早速だけど大騒ぎ! Ⅴ
そこからは一方的だった。
モンスター達は自分の何倍も小さなこの女傑を止めることはできなかった。あらゆる攻撃は空を掴むばかりで、がら空きになった部位に拳が打ち込まれる。
彼女に吹き飛ばされた怪物は打ち上げられた魚のように地面でのたうっているが、どれだけもがいても立つことはできないようだ。
「どうした? 魔法も使わない人間一人も始末できないのかい?」
トルーデの周りには、動けなくなったモンスターの積み重なった山が出来上がっていた。レイシーとレトリーは何も言えないまま立ちすくんでいた。
「……すごい」
「……うん。あんな技、闘技場でも見たこと無いよ。あの人が剣闘士だったら、間違いなく推しちゃうよ」
「ふー、久々に運動すると疲れるね。あんたたち、怪我はないかい?」
「はい、ありがとうございます。トルーデ先生、ですよね? わたし、レイシー・ヴァレリオンです。検査のときはありがとうございました」
「ああ、知ってるよ。あたしはトルーデ。この学校の教師さ」
トルーデはにっと歯を見せて笑った。真っ白に磨かれた歯が、口の間から眩しく光る。
「早速質問して悪いんだけどね。ここで何があったんだい? 確かに今日の催しは盛り上がりそうだとは思っていたけど、これはちと行きすぎだねぇ」
「はい、トウタとルナ会長が戦っていると、いきなりモンスターが観客席に……って、トウタ! トウタのこと忘れてた!」
戦うのに必死で友達のことを意識から外していたことを反省しながらフィールドの方を見てみると、そこにもまた、斃されたモンスターの山が積み上がっていた。その真ん中にはトウタとルナが背中合わせで立っている。肩で息をしているが、大きな傷は負っていないようだ。
「よかった……トウタも会長も無事だったんだ」
「さっすがー! 早く迎えに行こう!」
「……待ちな!」
歩こうとした二人はトルーデに肩を掴まれる。
その瞬間、地面が巨人にひっくり返されたかのように揺れ動いた。
「きゃあああっ!?」
「レトリー、わたしにつかまって!」
レイシーは足を地面にめり込ませて転倒しないようにしながら、転がりそうになるレトリーの身体を抑える。
「この揺れは……でかいのがおいでなすったようだね!」
闘技場の地面が下からこじ開けられたように掘り返され、壁に押しつぶされたモンスターのどす黒い体液が噴水のように噴き上がった。
地を割り現れたのは観客席のモンスターとは比べものにならないくらい巨大な怪物だ。人型ではあるが、腕は四本。そのいずれもが筋骨隆々の大木のようだ。あれが直撃してしまえば、並の人間なら骨が粉々になってしまうだろう。
頭部は楕円型で、目が四つ。ぎょろぎょろ不規則に動く様子は、目にしているのが本当に生物なのかどうかを疑いたくなるほど奇妙だ。
表皮は黒光りしているが、見るからに硬く頑丈そうだ。大きさも相まって、岩山が意志を持って動いているかのような威圧感があった。
怪物の視線が足下にいるトウタとルナを捉える。戦いが始まるようだ。
「危険度最大級、ルダーマ型のモンスターか……これまた大物ゲストの登場だね」
「たいへん……! 助けないと!」
「でかい敵にも臆せず向かっていくその勇気、感心だね。だけど、今回はここで、戦いを観戦してみよう」
「ええ!? どうしてですか、あのままじゃ二人が……」
「ひひひ、大丈夫だよ。ハンターでも討伐数の少ないルダーマ型相手にあの二人がどこまでやれるか、教師として気になってね」
「……こんな状況であの二人を試さなくても! わたし、行ってきます!」
「まぁ待ちな、本当にまずければあたしが助けにいくさ。それにね、むしろこんな状況でもないと、あの子達の力を測れないというのもある。いつもの授業で全力を出してもらいなんかしたら、校舎がいくつ吹き飛んでも足りなくなるからね」
「……わかりました」
トルーデがその強さで自分と友達を助けてくれたのは事実だ。ここは指示に従おうと、レイシーはレトリーとともに壊れかけた席に着いた。