早く進めることもありますの。森を迂回する道は街道をそのまま行く道で一番安定して進めますわ。最後に森を通る道は、近道ではありますけど危険も多いですの」


 分かれ道の先をよく見てみると、海のマスは陸路が少し長いものの海の上では「港で船を乗り継ぐ。もう一度サイコロを振る」「追い風。1マス進む」など、魅力的な文が書かれている。

 いっぽうで森の中は、距離こそ短いが「蔦が絡まる。一回休み」「モンスターに襲われる。2マス戻る」など、煩わしい文言が見て取れた。


「うーん……」


 手を止めて、少し考える。

 今の順位は自分、オルガ、爺や、サンディの順番だ。

 出目が味方したおかげで駒同士の間はそれなりに余裕がある。

 どうすればこの有利を最大限活かせるだろうか?


「よし、こっちいく」


 レイシーは船を使う道で進むことにした。

 遠回りになるが他のライバルが分かれ道に来るまでに海に到着すれば、誰も追い付けないだろうと考えてのことである。


「わかりましたわ。ではサイコロをどうぞ」


「ようし。6でろ!」


 力んで投げたサイコロが止まる。

 出た目は2だった。1よりはましではあるが、少し不安になる数字だ。


「むー」


 もやもやしながら駒を進める。まだまだ海は遠い。


「では、次は私ですね。……ふむ、6ですか」


 それに対して迫るオルガの振ったサイコロは最大の出目。

 レイシーは思う。どうして彼女はいつもいつも、追い打ちをかけるようなことをしてくるのか。


「……やっぱり、いじわる」


「全てはサイコロの気分次第でありますゆえ」


 真顔で淡々と告げながら、緑の駒が迫ってくる。

 余裕があると思っていた駒間の距離も、6マス進まれてから考えるとそれほど無い。早くもレイシーは道の選択を間違えたような気がした。


「うぅ、ううう~」


 サイコロは爺やに渡り、サンディに渡った。

 しかし二人の出目はやはりふるわない。オルガがこうなっていればいいのに。


「うぅむ……これ、追い付けるのですかな?」


「諦めてはなりませんわ。爺やもわたくしのおやつ、食べたいのでしょう? 勝てたら作ってさしあげますわよ?」


「勿論ですとも」


「だったら、最後までサイコロを振ることを辞めてはなりませんわ。……まあ、そもそもわたくしは最下位なのですけれど……」


 再び自分の番が来た。

 焦っているレイシーは受け取るや否やサイコロを放り投げる。


「おねがい……」


 願い届かず、出目は再び2。


「サイコロをいただきます。……5ですか、よろしい」


 足踏みするレイシーの傍ら、オルガは順調に追い上げてきた。

 そして、とうとう自分が海に出る前にオルガが分かれ道にたどり着いてしまう。


「今から海に出ても、レイシーお嬢様に勝つのは難しいでしょう。森を突っ切ることにしましょうか」


 しめた。蔓やモンスターに引っかかってくれれば、追い付かれてもまた抜き返せるはず。

 このうちに何とかリードを確実なものにしなくては。

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