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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第一章 少女と森のやしき
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あめふりと約束 Ⅲ

 不思議だった。

 そこで動いているのは、確かに人形、ただの道具であるはずなのに。

 その世界はいきいきと少女の心に響いてくる。

 雨で外にも出られないのに、遠くまで冒険をしたような気分になる。

 サンディもこの物語がお気に入りなのか、前に劇を見た時よりも楽しそうだった。


「爺やの劇は、伝説や昔話に題材を取ったものが多いですの。今日のお話はこの国の歴史に題材をとっていますから、勉強になりますわよ」


「レキシ?」


「歴史は完全に作られたお話とは違って過去に実際に起きた、と言われていることですわ。これはものすごく最近の事ですから、あの王子様にも王都に行けば会えるかもしれませんわね」


 彼女によると、王都はここから離れたところにある、とても華やかで大きい街の事であるらしい。

 王子様や姫、着飾ったたくさんの人が行き交う、きらびやかなこの王国の要。

 まだ見ぬ場所を憧憬し、少女は胸が高鳴るのを感じる。


「いつか案内してさしあげますわ。素晴らしいところですわよ。約束ですわ」


「ん!!」


 その時、ふと爺やの顔が目に入った。

 楽しい劇を披露してくれた彼は、何故か渋い顔でこちらを見つめている。いったいどうしたというのだろう?


「ですがその前に、市場に行ってからですわね。人が大勢集まるところに行くなら、練習しないといけませんわ」


 そんな疑問は、サンディの言葉にかき消された。

 彼女は少女の手を取り、微笑む。

 サンディと一緒なら、どんなところでも行ける気がして。少女も笑顔を返すのだった。


 夜。ベッドに横たわっていたサンディは目を開けた。

 横では少女がサンディの手を握りながらすやすやと寝息を立てている。起こさないように静かに少女の手をほどくと、サンディはベッドを抜け出した。

 盗賊のようにそろりそろりと階段を降り、居間へと向かう。

 居間ではソファの横に控えるように、爺やとオルガが待ち構えていた。


「……お嬢様、夜中に突然呼びつけてしまい本当に申し訳ございません」


「いいですのよ。お掛けになって、ゆっくり話をいたしましょう」


 爺やとオルガが深々と頭を下げ、ソファに腰掛ける。サンディはその向かい側に座った。


「それで、どうしましたの?」


「ほんとうに王都へお行きになるおつもりですか?あの子のためとはいえ、わざわざお嬢様が遠く離れた森にお隠れになっているのはあそこを避けるためではなかったかと。何卒お考え直しください」


「それは聞き捨てなりません。どうして今更お戻りになる必要があるのです?」


 珍しく表情を硬くしている爺やの言葉に、真顔のオルガが続いた。


「オルガも爺やも、心配してくれてありがとう。だけど、わたくしが避けているのは王都ではなく、王都の一部を牛耳っている連中ですわ。うまく変装していけば気づかれないでしょうよ」


「しかし、あの子のためとはいえそこまでする必要があるのですか?」


「あの子のため、だからそこまでするの。保護者としていろいろなものを見せてあげるって決めてますもの。それに、わたくしのせいであの子の見る世界を狭めてしまうのは、可哀想ですわ」


 二人の目を見つめ、サンディははっきりと主張する。

 こう言いだしたときの彼女は動かないことを、従者たちは熟知していた。

 爺やとオルガのため息が重なる。


「今日この演目をやったのは失敗でしたかな……お嬢様の好みの演目ですし、あの子にも気に入っていただけるかと思っていたのですが、こんなことに繋がるとは……」


「今回ばかりは爺やに同情します。……行くとなれば、全身全霊でお守りいたすほかはありますまい」


「そうですな。やれやれ、老人使いの荒い……」


「二人とも、ありがとう。それとね」


 話題を区切ると、サンディは言葉を続けた。


「それとね、お願いがありますわ。わたくしに仕えているのと同じように、あの子にも仕えてくださらない?具体的には、あの子が困っているのを見たら助けてあげるのは勿論、もっとお話ししたりしてあげてほしいですの」


 サンディが付きっきりで少女と生活する一方、従者たちは少女のドレスの着付けや料理、娯楽の提供以外にあまり接点がなかった。

 そこでサンディは少女を客人としてではなく、家族の一員として、より親密に接する事を彼らに求めた。


「可憐な少女のためとあらば仕方ないですな。この爺や、一肌脱がせていただきますぞ」


「……しばらく一緒に暮らして怪しい様子はありませんでしたし。私も協力しましょう」


「二人とも、本当にありがとう! 大好きですわ! これからもみんなで、楽しく暮らしましょうね!」


 サンディは目を輝かせる。

 その様子は昼間に少女を指導する、ませた姿とは違った。

 まるで、見た目相応の子どものようで。

 大人二人はわがままお嬢様だと思う反面、微笑ましくも思うのだった。


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