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レイシーのぼうけん  作者: 偶像兎
第三章 少女と魔法のがっこう
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早速だけど大騒ぎ! Ⅲ

「ここだッ!」


 しかし石礫に注意を向けさせ、剣で素早く攻撃するというトウタの作戦は失敗に終わってしまう。

 ルナは流麗な剣技で流れるように石礫を受け流すと、トウタの攻撃を受け止めてしまう。まるで舞踊のような一連の動きに、客席は歓声とため息で満たされた。


「さすが。一筋縄ではいかないですね、会長!」


「もちろんですとも。私はこの学園の会長なのですから! さぁ、もっともっと楽しんで、高め合いましょう!」


 レイシーは戦いから目が離せない。

 最初は心配が勝っていたが、繰り返される魔法と魔法の応酬にいつしか心奪われてしまっていた。

 次はどんな魔法が飛び出して、どんな技が繰り出されるのだろう。

 どちらが勝つのだろう。

 そんなわくわくした感情が、レイシーの心を充足させつつあった。


「いけー! がんばれー!」


 思わず応援しようと席を立った時、視線の端に何かが映った。

 それは観客席の後ろに立っていた。

 人間とは思えないほど瘤だらけのごつごつした身体。濁った緑色の肌。顔の代わりに、大きなオレンジ色の目玉が一つ。手には短剣にも負けないほど鋭く尖った爪。


 その姿はレイシーの脳裏に、かつての記憶を呼び起こさせる。川で自分の命を刈り取ろうとした恐ろしいもの。


「……モンスター!?」


 記憶が確かなら、ショギ型という名前だったはずだ。モンスターは目玉をぎょろぎょろ動かし、目の前の男性に狙いを定める。彼は他の観客と同じく試合に夢中で、モンスターの存在にはまるで気づいていない。

 レイシーがぎりりと拳を握りしめるのと同時に、モンスターは腕を振り上げた。


 そして振り下ろされたモンスターの腕は、レイシーによって受け止められていた。


「ん、何だ……」


「うわああああああああ! モンスターだ!」


「きゃあああああ!」


 周囲の観客がようやく異変に気づき、甲高い悲鳴を上げる。


「レトリー、みんなを出口に誘導してあげて! わたしはこいつを止める!」


「きゃああああ……あ、わ、わかったよ!」


 悲鳴をぐっと飲み込んだレトリーはパニックに陥る観客席を捌くため、迫り来る人の波との闘争を開始した。


「みなさーん、落ち着いて!出口はこっちです!」


 よく通る大声を背に、レイシーはモンスターの眼を睨み付けた。


 間近で見ると吸い込まれてしまいそうなその眼に見つめられると、背筋を冷気が撫でたような感覚がする。完全に防御できたわけではなく、刃物のような鋭い爪が腕に食い込み、血がぼたぼたと空の席に零れ落ちていた。

 しかし、レイシーはひるまない。川で遭遇したときはサンディに守られるだけだったが、今は違う。


「たぁっ!」


 レイシーは怪物の腕を掴むと、力任せに振り回して客席に叩きつけた。粉々になった椅子の破片が飛び散り、土埃がもうもうと上がる。


「……」


 モンスターは無言のまま土埃から素早く身体を起こした。レイシーが振り回したせいで、腕はぽっきりと折れ曲がってしまっている。叩きつけられた目玉も上半分がひしゃげていたが、痛みを感じていないかのようにこちらに駆け寄ってきた。


「くっ!」


 人間とは思えない速さだ。その速さ故か、迎撃のために繰り出したレイシーの拳は空を切ってしまう。


「あっ、しまっ……」


 これ以上はレイシーは対応しきれなかった。鈍く光る爪がレイシーの腹を捕え、無慈悲に引き裂いた。


「が、ぐあぁっ……」


 先ほどとは比べものにならない量の血が流れ出た。抉り取られる激痛は、容赦なく視界を霞ませる。怪物は早くも腕を振り上げ、次の一撃を準備していた。


「あ、うああああああああああ!!」


 負けられない。レイシーは大声で叫ぶことで朦朧とする意識を無理矢理保たせると、攻撃の準備をしていた怪物の無防備な胸元に拳を叩き込んだ。

 直撃だった。レイシーが怪物の胸元を貫通した拳をゆっくり引き抜くと、異形の襲撃者は崩れ落ち、動かなくなった。

大変申し訳ございませんが、私用で8月上旬まで休載いたします。よろしくおねがいします。

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