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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第一章 少女と森のやしき
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二人の出会い Ⅰ

 アイルーン王国の西の果てには、活気があることで有名な市場がある。

 青い快晴の空の下、色とりどりのテントや屋台の前で買い物に勤しむ人々の横を新たな客を乗せた馬車が横切ってゆく。

 馬車が通ってきた、市場へ入るための門の前には槍を持った二人の衛兵が仁王立ちになっている。

 この真面目な二人の守護者は一切立ち話などせず、市場へと続く道の向こうを見張っている。よく手入れされた彼らの鎧は太陽をうつしてきらきら輝いていた。


 その憲兵たちの間をとおって、顔色の悪い少女が一人、市場へ歩いていく。そのぼうぼうに伸びた黒髪の少女はいかにも貧民といった身なりで、破れかけた布のような服一枚だけを身にまとっていた。

 だいたい12、3歳くらいの年齢で一人歩きには早いはずだったが、彼女についている大人の姿はない。

 人々で賑わう明るい市場には似合わない、汚れた幼い子どもの登場に衛兵は一瞬眉をしかめたが、害のある様子もない。別段気にも留めず、入れてやることにした。


 少女の裸足の足が、舗装された市場の道を踏み、ひたひた音を立てる。

 彼女はなぜ自分が歩いているのか、なぜここにいるのかわからない。

 それどころか自分の名前や出身すらも思い出せなかった。ふわふわした感覚が頭を支配し、まるでたった今この姿で産み落とされたような気がする。


「安いよ! リンゴ一つ10インだ!」


「あんな小さい子が一人で…何してるんだろうねぇ」


「最近は新種のモンスターもこの辺で見かけるって噂だね、おっかない…」


沢山の人が目に映り、賑やかな声が聞えるが、何を言っているのか少女には理解できない。


 彼女はただただ惰性で足を前へと運び続けた。

 その時、道の端にうずくまる白い、小さなものが視界に入った。

 耳の長い、毛むくじゃらな生き物だ。兎、と呼ばれる生き物であるが、少女はもちろん名前を知らない。白い兎はこちらに気づいたかのように立ち上がると、少女に背を向けて駆けていく。

 それを見ると少女のふわふわした感覚は消え、追わなければ、という使命感が頭を支配する。思わず、足が速くなっていた。

 この人波の中、唯一自分を導いてくれるものを見つけたような、そんな気がした。

 兎は雑踏を抜け、門を抜け、まだまだ走っていく。

 少女もそれを追い、驚く衛兵をよそに市場を走り抜け、外へ飛び出した。


 市場の外には広大な森が広がっている。

 木々の間へと消える兎を、長い髪をふり乱した少女が追いかける。


「はっ、はっ、はっ」


 少女は小石で足が傷つくのも気にせず、夢中で兎を追い続けた。

 兎は木々や蔦を避けてなおも駆け続けていたが、とうとうその足を止めた。導きはここまで、と言わんばかりに追跡者を見つめる。

 当然、兎を追う以外の目的を持たない少女もいきなり止まられるとそれに倣うほかはなかった。

 足を止めると、ここまで走った疲れが一気に襲ってきた。はぁはぁと肩で息をしながら少女もまた兎の方を見る。

 見つめあう兎と少女を木漏れ日が明るく照らす。少女には自分の呼吸音と、早鐘を打つ心臓の音だけが聞こえた。


「……何をしておられるの?」


 突然声をかけられ、少女の身体がびくり、と跳ねる。

 振り向くとそこには整った身なりをした、自分と同い年くらいの少女が立っていた。

 身長は少女よりやや高く、気品のある顔立ちをしている。

 きらめく長い金髪を備えた、この木々に溶け込むかのような緑色のドレスに身を包んだ彼女には、どこか森の上で輝く太陽のような印象があった。


「驚かせてしまいました? ごめんあそばせ。……あら、そこにいるのはマリー!? 心配しましたわ!」


 ドレスの少女は先ほどまで追いかけていた兎に気付き、抱き上げる。兎は大人しくその腕に収まった。


「もしかして、あなたがマリーを連れてきてくださったの?」


「……?」


 少女はあっけにとられた。目の前の人物はどうやら自分に向かって話しかけているようだが、それは意味ある「言葉」ではなく単なる「音」として聞こえる。

 その呆けた様子を見てドレスの少女も困惑した表情を浮かべた。


「あなた、公用語がわからないの? それにしても、ずいぶんとみすぼらしい服をしてますわね…どこから来ましたの?」


「……ん?」


 その言葉すらも少女は理解できていない。何かを伝えようという意志だけは伝わってくるのだが、内容は伴なっていない。

 そのぽかんとした様子を見てドレスの少女はこちらが言葉を話せないことを確信した。


「わかりました。言葉が話せないのは流石に不便でしょう。教えて差し上げますからついてきなさいな」


 彼女はにっこり笑うと、兎を抱えたまま手を片方、こちらに差し伸べてきた。少女は迷いながらもその手を取る。


「……ずいぶんと冷たいですわね。野宿していらしたのかしら? ……って、言ってもわかりませんか」


 ドレスの少女は手を引き、森の中を歩いていく。行くあてのなかったボロ服少女は、抵抗せずそれに連れられる。

 いつしか時刻は夕方になり、森は夕日に照らされ始めた。




こんにちは。偶像兎です。初投稿です。

わからないことだらけですが、とりあえず週一更新を目指して頑張ります。


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